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新学期!

新学期を迎え、無事に飛び級を果たしたナサニエル達が新しいクラスに入ってくる。


「うわぁ、すごーい!絨毯(じゅうたん)フカフカ!」

「机でけぇ!パイプ椅子じゃねぇ!」

「この椅子、皮で出来てない?座り心地マジヤバい」

などと言いながら、新しい教室を満喫するナサニエル達を見てシャルロッテとイザベルがフフフと微笑む。


「皆さんと同じクラスになる事が出来て、私とても嬉しいですわ」

「仲良くやっていきましょぅ」

と2人が言うと、ケイト達が走り寄ってきて2人の手を握って言った。

「うんうん、仲良くしよぉ♡」

「私の事はケイトって呼び捨てで良いから。オードリーは、オーディかな?」

「じゃあ、私達も愛称で呼んで欲しいですわ。私はシャルで、イザベルはベルでいいかしら?」

「家族以外に呼ばれるのって初めてで、なんだかドキドキするですぅ」

などと話していると、ベアトリスがサッと席を立って腕組みをしながら向かってくる。


「仲がいいのも結構ですけど、教室外ではそうやって呼び合わないことね。知らない人が見れば貴方達が不敬に見えるだけなんですから」

「あぁ、わかってるわよ。ビーちゃん」

「び、…ビーちゃん!?」

「あれ、ナサニエルがそうやって呼んでたし。私達だってそうやって呼んでもいいでしょ?ね、ビーちゃん!」とケイトが顔を覗き込みながら言う。

ベアトリスが「ま、まぁ、ケイト達が…そう呼びたいのなら…」と顔を真っ赤にしていると、オードリーが「可愛い!ハグしたい!」と言いながらベアトリスに抱きついたりしていた。


その時、ドアの開く音と共に特別教室の()()となったオーウェンが入ってきた。

「始業時間だ。皆、席に着いてくれ」

『はーい』といいながら、皆ゾロゾロと自分の席へ着席する。「ハグし足りない!」と騒いでいたオードリーもケイトにひっぺがされて渋々席に着いた。


「出席を取る…と言っても、この人数だし全員顔を知っているから不要に思うがな」

「えぇー、せっかくの新学期だし、そこはしっかりやろうよ。ね、セ・ン・セ・イ?」

とケイトが言うと、「そうだ、そうだ」などと野次が飛んだ。


オーウェンはふぅと一息つくと、出席番号順に点呼を取り始めた。

「1番、シャルロッテ様」

「はい!もう、オーウェン様ったらシャルと呼んでと言いましたのにぃ…」


「2番、イザベル様」

「ハイですぅ。えっとぉ、イザベルもベルって呼んで欲しいなぁって思うんですぅ」


「3番、ビーちゃん」

「ちょっと!なんでワタクシは愛称なのよ!?ベアトリスよ、ベ・ア・ト・リ・スッ!!」

「…」

「なんで貴方が面倒くさそうな顔してるのよ!」と騒ぐベアトリスを無視してオーウェンは点呼を続ける。


「4番、ケイト」

「はーい、宜しくお願いしまーす。オーウェンセ・ン・セ・イ?」


「5番、オードリー」

「はいはーい。相変わらずいい声してんねー。ハグしちゃうぞ?」

その後も呼ばれる度に色んな返しが来るが、オーウェンは全く動じもせず順番に名前を読み上げていく。


「12番、ナサニエル」

「はーい、ってか出席番号って名前の順じゃねぇんだな」

「あぁ、学年末試験の成績順に並んでいる」

「…」

ナサニエルの急に沈んだ顔を見てケイトが「ブッ」と噴き出した。


「まぁ成績順と言っても、トップとの差は5点程度だ。気にする必要は無い」

とオーウェンがフォローする。

「なーんだ、そんなもんか」と言うオードリーの横で、恋する乙女のように目を潤ませながらこちらを見つめるナサニエルがいたが、オーウェンは気付かなかったかのように話を始めた。


「最初だから、一応挨拶しておく。このクラスの担任は俺が請け負うことになった。宜しくな」

皆は『はーい』といいながら、まばらな拍手が響かせる。いつのまにか元に戻っていたナサニエルが挙手した。


「なんだ、ナサニエル?」

「ティーチングアシスタントだったオーウェンが急に担任になれるモンのか?」

「確かに俺は実技科目だけという限定的な契約だったんだが、先の学年末試験で皆の成績があまりにも優秀だったため特別教室の担当教師が自信を無くして担当変更願いを出したらしい。後任も見つからないため責任を取る形で、俺が()()()()()()()()引き受ける事となった」

オーウェンがサラッと説明すると、皆が口々に話し始めた。


「まぁ、普通に考えりゃプレッシャーだよな」

「補講だけで王女殿下達の進度と同じレベルまで引き上げたのよ。そんな人をアシスタントにして、授業なんかしたくないでしょうね」

「っていうか、アイツ今しれっと『教員免許取った』って言ったな」

などと、皆が駄弁(だべ)っていると「静かに。今後の方針について話すぞ」とオーウェンがまた話し始めた。


「これから、中等学院の3年間を俺達は共に過ごす」

「ってことは、飛び級を目指さないの?」と、ベアトリスが聞くとオーウェンは静かに(うなず)いて話を続けた。


「初等学院は座学が中心だったから知識を詰め込めばどうにかなった。しかし中等学院の課程には、実戦訓練や中級魔法以上の習得など知識だけでは太刀打ち出来ない課題も多く存在する。上手くやれば飛び級も考慮できるだろうが…魔力の量や身体能力というものは個体差が有るからな、正直言って難しいだろう」

「まぁウチら、シャルちゃんやベルちゃんと同じクラスになりたいって頑張ってただけだし、ぶっちゃけ飛び級はもういいんだけどね」とケイトが言うと、シャルロッテとイザベルはニコッと笑い返してみせた。


「特にシャルロッテ様、イザベル様そしてベアトリスはナサニエル達と違って実戦訓練を受けていない。それに初等学院に入学しての1年間、座学ばかりでナサニエル達も身体を動かす機会がだいぶ減っていたと思う」

「お前にしごかれた1年に比べたら、よっぽどな」

「そこで、俺がお前達のために新しい時間割を策定(さくてい)した」

「…まさか、また1年間サバイバルとか言いだすんじゃ無いだろうな」

「考えなかった訳でもないが、あれは特殊な訓練法だ。騎士を目指すお前達ならともかく、王女殿下達やベアトリスには不要だしな。とは言え、3人にもある程度の護身術は覚えて貰う必要がある。そこで…」

と言うと、オーウェンが黒板に広げた地図を指差しながら言った。


「王女殿下達の公務の護衛訓練を兼ねた遠征を行う」

『…は?』

皆がボーッと見つめる中、オーウェンは気にする素振りも見せず説明を続けた。


「これまで公務の際には王都より直々に信頼の厚い近衛兵達が派遣されていたが、昨今(さっこん)の財政費見直しで、遠征費が削減され頻回の派兵が困難となったそうだ。王女殿下達の公務の数を減らす案も検討されたが、これまでの公務の維持を望まれた王妃殿下ならびに王女殿下達より、国王陛下に『騎士団員による護衛』を請願され、これが受理された。奇しくも、このクラスには要人護衛に必要な最低人数の()()騎士団員がいる。護衛任務という実戦を経験しながら、実地で座学も出来るというこの機会を逃す手は無いと考えてな」


一見筋が通ったように見えるも何か違うといった雰囲気の中、シャルロッテとイザベルに「皆さん、宜しく頼みますね」と笑顔でお願いされた一同は『はい』と流されて返事をしてしまった。


「決まりだな、それじゃあ早速明日…」と言いかけたオーウェンに、いち早く正気に戻ったナサニエルが「ちょ、ちょっと待て」と待ったをかけた。


「王女殿下達の護衛は100歩譲ってまだわかる、だがビー…ベアトリスは実戦も出来ねぇし公務に同伴する明確な理由もねぇんじゃねぇのか?」

ナサニエルが言うと、ベアトリスは何処か仲間外れにされたような不安気で寂しい顔をした。


オーウェンはベアトリスの方を見ながら一息付くと話し始める。

「…ベアトリスについては、王女殿下達の『相談役』として俺から王妃殿下に推薦させてもらった」

「わ、ワタクシが…『相談役』?」

「あぁ、短い付き合いだが俺はベアトリスを評価している。生まれはもちろん、その勤勉さや博識さは皆の知ってる通りだ。加えて常識に沿った行動と、的確な助言を与えられる人間は貴重だからな。きっとシャルロッテ様とイザベル様の助けになるだろうと進言した。元々リッチモンド家は宰相を輩出した事もある家柄だ、何かと政務の助言を頂ける機会もあるだろうからな」

「…」

「不服か?ベアトリス」

「いえ…でも、貴方がここまでワタクシを評価しているとは思わなかったから…」

「こうして特別教室に無事に進学出来たのは皆の頑張りがあったからだが、補講の進度を遅らせずに済んだのは、ベアトリスの助力があったからだ。これからも皆をサポートして欲しいと思う、無論、()()()()()()()()()()()()()がな」

「…」

「そう言う訳で、ベアトリスも王女殿下達の公務補佐として同行する」


オーウェンはベアトリスの返事を待たずに皆に向き直って言った。

「鳳雛隊隊長として命令する!シャルロッテ様、イザベル様、ベアトリス()を、その身命を賭して護り抜け」

『はいッ!』と一同の息のあった返事が教室に響き渡った。

続くよー

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