可愛い子には旅をさせろ
当初、1か月ほどかかると思われていた注文リストの品々は僅か一週間で完璧に仕上げられた。目の下にクマを作りながら荷造りするティンカーの様子を見て「もう少し、ゆっくりでも良かったんだが」とガンダルフが申し訳なさそうな顔をした。
「ボクが急ぎたかっただけだから。父ちゃんが気に病む必要は無いよ。それより、注文していた金属は全て整えてくれた?」
「あぁ、特殊なやつばっかだったが。1週間もありゃあ、ガンダルフ商会に揃えられん物はねぇぞ」
「ありがと」
「…ティンカー。あれだけ働いたんだ、せめてあと1日はゆっくり休んだらどうだ?」
「大丈夫だよ、馬車の中でも寝られるし。秋も深まってきてるし、雪が降り始めたら馬車を動かすのも一苦労だから。さっさと行ってさっさと帰ってくるよ」
そう言うとティンカーはリュックを背負ってふらつきながら馬車へと乗り込んだ。
ーーーーーーー
旅の途中でいくつかの村に寄りながら、ティンカー達は北西にある目的地へと向かう。旅程の半ばを過ぎた頃には紅葉した葉がすっかり落ち、裸になった木々が目立つようになっていた。当初は急ぐ気持ちが強かったティンカーだが、付いてきてくれた鍛治師のヴィトルが風邪を拗らせたのを機に、休憩をこまめに取れるよう日程を変更した。そのため当初の予定より1週間ほど時間が多くかかってしまったが、ティンカーとヴィトルは無事に目的地の「キロン」に辿り着く事が出来た。
集落に着くと、ガンダルフの友人のレギンが出迎える。
「良くきてくれた、まずは俺の家に来てくれ。他ならぬガンダルフの息子だ、遠慮はいらねぇからな!」
「ティンカーです、宜しくお願いします」
「良い名前だな、物作りにピッタリだ。それで、ティンカー。蹄鉄の作り方は知っているか?」
「知識だけなら詰めてきました、実際に打ったことはありません」
「そうか。まぁ、俺は不安は感じていないがな。なんたって聖杯だって創ってみせたってガンダルフから聞いているからな、ワハハ」
そう言うと、レギンは湯気のたったミルクをカップに注いでティンカーへ渡した。
ティンカーはミルクを飲みながらレギンへ話しかける。
「いつから始めますか?」
「例の客は昨日交換に来てな、来るのはまた来週だろう。今日は疲れているだろうからゆっくり休んでくれ。明日からみっちり仕込むから覚悟しろよ、ワハハ。あ、ちなみにこれが普段ソイツに取り付けている蹄鉄だ」
そう言うと、レギンはティンカーに一つ蹄鉄を手渡した。ずっしりと重みがあり、サイズはティンカー達の馬車を引く馬達に比べて1.5倍程大きい。
「馬齢5歳の馬に使うものより大きいですね、大人の方ですか?」
「ティンカーはケンタウロスを見た事がなかったか。馬は5歳くらいで一人前の身体付きになるが、ケンタウロスは違うんだ。15歳くらいまでは成長し続ける。成人したケンタウロスは大体が体高2mを超える巨体になるんだぜ。ソイツは実際は6歳なんだが、身体も規格外でな。既に10歳くらいの体格で何より脚力が大人顔負けなんだ」
〜〜〜ケンタウロス族は他種族との接触が少ないため、その生態に関して記述された文献は僅かしかない。その下半身が馬に酷似していることから、年齢や寿命も馬に近いと勘違いされているが実際は違う。25歳が平均寿命となる馬に比べケンタウロスの寿命は300年ほどである。だが、巨体のせいで柔らかい地面では蹄が沈み怪我をしやすくなるため「キロン」のような堅い岩の多い地域でしか住めず、また以前は食糧難などからたびたび部族間で争いが起こり数が減ったためエルフのように国を作るほど繁栄していない。〜〜〜
(…ということは、大人のケンタウロスはこれ以上のモノを付けているのか)
真剣な顔で蹄鉄を眺めるティンカーの顔を見て、レギンは少し微笑んで見せる。
「ガンダルフからも聞いていたが、仕事熱心な性格だな。まぁ、本格的に教えるのは明日からだ」
そう言うと、レギンはティンカーの荷物を部屋に運んでくれた。
ーーーーー翌日…
鍋の蓋とお玉を持ってレギンがティンカー達の部屋に入ると既にティンカー達は着替えを済ませていた。
「おぉ、なんだ。せっかく起こしに来てやったが、既に起きてたか」
「おはよう御座います、レギンさん」
「…あぁ、飯出来てるからな」
「はい」
朝食を取り終えたティンカー達は早速レギンの指導のもと、蹄鉄の打ち方や調整の仕方を習う。学習の早いティンカーは5日程でレギンから独り立ちを宣言され、直接客を相手にするようになった。
夕食を取りながらレギンが感心したように言った。
「天才とは聞いていたが、とんでもない腕だな。そりゃあ、あのガンダルフも鼻が高いってもんだ。俺もガキが欲しくなってきたわ」
「レギンさんは結婚してないんですか?」
「あぁ、ここだけの話だけどな」
そう言うと、レギンは椅子をティンカー達の方へ近づけて小声で言った。
「俺は好きな女を追っ掛けてこの村に来たんだ。なんてったって、ケンタウロスの女に不細工はいねぇんだ。あとスタイルも凄くいい。胸だってデカい。あれをみたらドワーフの女共なんざ幼児みてぇだ。そんなわけで好きな女に合う蹄鉄を作り続けるために、俺はこの村に居続けているのよ!」
実利主義と合理主義の塊であるドワーフ族が何故こんな所にいるのか合点がいき、ティンカーは「なるほど」と大きく首を縦に振った。
レギンはその様子に満足したようで上機嫌になってあれこれと話し始め、ヴィトルはスタイルの件でやや食い気味に話を聞いていた。ティンカーは「そもそも、ケンタウロス族とドワーフとの間に子供が出来るのか」という事が気になったが、嬉しそうに話すレギンの様子を見て野暮な事は言うまいとそれ以上は話さなかった。
ーーーーー翌週…
ティンカーがいつものように部屋で道具の手入れを始めていると、レギンが入ってきた。
「ティンカー、来たぞ。例の客だ」
ティンカーが作業場に顔を出すと体高は1.8mくらいの子供のケンタウロスがいた。雰囲気は何処となく彼に似ている気もするが確証が得られない。
「キミ、名前は?」
「…ゴーシュ」
「ボクはティンカーだ。宜しくね、ゴーシュ」
「…うん」
「レギンさん、蹄鉄を打つ前にゴーシュの走りを見てみたい。少し出かけてくるよ」
そう言うと、ティンカーはゴーシュを連れて村の外れの方へと誘った。
歩きながらティンカーはどうやって確かめようか考える、そして何かを思いついたように顔を上げた。
「ゴーシュ、歩くの疲れちゃった。背中に乗せてくんない?」
「…ダメなんだ」
「どうして?」
「…信頼できるヒト達だけって決めてる」
「ふーん…」
ティンカーは確信した。彼が調べた数少ない文献には、ケンタウロス族は誇り高い種族であり誰かを背中に乗せる事は、まずあり得ない。万が一、乗せるとしてもそれは生涯でたった一人にしか許さないため、複数人乗せる前提で話す事などないのである。
「それって、ひょっとして呂布殿のこと?」とティンカーが聞くとゴーシュはビクッと身体を震わせティンカーを見つめた。
「やっと見つけたよ、高順。いや、ゴーシュ」
「…まさか、陳宮殿?」
「今はティンカーさ。生まれてからこの6年、ずっと探してきたんだ」
そう言うと、ゴーシュはボロボロと涙を流しながらヘタリと座り込んだ。
ティンカーもどこか身体の力が抜けたのを感じつつゴーシュの側に一緒に座り、これまでの経緯をゴーシュに話す。
「…ゼウス様が、僕の身を案じて?」
「あぁ、だからボクが神託通りにゴーシュを助けに来たのさ」
ティンカーがそう言うと、ゴーシュは自分の蹄を触りながらこれまでの生活について話し始めた。
ティンカーとゴーシュがやっと出会いました。オーウェンにもさっさと加わってもらいたいもんですねー、そこはティンカーさんとゴーシュさんに頑張って頂きましょう!




