緊急会議
オーウェン達が転送門を使いヴァルドへ戻ると、ブルートとドゥッセルは既に王都へ向かったようだった。ドゥッセルの解呪ができたと聞き、オーウェン達はほっと胸を撫でおろす。王都へ向かう馬車に乗ってしばらく揺られていると女が言った。
「…ドゥッセル様は無事だろうか?」
「さぁな、治癒師と彼自身の頑張りにかかっているとしか言いようがない」
「…これからどうすれば…」
「まずは、ヴィルヘルム様に事情を話さなければな。お前も一緒に来い、俺と共にヤツらの企てを知る唯一の証人だからな」
女は少し安堵したのか、「…わかった」と言うとそれ以上は話さなかった。
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オーウェン達が王都へ着いたのは、ブルートが王都に着いて2日も後の事だった。ヴィルヘルムはブルートから事のあらましを聞き、緊急会議の準備を始めていた。王都の衛兵から速やかに王城へ向かうように言われ、オーウェンは休む間も無く王城を目指す。城門を潜るとヴィルヘルム自らがオーウェンを出迎えてくれた。
「オーウェン!ブルート殿から話を聞いて大体の事は把握できた。良くやってくれた…そこの者は誰だ?」
「ブルート様の側近の者です。彼女も共に動いてくれていたので連れて来ました」
「そうだったのか、オーウェンと共に良く働いてくれた。礼を言うぞ」
とヴィルヘルムに言われて、女は酷く恐縮した様子で小さく頷いた。
ヴィルヘルムが再び、オーウェンへと視線を戻す。
「疲れている所申し訳ないが、先に詳細を教えてくれ。夕刻には各国の王族に情報を共有したい。そこの御人も連れ立って参加してくれ」
「わかりました」
オーウェン達は応接室の1つに案内される。茶や菓子が置かれていたが、オーウェン達はそれに手をつける事なくヴィルヘルムに王都での出来事を話した。ヴィルヘルムが事情を理解し部屋を出て行った後、オーウェン達はいつの間にか寝入ってしまった。
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どのくらい時間が経っただろうか。執事に起こされて、オーウェン達は王城の応接室で休憩を取っていた事を思い出した。
(この4日間、ほとんど寝ていなかったからな。こんなに疲れたのは久々だ)
オーウェン達が広間へ通されると、既に王族達は真剣な面持ちで席に着いていた。
「揃ったな、では話を始めるぞ。皆も知っているだろうが、一昨年に王都で起こったクーデター未遂の件だ。既に元近衛兵隊長の逮捕と罷免は皆の知る所となっているが、今回さらに捜査の進展が見られた。手元にある資料にはブルイン王国の副王ブルートの嫡男、ドゥッセル・ブルイン・フォン・フェルゼンの手記に挟まれていたものの一部である。この資料によれば、ドゥッセルはブレイブ王の食べ物に何らかの薬物を混入させ、昏睡させた旨が記載されている」
ヴィルヘルムの言葉を聞いて、皆が一斉にブルートに非難の視線を向ける。ヴィルヘルムは続けて言った。
「さらに、モンタギュー侯爵領に出現した魔物の製造にも関与した旨の記載があり、ドゥッセル本人からも犯行を認める供述があったとブルートから聞き及んでいる。また、ブルート自身も息子の罪を知っていながら隠蔽に加担した嫌疑をかけられている」
ヴィルヘルムの言葉に皆がざわつき始めた。
「魔物を製造するだって?そんな事が可能なのかい?」
「これだけの事を1人で出来るんでしょうか…」
「いずれにせよ、2人とも極刑は免れないだろう」
などと、口々に話す側でブルートが青ざめた顔をしていると、ヴィルヘルムが手を掲げて皆を静まらせた。
「結論を出すのは、まだ早い。事はそう単純じゃないようだ。オーウェン、説明してもらえるか?」
「はい」
そう言ってオーウェンは話し始めた。
「ブルート様に依頼され、私はドゥッセル様の手記がある部屋の捜索に向かったのですが、そこで不審な人族の男達と遭遇しました。彼らはある者達の存在を明かしかけた際に、呪術が発動し絶命したため尋問出来ませんでしたが、死に際に『帝国の魔術師』にやられたと言っていました」
またもざわつく一同にヴィルヘルムが呼びかける。
「現時点でその『帝国』がどの国を指すのかはわからない。単に組織名という可能性もある。だが少なくとも、人族の一派がこの件に関わっている事がわかった。さらに、オーウェンによればヤツらは『スキル』というものを使えるらしい。オーウェン、その時の状況を説明してくれ」
「男達と対峙した時に片方の男がこちらを見つめていたのですが、急に私の年齢を言い当てレベルが1だと大笑いしていました。男達に取ってレベルとは何か強さを測るものだったらしく、もう一方の男がそれを聞いて不用意に私に飛びかかってきました。どうやら彼らは年齢やレベルというものを見抜く力があるようです。彼らは会話の中で、仲間に多くスキルを持つものがいる事や聖アールヴズ連合国を攻める意図がある事を話していました」
「つまり武技や魔法ではない不可思議な能力をもつ者が多数いる組織に我々の国が狙われている、そういうことだな?オーウェン」
「仰る通りです、そしてドゥッセル様は我々の足並みを乱すために利用されたのだと考えます」
すると、目尻にシワの入った聖アールヴズ連合国で最高齢のヴュステ国主、サブル・ソレーユ・フォン・ヴュステがオーウェンに向かって言った。
「…そう考える根拠はなんだ?」
「男達は自分達に関連する資料のみを回収し、ドゥッセル様が関わっていた資料を残すよう指示されたと話していました。おそらくブルイン王国は手始めであり、他国でも同様の工作が現在進行形で行なわれている可能性があります。ヴァルドの近衛兵隊長が逮捕された件がいい例です」
「ふむ…だとしたら、どうする?国中をしらみ潰しに探すというわけにはいかん」
「『己を知り、彼を知れば百戦危うからず』という言葉がございます。まずは我々は何を持っており、何が足りないかを知れば狙われる箇所も見えてくるでしょう」
「具体的には?」
「軍備はもちろん、国としての方針、季節や地理的条件に起因する制限、人材など…漬け込まれる弱点さえ分かれば対処も出来るはずです」
王族達が自国に足りないものは何か考え込んだところで、ヴィルヘルムが皆に話しかけた。
「この先は、それぞれの課題とする。先の話を踏まえてブルート殿とドゥッセル殿に関してどうすべきか話し合うとしよう。歳の若い順に忌憚のない意見を聞かせてくれ」
まず小柄な身体に着込んだ毛織物、その隙間から覗いた肌が一際白いエルフ、ネージュ王国の若き女王ジーブル・グラス・フォン・ネージュが手を上げて言った。
「ドロシー王女の居ない状況で話し合うことは良くないわ。これから国を支えていくのは彼女になるんだから」
次に白地の麻布に花の刺繍がされた、王族の割にはやや質素な服を着た艶やかな女性、「7大宝石の翡翠」と評されるプレリ王国の麗しき女王フルール・ブリーズ・フォン・プレリが口に手を当てながら静かに話す。
「私も国を背負う女性としてジーブルさんと同じ意見ですわ。今までわからないで済まされた事も、これからは自分でやっていかなきゃいけないんですもの」
すると眼鏡をかけ杖を持ち、インテリ風の装いで青色のマントに身を包んだ紳士、オーズィラ王国の心優しき王ロイ・ロー・フォン・オーズィラが難しそうな顔をしながら言った。
「しかし、どうなんでしょうねぇ。初めて参加する会議が自身の側近の、しかも身内の処断を話し合う場と言うのは…やはり酷な気もしますがねぇ…」
それに対してヴュステ国主のサブルが口をはさむ。
「自分で何もかも背負わなければならない時がきた、それだけの事だ。それにあのブレイブの娘だ、困難に立ち向かう心はしっかりと引き継がれていよう」
ヴィルヘルムが頷き言った。
「女王としての責務を果たしているお二人が言うのだ。ロイ殿の気持ちも理解できるが、今後のブルイン王国の事を考えれば必要な事と言えよう。この話し合いの続きは、ドロシー王女を招集してからだ。ひとまず今日は解散とする」
『はい』
と口々に言うと、皆は部屋を後にする。
ヴィルヘルムは暫く黙って皆が出ていくのを確認した後、オーウェンの方へ振り返り言った。
「オーウェン、お前の働きに感謝するぞ」
「勿体ないお言葉でございます」
「…先程は言えなかったが余には解せない事が一つある。…余は…」
と言いかけたヴィルヘルムの言葉を制して、オーウェンは周囲に音響魔法でノイズをかけた。ノイズの影響でオーウェン達の周囲に控えていた執事達にはオーウェン達の会話が聞き取れなくなった。ヴィルヘルムが話を続ける。
「…余はブルイン王国へ兵を差し向けていない。…信じてくれるか?」
すると、オーウェンはニコリとして言った。
「勿論です、陛下。大凡の見当はついています、その理由をこれからお話ししましょう」




