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新人冒険者

翌日から、ナサニエル達はヴァレンタイン達と共に冒険者ギルドへと向かった。冒険者登録をしてFランクのカードを手渡されると、トーマス達は嬉しそうに何度も眺めていたが、ナサニエル達はそこまで喜んでいなかった。というのも、前日にEランクに上がるためのクエストの内容をオーウェンから色々と聞いたせいである。


〜〜〜前の日のこと…


シャルロッテ達にこってり絞られたオーウェンが、やつれた顔でナサニエル達に説明する。


「冒険者登録が済むと、カードの裏に10個のクエストが書き込まれる。ちなみに俺が受けた時は、薬草の採取、害虫の駆除、薪拾いにドブ掃除、井戸の水汲み100ℓに郵便物配達の手伝い、兎と猪の狩りとその解体だった」

「…結構面倒くさそうなヤツがあるな」

「聞くと大変そうだが、やってみると案外そこまででもないぞ?」

「…そりゃあ、オーウェンにすればそんなもんだろうよ」

とグレンがボヤくと、コリンが思い付いたように言った。


「あ、なら皆で協力してこなせばいいじゃないですか。水を汲むヒト、狩りをするヒトって感じで」

「協力しても良いと思うが、クエスト中の行動はログ機能というもので全て把握されるそうだ」

「構いませんよ、僕達は別に冒険者で食っていこうなんて思ってないわけですし…」

と言いかけたコリンにナサニエルが言った。


「俺は、1人でやるぜ」

「…どうしたんです、急に?」

「筋力ではオーウェンに敵わなくても、俺には努力って力がある…時間はかかっても同じことが出来るって事を証明したい。それにちゃんと稼げてないと、愛するヒトを幸せに出来ないからな。どうせライセンスを取るなら、いざとなったときに良い仕事を受けられるように最初からしっかりしておきたいのさ」


ナサニエルの言葉に、グレンも「確かにな…俺も1人でやろう」と言い出す。2人の成長した姿にオーウェンは満足そうに頷いていたが、コリンは「いいですよねー、愛するヒトがいるヒト達は」などと突っかかっていた。

〜〜〜


受付嬢の説明が終わると、Sクラスの生徒達はすぐに行動を開始する。しかし、やはりオーウェンのように1時間半で終えて戻ってくるような猛者はいなかった。


結果から言えば、ナサニエルやグレン、トーマスやコンラッドの4人は3日でクエストをこなし、他の生徒達も10日足らずでクエストをこなした。だが、最も早かったのはヴァレンタインである。日を跨いで2日になってしまったが、実質的には22時間程度という驚異の速さでクエストを終わらせて、ギルドでは注目の的になっていた。オーウェンもヴァレンタインに声をかける。


「驚いたぞ、ヴァレンタイン。小柄な体格なのに、よく頑張ったな」

「ハハハ、ありがとう。でも、オーウェン君の記録にはまだまだ及ばないよ」

「俺は他人より少し身体が頑丈だからな、多少無理が利くんだ」

オーウェンがそういうと、ヴァレンタインは爽やかに笑ってみせた。その笑顔に何処か違和感を感じつつも、オーウェンはヴァレンタインの肩をバンバンと叩いて労っていた。


するとアイリーンが駆け寄ってきて、ヴァレンタインをオーウェンから引き剥がす。

「な、何やってんのよ!?」

「ヴァレンタインがいい成績を収めたから労ってただけだが?」

「アンタは力強いんだから、そんなに叩いたら怪我しちゃうでしょ!」

「…そうか、すまんかった」

とオーウェンが謝っていると、タバサがヴァレンタインの肩越しに言った。


「アイリーンってば、またヴァレンタインへの片思いに戻ったんだ。あの騎士像がオーウェン君って気づいた後から静かになってたから、てっきり心変わりしたのかと思ってたんだけど」

「はあ!?そんなんじゃないってば!」

などと言いながら、アイリーンはヴァレンタインを挟んでタバサと追っかけっこを始める。ヴァレンタインは終始、困ったような笑顔を浮かべていた。

ーーーーーーー


その後Eランク試験も通過した面々は、クエストボードの前で初めて受けるクエストはどれが良いかなどと騒いでいた。すると、5人くらいの冒険者パーティが声をかけてくる。


「よぉ、新人か?」

「えぇ、今日Eランク試験に合格したんですよ」

とヴァレンタインが返すとリーダーの男が言った。


「その制服、英雄養成学院の生徒だな。たった2日でFランクのクエストを全てこなしたヤツも居るんだってな、スゲェじゃねぇか!お前らクエストをまだ選んで無いようなら、俺達の手伝いをしないか?ゴブリンを狩るちょっとしたバイトだ、歩合制だし頑張った分だけ儲かるぜ?」

「ご一緒しても良いんですか?」

「あぁ、ゴブリンは数が多いから、こっちの数も多い程有利だぜ!」

「えっと、それなら…」

と言い乗り気になったヴァレンタインの肩を、オーウェンが引き戻して言った。


「悪いが、他を当たってくれないか?Dランク相当のクエストにこれだけの数のEランクを連れて行くのは危険だ。そちらも全員Dランクのようだし、Cランク程度は1人くらいいた方がいいと思うが?」

「あぁ、なんだ引率者もいたのか。まぁ、断りたいっていうなら無理強いはしないけどな」

と言って、男達は去っていく。トーマスやアーノルドは、明らかに不満そうな目でオーウェンを見つめていた。


ヴァレンタインもオーウェンの態度が気に食わないと言った様子で食いかかってくる。

「…どうして勝手に断ったんだい?」

「さっきも言っただろう、DランクのクエストはDランクの冒険者が無事に帰って来れる程度のものだ。誰かを庇いながら戦うなんてことは、想定されていない。司令塔に回れたり、カバーが出来る者が居るなら話は別だが、それでも危険な事には変わりない」

「Cランクのオーウェン君が居れば問題ないじゃないのか?」

「俺はゴブリンの事をよく知らないが、彼らはジェヌイン(魔物として生まれた者)と聞いている。こちらの言葉を理解する個体が居れば、どういう連携を取ってくるかも筒抜けに…」

「もういい…わかったよ」

そういうとヴァレンタイン達は再びクエストボードの方へ向かい、Eランクの薬草集めなどのクエストを受けてさっさと建物を出て行った。ナサニエルがオーウェンの横に並んで言った。


「いつもより、えらく慎重だな」

「連携を前提とした戦略は上手く噛み合えば大きな戦果をもたらすが、それだけ瓦解しやすくもある。まずはゴブリンの生息域や群れを作る大まかな個体数、これまでの被害報告から彼らの戦術というものを学ばなければな」

「じゃあ受付嬢に確認しに行って、そのあと俺達も何か適当にEランクのクエストをやって帰ろうぜ」

「あぁ」

そういうとオーウェン達は受付嬢の下へ行き、クエストに張り出されている魔物達に関する情報を数時間かけて収集した。


〜〜〜ゴブリンは人族と同様に集団生活をするジェヌインである。その性格は住む地域の特性や集落の長によって大いに異なり、一部地域では交易を行うほど人間と親しくなる者達も居れば、蛮族のように強奪と強姦を繰り返して村を破壊して回るような者達もいる…つまり、見た目以外は人族と似たようなものである。パシフィス周辺の村々からは、後者に近い性格のゴブリンによる被害が度々報告されており、子供や女性が残虐な殺され方をされたとも記載されていた。〜〜〜


ナサニエルが溜息を吐きながら言う。

「酷い事するヤツらだな、ゴブリンって」

「そういう者達が居るというだけだ、全てがそうというわけではない。環境次第だ…恵まれなければ、ヒトも彼らと似たような事をするからな」

「…そうなのか。でも、そう考えると安易に狩るだなんて言えないな」

「あぁ、あちらにも言い分があるだろう…だからこそ、俺達は慎重にならねばならん」

「そうだな」

と言いながら、ナサニエルはオーウェンの横顔を頼もしそうに眺めていた。

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