通信
ティンカーは自室に戻ると、ゴーシュを部屋に呼んで先程の話をした。ゴーシュは喜んで、部屋を駆け回りながら言った。
「やったね、ティンカー!呂布殿と会えるよ!」
「今はオーウェンって名前らしいけどね」
「こうしちゃいられないよ。場所もわかったんだ、早速会いに行こうよ!」
「そうしたいのは山々なんだけどね。既に受けてるたくさんの注文をほっぽり出すわけにもいかないし、エルフの国に入るのも簡単じゃ無いらしいんだよ。ベルンハルトも知り合いのツテを使って何とか入れたって言ってたからね」
「え?…じゃあどうするの?」
「弟子の知り合いにルクスス出身のエルフが居たから、そのコ経由でツテが作れないか、なんとかやってみるよ。後は、父ちゃんに新規の注文を受けるのを止めてもらって既存の商品に関してはヴィトルを中心に頑張ってもらうかな」
「そっか…ごめんね。僕は…何も出来てないのに…浮かれちゃって」
「出来る方が動けば良いってだけの話だよ、今はボクが出来るから」
「うん…ありがとね、ティンカー」
「いいのさ。じゃあ、ボクはルクスス出身のコに会ってくるよ。そういえば父ちゃんが、ゴーシュに隣町まで急いで運んでほしい商品があるとか言ってたから、後で顔出してあげてね」
そう告げるとティンカーは、ゴーシュに見送られながら部屋を出ていった。
ーーーーーー
ティンカーはヴィトルと共にルクスス出身のエルフの下を訪ねる。そのエルフは、自分がティンカーの役に立てるのならと大喜びし、なんでも手伝いをすると快諾してくれた。
「ボクは聖アールヴズ連合国に行ってみたいんだけど、ベルンハルトってコからツテが無いと入れないって言われてね。君を頼って来たんだよ」
「頼って頂いて嬉しいんですが、私はルクスス出身のガラス職人ってだけでティンカーさんの後ろ盾になれるような身分じゃないんですよ…すみません」
「いいんだよ、最初から全てが上手くいくとは思ってないからね。君の地元のルクススで有力者は誰なのかな?」
「ホテルを経営している方で、国王からも信頼が厚いブルーノ様くらいでしょうか。ヒトを見る目は確かだと聞いていますので、きっとティンカーさんのことも気に入ってくれると思いますが…」
「まぁ気に入ってもらおうにも、入国できないと会えないんだけどね。さて、どーするかな…」
ティンカーが悩んでいるとヴィトルが話に入ってくる。
「それでしたら、坊っちゃん。ティンカーブランドの品を手当たり次第、売りつけてみるのはどうでしょうかね?気に入った物があれば自ずと求めてくるでしょうし」
(なるほど。ティンカーブランドの商品がエルフの国でも出回るようになれば、呂布殿…いや、オーウェンの目にもとまる機会が増えることになるか…)
ティンカーがニコッと笑い「良い考えだねっ」と言うと、ヴィトルは「エヘヘ」と照れ笑いした。
ーーーーーー
それから、ティンカーは自身のブランドの注文リストをそのエルフに渡し、ガンダルフ商会も属している世界貿易ギルドの商品専用転送門を使い、注文があればいつでも商品を届けられるように状況を整えておいた。1ヶ月ほど経った頃、ブルーノがティンカーブランドの商品に食い付いた事を聞き、ティンカーはブルーノと手紙のやり取りを始めた。半年程経ちブルーノとのやり取りにも慣れてきた頃、ティンカーは兼ねてから制作していた通信機を取り出しダイヤルを回し始めた。意識を集中させ呼びかける。すると通信機からノイズとともに声が聞こえ始めた。
「…あと1分待てば完成じゃ、湯切り口のシールを間違えて剥がしたら大変なことになるぞぃ…」
「ゼウス様、お久しぶりです。ティンカーです」
「ぉあ!?ティンカーか!?もぅ、びっくりさせよって…危うくお湯と一緒に中身も全部こぼしてしまう所じゃ。やっぱり、呼び出し音は必要じゃよ?」
通信機の向こう側から慌てたゼウスの声が聞こえる。
〜〜〜ティンカーは前回の神託を受けた後、膨大な魔力を消費して疲弊する事と会う度に司祭が勧誘してくるという両方の問題を解決するべく、技術力を駆使して教会の祭壇を使わずに神託を受ける方法を模索していた。その結果…詳細は省くが、組み込んだ数個の魔血石で“どこでも1人で神託の術式を発動させる機械”を造ることに成功し、今ではこのように軽々しくゼウスに連絡を取ることも可能になったのである。〜〜〜
「あぁ、急にすみません…良いなぁ。美味しいですよね、カップ焼きそばって。こっちの神様と一緒に食べているんですか?」
「な、な、な、何の話じゃ?ワシにはさっぱりわからn」
「ひきわり納豆とキムチ入れるとまた味が変わって美味しいんですよね、それ」
「ちょ、ちょっと納豆とキムチ用意してくれ…ひきわりで頼む…」
通信機の向こうのやり取りに、たまらずティンカーが噴き出すとゼウスは「…あ、しもうた」などと言っていた。しばらく笑ったあと、ティンカーは冷静さを取り戻して話し始める。
「そんな事よりゼウス様、やっとオーウェンの居場所がわかったんです」
「そうかそうか(ズズーっ)、まぁ商人として大成した(ズズーっ、ハフハフ)、お前さんの情報網なら(ズズーっ、モチャモチャ)、いずれ見つけられると思ってたわい(ズズーっ、んはっ♡)」
「バレた途端、麺を啜るのを憚りませんね。ゼウス様」
「冷めてしまうと美味しさも半減するからのぅ。それより、こっちからも知らせたい事があるようじゃぞ。…どうやらオーウェンに危機が迫っているようだが、知っての通り過干渉になる事は言えないルールじゃ。例の如くこちらの託宣に倣って伝えるぞ。…『殻を破れぬ黒雛鳥、絶たれた絆が命を断つ』との事じゃ。詳しくは言えんが…文字通り命に関わる事のようじゃな」
「わかりました、このタイミングでお話が聞けた事にも意味があるように感じます。すぐに、彼の下へと向かってみます。それでは」
そう言うと、ティンカーは一方的に通信を切ってしまった。ゼウスはカップ焼きそばを啜りながら言った。
「相変わらず、ヒトとは勝手で…可愛らしいヤツらじゃの…」
ーーーーーー
ティンカーがこれまでの経緯をオーウェンに話し終えてふうっと息を吐く。
「と、まぁこんな感じでオーウェン達を訪ねてきたんだよ。『殻を破れない』ってのは限界を突破できない、つまりレベルを上げられないって事だろうなって思ってね」
「よくその短い文章で察しがついたな」
「察しが良くないと、商人はやっていけないからね。それにドワーフの中では『エルフは自分のレベルを知らない』ってのは煽り文句として有名だから」
「そうなのか」
「どうも昔っからエルフとドワーフは仲が悪くなる事が多かったようでね。実利主義かつ合理主義のドワーフの思考は、感情的で伝統を重んじるエルフには受け入れ難かったんじゃないかな?他にもいろんな文句があるよ」
「エルフの俺も、一応合理主義のつもりなんだが…」
「まぁ一般論の話だよ、気を悪くさせたならごめんね」
「大丈夫だ…言いたい事は何となくわかった」
そう言うとオーウェンはしばらく黙っていたが、ふと思い出したように聞いた。
「…ブルーノさんが食い付いたというのは…」
「あぁ!アニメだよ、記憶を転写する機械を作ってね。ボクが見た作品は全部網羅してあるよ、ギブリとか」
「…大丈夫なのか?」
「ん?版権的な事?」
「いや、そうじゃなくて。…一般の転生者が見れば気付いてしまうだろう?」
「それなら、どっかの転生者から仕入れましたって言えばバレないし、そもそも聞いてきた時点でその人も転生者ってバレてアウトだよ。それに、ボクの方がそこらの貴族よりよっぽど情報網は太いんだ。何かあっても、動かれる前に動けないようにしてあげるよ」
「そうか、ならいいんだ。…ブルーノさん、アニメ好きなんだな」
「うん、後で聞いたらセータームーン以外にも魔法巫女プディキュアも見たって言ってた」
「…よくわからないが、気に入ってもらえたようで良かったな」
「うん!」
「ところで、レベル上げに関してなんだが…」
とオーウェンが言いかけると、ティンカーがオーウェンの口を指で制して言った。
「すぐ教えてあげたい所だけど、ちょうど今凄い良い事思いついちゃった!明日、みんなの前で話すよ!」
切れがいいので、今日はこのお話まで投稿しますー。評価&ブックマーク有難うございます、励みにしていっぱいお話を書き溜めていますので、これからもオーウェンさん達をよろしくお願いしますね笑




