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巫女の居場所

翌日、ダフネがオーウェンを学院長室へと呼び出す。


「オーウェン、付いてきてもらえるかしら?」

「…1人でですか?」

「えぇ、貴方としても皆に余計な心配をさせたくないでしょう?」

「確かに、そうですね…御配慮頂き、有難う御座います」

「フフ、こうして礼儀正しくしていると本当にあの騎士像のようね。昨日、凄んできたヒトとは別人みたい」

「…そんなに怖かったですか?」

「フフ…さぁ、どうだったかしら」

とダフネは微笑んでみせたが、その手にはジワリと汗が滲んでいた。


オーウェンを引き連れて、ダフネは王城へと向かっていく。以前通された謁見の間を通り過ぎ、オーウェンは貴賓室へと通された。しばらくして、ルドルフが部屋へと入ってくるとオーウェンは深々と挨拶をして言った。


「ルドルフ陛下、お久しぶりで御座います」

「オーウェンか…謁見の間で見た時は鎧姿だったからわからなかったが、本当に美しい顔立ちをしているな」

「顔を無闇に見せないよう言われておりましたので…兜も取らずに、無礼を致しました」

「ハハ、むしろ外さなくて良かった。その顔を見れば、あの場にいた貴族の女達が騒いで余の言葉も届かなかっただろうからな」

ルドルフの冗談にオーウェンは返事はせず、微笑むだけだった。


ルドルフが咳払いして続ける。

「あー…それでだな、オーウェン。そちらの国に送った手紙は、お前も確認したのか?」

「はい、ヴィルヘルム様から今回の任務を仰せつかった時に…」

「なるほどな…、王女殿下達はお前と特別な関係なのか?」

「…何故、そのような事を?」

と言うオーウェンの目から、すぅっと光が消える。ルドルフは慌てて付け足した。


「あ、案ずるな…何も関係を探ったり責めようというのではない!お前がエルフの王に余程信頼されておる故、気になったというだけだ。他意はない」

「そうですか。えぇ、シャル様だけでなく、ベル様、ドロシー様、そしてローラも元服に合わせて私の妻になって頂く予定でした」

「!…つまり余が出した手紙により結婚が頓挫してしまったと。そういうことだな?」

「はい。手紙が届いたタイミングがちょうど式の半年前でしたので、計算されたものかと考えておりましたが…違うのですか?」


オーウェンが尋ねると、ルドルフは少し難しい顔をしながら答えた。

「うむ…計算されていたかどうかは、()()()()()()()()のだ。その手紙は、神託の巫女の命を受けて出したものだからな」

そう言うと、ルドルフはアールヴズ連合国へ手紙を出すに至った経緯について話し始めた。


〜〜〜パシフィス皇国ではあらゆる政治問題に神託の巫女が絡んでくるのだが、とりわけ外交においてはその託宣を絶対視している。これは100年もの間、パシフィス皇国が大きな戦争に巻き込まれずに済んでいる実績によるものであり、例えいくら有利な戦いになると予想できたとしても、神託の巫女がノーと言えば絶対に戦争は起こせないようになっていた。


始まりは3年半ほど前、普段は半年に一度程度、ルドルフは託宣のために巫女のいる部屋の前に呼び出されるのだが、その頃は頻回にお呼び出しがかかるようになっていた。それは国家の危機を示唆するものなのだが、敵国の名や何が起こるのかといった情報は不明で、ルドルフの臣下達はその曖昧な託宣に苛立ちを覚えていた。


「…ったく、神託の巫女様は我々に一体何を望んでおるのだ!?」

(いたずら)に混乱させるような言葉ばかり送りよって!ルドルフ陛下、巫女様を直接問いただしてはもらえませんか!?」

と苛立ちを露わにする臣下達。ルドルフは眉一つ動かさずに答える。


「ならん。例え皇帝であろうと、巫女様から託宣以外の言葉を求めるのは禁じられておる」

「しかし、このままでは振り回されるだけです!この託宣のせいで、軍事以外にあてる予算の審議もまだ出来ていないんですよ?」

「それでもだ。…きっと何か訳があるのだ、急かしてはならん」

とルドルフが言うと、ルドルフの兄である先帝の息子(※ルドルフから見れば甥に当たる)、王位継承権序列1位のフェアラート将軍が鼻で笑って言った。


「全く…叔父上は悠長すぎます。だいたい、神など…居るかどうかもわからない存在の言葉を聞くために創られた化け物の話を、我々は聞いて()()()()()んです。…先の隣国とのゴタゴタも、あの化け物さえ居なければ簡単に鎮圧出来たというのに…」

「口を慎め、フェアラート。例えお前が先帝()の息子であろうと、長く守られてきた皇家のしきたりに口出しするような事は許さん」

「フッ、相変わらず頭が硬い事を仰る…まぁ、いいでしょう。例えどんな事があろうと、この国に降りかかる国難は、このフェアラートが斬り伏せてやるまでです」


フェアラートがそう言い残して部屋を出て行くと、フェアラートを支持する派閥の者達も後を追うように部屋を出ていく。この頃から既に、中央にはフェアラートを支持する一大派閥が出来始めており、ルドルフの臣下の中にもフェアラートに肩入れをする者達が出始めていた。そんな矢先、ルドルフは再び、託宣のお呼び出しを受ける。ドアに添えられた紙にはこう書かれていた。


「遠きエルフの大地から この地に根差す種が飛ぶ 傷んだ頂芽(ちょうが)を摘む種は 脇芽(わきめ)に寄り添い国を成す 今すぐ旅立て人の子よ 嵐が凪になる前に」

〜〜〜


「…正直、文章の意味はよくわからなかったが、少なくとも遠いエルフの国から来た者によって窮地を救われる事はわかった。そしてその頃、経済エリアを出入りしていた商人からアールヴズというエルフの国の話を聞き、この国へ遣いを出すように圧力をかける手紙を、余の手の者を使って直接届けさせたのだ」

「つまり、ルドルフ陛下はシャル様達を狙っていたのではないと?」

「あぁ、余が知っていたのはお前達の国の名前程度だった。だが、アールヴズに手紙を出した事が間違いではなかったということは確信していた。その証拠に、ピタリと託宣が止まったからな」


オーウェンはそれまでの会話を思い出しながら、ルドルフに尋ねる。

「臣下の方々が仰ったように、神託の巫女に直接聞かないのは何故ですか?」

「皇帝と言えど、神託の巫女はそう簡単に会っていい存在ではない。…彼女は我々と同じ存在ではないからな」

「…どういうことでしょうか?」

「神託の巫女は自然に生まれたのではない、彼女は…造られた存在なのだ」

「…造られた存在?」


オーウェンが問いかけると、ダフネが口を開いた。

「…精霊よ。神託の巫女様は精霊の血を引いていると言われているの」


〜〜〜調和を基調とするアルモニア教は、およそ2000年もの間この地で広く信仰されてきた。ルドルフ達の先祖もアルモニア教の敬虔な信徒であり、パシフィス皇国の国教と定めてアルモニア教を庇護してきた。しかし、どのような宗教も長い年月が経てば色々と宗派が出てくるもので、アルモニア教にもカルトチックな宗派が幾つか存在していた。今からおよそ100年ほど前、ルドルフの曽祖父にあたる皇帝が、ある宗派の取り締まりにあたった。その宗派は「自然との調和」と銘打って、アルモニア教の修道女達を誘拐しては森に置き去りにし、霊的な存在の力を修道女達に会得させようとしていた。しかし大抵は遭難したり、狼や熊などの動物に襲われて命を落とすことがほとんどだったようである。ルドルフの祖父はその宗派の司教を処刑し、アジトに残されていた地図をもとに森を捜索させて、1人の修道女を救出する。しかし、連れ帰った修道女は7日ほどで急激に腹を膨らませて死んでしまった。そして、その修道女の腹から生まれた者こそ、神託の巫女という訳である。〜〜〜


「…単に妊娠を悟られにくい体型だったとか、そういうことではないのですか?」

「もちろん、その可能性もあっただろうが…そういうことではないのだ」

「?」

とオーウェンが不思議そうにしていると、ルドルフの胸の辺りから鈴が小さく鳴り響いた。ルドルフは微笑んで言った。


「噂をすれば…巫女様からのお呼び出しだ」

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