最速のエンターテイメント
その後もオーウェンは、色んな装置に挑んだ。吊るされたブランコがグルグル廻る装置に、ゾンビに扮したヒト族が脅かす小屋、高い所から地面へ急降下する椅子、水を張ったコースをボートで進む装置など、たくさんのアトラクションを経験し、オーウェンの硬かった表情も次第に解れて笑みが溢れる。微笑みながら水で濡れた髪を纏めるオーウェン。その艶美な姿はシャルロッテ達はもちろん、あのベアトリスでさえ目を奪われてしまうほどだった。鏡張りの家に入り、鏡に写って増殖するオーウェン。「やっば、今なら此処に住めるわ」とケイトが呟くとシャルロッテとイザベルは、首を縦に振り激しく同意していた。
ミラーハウスからいち早く出たオーウェンは、ふと遠くから聞こえる大勢の悲鳴に気付いた。ナサニエル達が遅れてミラーハウスから出てくる。
「オーウェン、出るの速すぎるぜ。どうやったらあんなにスタスタ歩いていけるんだよ?」
「風の流れに従って歩いただけだ。それより凄い悲鳴が聞こえたんだが」
「ん?…あー、たぶんここで1番ヤバいヤツだよ」
「あの吊るされたブランコよりも更にか?」
「あぁ、比べ物にならないぞ。なんせ最新式だからな」
「…乗ってみたい」
期待に目をキラキラと輝かせるオーウェンを見て、ナサニエル達は少しホッとする。特に何かに興味を持つわけでもなく、ただひたすら人知れぬ目標のために日々鍛錬を続けるだけのあのオーウェンが、子供っぽい仕草を見せている。普段、自分達と共通点の乏しいオーウェンにもあどけない一面があったのだと知って、ナサニエル達は嬉しくなった。
「まぁ、焦んなって。そろそろ腹ごしらえにしようぜ?」
そう言うとナサニエルに引っ張られて、オーウェン達はフードコートへと向かった。
ーーーーーー
食事を終えたオーウェン達はいよいよ、悲鳴の下へと向かう。近づくにつれて、悲鳴よりもゴォオオという何かが高速で移動する音の方が大きくなってきた。
「着いたぜ」
「これが、最新式の装置…」
「さっさと並ぼうぜ、これ人気だからなかなか乗れないんだってよ」
そう言うと一同は列へと並ぶ。30分ほど待ってようやくオーウェン達の順番となった。オーウェンの両隣をシャルロッテとイザベルががっちり固めるが、オーウェンは2人の視線に気付かないほど高揚していた。
安全バーが降ろされ、いよいよ機体が進み始める。カチャンカチャンと音を立てながら機体が上昇する。当初はベアトリスの前で平気なフリをしていたナサニエルも、地上60mを過ぎた辺りから顔が引きつり始めた。
「マジかよ…嘘だろ?まだ半分くらいでこの高さかよ」
さらに上昇し、地上120mの高さに達すると今度は機体が下向きに傾き始めた。
流石のオーウェンも、この高さには驚きを感じていた。
(これは一体何を鍛える装置なのだろうか?本当にこの高さから、無事に地上へ戻ることが出来るのだろうか?)
などと考えていたオーウェンだが、シャルロッテ達が怯えていることに気付き、そっと2人の手を握る。
『オーウェン様…!』
「大丈夫ですか?」
オーウェンの優しさに触れ、シャルロッテ達は「はいッ!」と返事をしようと息を吸い込む。その瞬間、ローラーコースターは無慈悲にも落下を始めた。
「いやぁああああああああああああ」
「うわぁああああああああああああ」
「ひょぇええええええええええええ」
「んほぉぉおおおおおおおおおおお」
など、様々な叫び声が飛び交う中、1人だけ「アーッハッハッハッハ」と高笑いするオーウェン。
(…凄いッ!馬なんか目じゃないほど速いぞ!こんな感覚は初めてだ!)
コースターが左右にグワングワンと揺れ、身体がその度に揺さぶられる。機体が大きく1回転した時でさえ、オーウェンは満面の笑みで周囲を見渡しながら楽しんでいたが、シャルロッテ達はオーウェンの手を握り締めたまま、ずっと眼を瞑っていた。
3-4分は経っただろうか、ようやくコースターが終点へと到着する。グッタリするシャルロッテ達を余所に、キラキラした笑顔のオーウェン。ナサニエルがベアトリスの手を引きながら降りてきて言った。
「まぁ…結構、楽しかった…な」
「あぁ!もう1回乗ろう!」
「…え?」
「風魔法の応用を、掴めそうな気がする!だからもう1回乗ろう!」
オーウェンの提案を受けて、ナサニエルが皆の方を見る。
「ワタクシはシャルロッテ様達のお側にいるわ、ナサニエルは行ってきていいわよ」とベアトリス。
「オレは一回で十分、ナサニエルは付き合ってこいよ」とグレン。
「アタシらもパス」とダリア、アニー、エラが後ろへ下がる。
「ボクもいいや、ナサニエルはちゃんと付き合ってあげなよ。訓練って言い出したのはナサニエルなんだから」とコリン。
「裏切り者ォ!」と叫ぶナサニエルを余所に、「じゃあ、ウチらはオーウェンの隣ー」と言ってケイトとオードリーがオーウェンの腕に掴まる。シャルロッテは一瞬ムッとした顔を見せたが、気分が悪くなってしまったのかまた下を向いてしまった。「俺も付き合ってやってもイイぜ」とフレッドがナサニエルの腕を引っ張り、再び列に並ぶオーウェン達。
結局、その後オーウェンのワガママに付き合い、ナサニエル達は4回もローラーコースターに乗らされた。ケイトとオードリーは普段以上にオーウェンに密着して見せて、シャルロッテ達の反応も楽しんでいた。
ようやく欲が満たされたオーウェンが、シャルロッテ達の方へ歩いてくる。
「オーウェン様、楽しかったですか?」
「はい、とても!」
「そうでしょうね、ケイトさん達にもギュッてされて居ましたもんねッ!」
「…シャルロッテ様?」
「別にッ、一緒に乗れなかったのが悔しいって訳じゃありませんわ!でも、少しは私達の事も気にして頂きたかっただけですわ」
「これは失礼しました。お詫びといっては何ですが、アレに一緒に乗りませんか?動きもゆっくりのようですし」
そう言ってオーウェンが観覧車を指さす。「ぜひ!」と言うとシャルロッテ達はすっかり機嫌を直し、再びオーウェンの両隣をがっちりと固めた。
夕焼けの中、オーウェン達を乗せたゴンドラがゆっくりと上昇する。シャルロッテ達が周囲の景色を見渡しながらアレコレと話している中、オーウェンは1人空を眺めて物思いに耽っていた。
(思えば前世でもあんなに笑った事は無かった。転生してからも、陳宮や高順と合流する事ばかり考えていたからか…。俺は、少し焦り過ぎていたのかもしれないな。この楽しい時間がずっと続けばいいのに…ゼウス様が言っていた青春というのは、こういう気持ちになれる事かも知れないな)
遠くを見つめ、ぼーっとするオーウェンにイザベルが気遣う。
「オーウェン様ぁ!」
「なんでしょうか?」
「今日は楽しかったですかぁ?」
ふと周囲を見渡すと、皆が期待しているような目でオーウェンの事を見つめている。フフと笑ってオーウェンは答えた。
「ええ、とても!また、皆で来ましょう!」
夕陽をバックに、オーウェンがこれまで誰にも見せたことのない満面の笑みを見せると、ナサニエル達は夕陽のせいか顔を真っ赤にしていた。どさくさに紛れてオーウェンに抱きつこうとするオードリーと、必死になって阻止しようとするシャルロッテ達。夕暮れの遊園地でオーウェン達のゴンドラだけがやたらと揺れていた。
続くー




