ルクススでバカンス
〜〜〜ルクススは学院のある都市から、1500kmほど真南に位置した高級リゾート地のある離島である。エルフの王家や公爵家の者達はもちろん、裕福な人族の冒険者達が何ヶ月という船旅を要してでも一度は足を運びたい場所と言われるほど、ルクススはリゾート地として高い人気度を誇っていた。透き通った海や白く広い砂浜、そしてルクススでしか味わえない南国ならではの豊富な魚介類や独特なフルーツ。これらの魅力のおかげで、リゾート地に通じている冒険者達の間ではルクススは「金があったら一度は訪れたい場所 TOP5」に常にランクインしていた。〜〜〜
ナサニエルが転送門を出ると、潮の香りと共に壮大な景色が目に飛び込んでくる。オードリーやダリア達は初めてのルクススに興奮し、その場で水着に着替えようとしてシャルロッテ達に止められている所だった。グレンやフレッド達が遅れてゲートから出てくると口々に言い出す。
「スッゲェー!こんなに綺麗なトコが俺たちの国にあったのかよ!」
「俺初めて海ってヤツ見たわ、しょっぱくて飲めないってマジか?」
「フフフ、僕のリサーチでは綺麗なコも多く、ナンパスポットとしても有名らしいですよ」
と、コリンが言うとグレン達がグフフフフと笑いながら円陣を組んでいる。
「お前達もすっかり浮かれてるな」とナサニエルが言うと、コリンがキッと見つめ返して言った。
「そりゃ、そうですよ。僕らには彼女なんて居ませんからね!彼女が居てイチャイチャする予定があるナサニエル君にはわからないでしょうけどね!」
「ハァ?オ、オレにいつ彼女ができたって言うんだよ!?」
「ビーさんとあんだけ仲睦まじくしてるくせに、まだ彼女認定してないなんて!きっとお泊まり中にAとかBとか…挙げ句は気持ちEーことまでしようとか考えてるんだ、このスケコマシーッ!」
などと、コリンが嫉妬心の矛先をナサニエルにぶつけていると転送門がほんのりと光り、中からオーウェンの足がスッと出てくる。
「遅かったな、オーウェン。それより、ちょっと聞いてくれよ!コリンがさ…」と言いながら、ナサニエルが振り返ると…そこには
顔を真っ赤にして息を切らすケイトと、そのケイトをお姫様抱っこしたオーウェンが立っていた。
「お前ら…何してんの?」
「抱いて(かかえて) 来た、(ケイトが転送門をくぐるの) 初めてで怖いって言うから…」
とオーウェンが言うと、コリンは先程まで自分で話をした気持ちEーのくだりを想像したのか、突然鼻血を出してぶっ倒れた。ナサニエルは固まり、フレッドが「ただのイケメンじゃないと思ってたが、ゲートをくぐる短時間で連れ添った仲間を手玉に取るほどの手練れとは…」などと呟いているのを見てオーウェンは首を傾げる。
「どうした?」
「いや、こっちが聞きたいんですけどッ!?とにかくさっさと降ろせ!こんなトコ、シャル様達に見られでもしたら…」と言いかけて、ナサニエルが背中に走る冷たい視線にハッと息をのむ。ナサニエルが振り返ると、そこには黒いオーラを放ちながら目を光らせたシャルロッテとイザベルが立っていた。あまりの形相にナサニエルが「ヒィィイイッ」と悲鳴をあげ腰を抜かした。
「オーウェン様…ケイトさんと随分仲がよろしいようですわね。ゲートをくぐる前に一体何があったと言うのかしら?」
「ケイトを抱いて(かかえて) 来ただけです。彼女、(転送門をくぐるのが) 初めてで怖いなんて言うもので」
シャルロッテがワナワナと震えながら聞き返す。
「ケイトさんを…初めて…抱いた?」
(ん?なんだか少々ニュアンスが違う気もするが…まぁ良いか)
と一瞬違和感を覚えたオーウェンだったが、そのまま話を続ける。
「えぇ。俺も初めてだったので不安でしたが、慣れると大丈夫でした」
とオーウェンが言うと、シャルロッテとイザベルは「うーん」と唸りながら倒れ込み、ダリア達が慌てて介抱する。オーウェンは自分の言葉が誤解を招いているとは思わず、立ち尽くすナサニエル達に聞いた。
「…何かあったのか?」
キョトンとするオーウェンに、いつのまにか意識を取り戻していたコリンがグレン達と共にツッコむ。
『何かしたのは、お前の方だろぉがッ!』
ーーー
その後、ケイトの必死の弁明でオーウェンの嫌疑は晴れた。シャルロッテとイザベルは「そ、そんなコトだろうと…思ってましたわ。わ、私達はオーウェン様を信じて…ましたから」などと言っていたが、小一時間泣き腫らした目には、まだ薄らと涙が滲んでいた。
「俺は最初から間違った事は言っていないんだが…」とオーウェンが呟くとナサニエルがツッコむ。
「言葉足らなさ過ぎだろッ!?皆、勘違いしちゃってたし」
「誤解を生みやすいのは自覚してるが、何と勘違いしたんだ?」
「それは…その…アレだよ。お前が…その…ケイトと…」
「俺がケイトと、何だ?」
「ケイトと…エ…エッチぃ事…したんかな…って」
オーウェンがキョトンとした表情で言う。
「ンなわけ無いだろ」
「だ、だよなー!俺もンなわけねぇって思ってたんだぜ!まったく、皆リゾート来て浮かれ過ぎなんだよなー。だいたいさ、オーウェンがそんなコト出来るわけがないじゃん。誤解が解けて良かったねー、シャル様、ベル様!」
ナサニエルがシャルロッテ達に気遣って声をかけると、オーウェンが側でウンウンと頷きながら言った。
「そもそも、そういうことは転送門をくぐるくらいの時間では短すぎる」
「…」
「…どうした、ナサニエル?」
「…もういいよ。話ややこしくしたく無いから少し黙ってろ、オーウェン」
ナサニエルに厳しめにツッコまれ、オーウェンは今度も何がいけなかったのか分からず混乱する。結局、オーウェンは勘違いさせた罰としてシャルロッテ達の荷物を持たされる羽目になった。
文句一つ言わず、シャルロッテ達の荷物を抱えて宿の方へと向かっていくオーウェン。その背中をケイトが見つめていると、オードリーが側に近寄って来て呟く。
「まーったく。やり手なんだか、無垢なんだか…」
「フフフ、ホントね」
「…でも、そういうトコが良いんでしょ?」
「え!?」
「隠すなってぇ、嬉しくて顔真っ赤にしてた癖にぃ!」
「そ、それは係員に恋人と間違えられたからだってば!」
「腕なんかギュッて回しちゃってぇ!」
「もぅ、…オードリーは意地悪なんだから」
そう言うとケイトは顔を赤らめながら、荷物を持って宿へと向かっていく。その背中を見つめながらオードリーは「…ホント、羨ましいなぁ」と呟いていた。
ーーーーーー
転送門から歩いて10分くらいだろうか、オーウェン達は今日から4連泊する高級ホテルの前に突っ立っていた。これまでに泊まってきた宿と違い、ロビーには透き通るガラスでキラキラと輝くシャンデリアがあり、また入り口付近から床は全面フカフカの絨毯が敷かれていた。
「…ここ一歩入ったらお金要求されるとかねぇよな?」などとグレンが田舎モンぶりを発揮するなか、スタスタとベアトリスが入って行く。オーウェンもそれに続くと、グレンも躊躇いながらエントランスをくぐった。支配人風の男がベアトリスに近づいてくる。
「これはこれは、ベアトリス様。お久しぶりでございます。おやおや、シャルロッテ王女殿下に、イザベル王女殿下まで!いつも当ホテルをご利用頂き、誠に有難い限りでございます」
「お久しぶりね、ブルーノさん」
「今日は、旦那様やお兄様は一緒に来られていないようですが…」
「えぇ、今回は修練祭で1位になった褒賞としてこちらに来ているのよ」
ベアトリスはそう言うと宿泊券をブルーノに手渡した。
「これはこれは、誠におめでとうございます。確認させて頂きました、当ホテルのスイートへご案内させて頂きます。どうぞ、こちらへ」
そう言うと、ブルーノはホテルマンにオーウェン達の荷物を部屋まで運ぶよう指示して、長い廊下の先へと歩き出した。




