人魚が招く災難
オーウェンがホテルの前に着くと、ブルーノとシャルロッテ達がロビーの方で深刻な顔をしているのが見えた。オーウェンにいち早く気付いたブルーノは、飛び出してくると額の汗をハンカチで拭いながら言った。
「オーウェン様!日が暮れても戻らないので、大変心配いたしました」
「すみません、ブルーノさん。セイレーンに出会したので、遅くなりました」
「なんと!いやはや、漁師達の話は本当だったんですね!…もしかして、その担いでいる袋に入っているのは…」
「えぇ、魔石は取り除いたので確実に死んでますが、爪や鱗が鋭いので扱いには気をつけてください。明け方、憲兵の詰所へ持っていくのでそれまで保管をお願いします」
「そう言う事でしたか。わかりました、明日の朝まで責任を持ってお預かりしましょう」
そう言うと、ブルーノはスタッフに袋を持っていくよう指示する。スタッフは2人がかりで慎重にセイレーンの死骸を台車に乗せて運んでいった。ブルーノが再び話を始める。
「これまでセイレーンが捕らえられる事は無かったので、憲兵隊も表立って動くことありませんでした。しかし、セイレーンが存在する事がわかれば、必ず対策を取ってくれるでしょう。オーウェン様には本当に感謝申し上げます」
「いえ、それよりブルーノさん…お願いがあるのですが…」
とローラの事を話しかけたオーウェンの元に、遅れてシャルロッテ達が飛び出してくる。
「オーウェン様!セイレーンと戦ったというのは本当ですの!?」
「えぇ、本当です。シャル様」
「お怪我はされていませんかぁ?」
「えぇ、かすり傷すらありません。心配して頂き有難う御座います。ベル様」
「良かったですぅ」
などと話をしているとナサニエルがポリポリと寝癖のついた頭を掻き、欠伸をしながら言った。
「オーウェンがそこら辺の魔物に後れを取るわけ無いって、信じてたぜ。それより、肩に担いでる魚スンゲェでっかいな。今夜は焼き魚かな〜♪」
と言いながら、後ろに回り込んだナサニエルがビクッと身体を震わせ、動きを止める。
オーウェンは後ろを振り返る事なく小声でナサニエルに言った。
「ナサニエル。お前なら、今俺がして欲しい事がわかるはずだ。頼んだぞ」
「あ…あぁ。ま、任せろ」
そう言うと、ナサニエルは何も無かったかのようにシャルロッテ達の方へ戻っていく。
「よ、よし、オレ達はさっさと部屋に戻って料理を待っていようぜ!ちなみに、すげぇグロテスクな顔してるから見ない方がいいわ!マジ、食欲落ちるレベル!」
と言いながら、ナサニエルがシャルロッテ達を半ば強引にホテルの方へと向かわせると振り向き様にオーウェンにグッと親指を立てて見せる。オーウェンは、しっかりと意図を汲んでくれたナサニエルへグッと親指を立てて感謝を表した。
その時である。
気を失ってるとばかり思っていたローラがバッと身体を起こしてナサニエル達の方を向いて言った。
「ちょっと!?食欲が落ちるほどグロテスクな顔って何よ!?失礼しちゃうわ!」
すると急に身体を起こしたせいで被せていたコートがハラリと落ち、ローラの半裸(?)が露わになりかけ、慌てたローラがコートを掴もうと暴れた。そして、その滑った鱗のせいでオーウェンの腕からヌルリと滑り落ちていく。
「きゃぁああああーーー///」
と叫ぶローラをオーウェンが咄嗟に抱きかかえると、ちょうどローラの胸をオーウェンの左腕で、隠部を右腕で隠すような態勢でなんとか止まった。滑り落ちそうなローラの身体を支えようとオーウェンの左手に力が入る。その結果、ローラの胸を鷲掴みしてしまう。
「やぁん♡オーウェンったら、大胆なんだから♡」
オーウェンの腕や指の隙間からはみ出たローラの豊満な胸を見てコリンとフレッドは鼻血を噴いて卒倒し、グレンはダリアの方を気にしながらもチラチラ見ていた。ナサニエルはベアトリスに目隠しをされながら「ちょっと待って!俺だけ1mmも観てないんだけど!」などと、余計な事を言っていた。
シャルロッテとイザベル、そしてケイトがオーウェンに詰め寄ってくる。
「オーウェン、コレどういうこと?」
「まさかぁ、裸の女の子を抱きながらぁ、私達と何事もなかったかのように話をしているなんて思わなかったですぅ」
「オーウェン様、どうしてこうなったかしっかりお話ししてもらえますね?」
3人の鋭い目から視線を逸らすようにオーウェンは空を仰ぐ…。
満点の星空を見ていると、言い訳を考えている自分が「らしくない」ように思えて来た。
(そうだ、…今までたくさん誤解を生んできたし、これからもきっと誤解され続けるのだ。下手に考え過ぎず、事実をありのままに伝えよう)
そう考えると、ふぅと溜息を吐き覚悟を決めたオーウェンはシャルロッテ達の目を真っ直ぐ見て言った。
「ご、ご覧ください。こちらが…今日の釣果です」
ーーーーーー
あのハプニングから1時間、ロビーにはシャルロッテ達に小言を言われ続けしゅんとするオーウェンの姿があった。ローラはアニー達が買ってきてくれたビキニを身につけると、絶賛説教され中のオーウェンに「見て!ダーリン♡似合ってる?」などと話しかけて、シャルロッテ達の怒りの炎に定期的に油を注ぎ続けていた。見かねたブルーノが仲介に入ってくれたおかげで、オーウェンはようやくこれまでの経緯を話すことが出来た。
「なるほど。つまり、オーウェン様はセイレーンに追いかけられていたローラ様を危機から救っただけでなく、安全に海に返してあげたいという思いでこちらまで運んできた…そういうことで御座いますね?」
「その通りです、ブルーノさん。本当に今晩だけお願いしたいのです、追加の料金も払いますので…」
と言いかけたオーウェンに「いえいえ、結構ですよ」と言うとブルーノは続けた。
「セイレーンを倒しただけでなく、新しい話題も作ってくれたのです。早速明日から人魚の顔出しパネルをビーチに設置しますよ、ハハハ」
「ありがとうございます。…ほら、ローラも御礼を言うんだ」
「ありがとね♡ブルーノさん♡」
「いえいえ、どういたしまして。それで、オーウェン様。ローラ様はどちらにお泊めいたしますか?」
「スイートルームに付いているプールを使わせて頂きたいのですが」
「かしこまりました。温水に変えておきましょう」
そう言うと、ブルーノはフロントの奥へと消えていった。
シャルロッテ達はいつの間にかローラと親しく話をしている。どうやらオーウェンの話が本当の事で、ナンパされてお持ち帰りされた訳では無いとようやくシャルロッテ達にも伝わったようだ。シャルロッテ達の顔に笑顔が戻ると、オーウェンはようやく安堵した。
ーーーーーー
食事を済ませたオーウェン達はプールサイドでローラと話をする。それぞれの自己紹介が済むと、オーウェンが話し始めた。
「明日、憲兵達の詰所に向かう前に、ある程度情報を整理しておきたい。ローラ、セイレーンについて知っている事について教えて欲しい」
「んー、知っている事と言われてもねー…」
「…こういうことを言うと不快に思うかもしれないが、俺は初めてセイレーンを見た時、ローラ達人魚と同種族に見えた。以前、セイレーンについて書かれた他国で書かれた文献を見たこともあるが、そこにもセイレーン=人魚と記載されていたぞ」
すると、ローラが少し間を置いて言った。
「そういうトコから知らないのね。それは…半分当たりで半分間違いよ」




