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鬼の一面

球技大会以降、Sクラスの前はオーウェン目当ての女子達と一部の特殊な男子で埋め尽くされるようになっていた。あれ以来、もはや顔を隠す必要の無くなったオーウェンだが、それでもシャルロッテ達にキツく注意されて、口元だけはマスクで隠すようにしていた。ちなみに、以前は色々と文句を言ってきたアイリーンも、心なしか静かになっており、トーマスは何故かやたらオーウェンを連れションに誘おうとして来た。


そんなある日、教室に人混みをかき分けてジュードが入ってくる。

「いやぁ〜、今日も凄い人混みだったねぇ。球技大会から1週間近く経つというのに、オーウェン君の人気は衰えるように見えないね」

「…すみません」

「あ、いや、責めてる訳じゃないよ?ただ、凄い人気だなぁって思ってね。まぁ、彼女達が教室に集まれるのも今日までなんだけどね〜」

と言いながら、ジュードは皆に用紙を配って言った。


「いよいよ明日から、クラスを2つに分けようと思うんだ。冒険者を志望する者には冒険者ライセンスを取ってもらい、それからはクエストをこなしてもらおうと思うよ。志望しないヒト達は、これまで通りの座学と演習だよ。安全地帯で活躍する“サポーター”を目指してもらうからね。オーウェン君は既にライセンスを持っているようだから、皆がEランクになったら加わってもらおうかな?」

「わかりました」

そう言うと、オーウェンは荷物をまとめて教室を出た。

ーーーーー


オーウェンは学院長ダフネの見舞いのため、学院の横に併設されている医務院へと足を運ぶ。ダフネはオーウェンを見るなり、乙女のように頬を赤らめながら話しかけてきた。


「こ、これはこれは、オーウェン()!このような所までご足労頂いて…」

「治癒師の方から、もう少しで退院できるとお聞きしました。ご快復お喜び申し上げます」

「そんな、ご丁寧に…どうも。オホホホ」

と、ダフネはすっかりしおらしくなっていた。ダフネと何気ない会話を交わしながら、オーウェンは先日のティンカーとのマジックフォンでの会話を思い出していた。


〜〜〜

「はーい、もしもし。どしたの、オーウェン?」

「どうもこうもない。ヴィトルさんが作った俺の裸像が学院にあってだな…」

「アハハ、やっぱ見つかっちゃったか」

とティンカーが笑う。オーウェンは恨めしそうな声で言った。


「知ってたのか?…どうして教えてくれなかった!」

「だって、オーウェン達がそっちにいく前に既に騎士像は届いてたわけだし。言ったところで、どうにもならないでしょ?」

「…多少は心の準備が出来たはずだ」

「結果はほとんど変わらなかっただろうけどね。そんなことより、ダフネって人とは会ったかな?」


ティンカーは悪びれる様子もなく話題を変える。オーウェンはジト目になりながら答えた。

「そんなことよりって…まぁいい。彼女は学院長だから、学院でたまに見かけるくらいだ。最も今はあの裸像の事件のせいで、医務院に入院中だがな」

「…なんで裸像が原因で入院になるのさ。まぁいいや、とにかくその人と仲良くしていた方がいいよ。彼女はパシフィス皇国の王位継承権の序列2位に居るのさ」

「学院長がか?…何故そんな高位にいるのだ?」

「彼女が現皇帝ルドルフ氏の妹ってのもあるけど、やっぱり大きいのは人脈だよ。今世界中で活躍している一流の冒険者の多くは、彼女の教え子だからね。何か危機的な状況があれば、ルドルフ氏は彼女に上級冒険者との仲介をお願いするから、頭が上がらないんだ」

「なるほどな…」

と呟き、オーウェンはしばらく考えた後に話し始めた。


「ティンカー…ダフネ学院長なら神託の巫女の場所を知っているか?」

「可能性は高いと思うよ、皇族の1人だし、皇位継承権も序列2位と十分可能性のある人だしね。それに、生徒という立場からも頼みやすいかもね。でも、気をつけてね。王族の人達って変なとこで勘が働くからさ」

〜〜〜


「オーウェン様…どうかしましたか?」

物思いに(ふけ)っていたオーウェンは、ダフネに声をかけられてハッとした表情で言った。


「すみません、少し考え事をしていたもので…」

「あら、何か悩み事かしら。思春期特有のお悩みでしたら、このダフネが相談に乗ってあげましてよ。オホホホ…」


オーウェンは少し悩んだ後、ダフネに切り出した。


「学院長…神託の巫女がどこに居るか、学院長はご存知ですか?」

「…どうして、そのような事を聞くのです?」

と言ったダフネの顔は、先程までのしおらしい乙女ではなく、普段のキリッとした学院長の表情へと戻っていた。


(…ヘタな言い訳をすれば、かえって怪しまれるかもしれんな)

と考えたオーウェンは、単刀直入に聞き返した。


「確かに我々は、パシフィス皇国から届いた手紙に応じて来ました。しかし、それは単に友好的なお誘いでは無く、『ゆくゆくは両国に根差す血脈を…』とも記されており、政略結婚目的の人質を差し出すように意図された表現も、いくつか見受けられました。我らの王、ヴィルヘルム様はシャル様達を政治の道具にしたくないと心を痛ませておりましたが、それでもパシフィス皇国と聖アールヴズ連合国の国力の差を鑑みて、今回の派遣を決断されたのです」

「そう…。私は直接その手紙を読んでおりませんから、内容については分かりませんが、兄上がそのような文を送ったというのなら、そうする必要があったという事なのでしょう。それが、何か…」

と言いかけたダフネは、オーウェンの顔を見て凍りついた。


オーウェンの表情は先ほどから全く変わっていないのだが、その目は明らかに先程までとは違う冷酷な目をしていた。学院の生徒達のような希望に満ち溢れた目では無く、人の命を奪うのに慣れた軍人のように冷酷な目…。助ける価値が無いと判断すれば、躊躇(ためら)う事なく首を()ね飛ばすような鬼がそこには居た。


ダフネが声を震わせながら、オーウェンに問いかける。

「お…オーウェン、貴方は…何をしようと…考えているのです…?」

「…俺は、シャル様達に幸せになってもらう事以外()()()()()()()()()。ですから、神託の巫女に確認しておきたいのです…シャル様達を政治の道具に仕立て上げようとしたその意図を。…シャル様達がこの国に慣れ親しんでしまう前に」


静かに話すオーウェンの言葉を聞き、その真意に気付いたダフネは身震いが止まらなくなっていた。つまりこの男、手紙の意図がシャルロッテ達を苦しめるものであると確信し次第、例え国力に差があると理解していようとも、関わった者全てを滅ぼすつもりでこの国へ乗り込んできているのである。そしてそれは、編入試験でレベル100近いAランクのルーイヒを軽々といなしてみせたオーウェンの腕前なら十分に可能で、単なる脅しや妄想ではない事をダフネは瞬時に理解した。


ダフネが平静を装いながら、オーウェンに呼びかける。

「…落ち着きなさい、オーウェン。貴方の考えは…よくわかりました。しかし、私は本当にその手紙を確認していないので、わからないのです。で、ですから…兄上が伝えようとした真意を汲み取る必要があります!時間をください…私から直接、兄上に意図を確かめたいので…」

「…わかりました。学院長の御手を煩わせてしまい申し訳ありません」

と謝るオーウェンの顔は、いつのまにか普段の穏やかな表情に戻っていた。

ーーーーーー


翌日、退院したダフネは早々にルドルフの下を訪れた。


「おぉ、ダフネ!退院したのか、倒れたと聞いて心配していたが…どうした、顔色がまだ優れないようだ」

「兄上様のせいです!いったいどんな手紙をエルフの王に送ったのでございますか!?」

「お、落ち着け、ダフネよ。余は神託の巫女から言いつけられた通りに手紙を書いただけだ。多少、高圧的な文面もあったかもしれんが、それは大国が小国に対して見せつける威厳のようなもので…」

「その余計な威厳のせいで、新たな危機を招いていることを兄上様はご存知ですかッ!?」

「ど、どういうことだ?最初から説明してくれ、ダフネ…」


しばらくして落ち着きを取り戻したダフネは、昨日のオーウェンとの会話をルドルフに伝えた。


「オーウェンは淡々と話していましたが、その瞳は計り知れないほどの怒りで()()()いました。…憶測ですが、オーウェンはシャルロッテ王女達のフィアンセか何かだったのだと思います。ただ護衛でついてきただけの下士官に、あのような目はできませんからね」

「…そんなに脅威なのか?あの男…」

「Sランクとさほど差がないAランクを、殺さないように(あし)らって見せたんですよ!前人未到のSSSランクに今すぐ手が届いてもおかしくないレベルです!」

「そんなにか!?そ、それは…マズいことになった。…と、とにかく明日にでも、そのオーウェンとやらをもう一度呼び出す必要がある。ダフネ…頼まれてくれるか?」

とルドルフが尋ねると、ダフネは困ったような顔で溜息を吐きながら言った。


「仕方ありませんね、兄上様のために私も命を張りましょう」

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