オーウェン参戦!
最終種目にトラヴィスが参加表明をした事で、他のクラスの教師達も次々に参加を表明した。特別教室の方にも一報が入るとナサニエルが嬉しそうに言う。
「これで鳳雛隊が全員揃うって事だな!ってか、ウチは元々人数が少ないから他の競技でも出て良いって言われてたのに、オーウェンってば頑なに出ないって言うからさ」
「それは、お前達だけでも十分に戦えると判断したからだ。だが他クラスの教師が出るとなれば俺も出ざるを得ないな」
「確か最終種目は殲滅戦で、何でもアリだったよな?」
「あぁ、魔法も罠も何でもアリだ。最も実戦に近く、俺達の1番得意なヤツだ」
「へへへ、そうだな」
オーウェンがナサニエル達と話しているとケイトやオードリーも嬉しそうにしながら話しかけてきた。
「それで?アタシ達はどういう作戦で行くの?」
「決勝戦まではこれまで通りだ、こちらの手を読まれないようにな」
「…何か策があるのね」
「あぁ、まぁ俺達にとっては慣れた戦法だがな。そろそろ時間だな…」
グレンが近づいてきて「一言お願いしますよ、隊長殿」と戯けてみせる。オーウェンは久々に隊長殿と呼ばれると苦笑しながら言った。
「しょうがないな。…鳳雛隊、出撃するぞ!」
『はいッ!』
ーーーーーー
〜〜〜2年前、オーウェン達が行った闘技会は最終種目の殲滅戦のルールを参考にしたものであり、基本は一緒である。異なる点は、試合中に据え置き型の罠や魔法を使用して良いことで、その攻撃範囲にも制限は無い。よって魔法や罠の設置に長けている生徒達がいる事は、勝敗を左右する大きな要素となった。〜〜〜
トーナメント戦はAグループとBグループのそれぞれの勝者同士で行われる。トラヴィス達のクラスはAグループに属しており、罠の設置に長けた者が3人、魔法に長けた者は5人もいたため怒涛の快進撃を繰り返し決勝戦まで難なく駒を進めた。一方でBグループに属しているオーウェン達も、これまで通りの危なげない試合運びで順調に決勝へと近づいていた。スクリーンに投影魔法で映し出されたオーウェン達の試合を観ながら、トラヴィスのクラスの生徒達が批評する。
「前の種目ではなんとなく圧倒されたけど、こうやって冷静に見るとコイツら大した事ねぇな」
「まぁ、ルールも違うしね。総合力で言えば戦闘は圧倒的にウチらの方が有利でしょ」
「連携力でカバーしているんだろ、個別の戦闘でみればどうって事ないわ」
その批評を側で聞きながらトラヴィスは言い知れぬ違和感を感じていた。
(…確かに連携がうまく取れているだけで、ずば抜けた技量がある者は少ないです。大体の者は彼らと同じ印象を抱くでしょうね。…だが、なんでしょう?この違和感は…。何かを見落としている気が…)
映像を見ながら首をひねるトラヴィスに、罠の設置を担当している生徒達が話しかける。
「先生ー、俺達は一足先に罠仕掛けて来ますね」
「…ぁあ、頼みましたよ」
「はーい」
話しかけられて集中が途切れたのか、トラヴィスはブンブンと頭を振った。
(…悩んでもしょうがないですね。まぁいいでしょう、これまで私が教えてきた事を彼らがしっかり実行できれば自ずと勝利は見えてくるのですから)
トラヴィスはふぅっと一息つくと「さぁ、私達も行きましょう」と周囲の生徒達に声をかけた。
ーーーーーー
準決勝を突破したオーウェン達は決勝戦まで30分の休憩の間にブリーフィングをする。
ケイトが防具に付いた泥を布で拭きながら「あー、早くお風呂入りたーい」などと駄弁る側でオードリーがオーウェンに話しかけた。
「あっという間に決勝戦ね、策を練る必要も無かったかしら」
「いや、俺の読みが正しければトラヴィスは既に策にかかっている」
「…どういうこと?」
オードリーの質問にすぐ答えず、オーウェンはフィールドの地図を広げて言った。
「これまでの試合、俺達はどうやって戦って来た?」
「どうって…寡戦(少ない人数で大勢と戦う事)だからね。主戦場は見通しの悪い森にするしかないし、相手を分散させて奇襲と待ち伏せの繰り返しばかりだったわ」
「そうだ。少人数の場合、この戦い方以外に活路は無い。だがこちらの戦力と戦法が露見してしまえば、対策は取られる。実際、準決勝では相手も戦力を極端に分散させずに攻めて来ていたからな」
「…それであんなにやりづらかったのね」と感心するオードリーに、オーウェンは「まぁ苦戦したのは、シャル様達に他の事をしてもらっていたのもあるがな」と呟きながら続けた。
「他の試合でシャル様達の範囲攻撃魔法を使わせずに隠してこれたのは、これまでの相手が数の差に油断し、シャル様達の陽動で戦力を分散させた所を各個撃破出来たことが理由だ。だからこそ準決勝の相手は、戦力を分散させずに俺達と対峙する方法を選んだわけだが…そもそも範囲攻撃魔法を隠していたのはそういう相手を倒すためだ。結果として彼らは目論み通り、一網打尽となった訳だ」
ナサニエルが「それも狙ってたのかよ?本当抜け目ねぇな」と言うと、シャルロッテ達が満足そうにニコッと笑った。オーウェンが続ける。
「しかし、準決勝でその範囲攻撃魔法の存在もバレている。恐らくトラヴィスは主戦場を森ではなく…草原にする」
「え!?…ウチら勝てないじゃん!草原なんて見通し良すぎて奇襲も待ち伏せも出来ないんだから」
と慌てるケイトに、オーウェンが落ち着くように言って話を続けた。
「言っただろ、トラヴィスは既に策にかかっているだろうと。この状況は十分に想定出来た、当然策は考えてある」
「なによ、策って?」
「殲滅戦は罠も魔法も何でもアリだ。そして俺達には、まだ仲間がいる」
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一方、トラヴィス達はオーウェンの予想通り草原に陣を構えていた。既に森の入り口から内部に至るまで多数の罠が張りめぐらされており、森の中でゲリラ戦を行うことはほぼ不可能と言った状況である。トラヴィスが土嚢を積む生徒達に呼びかける。
「開始まであと10分です。このまま、ここで彼らを迎え討ちますよ。森で罠が発動したら、発動した罠の半径25mの範囲に大範囲攻撃魔法です。相手が草原に逃れて来たら弓隊で排除します、弓隊と魔法使い以外は彼らの護衛です。これまで教えてきた通りにすれば、勝てない戦いなどありません」
『はーい』
トラヴィス達の陣は周囲の森から十分と言える距離をとっていた。これなら、例え森の中から矢を射られても普通は届くはずが無い。そう、普通の学生が放った矢であれば…。多くの観客は気づかなかったようだがトラヴィスは観ていたのだ。準々決勝で100mほど離れた所から、オーウェンが正確に相手の司令塔を射抜くのを…。
(あの距離で動く的を射るなど、普通はあり得ません。アウグスト騎士団長の御子息と言うのは知っていましたが、まさかあれほどの腕前とは思いませんでした。彼なら矢を届かせる可能性は十分にあります)
そのため、トラヴィスは土嚢で壁を築くことを考えた。これなら遮蔽物の無い草原でこちらは身を守りつつもオーウェン達を一方的に狙うことが出来るからである。また森から距離を取ったのには、認識できる距離が遠ければ遠いほど攻撃魔法の範囲を指定しにくいという点もある。もちろん、トラヴィス達にとっても不利になる条件だが、そこはすでに対策済みである。というのも、あらかじめ仕込んでおいた罠には発動すると正確に位置情報を知らせる仕掛けを施している。罠にかかりパニックになっている所を範囲攻撃魔法で追い込まれた相手は、更に罠にかかりやすくなる。これまでに何度も成功して来たこの策に、トラヴィスは大きな自信を持っていた。
(君達がBグループになった事が運の尽きです。まぁ、この状況でも私は油断しませんがね…)
生徒達が土嚢を積み終わったのを確認しトラヴィスは生徒達に声をかけた。
「さぁ、狩りの時間です!この試合も一方的に終わらせますよッ!」




