リゾート地へ行こう!
修練祭の翌日、オーウェン達の姿は教室ではなく鍛錬場にあった。皆が集まると、オーウェンが修練祭を振り返って話し始める。
「昨日はいい試合だった。日頃、真剣に取り組むお前達にすれば当然の結果だろう。だが、結果を残せるほどの努力が出来る者はそう多くない…共に戦えた事を誇りに思っている」
オーウェンの言葉を聞くと、ナサニエル達は気恥ずかしそうに笑っていたがシャルロッテとイザベル、そしてベアトリスは3人で手を取り合って涙目になっていた。オーウェンが3人の表情を見て、フフと笑いながら言う。
「特にシャル様、ベル様、そしてビー。模擬戦と言えど初めての戦場でよく働いてくれた事、とても感謝しています」
「そんな…私達はオーウェン様に言われた通りにしただけですわ」
「そんなに褒められるとぉ、照れてしまいますぅ」
「ホントに感謝してるなら、アタクシの事もベアトリス様って呼びなさいよ!」
などと、シャルロッテ達が顔を赤らめているとオードリーがスッと手を挙げてオーウェンに質問した。
「そういえばシャル様達に色々教えたって、試合前に言ってたよね?アレって何?」
「ここで話をしてもいいが、かなり長くなるぞ。シャル様達も半月程は座学だったからな」
「…座学は嫌だぁぁぁあ」
ナサニエルが身体を捻るようにして全身で気持ちを表現する。オードリーも「半月分を今聞くのはちょっと…」と言いながら敬遠したい態度が丸見えである。
すると、見かねたベアトリスがオーウェンに提案をした。
「なら、副賞でもらったリゾート地の宿泊券があるじゃない?リゾート地へ向かう道中で講義を聞くってのはどう?アタクシがおすすめする所だと…南のルクススなんて、どうかしら?」
「俺は構わないが…どのくらいで着くんだ?」
「ルクススへの転送門まで、ここから馬で約1週間といったところね。講義自体も40時間くらいだし1日6時間程度で無理なく出来るんじゃないかしら」
〜〜〜主要な各都市間には転送門が用意されており、物流や人の助けとなっている。とは言え転送門はどこにでもあるわけではない。学院があるような小都市には不要であるし、モンタギュー家のある国境に近い領地には他国から攻められた際に利用されないよう防衛の観点から意図的に置かれていない事もある。王都にある転送門は全ての転送門に繋げることが出来るが、こちらも防衛の観点から基本的に王族のみに使用が限られているためオーウェン達が使うことは出来ない。そのため使用できる転送門のある都市までは馬や徒歩で移動しなければならないのである。〜〜〜
「…1日6時間も話し続けるのはキツいんだが」
「アタクシも手伝ってあげるわよ」
オーウェンが皆の方を見渡すと、ベアトリスの提案にケイト達がウンウンと頷いて見せる。
オーウェンはフゥっと一息ついて言った。
「…ルクススに行きたいか?」
ナサニエル達は『イヤッホゥーーー!』と叫びながら拳を空に突き上げた。
ーーーーーー
翌日からオーウェン達は転送門のある都市に向けて出発した。教室と違って大自然の中で聞く講義はナサニエル達を飽きさせなかった。因みに講義の内容は、“孫子の兵法”をオーウェンなりに解釈を加えたものが主であった。修練祭での経験もあったからかナサニエル達にはとてもわかりやすかったようだった。6日目の夕刻頃に、オーウェン達は転送門がある都市に到着したが転送門が設置されている建物には既に灯が無く、扉には鍵がかけられていた。
管理人室へ確認に行ったナサニエルが、オーウェンの下へ戻ってくる。
「今日はもう終了したらしい。明日は朝5時から営業らしいけど、商人が多く並ぶからそれよりも早く来て並ぶかかラッシュを過ぎた9時頃から並ぶと良いって言ってたぜ」
「なら、今日はこの街で宿を取ろう。明日は9時に転送門へ、商人達のように急ぐ必要もないからな」
「そうだな」
それからオーウェン達は近くの小料理屋で食事を済ませ宿へと戻る。学院で食べ慣れている高級料理と違って、色々と濃いが何故か無性に食べたくなる味付けにシャルロッテ達やベアトリスはとても感動したらしい。それぞれの部屋に戻っても今日食べた物の感想をアレコレと話ししていたようだ。一方、オーウェン達は日頃の野営の見張りで睡眠不足だった部分もあるだろうか、部屋に戻るなり泥のように眠ってしまった。
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翌日、オーウェン達は普段よりゆっくり起きると転送門のある建物へと向かう。商人達はすでに粗方出発したようで、観光目的の貴族や他国から来た冒険者などが疎らに並んでいる。オーウェン達がルクスス行きのゲートへ並ぶと受付嬢が近寄って来て声をかけた。
「お客様、この転送門はルクスス行きですが、行き先に間違いはございませんか?」
「えぇ、間違いないわ」とベアトリスが学生証とルクススへの渡航チケットを見せる。
「確認させて頂きました。引率者同伴と書かれていますが、引率者はどなたですか?」
オーウェンが「私が引率者です」と前に出てフードを取ると、受付嬢はトロンとした表情になりオーウェンを見つめたまま棒立ちになった。そして焦点の合わない目でオーウェンの身分証を確認すると受付嬢は崩れるように倒れてしまう。慌てて他の職員が受付嬢を医務室へと運ぶなか、ナサニエルが小声でグレン達と話す。
「久しぶりだな、この感じ」
「…あぁ、オーウェンの顔見て呼吸するの忘れたんだろ」
「あんな間近で見りゃあ、そうなるわな」
一方、シャルロッテ達は急いでオーウェンの顔を隠そうとフードを無理矢理被せる。もみくちゃにされながら、オーウェンがシャルロッテ達に言う。
「シャル様、ベル様。急にどうされたんです?」
「オーウェン様は目を離したら、すぐに女の子を夢中にさせてしまうんですから。私達が守って差し上げているんですわ!」
「引率者を確認したいと言われたからフードを取っただけですが…」
「そういう態度もぉ、ズルいんですぅ!」
「そう言われても。どうしろと…」
『とにかく、フードを外さないでくださいッ!』
シャルロッテ達がハモり、オーウェンは深々とフードを被らされるのを黙って受け入れる。その様子を見て、コリンが「モテ過ぎるっつーのも色々面倒くさs…」と言いかけたがシャルロッテ達に鋭い視線を送られると、「いやぁ、ホント羨ましいですねぇ…ハハハ」などと笑って誤魔化していた。
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騒動がひと段落し、いよいよオーウェン達が転送門をくぐる番である。
「荷物は背中に背負うか、抱きかかえるようにして離さないでください。手を繋いでの移動は御遠慮ください」と言いながら係員が誘導するとシャルロッテやイザベル、そしてベアトリスが慣れた様子で転送門をくぐっていった。ダリア達も「コレ苦手なのよねー」と言いながら次々とそれに続く。皆の様子を見ながら、オーウェンがナサニエルに話しかけた。
「転送門ってどんな感じだ?」
「んー、どんな感じって言われてもなぁ…。地面がドンドン加速していくって感じかな」
「地面が加速する?…迷宮にある転移魔法陣とは違うのか?」
「迷宮の転移魔法陣とかくぐったことねぇし…まぁ、入ってみたらわかるよ」
などと、言いながらナサニエルもさっさと転送門へと入っていった。その後もグレン達が順々に転送門へと入っていき、気がつけば残されたのはケイトとオーウェンだけだった。ケイトは転送門をくぐるのを躊躇っているようでなかなか近づこうとしない。
「…どうした、ケイト?」
「アタシ、転送門くぐるの初めてなんだよね。前にオードリーが転送門酔いしたって話聞いたから…ちょっと怖いな」
ケイトの不安気な表情を見て、オーウェンが言った。
「俺も初めてだぞ。…一緒にくぐるか?」
「え、でも手を繋いだりしちゃダメだって…」と言いかけたケイトをオーウェンがお姫様抱っこする。
「これなら問題ないだろう」
「え…え!?大丈夫なの、コレ?」と慌てるケイトに係員が、「あ、はーい。オッケーでーす。しっかり彼氏さんに掴まっていてくださいねー」と返す。途端にケイトの顔が赤くなったが、オーウェンは気づかなかった様だった。
「しっかり掴まってろ」とオーウェンが耳元で囁くと、ケイトは耳まで真っ赤にしながらコクっと頷き、オーウェンの首元にギュッと手を回す。
こうして、オーウェンはケイトをお姫様抱っこしながら転送門をくぐっていった…この先に居るシャルロッテ達に見られたらどうなるか…など考えもせずに。




