ロールプレイングという考え方
〜〜〜ロールプレイングゲーム(RPG)とは、架空の世界でプレイヤーが与えられた役割に従って試練を乗り越えて成長していくものである。多くのRPGにはステータス画面というものがあり、プレイヤーはその画面で自身の成長具合を具体的な数値で確認したり、取得したスキルや武技の具体的な効果などを詳しく知ることが出来る。自身の能力値や技能の数が増えていく様を具体的に見る事が出来、また他プレイヤーと自分との差が数値として明確に理解できるが故に、多くのプレイヤーは飽きずに試練へ立ち向かう事が出来るのである。〜〜〜
ティンカーに、ロールプレイングゲームを知っているかと聞かれてオーウェンは答えた。
「あれだ、ブロックが上から落ちて来て一列になったら消える…」
「それはテチョリス」
「…同じ色のスライムがくっつくと消える…」
「それはぷにぷに。もぉ…なんで『落ちものパズルゲーム』しか知らないの?」
「他のはよく分からなくてな。どれも取り止めもない話の後に知らない男が部屋の中に突っ立ってるシーンから始まるじゃないか」
「あ、それがたぶんRPGだよ。どのくらいまでプレイしたの?」
「家を出て村人が話しかけて来たくらい」
「…城にすら行っていないじゃない」
「面倒臭そうだったんでな、他の者が話しかけてくるまで放置していたらいつの間にか寝てた」
「相変わらずなんだから。まぁいいや。なら、このボクがチュートリアルをしてあげるよ」
そう言うと、ナサニエル達を残してオーウェンとティンカー、ゴーシュは部屋を移した。
ーーーーーー
ティンカーはオーウェンに向かい合うように座ると言った。
「まずは、ステータス画面の開き方だ。左上にある小さな赤マルが見える?それを指で押すイメージだよ、実際に指差してみるとやりやすいかな」
「これか…飛蚊症の症状かと思ってたんだがな」
オーウェンはそう言いながら、赤マルを押すイメージで指を差す。すると眼前に大きな枠が出現し、自分の名前や様々な数値がズラズラっと描き出された。
「…凄いな、この数字はなんだ?」
「その画面はボクには見えないんだよね。ちょっと待ってて」
そう言うと、ティンカーは自分のステータス画面を何やら弄る指の動きを見せる。すると、オーウェンのステータス画面にティンカーをパーティに加えるか尋ねる画面が新たに出現した。
「なんだ、これは?」
「ボクの画面を見せながら説明するからさ、そこの『OK』を押してみて」
「こうか…出来たぞ」
「そしたら、ボクの名前を2回ツンツンって触って『共有する』を押してみて」
「…俺の画面と似たような画面が出て来たぞ」
「これがボクのステータス画面だよ。『共有する』を押したことで、キミの画面はボクにも見えているからね。ちなみにステータス画面は無闇に他人に見せない方がいいね。弱点を突かれる事もあるし、スキルがバレると対策される事もあるかもね」
「…ティンカーはいいのか?」
「ボクはもともと非戦闘職だし、それに見られて困る項目には常にフェイクをかけているから。高レベルの鑑定スキルでも見破れるかどうかといったところだよ。ちなみに魔物とかなら余程上級でない限りステータス画面は簡単に覗く事が出来るんだけど…まぁその話は後にして、とりあえず話を続けるね」
そう言うと、ティンカーは指し棒を使いながら画面の数値の説明を始めた。
「名前の下に数値が並んでいるでしょ?上からレベル、HP、MP、獲得した経験値、次のレベルに必要な経験値の順で並んでるんだ。さらにその下の枠には、体力、魔力、素早さ、攻撃力、防御力、魔法防御力、回避力、運などの数値がそれぞれ示されている。レベルが変化すると、この数字も変化するんだよ」
「体力とHPというのは違うのか?」
「体力はオーウェンの基礎値で、HPは装備品も含めた総和って感じかな。MPもそんな感じ、自分の魔力値と装備品の魔力の総和ってとこだね」
「運とはなんだ?」
「んー、不確定要素ってところかな。ステータス値では圧倒的に負けていても勝負の内容次第で勝つことがあるみたい。そういう他の数値では説明つかないような部分に関係しているって言われているよ」
そう言うと、ティンカーはパーティ画面を指した。
「こうやってパーティの項目に仲間を追加することで、経験値を共有出来るようにもなる。ボクは工房で弟子が15名ほどいるんだけど、作業中にパーティに加えればレベルが上がるのも、スキルを身につけるのも格段に早くなるんだよね。優れた冒険者のパーティに初心者が入りたがるのも、そう言う理由からだよ。ちなみにパーティは20人までだから入れるヒトはある程度選んだ方がいいね」
「なるほどな」
「まぁ、後は実戦で確認するしかないかな。とりあえずはステータス画面を無意識に出せるくらいまで練習してみてよ。指や目を動かさずに出すのには慣れることが1番だからね」
「…これはナサニエル達も使えるのか?」
「んー、今のところは無理なんじゃないかなぁ。ステータス画面を開くには“神の存在”を認識する必要があるのさ。エルフって自然崇拝でしょ?人族は生まれた時に洗礼式をする事で神を意識するから、すんなりいくみたいだけどね。ゴーシュの村でも昔の偉人が神格化してたからかな、スキル使えるコいたよね」
ティンカーがそう言うと、ゴーシュがうんうんと頷いて見せた。オーウェンが不思議な顔をして言う。
「…俺も一応エルフで自然崇拝なんだが?」
「オーウェンは既にゼウス様に会っているからね。認識どころか面識があるんだから使えるのも当たり前だよ」
「なるほど、そういうことか」
「目覚めさせるには、人族の国に住んでるハーフエルフ達みたいに手っ取り早く改宗する方が早いんだろうけど…ほら、生粋のエルフって頑固じゃない?だから、自然崇拝の延長でかつ神様になるような存在がいないと難しいかもね」
「そうなのか…」
「まぁ、いくら利があるって言っても簡単に宗教観を変えられるヒトはいないだろうしね」
「そうだな」
するとオーウェン達がいる部屋のドアをノックして、ヴィルヘルムの側近が入ってきた。
「失礼します、オーウェン殿。ヴィルヘルム様がお呼びなのですが、少しお時間宜しいですか?」
「ええ、構いません。すぐに向かいます」
オーウェンはティンカー達に「また後でな」と伝えると急いで部屋を出て行った。
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オーウェンが政務室のドアをノックすると、中からヴィルヘルムが入るように促した。
「お呼びですか、ヴィルヘルム様」
「あぁオーウェン、来てくれたか。どうだ、あの者達は?」
オーウェンはティンカーが文通仲間である事を話すとヴィルヘルムは少し訝しげな顔をしていたが、「…そうだったか」と答えるのみだった。オーウェンは一通り話した後、改めてヴィルヘルムに用件を聞いた。
「ところで、何か御用でしょうか?」
「あぁ、そうだったな。手紙にも記載した通り、其方に会わせたい者がいる」
「…ティンカー達のことではなかったのですか?」
「彼らはたまたま数日前に接触しただけだ。私が会わせたかったのは…オノド殿だ」
「そう言えば、最近見かけていませんでしたが…オノド殿に何かありましたか?」
オーウェンに尋ねられて、ヴィルヘルムは一瞬間を置いていった。
「半年ほど前から日に日に大きくなって動かなくなってな、最近では言葉を話す事も少なくなった。もしかすると…寿命を迎えようとしているのかもしれない」
「そんな…今、オノド殿はどちらに?」
「王城の庭だ、会っていくか?」
「はい」
そう言うと、オーウェンはヴィルヘルムと共に王城の後ろに広がる広大な庭へと急いだ。
ーーー
オーウェン達が庭に着くと、そこには30m程の巨木が生えており、その大きさ以外は一見普通の木に見える。オーウェンが木を素早く駆け上ると20m程の位置に着いた時に「あぁ…オーウェンか…」という声が聞こえた。木の幹をよく見るとオノドリムがこちらを見つめている。
「オノド殿!動けなくなったと聞いて心配しましたよ!何が起こっているのですか?」
「…身体が日に日に伸びていき、剪定も追いつかなくなり…重みで動けなくなってしまったのよ。…どうやら、自然に還る時が来たようなのよ」
「そんな…今からでも枝葉を落とせば!」
「違うのよ、オーウェン…これこそが自然な流れよ。落ち着ける土地を選び、そこに根を張り守護をする…それが我らの生き方よ。短い時間であったがエルフ達と共に過ごした日々が我の心に安らぎをくれた。どうかこのまま…ここで最期を迎えさせてくれ」
「オノド殿…」
オーウェンはオノドリムの状態を判断しようと、早速ステータス画面を開きオノドリムを確認する。オノドリムのステータス画面は所々読めないものもあったが、状態の所に「世界樹への進化」と記載してあった。
「オノド殿…『世界樹』というものを知っていますか?」
「…世界樹とは、文字通りこの世界の柱となる巨大樹よ。我も長らく生きたが…ついぞ、そのような木に出会う事はなかったのよ…」
「勝手にステータスを見て申し訳ないのですが、オノド殿はどうやらその世界樹になろうとしているようです」
「…マジで?」
「マジです」
オノドリムはふぅと溜息を吐くと静かに言った。
「…なんと、我が『世界樹』に…。ステータスという言葉はわからぬが…とにかく教えてくれてありがとうよ、オーウェン」
「えぇ、オノド殿は共に死線をくぐり抜けた私の大切な友ですから」
「そうか…我が…あの憧れた…『世界樹』に…」
そう言うと、オノドリムは全く喋らなくなってしまった。




