オーウェンの意図
鍛錬場での訓練の翌日、オーウェンは何事もなかったかのように皆の前に顔を見せた。オーウェンが修練祭のブリーフィングを始めようとしているとナサニエルが声をかけてくる。
「…昨日はごめんな。俺達の事を思ってしてくれたのに、変に落ち込みすぎちゃって…」
「いいんだ」
「…あれが実戦じゃなくて本当に良かったって思うよ」
「そうだな」
「色々やって…色々出来る気になってたのかもな」
「ナサニエル達は他の生徒に比べて出来る。だが『出来る事』と『すべき事』は違う。それを感じられただけ、あの試合は有意義だった」
「そうだな!まだまだ学ぶ事がいっぱい有るわ…頼りにしているぜ、オーウェン!」
「あぁ」
オーウェンとナサニエルが話をしているとベアトリスとシャルロッテ達も近寄ってくる。
「昨日は…ごめん」
とベアトリスが頭を下げるとシャルロッテ達も深々と頭を下げた。
「気にする必要はない。俺は伝え方が下手だと自覚しているしな」
(…転生前も勘違いされっぱなしで、現代では脳筋ゴリラ扱いだったからな)
などと思いながら、オーウェンは皆が静かになったのを確認して話し始めた。
「修練祭までは1ヶ月だ。ここからはシャル様達も訓練に参加する。と言っても、シャル様達が表立って動くことはない」
「どう言う事だ?オーウェン」とナサニエルが言うと、オーウェンはシャルロッテ達に側に来るよう呼びかけた。
「元々、シャル様達に暗殺訓練をしたのは真っ向から戦闘を行わないためだ。シャル様達は常にお前達の動きに合わせて援護するように訓練してきた。今日からはその微調整といったところだ」
「でも、昨日の訓練は…」
「連携の穴を衝かれないようにするには、まずその穴を知らなければならない。穴を知れば、その埋め方がわかると言うものだ。シャル様達には常にお前達を見守り、フォローに必要な知識を可能な限り教え込んだつもりだ」
するとオードリーが口を尖らせながら言った。
「…アタシ達にはその知識を教えてくれないの?」
「あぁ。まずは、支援が加わる事で自分達の動きがどう変わるか修練祭で感じてほしい」
「…わかったわ」
「さぁ、最終調整だ。気を引き締めてかかるぞ」
『はいッ!』
ーーーーーー
中等学院の修練祭のちょうど1週間前、初等学院の修練祭が行われた。ベアトリスに誘われてオーウェン達はドミニクの応援へと向かう。ドミニクはオーウェン達に対し「何しに来たんだ?」と終始不満気な態度だったが、最終結果発表でドミニクのクラスが3位と発表されると自信満々に近づいて来て言った。
「申し訳ないが、最早勝ったと言っていい。飛び級が出来るほど優秀と言えど、君達が中等学院であれ以上の成績を納めるのは不可能と言わざるを得ないからな。…金輪際ビーには近づかせないぞ」
「…では勝ったら、これからもベアトリス様を同伴することを許していただける…そういうことですね?」
「…ふん。万が一にも有り得ないとは思うがな。その時は、ビーの好きな様にさせるさ」
「わかりました」
ドミニクはその後もご機嫌な様子だった…オーウェンにしっかりと言質を取られたなどとは思わずに。
ーーーーーー
1週間後、今度はオーウェン達中等学院の修練祭の番である。
〜〜〜中等学院の修練祭は、12種目の競技からクラス毎に5種目を選び点数を競う。技能種目は破壊した的の数や一定時間内に移動出来た距離や高さなど、それぞれの目標に合わせて点数が加算され最高得点は1競技につき30ptである。競走種目では優勝で50pt、勝利する毎に30pt貰えるため腕に自信のある者が多いクラスは積極的に競走種目を選ぶ傾向にある。成績順位に合わせて賞品も良くなるのだが、一方でそれぞれの学年の基準ptに達しないクラスには一定期間の奉仕活動が課せられる。3年次は100pt、2年次は75pt、1年次は50ptが基準ptとなっており、基準ptを超えるか高成績を狙いに行くかの判断も必要となってくる。余談だが、教師にも成績に応じて賞与が出る一方、基準ptに達しない場合は減給等の処分が課せられるため、生徒以上に張り切る者もいた。〜〜〜
上級生の宣誓と学長の挨拶が終わると、いよいよ各々の競技が始まる。技能種目の予選が静々と始まるなか、オーウェン達は既に悪目立ちしていた。というのもそれぞれのクラスが選んだ競技が発表されるのだが、5種目全てを競走種目にしたのはオーウェン達くらいだった。
「アイツら、基準pt超えないと奉仕活動っていうペナルティを知らねぇんじゃねぇの?」
「そもそも教師を合わせても13人しかいないのに、30人まで参加枠のある競走種目を選ぶとかアホでしょ」
などと生徒達が騒いでいたが、オーウェンは特に気にする様子も無かった。すると、3年次担任のトラヴィスがオーウェンに話しかけてきた。
「…君、修練祭のルールブック読まなかったんですか?」
「一通り目を通しましたが」
「読んでいて、あんな選び方をしたんですか?…基準ptに達しないと君にもペナルティはありますよ?」
「そうですね」
「『そうですね』って…。ウチの修練祭は初等学院みたいに甘くありませんよ?」
(そう言われても、そもそも俺は初等学院の修練祭に参加した事が無いんだがな)
などと思いながら、オーウェンが黙っているとトラヴィスは溜息をつきながら言った。
「種目変更の申請でもして来なさい?一方的な試合では観ている方達も忍びないでしょう」
「…いえ、このままで構いません」
「…は?」
「『失敗すればペナルティがある』…そのくらいで退く選択肢が浮かぶほど私のクラスは甘い鍛え方をしていませんので」
そう言うと、オーウェンは踵を返してスタスタと歩いていった。
(特別教室の講師だからって、生意気な…まぁいいでしょう。忠告もしてあげたのだし、ここらで洗礼というものを受けてもらいましょう)
などと思いながら、トラヴィスはオーウェンの背中を見送った。
ーーーーーー
数時間後、学長も含めて皆はただただ驚愕していた。オーウェン達のクラスは4種目において一敗すらすることなく、残り1種目を残した時点でこれまでの大会歴代最高得点を大幅に塗り替えていた。また、その戦い方も他クラスと一線を画しており、オーウェン達は全ての試合において戦線離脱者を出していない。3年次達が控え場所でヒソヒソと話す。
「…どうしてこうなった!?あと1種目しかないのに100pt以上も差があるぞ。」
「俺らの数の半分以下だぞ。なんで1人も仕留められないんだよ…」
「それよりヤバいぞ、ウチは競走種目の1回戦で特別教室の連中に当たっちまったせいで技能種目の90ptしか無い。次の種目の1回戦で負ければ…ペナルティだ」
それを聞いて側で頭を抱える教師が1人、あのトラヴィスである。
(どうしてこんな事に!?ウチのクラスは毎年優勝争いに食い込むのに、今年は優勝どころかペナルティを恐れなきゃならない始末ですッ。このままでは私も減給されてしまう…ッ!)
トラヴィスがクラスの者達を集めるなり叱咤する。
「あんな毛も生えてないような連中に負けるとは、一体どう言う事ですか!?最終学年がペナルティを負うのは絶対に許されることではありません!!なんとしてでも、ペナルティを回避するのです!!」
「で、でも先生!アイツら本当に強いんですよ!?」
「王女殿下達もいつの間にか消えていて、見つける事すら出来なかったんです!無茶です!」
生徒達がガヤガヤと騒ぐ中、トラヴィスがバンッと机を叩く。
「泣き言は許しません!無茶でも何でも勝ちに行くのです!次の種目に我々の命運がかかっているのです!」
すると、対戦表をチェックしに行っていた生徒が息を切らしながら戻ってきた。
「やったぜ…次の種目の初戦はアイツらじゃない!」
その言葉を聞いて皆が明るい表情になる。
「やったわ…危うく他クラスの嬲り者にされてしまう所だったわ」
「え…流石にそこまでは無いでしょ?」
「王女殿下達の椅子として四六時中背中に座られるトコだったぜ…」
「…それはそれで良くないか?」
などと生徒達が話していると、トラヴィスが言った。
「さぁ、後顧の憂いは断たれました!私も出ます!あらゆる手を尽くして少しでも多くptをもぎ取るのです!」
『お…おォーッ!』
生徒達が勝利に向けて互いに鼓舞し合う中、トラヴィスは減給の心配が無くなったことで胸いっぱいだった。




