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ティンカー

さて、オーウェンがエルフの国で活躍し始めた頃、ドワーフの国でも異彩を放つ者がいた。それこそ、ドワーフの豪商ガンダルフの一人息子、陳宮…改めティンカーである。


ティンカーは1歳にして数カ国語の言語を話し、3歳で商会の立ち上げと商品製作を始め、6歳には父の商会へティンカーブランドとして品を卸す程に成長していた。またその知能は止まる所を知らず、一部の特権階級の者にのみ使用できると考えられていた特級魔術や錬金術にまで精通(せいつう)し、神術すら理解している。それらの知識を日用品や装飾品はもちろん武器や防具にまで落とし込むため、ティンカーブランドは多くの国々の名のある冒険者や貴族達にまで御用達となっていた。


「ティンカー、次の品卸しはいつ出来そうだ?」

片眼鏡に髭を蓄えたガンダルフが、咥えていたパイプに葉タバコを詰めながらティンカーに尋ねた。


「…この前注文された品は今朝(おろ)したばっかだぞ、父ちゃん」

「注文が立て込んで来てるんだ、貴族連中はせっかちでな。特に人族なんぞは短命だし、その令嬢達が綺麗でいられる時間はあっという間だからな、これでもかと言うほどに着飾りたいんだろ」

「あぁ、わかったよ。注文リストはそこに置いておいて。あと前にも言ったけど、ボクが武具や防具に込めるのは一般魔術までだから。前みたいに無茶な注文受けるのは辞めてよね」

「…この前のは俺のせいじゃないぞ」

「いいから、ちゃんと断って。いい?」

「あぁ、わかったよ」

そう言うと、ガンダルフはプカプカとタバコを吹かして出て行った。


ティンカーは黙々と作業をしながら、ゼウスの所でニートしていた頃を思い出していた。

(「裕福で勉学に励める環境」とは言ったけど、この歳で裕福になる程()()()()()()()()()とは思ってなかったなぁ)


〜〜〜ティンカーブランドは、幅広く商品を扱うガンダルフ商会の一部ではあるが、金額としては全売り上げの約3分の1を占めるほどの一大ブランドである。ティンカー自身もかなりの蓄えがあり、今すぐニート生活を始めたとしても150年程は遊んで暮らせる額である。しかしティンカーはニートにならなかった。…何故なら、この世界の娯楽は実に面白くないのである。カードゲームやボードゲームなどある事にはあるのだが、持っているのは余程の金持ちくらいで、そのどれもが貴族の接待に使われるだけの発展性に乏しいものとなっている。また競馬のようなギャンブルもある事にはあるのだが、騎手ではなく鎧を着けた()()が乗っているため、ゴールに辿り付く前にその殆どが戦闘により落馬していた。そもそも、馬に乗って速く走るという事に価値を見出せる世界ではなかった。日々を無難に生きることに庶民は苦心しており、貴族は自身の見栄と豊かさを誇る事に苦心していた。漫画どころか小説の書き手すらいない世界では、ニートになる理由が無かったのである。そこで「無いのなら、自分で作ればいい」とティンカーは今日もあらゆる物作りに励んでいた。〜〜〜


「まったく…ガンダルフの旦那は現場の忙しさってのを忘れたんですかね?」

そうティンカーに話しかけたのは、鍛治師(かじし)のヴィトルである。


〜〜〜ティンカーの下で働く職人は元々はそれぞれが店を構えられるレベルだが、ティンカーの腕前に惚れ込み、工房に住み込みで働いている者が多い。ヴィトルも元は武具や防具の製作でそれなりに有名な鍛治師(かじし)だったが、ある時、情報誌でガンダルフ商会から貴族宛に寄贈された鎧の写真を見るや否や、店をたたんでガンダルフ商会の鍛冶場に乗り込んで来た。〜〜〜


「元々、商才に()けていたから物作りはしないんだ、父ちゃんは」

「へ?そうなんですか?あっしはてっきり、ティンカー坊ちゃんの師匠はガンダルフの旦那だと」

「ボクの師匠は祖父(じい)ちゃんだからね、まぁ覚えが良過ぎたせいで、すぐにこうやって働かされるハメになったけど…さぁ、仕上げだ」


そう言うとティンカーは、今し方作り終えた精巧な作りの耳飾りに手をかざし、呪文を唱える。

眩い光が周囲を包んだあと、耳飾りに埋め込まれた宝石に光がボゥっと宿った。


ヴィトルが作業をしながら、横目でティンカーの仕事を見て言った。

「相変わらず細かい作りで惚れ惚れしますな。最後の(まじな)いは一体何です?」

「とある貴族の奥方は他人(ヒト)の噂話が大好きらしくてね。ご希望に添って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を付与したのさ」

「…なんかこれだけの品に、そんな魔法を付与するなんて勿体ない気がしますね」

「まぁ、使うヒトが気に入ってくれればいいよ。カネだってしっかりもらっているしね」

などと話していると、ガンダルフの側近が「坊ちゃん、お時間よろしいか?」と作業場へ入ってきた。


「まぁた、父ちゃんから注文か。…今度は何?」

「それが、直接話したいから旦那様の部屋に来てくれと」

「…わかったよ、ちょうど出来上がったものもあるし渡すついでに聞いてくるさ」

そう言うとティンカーは貴族宛の品を小綺麗に梱包しガンダルフの部屋へと向かった。


ーーーーーガンダルフの部屋にて…

「父ちゃん、『噂好き貴族の耳飾り』が出来たよ」

「おぉ!流石、俺の息子だ!仕事が早いな!…そんなお前に、相談事なんだが…」

「また、なんか厄介な事引き受けたんでしょ」

「ち、違うぞ!()()引き受けてないから!」

()()()これから引き受けるつもりなんでしょ」

「頼むよぉ、ティンカー。父ちゃんだって昔馴染みの奴に頼られたら力になってやりてぇんだ」

「…それで?何を頼まれたの?」

「あぁ、俺のダチは装蹄師(そうていし)っつって蹄鉄を造ったり、それを蹄に取り付ける事を生業(なりわい)にしてるんだが。…ティンカー、有蹄族(ゆうていぞく)って知ってるか?」

「実際には見たこと無いけど。ケンタウロスとかサテュロスとか、蹄がある連中でしょ?」

「あぁ、ここから北西に向かって3ヵ月ほど馬車で移動した所に、ソイツらが住む『キロン』って集落があってな。俺のダチはそこで商売してるんだが、一頭だけ一週間程度で直ぐに蹄鉄をダメにするケンタウロスがいるらしい」

「…ふーん」

「集落の連中はダチの腕前を信頼しているから気にするなと言ってくれているそうなんだが、ダチはその気遣いが逆に心苦しいようでな。何とかしてやりてぇって言ってんだ」

そう言うと、ガンダルフは子犬のような瞳でティンカーを見つめてきた。


「いいよ」

「そうだよな…、そんな急に言われても…って、今なんつった?」

「だからボクがソイツの蹄鉄を造ってあげればいいんでしょ」

「そうか、やってくれるか、ティンカー!ガハハ、これでやっとアイツにも貸しができ…げふんげふん」

「…また良からん事考えてたな、父ちゃん」

「いやここの所、注文がかなり増えてな。荷馬車を増やしたのは良かったんだが蹄鉄の減りも激しくて…ソイツから、ちょーっと質の良い蹄鉄を融通してもらえないかなぁなんて思ったり…ガハハ」

「まぁ、そこら辺は父ちゃんに任せるよ。…そんで?出発の予定は?」

「さっき渡した注文リストが終わったら、いつでも」

そう言って、ガンダルフはシシシと笑う。


「…ホント人使いが荒いな、父ちゃん」

そう言うと、ティンカーはまた作業場へと戻っていった。

ちょっとサイドストーリーが入りますよー

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