叛逆者の目星
オーウェンは、ヴィルヘルムに都市で調達してきた替えの服を手渡し、着ているものや装飾品を全て外させる。そしてヴィルヘルムに無言で付いてくるよう指示し、普段立ち入ることのない厨房脇にある料理人達の休憩所へと場所を移して、再び防護魔法と音響魔法で周囲にノイズをかけた。
「いったいどう言う事だ、オーウェン?何を考えている?」
「説明の前に、ヴィルヘルム様にお聞きしたい事があります。ヴィルヘルム様は間者との会話を誰かに話しましたか?」
「いや、話していない。こちらが先に動いてはブルイン王国に潜入し続けているお前の身が危うくなるであろう?」
「私もせいぜい出頭の命令を出すか、外交官を遣わせるくらいと考えていましたので、1個小隊のヴァルド兵達を見た時には驚きました」
「だから、それは余の出した命令では無いと申したであろう」
「勿論、信じています。ヴァルド兵隊長がヴィルヘルム様から頂いたという令状を持っていたのですが、そちらにヴィルヘルム様のサインがされていなかった事も頷けます。…ただ気になる点は、令状が本物だった事です」
「…見間違いでは無いのか?」
「えぇ、添付されていた毛髪も、解析魔法でヴィルヘルム様の御髪に相違ない事を確認したので間違いありません」
「それは、つまり…」
「えぇ、ヤツらの息がかかった者は王室御用達の用紙やヴィルヘルム様の御髪を手に入れられるほど、陛下に近い方だと考えます。そして、その者がヴィルヘルム様と間者の会話を盗み聞き、ヴィルヘルム様よりも先に兵を動かしたのです」
「…しかし間者と話をしたのは、政務室で2人きりの時だぞ?」
「相手は、何かしら特殊な道具を用いて2人の会話を聞き出せたのかも知れません。それが部屋に仕掛けられているのか、あるいは身の回りの物に仕込まれているのかわからなかったので、着替えて頂き場所を変えさせてもらったのです」
「なるほどな…」
「恐らくは、ヴィルヘルム様の装飾品に仕込んであるのだと思います。ヴィルヘルム様が常に身につける物であれば、何処でも話を聞くことが可能ですから。今度はこちらがそれを利用させてもらいましょう」
「どうするのだ?」
ヴィルヘルムが聞き返すと、オーウェンは叛逆者を炙り出す方法について話し始めた。
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一通り説明が終わると、ヴィルヘルムがため息をついて言った。
「なるほどな、それなら叛逆者を炙り出す事が出来る。問題はいつ、この策を実行するかだな」
「もう少し先が良いかと思います。ヴィルヘルム様に疑念を持たれているかも知れないという不安を育てる時間になると思いますので」
「そうか。なら、それまで余はこれまで通りに振る舞ってみせよう」
「よろしくお願い致します」
「オーウェン、お前には本当に感謝している。全て片付けた暁には、相応しい地位を与え最愛の者を迎えられると保証しよう」
「え、…鋭意努力致します」
(オーウェンも男だな。ルクススでは気がないフリをしていたが、やはりシャルやベルの事を娶りたいと思っているのだ)
プルプルと震えるオーウェンをみて、喜びに震えているのだと考えたヴィルヘルムは、満足そうに頷きながら部屋を出て行った。
しかしヴィルヘルムの考えとは裏腹にオーウェンは小刻みに震えながら冷や汗をかいていた。
(マズい…ドロシー王女殿下に求婚した事をヴィルヘルム様に言いそびれてしまった)
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ドロシーがヴァルドに到着して初めて王族会議に参加する時が来た。集まっている王族達の表情を見て、何かただならぬ事が起きている事を悟りつつドロシーは席に着いた。ヴィルヘルムが今回の件に関して一通り説明があると、ドロシーは下を向いたまま涙を落としていた。国が何者かに狙われている事もそうだが、父が従兄弟によって昏睡させられた事、従兄弟を守るために叔父が自身が利用しようとした事が何より衝撃的だった。自分がお飾り人形であった事が、今回ほど身に染みて感じられる事はなかった。ネージュ王国王女ジーブルとプレリ王国王女フルールがフォローに入り、ようやくドロシーは落ち着きを取り戻す。
「お見苦しい所…見せてしまって…申し訳ありません」
「いいのですよ、様々な状況を経験してヒトは強くなるものです。必要があれば私達も助けになります」
フルールがそう言うと、ジーブルも軽く頷いて見せた。ヴィルヘルムがまとめるように話す。
「急かすようで申し訳無いが、早急にブルイン王政の立て直しを図るためにもブルート殿とドゥッセル殿の処分に関して、ドロシー王女の意見を伺いたい」
ヴィルヘルムの言葉を聞き、ドロシーは少し間を置くと言った。
「私個人の気持ちで言えば…もう叔父様達の顔を見たくありません。…ですが、今の私では…ブルイン王国をまとめられ無いのも事実です。叔父様の反省してるという言葉を信じて、私が国政というものを学ぶしばらくの間は国を預けておきます」
「よかろう。ただしドゥッセル殿の身柄は引き続きヴァルドで確保し、ブルイン王国へはこちらから兵を出し、ブルート殿を監視させてもらうぞ」
「わかりました…。それと…ヴィルヘルム様、出来ればこの国の学院へ…オーウェン様のクラスへ編入させて頂きたいのですが」
ヴィルヘルムが頷きながら言った。
「確かに、それは良いかもしれない。シャルやベルも同じ立場だからな。それにオーウェンのクラスは良く野外での実習も多い。他国の協力を得られればさらに見聞を広める事が出来るだろう」
周囲の王族もドロシーの教育になるのであればと首を縦に振ってくれた。すると、ドロシーが顔を赤らめながら言う。
「有り難う…御座います。いずれ2人が夫婦になった時には、皆様に恩返しをしたいです」
その言葉を聞いてヴィルヘルムがオーウェンの方を冷ややかな目で見つめながら言った。
「…オーウェン、お前…」
「ヴィルヘルム様…これには深いワケがあります」
「そうか…その深いワケはこれからじっくり聞かせてもらう事としよう。皆の者、以上をもって会議は終了とする」
皆が部屋を出て行き、ヴィルヘルムとオーウェン2人が会議室に残る。
「…それで?言い訳はなんだ?」
「ヴィルヘルム様はドロシー様と恋仲になれと…」
「…確かに恋仲になれとは言ったが、求婚しろとまでは言ってない!求婚された相手がイエスと言えば、もはや無かったことには出来ん!」
「返事はまだ頂いておりませんが…」
「あの表情を見ただろう…最早答えは決まっている」
「ど…どうしましょう?」
「知らん…と言いたいとこだが、余もお前にアレコレと押し付けた責任を感じている。しょうがない、助け舟を出してやろう」
「あ、有り難う御座います!それで、どうするのですか?」
「…お前に今回の件の褒賞として、シャルやベルと先に婚約させてやろう」
「…ヴィルヘルム様、事態が悪化するとしか思えないのですが」
「しょうがないだろう。余もきちんと体裁を整えてからと考えていたが、さすがに娘達に嫌われる訳にはいかんからな」
「後半で本音がダダ漏れでしたよ、ヴィルヘルム様ッ!?」
「安心しろ、まだ公式には発表しない。だが猶予は12歳の元服の時までとすでに迫っておる。急ぎ功を積み上げて爵位を勝ち取るのだ、オーウェンッ!」
「…期限がある事を初めて知りましたが!?」
「シャルとベルには余から伝えておく、では、健闘を祈るぞ!」
半ば強引に言い包めてヴィルヘルムは部屋を出て行く。取り残されたオーウェンは茫然とドアを見つめていた。




