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英雄の登場

オーウェンはオネットを囲む防壁を超えたあと、近くの森に入り迷宮スキルを使用する。


「相当な数で包囲していると言っていたな。少し離れた高台辺りから様子を確認するか…」と呟くと、オーウェンは村から500m程離れた高台に降り立った。そこからは400体程度で構成された大隊が目視で20程度見え、オネット方向へ向けて行軍していた。更に、それらとは別に数千のゴブリン達が村の一角に殺到しており、その中央には今にも消えそうな防御魔法が見える。


「急がねばな…」と呟き、オーウェンは再び「ローラーコースター」で、ヴァレンタイン達の下へと急行した。

ーーーーーー


一方、ヴァレンタイン達は必死の形相でゴブリン達と対峙し続けていた。間合いを超えて無理やり攻撃しようとしたトーマスが矢傷を負い、トーマスを回収に向かったコンラッドとアーノルドも深傷を負わされて息も絶え絶えな状況である。他の面々もルーシーに回復魔法をかけ続けた結果、MP切れを起こし動けなくなっていた。ルーシーが涙を流しながらヴァレンタインに声をかける。


「ヴァレンタイン…私も、もうもたないかも…」

「…そうか、ごめん。こんなに頑張ってくれたのに、守り切れなくて…」

「んーん、皆が守ってくれたから…ここまで頑張る事ができた…。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう…こんな不甲斐ない()に付いてきてくれて。でも、最後まで一緒だよ。絶対に1人にしないから」

「う…もうダメッ」

と呟き、ルーシーがMP切れで倒れ込む。ヴァレンタイン達を覆っていた防御魔法が消えると、ゴブリン達はニヤニヤと笑いながらにじり寄ってきた。ヴァレンタインが諦めたように剣を地面に突き刺し、胸にぶら下がっていたロケットペンダントを握って呟いた。

「父上、すみません。やはり()には…」


様子を見守っていたゴブリン達が、意気揚々とヴァレンタイン達に飛びかかろうとした、その時…


キィィイイイーーンという音と共にゴブリンの群れに高速の盾が突っ込んで来る。勢いよく吹き飛んでいった仲間を見てゴブリン達が動揺していると、更に空から巨大な斬撃が降って来た。一瞬にして1000体近くが地面の割れ目にめり込んで見えなくなると、ゴブリン達は慌てて後退りした。砂埃の中、ヴァレンタインが顔を上げる。


「ケホッ…一体、何が?」

「言っただろう?魔物(ジェヌイン)は甘く見ない方が良いとな」

「オーウェン君!?…どうやって、ここに?」

「いろいろあるが…話は後だ、ポーションと解毒剤を適当に見繕ってきた。俺は戦いに集中したい、トーマス達の事を任せてもいいか?」

「こんな高い薬まで…あぁ、任せてくれ!」


ヴァレンタインがポーションをトーマス達に飲ませているなか、オーウェンはゴブリンに向き直って言った。

「さて、幾つか聞いておこう。…どれだけの人達を殺した?」

「イッパイ…殺シテ、イッパイ…食ベタ」

「ここの村の人達はどうした?」

「ツカマエタ…オトコ…食ウ。オンナ…犯ス。最後、ミンナ…殺ス…ゲヘヘヘヘへ」

「なるほど、という事はまだ殺していないのか。…お前たちのボスは何処にいる?」

「ボス…命令スル。次ハ…大キイ街、狙ウ!ボス…隠レテ…命令スル」

「探すのには時間がかかりそうだな。まぁ…どれだけ時間がかかろうとも、1人も生きて帰すつもりは無いが…」

そう言ってオーウェンは、担いでいた方天画戟を構えた。


「…最後に、何か言い残しておきたいことはあるか?」

「ゲヘヘヘヘへ…死ネェッ!!」

と言って飛びかかってきたゴブリンを真っ二つに切り裂き、オーウェンは言った。


「お互い、時間を無駄にはしたくないだろう。かかってこい…全員まとめて、相手してやる!」

ーーーーーー


一方、ナサニエル達は既に転移門(ゲート)を通り、オーウェンのいる村まで1時間半程の距離まで迫っていた。当初、転移門(ゲート)の管理人は意地でも開けないと言い張ったが、ナサニエルが『剣撃向上』を使って側に飾ってあった壺を一瞬で斬ってみせると、途端に猫撫で声になって媚び始めた。村への転移門(ゲート)だけという条件で開けてもらい、憲兵達で編成された救助隊もこれに続く。しばらく道なりに歩いていると、コリンとエラが索敵魔法にゴブリンが複数体引っかかった事を伝える。


ナサニエルが冒険者達に呼びかけた。

「どうやら、こっちにゴブリン達が向かっているそうだ。救助隊がスムーズに通れるように、ここで迎え撃つぞ!」

『オォーー!』

と呼応する冒険者達。すると、暗闇の中から400を(ゆう)に超えるゴブリン達がじわじわと近づいて来る。冒険者達に緊張感が走る中、ナサニエルが呼びかけた。

「正面は、俺達が引き受ける!お前達は、脇を抜けてきたヤツらの殲滅に集中してくれ!」


ナサニエルの号令に従い、アニーとエラが編入試験で見せた水圧カッターを使うと、半数程のゴブリンが一瞬にして絶命した。さらに近づいてきたゴブリンはグレン達が斬り伏せ、逃げ出した者にはケイトやオードリーが矢を射掛けて確実に倒す。冒険者達が脇を抜けてきた100体ほどのゴブリンを仕留めているうちに、ナサニエル達は400体ほどのゴブリンを駆除していた。再びコリンが索敵魔法を使い、ゴブリン達の状況を確認する。


「マズいですよ…まだ大隊規模のゴブリン達が進んできます」

「気を抜くなよ。村までまだ距離があるのに、ここにこれだけ居るってことは…全体像はもっと規模が大きいという事だ。おそらく数万単位のゴブリン達がいるぞ」

「ゴブリンってこんな規模で連携を取るのね、報告書では小規模の襲撃ばかりだったのに…」

と一緒に来ていたアイリーンが呟くと、ナサニエルは首を振って言った。


「いや、オーウェンは既にゴブリン達が連隊クラス(約5000人)の規模で動いている可能性を示唆していたぜ」

「…どういうこと?」

「3ヶ月前にヴァレンタイン達がゴブリン退治に誘われた事があったろ?あの後、ギルドでの被害報告を見てオーウェンは各地で散発している襲撃が統制されていることを指摘していた。場所はバラバラだったが襲撃の時間帯がほとんど一緒だったからな…人の活動が最も落ちるタイミングを探ってるんだろうって、オーウェンは言ってたぜ。後々はオネットに攻め込むつもりかも知れない、とも言っていたな」


ナサニエルの言葉に、アイリーンが驚く。

「…この状況を、ずっと前から予想していたと言うの?」

「あぁ。襲撃の起こった場所が、オネットへ物資を輸送する際に使われる街道から遠い村ばかりだったからさ。大体の場合は隣あったいくつかの村から同時に被害届が出ていたけど、不思議なことに隣接している街道沿いの村だけは被害届がなかったんだよ」

「確かに不思議だけど…それが、どうかしたの?」

「オーウェンにはそれが、警備隊の巡回地域を輸送経路から離れた村へと変更させるように見えたんだってさ。実際、警備隊は街道沿いの村々を巡回するルートを変更していたしね。それで、わざと輸送経路に近い森に幾つか糸を張った所、森に出入りしている者がいる形跡があったんだよ」

「ゴブリン達が輸送経路を襲撃してオネットを孤立させようと企んでいたってこと?…でも、糸が切れていたのは、近くの村人や野生動物の可能性もあるでしょ?」


アイリーンの指摘に、ナサニエルはうんうんと頷いて続けた。

「まぁな、だから確認のためにちょっとした小細工をしたのさ。簡単に説明すると…ゴブリンの平均身長は100cm前後、そして人族の平均身長を170cmとするだろ?人族は7頭身、ゴブリンは報告に寄れば4.5頭身くらいだから、胸の高さをそれぞれ少し低めの140cmと75cm程度と決めて、俺達はそれぞれの高さに細い糸を張ったのさ。すると、街道の偵察に適したポイント付近で75cmの高さの糸だけが切られている箇所が幾つか見つかった。獣道も無い場所だし、そもそも、それだけの体高がある野生動物はあの地域には生息していない。このことから偵察能力を持った小さな個体…つまり、ゴブリンが定期的に偵察に来ている可能性を強く疑っていたのさ。ま、向こうの偵察兵もなかなかの手練れで、それ以外の証拠は何一つ見つけられなかったんだけどな。だからアイリーンの話を聞いた時、俺達は全く疑問にも思わなかったぜ」

「…凄い。…貴方達って本当に優秀なのね」

とアイリーンが呟くと、ナサニエルは照れながら言った。


「まぁ、大体はオーウェンからの受け売りだけどな。アイツは単に強いだけじゃない、…頭も相当キレるんだぜ?アイツの側に居ると、本当に退屈しないのさ」


すると、弓を射掛けていたケイトが呼びかける。

「ウチの隊長の自慢話も良いけど、そろそろヤバいよ!後続が途切れる様子が見えないって、コリンが言ってる!」

「んー、マズいなぁ…。このままじゃ救援に駆けつけるどころか、こっちも手一杯かも…」

とナサニエルがボヤいていると、ゴブリン達の足並みがピタリと止まり、大急ぎで引き返し始めた。


アイリーンが不思議そうな顔で呟く。

「…急にどうしたのかしら?」

「あぁ…たぶん、オーウェンだな」

「オーウェンがどうかしたの?」

「まぁ、とにかく話は後だ。お前ら、敵が退き始めたぞ!そのまま背中を追って、あの世まで送り出してやろうぜ!」

『オォオオオオオオオオ!!』

と叫び、追いかける冒険者達。


アイリーンが戸惑っているとナサニエルが呼びかけた。

「さあ、俺達も行くぞ!久々にオーウェンが本気で戦っている所が見られるかもな?」

「オーウェンの本気?」

とアイリーンが聞くと、ナサニエルは頬に汗をかきながら言った。


「あぁ、本気で戦っている時のアイツって凄いんだぜ!方天画戟を振り回す姿は…まるでオーガさ」

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