神術
ガンダルフの部屋を後にし、作業場へと戻ったティンカーはこれまで以上に仕事に精を出していた。
(…さっさと済ませて北西へ向かわないと)
〜〜〜ティンカーは共に転生した2人の事を片時も忘れた事はない。2人の手がかりを得るため生まれて1年で様々な種族の言葉を覚え、様々な地方を往来する商人達の情報網を利用するべく父親の商売も真似して始めてみた。しかし、有力な情報はほとんど得られないまま5年という時間だけが過ぎた。このまま打つ手がないかと思いはじめていた頃、ある日ガンダルフからどうしても付き添うように言われて人族の最高司祭に会った。その司祭はこれまで一度も会ったことがないティンカーに対して、神事に使用する聖杯の作製を依頼してきた。
「司祭様、失礼ながらボクは聖杯というものを作った事がありません。経験のある方へ依頼された方が宜しいかと存じますが…」
ティンカーがそう言うと、司祭はニコッと微笑んで言った。
「貴方に造ってもらうと決めたのは神であり私では有りません。私は神託のままに依頼をした、それだけなんですよ」
「…司祭様は神様とお話しが出来るのですか?」
「いえ、会話では有りません。神術を用いた託宣の儀式で、神に質問をするとしばらくして独り言の様なものが聞こえます。例えば今回の場合、聖杯は誰に造らせますかと問うと『豪商の嫡子、巧みなる者』という声が聞こえました。それをヒントにして貴方を探し出したのです」
「それだけですか?人違いをしてしまう可能性もあるのでは…」
「いえ、貴方で間違いありませんよ。何故なら私が病に伏していないからです」
「…間違えば病になるのですか?」
「そうですね、病で知らせてくると言う方が正しいと思います」
少し逡巡した後、ティンカーは意を決して言った。
「…司祭様、ボクに神術を教えていただけませんか?」
「ティンカー、何を言っているんだ?」と声を荒げるガンダルフにティンカーは冷静に返答する。
「聖杯をどのように仕上げれば良いか、神様に直接問う必要があります」
司祭は困ったような顔をしながら言った。
「いけません。神術は神と繋がりの深い者にのみ扱える力です。繋がりが薄ければ神術の反動が強くなり、命を落としてしまうかもしれません」
「…それなら、たぶん大丈夫でしょう」
「何を根拠に…?」司祭とガンダルフは訝し気な顔をして聞く。
「神様がボクを選んだからです、ボクが死ねば神託は実現不可能になります。神託を自分でダメにして司祭様を病に伏せさせる神様はいないでしょう」
「…しかし」
「神様が既存の聖杯の作り手を選ばなかったのは、今ある物とは違う物を欲しているという事でしょう。既存の物を参考にできず、聖杯自体造った事が無いボクに神様の助力なしでの作製は土台無理な話です。出来なければ、この話自体をお断りさせて頂きます」
ティンカーの頑として譲らないという態度に司祭は溜息をついた。
「ふぅ…わかりました。ですが修行は厳しいものになりますよ、私も一蓮托生の身ですから」
「宜しくお願いします」
その様子を側で見ていたガンダルフがゆっくりと口を開いた。
「…父ちゃんは商売人だから、他人のまとめた商談に首を突っ込みはしない。例え、心配で腹が裂けるような想いでもだ。ティンカー、お前も立派な商売人なら自分の言葉はきっちり守れ。聖杯を造って必ず無事に帰ってこい」
「わかったよ、父ちゃん」
そう言うとティンカーはガンダルフと拳を合わせた。
ーーーーーーー
それからティンカーは司祭の下で神術習得のための修行を行った。司祭が数年の修行をかけて得た「予兆」という神からの掲示を半年程で習得し、司祭からの赦しを得ていよいよ神託の儀式を行う時が来た。
「ティンカー、この短い期間で良くここまで頑張りましたね。今の貴方なら神託を無事に得られると思いますが、念のため私が側で補佐をしましょう」
「有り難うございます、司祭様」
清めた服に着替えたティンカーは御神体の前で膝をつき、司祭はその後ろに控えるようにして膝をついた。修道士達が円状に並び、神聖魔法を唱えながら2人を見守る。厳かな雰囲気の中、2人が祈りの言葉を唱え始めるとティンカーの身体を徐々に光が包みこんでいく。
「おぉ!これこそ神術の光!ティンカーの敬愛が神に届いたのです!」と仰々しく司祭が天を指差すと修道士達が「慈悲を目の当たりにした」だの「なんと純粋な愛の光だろう!」などと騒ぎ始めた。
一方ティンカーは集中を乱さず、ひたすら神へ呼びかける。意識は彼方にあり、周囲の騒乱は最早聞こえていなかった。するとラジオが電波を受信するようにノイズの中から徐々に声が聞こえ始めた。
「…あ…あー、あー、陳宮、聞こえとるかの?あ、今はティンカーだったか。ティンカー、おーい、ティンカー。…なんじゃ聞こえとらんのか?」
懐かしい声が聞こえる。ティンカーは一息ついて話し始めた。
「ゼウス様、お久しぶりです」
「なんじゃ、聞こえとったなら返事してくれ」
「いえ厳粛なこっちの雰囲気と違って、ゼウス様の返事があまりにもカジュアルだったもので」
「ワハハ、神事に携わる者は真面目なヤツばかりじゃからのぅ。ティンカーよ、息災のようじゃの?」
「おかげさまで、この通りです。やはりゼウス様がボクを呼んでくれたのですか?」
「あぁ、勘がいいお前ならきっと気付くだろうと思ってな。そっちの世界の神に託宣を出すよう依頼しとったんじゃ」
「…ゼウス様は、この世界の神ではないのですか?」
「ワシは全ての世界の神じゃからな、統括する役目は他の神達に任せておるが、こうやって顔を出しに来る事もできるんじゃ」
「なるほどです」
そういうと、少し間を置いてティンカーが尋ねる。
「…2人は無事ですか?」
「あぁ、呂布と高順の事か。呂布の方は相変わらず好き勝手やって、今のところは問題なさそうじゃの。問題は高順の方じゃ」
「何があったんですか?」
「どうも、身体に不具合を起こしているようじゃ。過干渉になることは言えないルールじゃから、これ以上詳しくは言えんのじゃが。とにかく合流を急いだ方が良いと思ってのぅ」
「どうすれば彼に会えますか?」
「これも直接は伝えられん。なので、この世界の託宣に倣うとすれば…『助けを呼ぶ者、蹄の音と共にあり』という所じゃ」
「…意味が良くわかりませんが」
「時が来れば、お主なら気付けるはずじゃ。任せたぞ」
「はい、わかりました。…あ、こちらの世界の神に聖杯の方はどういう形とかご希望あるか聞いて貰えませんか?」
「あぁ…なになに?グラスはペアで欲しいと言ってる。あと、持ち手と口の当たる所は装飾を控えて欲しいらしい。飲みにくいんじゃと」
「…あ、聖杯って実際に使ってるんですね。わかりました、飲みやすいように保温機能とかも付けますね」
ゼウスとティンカーが話している間、ティンカーが神と普通に会話をしているのを見て司祭は驚愕していた。司祭は気持ちを抑えられなかったのだろうか、ティンカーの側で「神よ、おぉ神よ!私です、貴方様を誰よりも敬愛する者です!私にも、どうかお言葉をかけてくださいぃッ!」と涙を流しながら騒いでいる。
そのあまりの必死な声を聞いて、ティンカーがゼウスに言った。
「あ、あと司祭様に何か一声頂けませんか。このまま通信切れちゃうと、あの人もキレてしまいそうで」
「あぁ…ふんふん。『愛しき我が子よ、愛は届いている』だそうじゃ…というか、ワシを介さずに自分で言えばいいのに、恥ずかしがり屋さんじゃのぅ」
「わかりました、そのようにお伝えしておきます」
「あぁ、ティンカー。お前がいて助かったわぃ、呂布も高順もこういうことに無頓着な性格をしとるからの」
「ハハハ、そうですね。では、失礼します。有り難うございました」
ティンカーがそう言うと、またノイズのような音が大きくなり急に現実へ引き戻された。気がつくと司祭がティンカーの肩を揺すりながら、ティンカーの名を呼んでいる。
「ティンカー、ティンカーよ。大丈夫ですか?」
「…司祭様。問題ありません、神託を受けることが出来ました」
「本当ですかッ!それで、神はなんと仰っていましたか?」
ティンカーは少し考えてから神託に聞こえるように言い換えた。
「…『対を為す杯、機能美を備えよ』だそうです」
「そうですか。他には…ありませんでしたか?」
司祭が泣きそうな顔で見つめている。
ティンカーは司祭の目を見つめてゆっくりと言った。
「…『愛しき我が子よ、愛は届いている』だそうです」
その瞬間、司祭は「ぅぉおおーーーん」と泣き叫びガッツポーズのまま卒倒した。
それから数ヶ月してティンカーは聖杯を創り司祭へ納めた。託宣と繋がるような出来事がなかなか起こらないとヤキモキしていたが、やっと今日「蹄」というキーワードに繋がる話があったのだ。〜〜〜
(ようやく、会える…)
ニヤニヤしそうになるのを必死に堪えながら、ティンカーは今まで以上に槌を振るった。
最近使ってなかったTwitterが凍結されてました…もっとオーウェン達を見てほしー!高評価されると、なお嬉しー!




