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戻ってきた日常

クロエから真実を聞かされた翌日、オーウェンの姿はベルンハルト達が宿泊する宿にあった。


「オーウェン!来てくれたのか!」

「あぁ、この街を離れると聞いてな」

「まぁ、迷宮(ダンジョン)が無くなっちまったしな。あ、恨んでなんかいねぇぞ。たんまり稼がせてもらったんだし、むしろ感謝してるくらいさ」

「それは、良かった」

「今まで冒険者稼業をしてきて、あんなにエキサイトした事は無かったぜ。まぁ、もう一度したいとは思わないがな、ハハハ」

「命あっての物種(ものだね)だからな、当然の事だ」

「…オーウェン、お前には凄く感謝している」

「…」

「お前が居なければ、俺は今日もあの迷宮(ダンジョン)の前でくだを巻いてたんだと思う…鍛治師になる夢を叶えたいって思いながら、どっか他人事のように考えてたんだ。『いつか、そうなるといいな』って具合にさ」

「…」

「だが迷宮(ダンジョン)でのお前の姿を見て感じたんだ。あれこれ考えず直感に従えば、こんなにも迷いなく困難に立ち向かっていけるんだってな」

「…俺はそんなに無鉄砲に動いたつもりは無いんだが」

「なんだ、自覚無かったのか?ハハハ…まぁいいや。とにかく俺は、今日限りで冒険者を辞めて鍛治師になる。聖アールヴズ連合国からは離れる事になるが、何かあったら遠慮せずに俺を頼ってくれ」

「あぁ、お前は優秀だからな。頼りにしている」

オーウェンがそう言うと、ベルンハルトは嬉しそうに頭をかいて笑った。


「それじゃ、俺たちは行くぜ。達者でな、オーウェン」

「あぁ、道中の無事を祈念する」

「…おぅ、ありがとな」

ベルンハルトは少し名残惜しそうにしながらも、街の門の方へと向かっていく。オーウェンはその姿を見送るとサッと(きびす)を返し、寮へと戻った。


ーーーーーー

オーウェンが戻ると、寮ではクロエとアウグストが帰宅の途につこうとしていた。アウグストがオーウェンに気付き近寄ってくる。


「見送りは済んだか?」

「はい」

「そうか、よかったな。私もそろそろ帰る、色々ほっぽり出してきたからな」

「手数をかけてすみませんでした」

「いいんだよ、お前は私の息子なのだから」

そう言うとアウグストは馬車へと乗り込む。母エレノアはアウグストに急かされるまで、オーウェンに何度もハグしていた。アウグスト達の馬車を見送っていると、クロエが近寄ってきた。


「帰ったのですね」

「はい」

「…オーウェン、本当に良いのですか?昨日話したように、私と共にくれば国王陛下の誤解も解けると思いますが」

「私は国王陛下の誤解を解くために迷宮(ダンジョン)へ行った訳では無いので。それに長く学院を休んでしまったので、王女殿下達にその埋め合わせをしなければいけません」

「フフ、あの()達ったら。週に一度のデートを要求するなんて、よほど貴方に夢中のようですね」

「からかわないで下さい。きっと私がフラリとまた何処かへ行かないように釘をさしたのです」

「フフフ。…今後も宜しくお願いしますね、オーウェン」

「はい、クロエ王妃殿下」


暫く言葉を交わしていると、シャルロッテとイザベルがクロエの見送りにやってきた。クロエを乗せた馬車が寮から見えなくなるまで2人は手を振り続けていた。見送りを終えたシャルロッテがクルッとオーウェンの方へ向き直って言う。


「さてと…オーウェン様は、これから何かご予定でもあるのかしら?」

「いえ、特にコレと言ってありませんが…」

すると、イザベルがモジモジしながら上目遣いで言う。


「…じゃあ、私達と街に出かけてほしいですぅ」

「良いですよ。何か、買いたいものでもあるのですか?」

「それは…これから探すというかぁ…」

「?」


するとシャルロッテが顔を赤らめながら言う。

「だから…デートにお誘いしてるのですよ…もぅ、オーウェン様ったら、鈍感なのですから」

「あぁ、そうだったのですか。すみません、何せデートが初めてなので」

「わ、私達も初めてですわ。オーウェン様と…初デート♡…フフフ」

シャルロッテとイザベルが手を取りながらニコニコと笑っている(そば)で、オーウェンは「デートというのは男女が2人で行動することだと思っていたが…3人でもいいという事は、きっと冒険者でいうところのパーティの様なものだろう」などと盛大に勘違いしていた。


ーーーーーー

シャルロッテとイザベルに手を引かれながら、街の中を散策するオーウェン。

「わぁ、こんなに甘いお菓子は初めてですわ!街の人達はいつも、こんな素敵なモノが食べられるのかしら、羨ましいですわ」とシャルロッテは手に持っていたクレープにかぶりつく。

「でもぉ…あんまり食べ過ぎると太っちゃいそうですぅ」とイザベルが返すと、シャルロッテはビクッと口に運ぶ手を震わせた。


「…オーウェン様、これ差し上げますわ」

「シャルロッテ様、急にお腹をさすってどうしたのですか?お腹でも痛いのですか?」

「ち、違いますわッ!急にお腹がいっぱいになっただけですから!最近…体型が気になるとか、決してそんなことじゃ無いんですわ!」

シャルロッテが恥ずかしそうにしながら、クレープをオーウェンの口元に持ってくる。

「そうですか…それでは頂戴します」

そう言うと、オーウェンは無意識にシャルロッテの歯形の付いた部分を頬張(ほおば)った。


「…あ、間接キスですぅ」とイザベルが言うと、シャルロッテが顔を真っ赤にして「きゅぅ」と言って倒れ込む。慌ててシャルロッテを抱きかかえて両手が塞がったオーウェンの口に、今度はイザベルが「私のもあげますぅ」と食べていたアイスクリームを突っ込む。


ひはへう(イザベル)ひゃは(さま)ふぅひ(苦し)」というオーウェンを見ながら、うっとりした表情を浮かべるイザベル。

「私のも、こんなに頬張(ほおば)ってくれるなんて♡…あ」

と言いながら、イザベルが倒れ込む。


(いや、今のはイザベル様が無理やりツッコんだんだが…)

などと思いつつも、オーウェンは2人を抱きかかえながら口の中の食べ物をさっさと飲み込んでしまおうと膨らんだ頬をモグモグとさせる。そのハムスターの様な愛くるしさに、街を歩く人達がどんどん集まってきた。


「なになに?大道芸?」

「どうやら、両手が塞がった状態でなんでも食べて見せるみたいだな」

「なにそれ?でもまぁ、どーでもいいわ。まるで精霊の加護を受けたかのように美しい少年ね!ぼくー、オネェさんのも食べてみてー?」

などと言いながら、皆が食べ物を持ってオーウェンを追いかけてくる。


(…両手を塞がれ、食べ物で口も塞がれながら走るという経験はなかなか出来ないな…ある意味これも訓練になるか)

などと、冷静に考えながら街中を爆走するオーウェン。そのあとを追っかける人々の姿を見て、なんだなんだと店から人々が出てくる。


「なんだ?食い逃げか?」

「ちげぇよ、あの美少年に飯を喰わせたら何かいい事があるみたいだぜ!」

「なんだそれ!?よくわかんねぇが…()っちゃん、こっちの焼き鳥も食ってくれー!」

と人が増え続け、気がつくとオーウェンはエルフの群衆に追いまわされていた。


(…デートとはこんな慌ただしいものなのか?)

などと思いながらひたすらに逃げるオーウェン。結局上手く()いて寮に帰る頃には夕方になっていた。いつの間にか目を覚ましていたシャルロッテとイザベルがニコニコしながら言う。


「とても楽しかったですわ、オーウェン様。私達2人を(かか)えながら、あんなに早く走れるなんて♡本当にオーウェン様は凄いですわね」

「また、一緒に行きたいですぅ」


果たしてこれは本当にデートというものだろうかと疑問を感じていたオーウェンだったが、シャルロッテ達の屈託のない笑顔を見て「…まぁ、満足してもらえたならそれでいいか」と思うことにした。

ーーーーーー


シャルロッテ達が自室へと戻り、オーウェンも自室に戻ろうとしていると「おーい!」とナサニエルが手を振りながらやってきた。


「聞いたぜ、オーウェン!学年末試験に向けて休み返上でオレが必死に勉強してる間に、姫さま2人抱きかかえてデートしてたって言うじゃねぇか?羨ましいぜッ、このヤロウ!」

そう言うと、ナサニエルはオーウェンの胸をポカポカと叩く真似をした。


「ナサニエル知っているか?デートってのは、かなり体力がいるんだ」

「なんだそれ…。まったく、デートで何したらそんなに汗だくになるんだよ?…ハッ!?ま、まさかお前、初デートで早くも、お、お、大人の階段登ったんじゃねぇだろうな!?」


(群衆から逃げようと色々な所を走り回った時、町中にある階段も登った。なかには、そう言う名のついた階段もあったかも知れんな…)

と勘違いしたオーウェンは表情一つ変えず言った。


「あぁ、たぶん登ったぞ」

「たぶん、て何だよ!?」

「いっぱい登ったから、はっきりしないんだ」

「い、いっぱいって…もう、知らねぇ!」

「どうしたんだ、急に怒って。一緒に行けなかったから怒っているのか?」


色々と勝手に妄想したナサニエルが赤くなって顔を伏せる。

「そ、そんなんじゃねぇし」

「じゃぁ、今度行くか?」

「…え?」

ナサニエルがふと顔をあげると、予想以上に近い所にオーウェンの顔があった。

「デート、行くか?」

フフっと笑いながら、あやすようにナサニエルの頭をポンポンとするオーウェン。ナサニエルの顔が夕日よりも真っ赤になる。


「…お、お、オレは()()男を捨てる覚悟は出来ねぇーッ!」と叫ぶとナサニエルは夕陽傾く寮へと全力疾走していった。その後、廊下で談笑する王女殿下達からデートの詳細を聞いたナサニエルが(しばら)くオーウェンの顔をまともに見られなかったのは言うまでもない。

続くよー

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