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クロエの焦り

時は少し(さかのぼ)りオーウェン達が迷宮(ダンジョン)に潜って1時間程経過した頃、クロエの下には初等学院の寮長からオーウェンが行方知れずになったとの一報が届いていた。入学から半年間、オーウェンが特に変わった行動を起こさなかったことから安心しきっていた事をクロエは悔やんでいた。


(彼のような聡明な者に十分な説明もせず、安易に金を与えて大人しくさせようとしたのがそもそもの間違いだったのかも知れませんね…)

鳩尾(みぞおち)辺りが痛くなるのを(こら)えて、クロエは配下に命令を下す。

「オーウェンの数日前からの行動を把握しなさい。初等学院以外の目撃者からも詳しく聴取するのです」


それから数時間後、クロエの下には様々な情報が寄せられていた。オーウェンが寮内の資料室で巨大熊の記事を読み漁っていた事、シャルロッテ達にクロエの近況を確認していた事、失踪前日に食糧と夜営に必要な種々の道具、またそれらを詰めるための大きなバックパックを街で買っていた事などを聞き、クロエはあらゆることを想定した。


(アウグストの下に帰ったり、国を出る事が目的であればいずれかの関所に引っかかるはず。しかし、関所からの報告は無くオーウェンの馬も学院の馬小屋に繋がれたまま。その後は学院内でも街の方でも目撃者が居ない事から、森に入っている可能性が高い。しかし人目を避けて寮を出ていることから、単なる鍛錬では無いはず…)

クロエは寮付近の地図を配下に持って来させ、オーウェンが辿(たど)ったであろう経路を推察する。


(早朝とはいえ、目撃者が1人も居ないのは変ね。人目につかないとすれば恐らく屋根伝いに移動し、近くの森にそのまま降り立ったのかしら、そうなると…)

クロエの指が地図をなぞり、ある一点でビクッと震えて止まった。

(そういうことですか、オーウェン…)

クロエの指は学園に最も近い迷宮を指していた。クロエは配下を呼び寄せて言った。


「急ぎ通信兵に北東の森の木霊と交信し、エルフの少年が迷宮(ダンジョン)の周辺に出没しなかったか確認しなさい。憲兵隊はダンジョン周辺を封鎖し、何人(なんぴと)たりとも迷宮に近づけないようにしなさい」

クロエの指示を受けて城の伝令兵から通信兵へ指令が伝えられる。それから10分も経たずに通信兵から、数時間前に鎧を(まと)ったエルフの少年兵が迷宮付近で冒険者と接触していた事が伝えられた。


(やはりそうですか…)

落ち込みつつもクロエは次の指示を出す。

「馬車の用意を。私は学院へ向かいます。憲兵隊には迷宮周辺の冒険者達への聴取と詰所への任意同行を指示してください」

そういうと、クロエは初等学院へと向かうため執務室を後にした。


ーーーーーー

オーウェンとベルンハルトが迷宮(ダンジョン)に潜って7時間程経過した頃、冒険者達は入り口付近でまだたむろしていた。


「…誰もこねぇな、薬草とか集めながら帰るか?」

「ハァ、肉食って酒飲みてぇ」

「朝に罠仕掛けたろ、ウサギとか掛かってるかも知れねぇぜ。見に行こう」

などと駄弁っているとガチャガチャと鎧の音が聞こえ、茂みから兵士らしき姿が見えた。

「仕事だ、仕事だ」などと言いながら、冒険者達は兵士を囲むように集まった。


「随分立派な鎧ですね、騎士様は何かお困りでしょうか?」

「あぁ、オーウェンという少年を探している。お前達と接触したことも精霊より聞き及んでいる」

兵士の威圧を伴った異様な雰囲気に冒険者達は目配せをした。

「…んー、あー、何のことかわかりませんね?なぁ知っているか、お前ら?」

「…知らねぇな」

「今日は朝から誰も来ていなくてね、ホント困ってたとこなんすよ」

などとシラを切っていると、兵士の後ろの茂みからゾロゾロと他の兵士達が現れた。


「我々は憲兵隊だ」

「…ぇえっと…団体様でしたら護衛の必要は無さそうっすね…ほんじゃ、あっしらはこの辺で…」

そう言って離れようとした冒険者の肩を騎士がグッと掴む。

「まぁ、待て。悪いようにはしない。詰所でお前達の知ってる話を聞かせてくれないか」

憲兵がいうと、冒険者達はまた口を揃えて言った。

「だーかーら、知らないって言ってるでしょ」

「俺ら入り口付近に居ただけだし、()()()()()()なんて見てないっすよ」


すると憲兵がふっと笑いながらいう。

「俺はオーウェンという少年がエルフだなんて一言も言っていないんだがな」

「…」

しばらく、沈黙したのちに冒険者の一人が口を開いた。

「…売れねぇ」

「ん、なんだ?」と聞く憲兵に向き直り、冒険者達が口々に騒ぐ。

「そのガキはともかく、仲間の情報は売れねぇって言ってんだ!」

「そのガキが何したか知らねぇが、俺たちの仲間がソイツと一緒に潜ってんだ」

「俺たちは冒険者ですぜ、旦那。雇い主について詮索とかしねぇんだ」


憲兵はまぁ落ち着けと手で彼らに鎮まるよう指示した。

「お前達は何か勘違いしていないか?」

「へ?」

「オーウェンは犯罪者じゃない。王妃殿下のご友人という事だ。安全を確保するために俺達が来ただけで、お前達の仲間を捕らえるつもりもない」

「…ほんとにぃ?」

「あぁ、だから詰所で色々と話を聞きたいんだ。()()()()()()()()()()()()()を頂きながらな」


憲兵がそう言うと、少しの間を置いて急に冒険者達は背筋を伸ばして敬礼した。

「オーウェンというエルフの少年についてあっしが責任を持って語らせて頂きますッ!」

「あ、抜け駆け汚ねぇぞ、お前。さっき仲間は売れねぇだのカッコつけてた癖に」

「うるせぇ、お肉とビールが待ってんだ!なり振り構ってられるか!」

「俺は一緒に潜ったベルンハルトについて話します、あの野郎1人でいっぱい儲けやがって…」

などと騒がしくなる冒険者達。


苦笑が漏れる中、彼らを連れて数人の憲兵が詰所の方へと帰って行く。他の憲兵達は迷宮(ダンジョン)の入り口を囲むように夜営の準備を始めた。


次からの話を読みやすくするために、今日は2つ投稿しておきますー

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