啓示
ティンカーはオーウェンを訪ねることになった経緯について話し始めた。
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話はティンカー達がオーウェンに出会う前に遡る。ティンカーがいつも通り工房で仕事をしていると、表の方からヴィトルの怒鳴る声が聞こえて来た。
「ダメだ、ダメだ!ティンカー坊っちゃんは、今仕事中で会えねぇって言ってんだろ!…だいたい、この前まで冒険者やってたヤツに何が創れるってんだ?俺達ゃ、お前の趣味に付き合うほど暇じゃねぇんだ!会いたきゃ他の名のある職人の推薦状を貰って出直して来い!」
「そ、そうは言わずに頼むよ、ヴィトルの旦那?俺はダチに立派な鍛治師になるって約束して、1年以上も旅してようやくこの国にたどり着いたんだ。俺は、今の腕を評価してもらいたいんだ」
「ティンカー坊っちゃんに自分の腕を見てもらいてぇヤツは山ほど居るんだ、お前だけを優遇する訳にはいかねぇんだよ。…わかったら、さっさと余所で修行積んできやがれ」
「じゃ、じゃあ、ヴィトルの旦那でも構わねぇよ。とにかく、一度でいいからダチと俺が作った武器の設計図を見てくれ!」
そう言うと、男はカバンから数枚の紙を取り出した。
それからしばらくして、ヴィトルの怒鳴り声が聞こえなくなり表が静かになる。
(…諦めて帰ったのかな?)
などと考えながらティンカーは、作業を続ける。すると、ヴィトルが少し顔色を変えて工房に入って来た。
「すみません、ティンカー坊っちゃん。今、お時間頂けますか?」
「どしたの?」
「鍛治師になりてぇっつー人族の冒険者が来て、コイツを見てほしいって言うんですが…」
そう言うとヴィトルは先程男から受け取った紙のいくつかを取り出して見せた。ティンカーはどれどれと言いながら紙を確認する。
「うーん…武器の一種かな。デザインは真新しいけど、一発で壊れちゃう武器ってのは頂けないかな〜」
「えぇ。あっしもそう思いましたが、見てもらいたかったのはコレが何で出来ているかって事なんですよ」
そう言うと、ヴィトルは残りの数枚をティンカーに手渡す。そこには、この武器に使用された材料や実際に魔物に使用した様子などが詳しく記載されていた。
「…トレントの枝に…マンティコアの牙?…冗談でしょ?こんな素材、並みの冒険者なら絶対手に入らないよ。訪ねて来たコって強いの?」
「あっしが見る限りでは普通ですが、こんなレアな素材を集められるヤツなら素材屋として特別扱いしてやっても良いかなって思いましてね。…迷ったんで、ティンカー坊っちゃんに話に来たんです」
「確かに、コレだけの素材を実際に集められる冒険者なら仲良くしても良いかもね〜…いいよ、会ってみようかな」
「急にすみませんね」
「いいんだよ。ヴィトルが迷うくらいなんだから、会う価値はあると思うし」
ティンカーがそう言うと、ヴィトルは「エヘヘ」と照れ笑いを見せた。
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ティンカーが工房からカウンターへ出ていくと、男が興奮したように近寄って来た。ヴィトルが慌ててティンカーと男の間に入る。男はヴィトルに止められながらも握手を求めて来た。
「初めてお目にかかります、ティンカーさん。俺…いやワタクシメはベルンハルトと申しますです、ハイ!」
「ティンカーだよ、よろしくね。あの設計図を書いたのは君かい?」
「はい、正確には俺…じゃなくて、ワタクシメとダチで描きましたです、ハイ!」
「ハハ、そんなに緊張しなくていいよ、普通に話してくれて構わないからさ。…で、あの武器に使った素材は全部本当かい?」
「えぇ、どれも同じダンジョンで手に入れたものです。即席で考えたんで不恰好にはなりましたが、威力はとんでもなかったですよ!あのキマイラがバラバラに吹き飛んだくらいですから」
「き…キマイラを倒したのかい?」
「えぇ、ほとんどはダチがやってのけたんですけど。って…ティンカーさん、凄い顔ですよ?」
「君の友達は、熟練の冒険者なのかい?」
「いえ、身体付きの良いエルフの子供です。1年前のあの時点で7歳って言ってましたが、そんじょそこらの大人も顔負けの度胸と馬鹿力ですよ。俺はアイツに出会えて初めて自分の人生に向き合おうって思えるようになって…」
ベルンハルトが涙ながらに話を続け、それを聞いていたヴィトルが「…カッコいい男だな、ソイツ」などと言いながら目頭を押さえて肩を震わせている間、ティンカーは一つの可能性を考えていた。
(1年前で7歳という事は、今はボクと同じ8歳か…エルフの冒険者にも会ったことはあるけど、宗教を持たないせいかレベルの概念が無くてそこまで強いといった印象は受けなかったな。呂布殿の可能性はあるけど…この世界は化け物並の強さを持ってる者も少なくないから、今の時点では判断しづらいな…)
少し間を置いて、ティンカーが話し始める。
「話はよくわかったよ…でも、実際に見てみないとやっぱり信じられないかな」
「そ、それなら、コレとかどうです?」
そう言ってベルンハルトがカバンをゴソゴソと漁ると、まぁ色んなレア素材が次から次へと出てくる。様々な希少薬草、カイマン象の牙、2つ首ウルフの毛皮に魔血石と、かなりの値段になる素材が無造作にゴロゴロと並べられる。そして最後に、ベルンハルトは縦長の袋から数本のマンティコアの牙を慎重に取り出して言った。
「コイツが実際に使ったマンティコアの牙ですぁ。本当はもっといっぱいあったんですけど、さっきの武器にも使ったしここに来る途中で幾つか売ったりしたんで、もうコレだけしか残ってないんすよ」
「…コレは全部君が集めたの?」
「えぇ、ダチが倒したヤツから俺が剥ぎ取ってきました。収納魔法の付いたバッグさえあれば、トレントの枝とかもっとレアなヤツも持って帰って来れたんですけど」
「…トレントの枝はさっきの武器の柄にも使われていたよね。細い枝1本で2階建ての家を支えられるくらい丈夫で、普通の木に比べれば軽いだろうけど…それでもかなりの重さなはずだよ。君の友達はそれが使えたの?」
「えぇ、俺はなんとか持てるくらいでしたが…。そういえば、アイツの持ってた武器の柄が折れた時にも、トレントの枝を使いましたけどブンブン振り回してましたね。変わった名前の武器だったなぁ…確か、ホーテンがどーのこーの…何だっけ?」
「…『方天画戟』かな?」
「あ、それです、それそれ。流石、ティンカーさん!物知りですね」
嬉しそうに首を縦に振るベルンハルトを余所に、ティンカーはふぅと溜息を吐くと独り言を言った。
「やっと見つけたよ…殿」
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ティンカーはベルンハルトからオーウェンの事を出来る限り聞いた。
(ここから遥か東に位置し、ルクススという観光地の名前くらいしか知られていない遠い国、聖アールヴズ連合国。そこで、呂布殿はオーウェンという美形のエルフに転生している。…そう言えば弟子の1人にルクスス出身の知り合いが訪ねてきてたはず、後で聞いてみるかな…)
一通り聞き終わったティンカーがベルンハルトに話しかける。
「有り難う、ベルンハルト。色々と話を聞けて楽しかったよ。今すぐにボクに弟子入りさせるわけにはいかないけど、君は冒険者の経験から得た確かな腕と面白い発想を持ってる。あの使い切りタイプの武器も同じ性能でコスパが抑えられるのなら、上級魔物の討伐に欠かせない武器の1つになれると思うよ。だから君のことは、ボクが信頼してる職人の1人に任せる。その人から推薦状を貰う事が出来たら、またおいでよ。その時は直接ボクが見てあげるから」
「ほ、ホントですか!?ティンカーさん!?」
「うん。君は頑張れる人みたいだから、期待してるよ」
ティンカーに激励の言葉を貰い、喜ぶベルンハルト。ヴィトルは「良かったな、坊っちゃんが信頼してる職人に弟子入りする事でさえ、本当はかなり難しいんだぜ?」と言いながら、自慢気に鼻をすすっていた。




