再会
オーウェン達は宿でしばらく休み、昼過ぎに王城へと出発した。
王城に着くと、謁見の間へ通されヴィルヘルムと面会する。
「オーウェン、早かったな。シャル達から夜間行軍の訓練をしたと聞いたぞ。鳳雛隊の者達はわかるがシャル達にとっては少々酷ではないか?」
「これは配慮が足らず、申し訳ありませんでした。しかし今後、周囲に立ち寄れる村落が無く魔物に出会す状況も考えられます。ヴァルド王国以外の地形は大雑把なものしか見たことがありませんので、万が一という事もあり得るかと」
「なるほどな、まぁくれぐれも無理させないようにしてくれ。其方にとっても…わかるだろう?」
「はっ、気を付けます」
オーウェンの迷いのない返事に、ヴィルヘルムが満足そうに頷いて続けた。
「さて話は変わるが、其方達の旅に同行させて欲しいと尋ねて来た者達がいる。本来なら門前払いにした所だが、ブルーノが強く推していてな。なんでも、名の知れた鍛治師や彫金師など様々な職人達から神の様な存在と崇められて居るらしいが…正直、よくわからぬ。彼らははるか遠くにある職人の国で、其方の武勇を聞いてきたという事だが…心当たりはあるか?」
「職人の国…、あ」
「何かあるのか?」
「以前、学院近くの迷宮に潜った時にベルンハルトという者に案内を頼みました。攻略後、彼は鍛治師になるために帰国すると言っていたので、もしかすると彼から聞いたのかもしれません」
「なるほどな。よし、その者達を部屋へ通せ。余は少し席を外すぞ」
ヴィルヘルムが衛兵に指示して退出すると、しばらくしてドワーフとケンタウロスの少年達が入ってきた。ドワーフの少年は身長が120cmくらいか、堂々とした表情で歩いてくる。また、ケンタウロスの方は体高が2mは優に超えているだろうか、赤黒い毛並みも素晴らしく筋骨隆々としており、言えた義理ではないが幼い表情と身体のギャップが凄かった。
ドワーフの少年が言った。
「…やっと見つけたよ、君がオーウェンだね?」
「…以前に会ったことがあるだろうか?」
「いや、初めてさ…こっちではね。ボクの名はティンカーだ、ティンカーブランドを立ち上げて居るんだけど…その様子じゃ知らないかな?」
「いや…ルクススのホテル…セータームーンの制作者に君の名があった」
「見てくれたの?やっぱ流行るねぇ、ベルンハルトも好きだったんだよ」
「やはり、ベルンハルトから聞いたのか」
「そうだよ」
ティンカーはそう言ったあと、ボソッと「まぁ、探していたのはずっと前からなんだけど」と呟いて続けた。
「紹介が遅れたね、こっちはゴーシュさ」
紹介を受けてオーウェンがケンタウロスの方を向くと、そのケンタウロスの少年は何故かオーウェンの顔を見て号泣していた。
「…凄い泣いてるが…」
「あぁ、まぁここに来るまで色々大変だったからね。…ひょっとして、まだ気づいてない?」
「…何を?」
「相変わらず鈍チンだなぁ、君は。こう言えばよかったかな…殿、お久しゅうございますな」
その瞬間、オーウェンはそこに居る2人が誰なのか悟った。再会のため、名を馳せようと努力して来たのは自分だけでは無い。2人もまた、自分の国から遠く離れたこの土地まで名が轟くほど絶え間ない努力をして来たのである。オーウェンがうっかり2人の真名を口にしそうになるのを、ティンカーが止める。
「おっと、真名では呼ばないでね。前に2人で呼び合った後、かなり魔力が乱れてしばらく動けなくなっちゃったんだから」
「すまん、つい…。ティンカー!ゴーシュ!よく、俺を見つけて尋ねてくれた」
「まぁ、商人の情報力と経済力があったからこそできたんだけどね。ほら、ゴーシュもなんか言いなよ」
ティンカーに促されて、ゴーシュが涙を拭いながら言った。
「殿、すっかりお変わりになられて」
「オーウェンでいいぞ。ゴーシュ、お前もすっかり…変わったな」
「フフフ。昔は歩き辛くて嫌になった事もありましたが、ティンカーがこの蹄鉄を打ってくれたお陰で今ではとても早く走れる様になったんですよ」
「そうか…確かに赤兎(呂布の愛馬)よりもいい筋肉の付き方をしている。後で乗せてくれないか?」
「もちろんですよ、殿!」
すると、後ろで3人の会話を聞いていたナサニエル達がヒソヒソと話し出す。
「何者だ、あの2人?」
「オーウェンの事を『殿』って呼んでるけど…」
「ナサニエルは知らないの?」
「んー、オーウェンとは長い付き合いだけど一度も聞いたことないなぁ」
ナサニエル達の会話を聞いて、オーウェンが2人にヒソヒソと話す。
「…2人もそうだと思うが、俺も周囲には転生者である事を隠している。俺達は同年代なんだ、皆の前では殿と呼ぶのは控えてくれ。敬語も辞めた方がいい」
「そのようだね」
「気をつけま…じゃなくて。気をつけるよ、オーウェン」
ティンカーとゴーシュはすぐに言葉遣いを直してオーウェンに接する。
オーウェンはナサニエル達の方に振り返ると言った。
「紹介するのが遅れたな、2人は俺の知り合いでティンカーとゴーシュだ」
「…出会った瞬間に号泣するって、どういう知り合いだよ?」
「…えっと」と言葉に詰まるオーウェンにティンカーがすかさず助け舟を出す。
「ペンフレンドさ。ベルンハルトっていうボクの弟子から、面白いヤツが居るって聞いてね。興味があったから商人を介して手紙のやり取りをしてたのさ。こっちからはペンネームで手紙を出してたから、オーウェンは気付かなかったみたいだけどね」
「オーウェンがぁ?ペンフレンドぉ?」
ナサニエルがあり得ないと言った表情でオーウェンを見る。疑惑の視線を向けられたオーウェンは焦りながらも平然を装って言った。
「な、なんだ、ナサニエル。お、俺だってペンフレンドの1人や2人は居るぞ」
「いや、まぁ良いんだけどさ。なんかオーウェンがペン握ってるのって想像つかないっつーか…手紙出す前に船に乗り込んで会いにいくイメージの方がしっくり来るわ」
ナサニエルがそう言うとケイト達も首を激しく縦に振る。
「お前達の中で、俺はどんなイメージなんだ…」と呟くオーウェンの側から、ティンカーが歩み出て来て言った。
「皆の事はオーウェンからの手紙で知っているよ。君がナサニエルで…オードリーに、君がケイトだね。そこの君は、コリン君かな?女の子とお菓子が好きって聞いてるよ」
「え…オーウェン君、僕の事そんな風に書いていたんですか?」
と固まるコリンの側でケイト達が「なーんだ、やっぱりペンフレンドなんだね」などと話している。一方、オーウェンは驚いた表情でティンカーの側に寄っていくとヒソヒソと話し始めた。
「ティンカー、今のはどうやったんだ?」
「へ?今のって?」
「皆の名前を呼んだだろう?コリンの嗜好もどうやって知った?」
「そりゃ、その子のステータス画面見ればわかるじゃない?」
「す、ステ…なんだって?」
「ステータス画面だよ。自分のなら目の前にあるでしょ?」
オーウェンが周囲を見渡す動作をすると、ティンカーは驚いた様な顔をして言った。
「…それ、マジでやってんの?オーウェン」
「これがふざけているヤツの顔に見えるか?」
「…そっか、道理でさっきから色々おかしいと思ったんだよね」
そう言うと、ティンカーはオーウェンに向き直って言った。
「オーウェン、ロールプレイングゲームって知ってる?」




