叙勲式
いよいよ叙勲式当日、王都にはヴァルド各地より多くの貴族達が集まっていた。とは言え、オーウェン達の功績を知る者はほとんど居ない。というのも、オーウェン達の闘技会に出席したのは聖アールヴズ連合国を構成する6国の1つであるヴァルド王国内の、さらにアウグストの領地がある地方の貴族達のみである。また今回の叙勲式ではヴァルド国以外は各国の王家と叙勲候補者の貴族達のみの参加であるためオーウェン達の事を知りうる人間は皆無に等しかった。煌びやかな貴族達が集まっているのをドアの隙間から覗いたナサニエルが鳩尾辺りを摩りながら言った。
「うわぁ…ヤバ、緊張してきた。ちょっと手洗い行ってくる」
と、ナサニエルが手洗いに向かうとコリンやフレッドも「俺も行く」と言って連れ立っていった。ベアトリスがナサニエル達の後ろ姿を見ながらオーウェンに話しかける。
「ほんと、ナサニエル達ったら臆病なんだから」
「ヴァルド王国以外の重鎮と会える機会など、そうそう無いからな」
「…貴方は?緊張しないの?」
「あぁ」
「どうして?」
「知らない者の評価など気にする必要がない」
「フフ、なるほどね…貴方らしいわ」
などと話をしていると、シャルロッテ達が様子を窺いにきた。
「オーウェン様、良くお似合いですわ」
「有り難う御座います、シャルロッテ様」
「わ、私もそう思うのですぅ」
「有り難う御座います、イザベル様」
「他の皆様は?」
「手洗いに行っています、すぐ戻ると思いますが」
「いえ、いいの。ここにはビーさんを呼びに来たのですから」
ベアトリスがキョトンとした顔をする。
「わ、ワタクシを?」
「えぇ、お父様に貴方の事をお話ししたら『是非、話をしたい』って」
シャルロッテがそう言うと、ベアトリスは一瞬間を置いて言った。
「…お手洗いに行ってきますわ」
ーーーーーー
騒つく会場で貴族達がヒソヒソと話をする。
「今年は例年より遅い叙勲式ですな、てっきり該当者がいないのかと思っていましたが」
「表向きは会談の影響となっているが、やはりクーデターの影響だろう」
「陛下の側近も関与していたとか。陛下は気が気じゃないでしょうね」
そこにヴィルヘルムがクロエ達を連れて会場へと入ってくる。会場はたちまち静寂に包まれた。
ヴィルヘルムが壇上に立ち、会場にいる全ての者に呼びかける。
「諸君、此度は多忙な中集まってくれた事、心より礼を言う。今回は外交関係の行事が続いたため例年より半年ほど遅れた開催となった。これより叙勲式を行う」
ヴィルヘルムの言葉に呼応して会場の演奏家達が華やかな入場曲を奏でると、オーウェン達が待機するドアがゆっくりと開かれた。各国から選出された者達が一列になって会場へと入ってくる。オーウェン達はアウグストと共に列の先頭に並び入場した。
会場がザワザワと騒がしくなる。
「子供が混じっているぞ、しかも10名も」
「学芸会じゃあるまいし」
「子供の出来る事など高が知れているだろう、アウグストの手引きじゃないのか?」
「先頭の子…とても可愛らしいわね。ナイフも持てなさそうな顔しているわ、ウフフ」
などと話している中、オーウェン達が整列すると、若くしてヴァルド国の宰相となったアルフォンスが音響魔法で話し始めた。
「今回、ここに並ばれた方達には陛下より勲章が授与されます。皆様、彼等に盛大な拍手を」
疎な拍手が鳴り響くなか、1人の者が手を挙げた。ブルイン王国の宰相を務めるブルート・ブルイン・フォン・フェルゼンである。
〜〜〜ブルイン王国は聖アールヴズ連合国の中でヴァルド王国に次いで2番目に大きな国である。岩で囲まれた土地にあり、石材や鉱石の売買による莫大な利益で財を成したブルイン家によって代々統治されてきた。ブルートは現王ブレイブの実弟であり、ブレイブが病に臥してからはブレイブの1人娘である王女ドロシー・ブルインの補佐という名目で内政を担当していたが、ここ最近は外交関係にもしばしば口を出すようになった。〜〜〜
「皆が納得のいく説明をしてくれないか、アルフォンス殿。どうして彼等がそこに連なっているのか」
「えー、それは…」
アルフォンスが額の汗を拭いながらオドオドしているとヴィルヘルムがアルフォンスに下がるよう指示して話し始めた。
「彼等は我が領内で強大な魔物が現れた際に活躍した者達だ。彼等の活躍のお陰で、我が娘達も無事に帰る事が出来たからな。十分な功績と言えるだろう」
「…なるほど、そうですか…」
そう言うと、ブルートは冷たい視線で1人ずつ見つめていく。オーウェンと目が合った瞬間、眉をピクッと動かしたが、そのまま何もなかったかのようにヴィルヘルムへと向き直って微笑んだ。
「優秀な若者がお揃いで、羨ましい限りですな。ヴィルヘルム陛下。その活躍とやらがどのようなものだったのか拝見したかったものですな」
「そう言う者達もおるだろうと思ってな。おい、例の物をここへ」
ヴィルヘルムがそう言うと、白い布に覆われた馬小屋ほどの大きさの物が台車に乗せられて出てくる。
布が取られると、オーウェン達が倒した巨大熊の剥製が現れた。会場にざわめきが広がり、椅子から転げ落ちる者すらいる。ブルートは頬の汗を拭いながら言った。
「まさか、これほどとは…流石は『鮮血の剛弓』ですな」
ブルートが呟くと、アウグストが「違いますよ、ブルート様」と訂正した。
「その魔物を倒したのは、我が息子、オーウェンなのです」
そう言うと、アウグストが自慢気にオーウェンの肩に手を置いた。会場がたちまち騒つき始め、ブルートも信じられないといった表情で「バカな!?」と席から立ち上がる。ヴィルヘルムがアウグストの発言に頷きながら言った。
「ブルート殿、信じられないかもしれないがアウグストが言ったことは事実だ。さらに、オーウェンはヴァルド王国にある迷宮の一つを攻略しておる。報告では、マンティコアやキマイラとも交戦したそうだ」
「…信じられない。騎士団でも太刀打ち出来るかわからない魔物を、このような少年が?」
すると、会場の装飾と思われていた大木がその台座からゆっくりと降りてきて言った。
「オーウェンがキマイラを倒したのは事実よ。間近で見た我が保証するのよ」
「お…オノドリムだとッ!?」
驚き過ぎて動けなくなったブルートを見て、ヴィルヘルムはフフと笑って言った。
「オノド殿はオーウェンが迷宮から連れてきたのだ。今は国賓として、我が城で過ごしてもらっている」
「…」
ブルートが黙っていると、周囲の貴族達が感嘆の声と共に大きな拍手を送る。
「森の守護者オノドリムに生き残りがいたなんて!」
「…それにキマイラを倒すなんて、とんでもない若者だな!」
「美しいだけじゃなくて強いなんて…完璧じゃない!…お付き合いしている方とか居るのかしら?」
その言葉にシャルロッテとイザベルが焦りを感じ身を乗り出そうとしたが、あっさりクロエに止められる。そして、動けなくなったブルートの側ではブルイン王国王女のドロシーがキラキラとした憧れの眼差しでオーウェンを見つめていた。
「話が長くなったな。では、これよりこの者達に勲章を授ける!」
ヴィルヘルムがそう宣言すると、会場は大きな拍手と歓声で包まれた。
続くー




