謁見
王都に着いたオーウェン達はシャルロッテとイザベルに城門付近まで付き従った。シャルロッテ達を送り届けた後、そのまま近くの宿へ向かおうとするオーウェン達だったがシャルロッテとイザベルが懸命に引き留める。
「どうしてです、オーウェン様?せっかく王都までの護衛という任務を果たしたのです。お父様もきっとお会いしてくださいますわ!」
「今回はクロエ王妃殿下から護衛の任務を頂いただけです。国王陛下にお会いする理由はありません」
「そんなぁ、素っ気ないですぅ」
などと話をしていると、クロエと共に豪華な装いに身を包んだ男性が城内よりシャルロッテ達を出迎えた。『お母様、お父様〜!』と言いながら、シャルロッテとイザベルがクロエ達の下へと駆け寄る。
(彼が国王陛下か…見た目はまだ若々しいが、威厳のある顔つきをしている。立ち振る舞いも堂々としたものだな)
オーウェンがその姿に見入っていると、国王陛下がシャルロッテ達を抱き抱えながらオーウェン達の方へ目を向けた。
「鳳雛隊!敬礼!」
と、オーウェンが号令をかけるとナサニエル達が片膝を付き、胸に手を当てながら最敬礼の姿勢を取った。オーウェンも最敬礼の姿勢を取りながら言う。
「王女殿下達の護衛を無事、完遂致しました!これにて失礼致します」
クロエがオーウェン達の方へと歩み出てくる。
「待つのです、オーウェン」
「何でしょうか、クロエ様」
「国王陛下が貴方達とお話したいと申しています、そのまま謁見の間へお入りなさい」
「…了解致しました」
そう言うとオーウェン達は城の兵士達に囲まれながら謁見室へと移動した。
ーーーーーーー
謁見室へと移動したオーウェン達は兜を外し待機の姿勢を取る。兜の中から現れた美少年の顔立ちに兵士はもちろん、国王陛下も息を呑んだ。
「クロエからの任務、良く果たしてくれた。余が聖アールヴズ連合国王、ヴィルヘルム・アールヴズ・フォン・ヴァルドである」
国王陛下が玉座より名乗ると、オーウェン達は再び最敬礼の姿勢を取った。
「其方らが『鳳雛隊』か、クロエより話は聞いている。娘達も随分と世話になっているようだ、礼を言うぞ」
『有り難きお言葉』
「アウグストの息子というのは其方か。なるほど、噂以上の顔立ちだな。娘達が夢中になるのも仕方ないかもしれないな」とヴィルヘルムが言うと、シャルロッテとイザベルが「もう、お父様ったら!」だの「恥ずかしいですぅ」だのと騒いだ。
「名を何という?」
「オーウェン・モンタギューと申します、陛下」
「オーウェンか、顔に似合わず勇ましい名前だな。…オーウェンよ、余に何か言いたい事があるか?」
そういうと、ヴィルヘルムはオーウェンをジッと見つめた。
オーウェンはしばらく考えたのち、口を開く。
「いえ、ございません」
「娘達を救い、バリアントを倒し恩賞が貰えなくても…か?」
ヴィルヘルムの言葉にオーウェンの眉尻がピクッと動く。一息つくとオーウェンは話し始めた。
「信賞必罰という言葉がございますが、多くの者がその意味を間違えております」
「…功績者は必ず賞し、罪人は必ず罰せられるという事ではないのか?」
「その言い分は権力を持たない者の『身勝手なお願い』であります。その実は、『賞』も『罰』も陛下に委ねられた『手綱』です。締めるも緩めるも陛下次第であり、私や父がその功績に見合った恩賞を貰えなかったと憤ることなどもってのほかでございます」
「…なるほどな」
そう言うと、ヴィルヘルムはオーウェンの方へと歩み寄って来た。
「容姿に優れ、武勇もさることながら弁も立つか。流石はお前の息子だな、アウグスト」
その言葉にオーウェンが振り返るとアウグストが兵士の列から進み出て来た。
「父上!?何故ここに?」
「陛下から会談の影響で先延ばしになっていた叙勲式を行うと通達があってな。昨日、王都に着いたというわけだ」
アウグストの言葉を聞きオーウェンがヴィルヘルムに向き直ると、ヴィルヘルムは微笑みながら言う。
「余の手綱捌きはどうだ、オーウェン?」
その出し抜くことに成功したというような悪戯な笑顔に、オーウェンもフフと笑いながら言った。
「お見事でございます、陛下」
ーーーーーー
オーウェン達は部屋を移し、叙勲式に向けて礼服の仕立てなどの準備が始まった。王室御用達の仕立て屋がオーウェン達を取り囲む。ナサニエルは緊張しているせいか色々な部位を巻き尺で測られる度、変なポーズのまま固まっていた。
一方、オーウェンの周囲では逆の現象が起こっていた。オーウェンの美貌に気圧されたせいか、何処を測るにも「し、失礼します」と言い、胸囲を測る際にはどさくさに紛れて抱きつく者すら居た。
シャルロッテとイザベルが慌てて部屋へと入ってくる。
「オーウェン様はとてもお疲れなのです、採寸に時間をかけては負担になってしまいますわ」
「シャルロッテ様、イザベル様。お二人はもう採寸を終えたのですか?」
「わ、私達は既に仕立て終えているので問題ありませんわ」
「…もしかして、2人は叙勲式の事を知っておられたのでしょうか?」
オーウェンに詰め寄られてシャルロッテとイザベルが明らかに動揺する。
「えっ!?…あ、あの、わ、私は…」
「シャル姉様、マズいですぅ」
ジーッと見つめるオーウェンの真っ直ぐな視線にシャルロッテが「うぅッ、もう耐えられません」と言うと真相を話し始めた。
「だ、だって、お父様がオーウェン様に決して気付かれないようにしなさいって言うんですもの」
「どういうことでしょうか?」
「お父様が言うには、オーウェン様がお母様と共に王都を訪ねなかったのはアウグスト様を差し置いて身の潔白を主張しないためだって。かと言ってアウグスト様と共に王都へ迎わなかったのは、直接誤解が解けていないお父様の心労を増やしてしまうと考えての事だろうと仰っていましたわ」
「叙勲の事も事前に話してしまうと、あまりにも急な話なので今度はオーウェン様がお父様の事を警戒して断ってしまうだろうって言われたんですぅ」
(驚いた…まさか、そこまで読まれていたとは。流石は国王というところか。)
オーウェンは考えている事を表情に出さず「そうだったのですね」と返した。
すると、いつの間にか採寸を終えたナサニエルが話に入ってくる。
「いやぁ…緊張するなぁ。まさか俺達も一緒に叙勲させて貰えるとは思わなかったぜ」
「オーウェン様と共に、あの巨大熊から私達を命懸けで守ってくださったのです。当然のことですわ」
「そっか…しかし、ホントお前と居ると退屈しないぜ」
そう言って満面の笑みを見せるナサニエル。
オーウェンは少し心外そうに言った。
「…別に望んだ訳じゃないんだがな」
「じゃあそういう運命ってことかもな」
とナサニエルが言うと、シャルロッテとイザベルが「ほんと、そう思いますわ」などと盛り上がっていた。オーウェンはかつて“呂布”だった頃から転生後のこれまでの自分を振り返りフフと笑いながら言った。
「確かに…そうかも知れないな」
続くよー