隠された証拠
王都に着いたオーウェン達は兵士に見つからないように城へと潜り込む。王の寝室の前には兵が2人立っており容易には入れないため、オーウェン達は城壁を登り寝室を目指した。
寝室の窓にかかる鍵をオーウェンの背に乗った女が解錠し中に入ると、オーウェン達はブルートに言われた通り暖炉へと近づいた。鍵穴に鍵を差し込もうとしてオーウェンが違和感に気付く。「…どうした?」と言いかけた女の口に人差し指を押し当てるとオーウェンは小声で言った。
「扉が空いている」
「…何故?」
「何者かが既に侵入しているのかもしれない。灯りは使えないな」
「…どうする?」
「超音波と魔力感知を使う。ついてこい」
そう言うと、オーウェン達は暗い隠し通路へと入っていった。螺旋階段をどのくらい降りただろうか、最下層に着いたオーウェン達は道なりに進んでいく。途中わかれ道もあったが、魔力感知を使用していたお陰でトラップのある道を避けてオーウェン達は順調に進んでいく。しばらく進んでいくとオーウェンが何かに気付いて女に止まるよう指示した。
「…戸の隙間から灯りが漏れている。もう少し近づくぞ」
戸の側に立つと中から男達の話し声が聞こえて来る。その話す言葉から、男達はどうやら人族のようだ。
「おい、さっさと片付けて早いとこ国に帰ろうぜ。この際、そこら辺にあるヤツは全部処分すりゃいいだろ」
「ダメだ。ドゥッセルが関わっていたとわかる証拠は、しっかり残してこいと言われてるんだ。俺たちの事を書いてあるヤツだけ持って帰らねぇと…適当な仕事すると俺達2人とも殺されるぞ!」
「…ホント面倒くさいな。こんな面倒くさいことになるなら、さっさとエルフ共を攻め滅ぼしちまった方が早いんじゃねぇか?」
「へへ、そしたらエルフの女が抱き放題だな!ゲヘヘ。俺はあのドロシーちゃんの豊満な胸を揉みくちゃにしてやりたいぜ。この前、王の寝室に1人で入って来て『パパァ…』って泣いていた時は危うく犯しちまいそうになったわ、ギャハハ」
「俺はそんなことよりも耳のコレクションを増やしたいのさ。特にエルフの若いヤツは竹の葉のように真っ直ぐピンとしてて見栄えも良いから30は欲しいな。いつか耳だけで出来た首飾りを作ってやろうと思ってるんだ」
「…相変わらずお前の趣味はわかんねぇわ。まぁ、好きにすりゃあいいさ。俺もヤりたい放題ヤってやる!」
などと言って男達が騒いでいると、後ろから声が聞こえた。
「そうか。なら、俺もやりたい放題やってやろう」
「ッ!?誰だッ!?」
そう言って男達が振り向くと、身長185cmもあるエルフが真後ろで仁王立ちしていた。
「いつの間に!?お、お前は…。おい、コイツはブルートのヤツと一緒にヴァルドへ向かったって、テメェ言ってたじゃねえか!?」
「間違いないッ、馬車に乗り込む所をちゃんと見たんだ!何でここに居るんだよ!?」
と言い合う男達が隙をついてナイフを取り出し、オーウェンに向ける。暫く対峙していると急に1人が腹を抱えて笑い出した。
「ワハハ!コイツ身体付きが立派だったから焦ったが、鑑定してみたらレベル1だったわ。しかも8歳!」
「8歳でこの世を去るとかどんだけ不幸なんだよ、コイツ!!ギャハハ」
と笑う男達。
(鑑定とは何だ、何故コイツは俺の年齢を知ってる?…レベル1とは何だ?)
困惑したオーウェンの様子を見て優勢と勘違いしたのか、男達は調子に乗って更に煽る。
「体格差だけで誤魔化せると思ったのか、このクソガキがぁッ!」
「お前の耳を俺のコレクション第一号にしてやるぜッ、ヒャッハァ!」
そう叫びながら迫って来た男のナイフを蹴り飛ばすと、オーウェンは男の耳を掴んでビッと引きちぎった。床に落ちた自身の耳を見て、男が悲鳴をあげる。
「…ンヒャッ、ヒギャァアア!!?お、俺の耳が、耳がぁあああーーー!!」
男は錯乱状態になりつつも耳を千切られた側頭部を押さえながら、反対の手で自分の耳を大事そうに握りしめた。
「何故俺の年齢を知っている?鑑定とは何だ?」とオーウェンが問いかけるが、男達は2人で言い争いを始める。
「ただの8歳のガキじゃなかったのかよ!?テメェのいい加減な鑑定のせいで俺の耳がッ!」
「う、うるせぇ!油断したテメェの自業自得だろうが」
「俺の耳がぁ!!クッソォ、痛てぇえ!!」
「黙れッ、耳とれたくらいでごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ!」
言い争いを続ける2人に再度オーウェンが聞き出そうとすると、鑑定でオーウェンの年を言い当てた男が叫びながら突っ込んでくる。
「俺はアイツみたいに甘く無ぇぞ!死ねェ、ガキィッ!」
ナイフを細かく上下させてオーウェンの首元や心臓を狙って来る男の攻撃を、オーウェンは軽く躱
し先程同様にナイフを蹴り飛ばそうとした。
「おっと、そうはいくかよ!」
と言いながら男がオーウェンの蹴りを避けるようにナイフを振り上げる。その瞬間、一瞬で間合いを詰めたオーウェンが強烈な蹴りを男の股間に放った。ズドンと言う鈍い音と共に、男は口から泡を噴いて白眼を向き卒倒する。倒れた男の手からナイフを蹴飛ばすと、オーウェンは男の頬を叩いて無理やり起こして言った。
「どうして俺の年齢がわかった?鑑定とは何だ、レベルとは何だ?」
「くっ…ゲヘヘ、これだからエルフは…世情に疎い」
すると耳を千切られた男が叫んだ。
「ヒヒッ、無能のエルフと違って俺たちの仲間には、たくさんスキルを持ったヤツらが…グボォ」
途中まで何か言いかけた男が血を吐いて倒れる。
(…ドゥッセルの症状と似ている)
などとオーウェンが思っていると、股間を蹴られた男が顔を青くしながら言った。
「嘘だろ!?帝国の魔術師達め、俺達にまで呪いを…オ”ォエ”」
突然その男も血を吐き始め、2人の吐いた血液が混ざって、ブクブクと音を立て煙を上げ始める。すると血液に触れていた部分から2人の皮膚が爛れて溶け始めた。
「ギィエエ…まだ、死にたく無いッ!死にたく…な…」
心臓当たりまでとけた男の瞳から光が消える。数分もしないうちに2人の身体は跡形も残さず消えてしまった。
「な…何が起こったの?」
恐怖に震える女がオーウェンに問いかけると、オーウェンは歯軋りしながら言った。
「やられた。口封じだ、ヤツらが持っていた証拠も一緒に溶けて無くなってしまった」
「…帝国の魔術師達って言っていたけど」
「あぁ、どうやら事態はもっと複雑なようだ。なんらかの組織が関わっているようだが、これ以上はわからん。…ひとまず、残った資料を回収してヴァルドへ戻るぞ」
そう言うとオーウェン達は散乱した紙を手あたり次第バッグへ詰め込んで部屋を後にした。
ーーーーーー
ヴィルヘルムが王都で続報を待っていると、解呪師から速報が届く。
『解呪成功するも、油断出来ない状況。至急、治癒師の派遣を』
その報告に少し安堵しつつも、ヴィルヘルムはすぐに治癒師の手配と王都への搬送準備をするよう執事達へ指示する。執事達が慌てて部屋を出て行くなか、ヴィルヘルムは窓の外を睨んで舌打ちをした。
(何が起こっているのか、全く把握できない。だが、良くない事が起ころうとしているのは確かだ。)
すると、執事の1人がドアをノックして入ってきた。
「ヴィルヘルム様、ブルート・ブルイン・フォン・フェルゼン様が転送門のある都市から陛下への面会を求めているようですが…如何いたしましょうか?」
ヴィルヘルムは少し考え込んだ後、ふぅっとため息を吐き言った。
「良いだろう。武器の類を所持しないという条件で、ドゥッセル殿と共に王都へ入ることを許可する。王都に着き次第、私に知らせろ」
「かしこまりました」
執事が出て行ったドアを見つめながら、ヴィルヘルムはポツリと呟いた。
「いったい何が起こっていると言うのだ…。さっさと戻って来い、オーウェン」




