球技大会に向けて
一方、オーウェン達はトーマスと共に室内競技場に居た。トーマスが練習していた他クラスの男子を追っ払って言う。
「よし、練習スペースが出来たぜ!」
「…正しくは練習していたヤツらを脅して追い出したスペースだがな」
「うるせぇッ!!ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと練習すんぞッ!まずは5対5で分かれて模擬戦だ、ルールを身体にみっちり叩き込んでやるから覚悟しておけッ!」
そう言うとトーマスは、ボールをバンバンッと手で叩きつけて不敵に笑ってみせた。
トーマスはヴァレンタインやコンラッドと連携しながら、素早くボールを投げつけてくる。不慣れなナサニエル達は1人、また1人と脱落してコートの中にはオーウェンだけが残った。トーマスが得意げに笑いながら、オーウェンに指差して言う。
「フハハハハ!これで残るはお前1人だぜ、オーウェン!マイナー球技と罵ったドッジボールで、負ける悔しさを味わいやがれッ!!」
ーーー
…それから30分後、
コートの中には汗まみれになったトーマス達の姿と、涼しい顔で球を避け続けるオーウェンの姿があった。ナサニエル達は、既にコートの側でボールをキャッチする練習を始めてワイワイしている中、トーマス達は体操着を汗でビショビショにしながら地面に這いつくばっていた。トーマスが、苦しそうに喘ぎながら言う。
「ハァ…ハァ…、オーウェン…ハァ…テメェ、何で当たらねぇんだよッ、クソがぁ!!」
「お前が教えてくれたんだ、ドッジボールは避ける競技だと」
「取る努力くらいしろよッ!このままじゃ、終わんねぇだろうがッ!」
「そうは言ってもな、鎧でボールを弾いてしまうから上手く掴めないんだ」
「じゃあ脱げよッ!今すぐ脱げッ!大体、なんでそんな鎧着ているのにこんなに素早く動けるんだよ、チクショーがぁッ!?」
「脱ぐのはダメだ、シャル様達との約束だからな。それに鎧は素早く動ける物でなきゃ意味がない、重くて動けないなど本末転倒だからな」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよッ!いいからさっさと当たれッ!」
「…無茶ばかり言うヤツだな」
と言いながら、その後もオーウェンはひたすらボールを避け続け、最後はトーマスが「きょ…今日の所は、このくらいにしておいてやる」と捨て台詞を吐いたところで練習が終わった。
練習を終えたオーウェン達が、シャルロッテ達と合流して帰宅する。帰り道の途中、シャルロッテが躊躇いながらもオーウェンに尋ねた。
「お、オーウェン様…、これまで何かモデルを頼まれたことは…ありますか?た…例えば、騎士像…とか」
「あぁ、ありますよ。ティンカーの工房のお弟子さんにモデルを頼まれて、断れず引き受けてしまいました。ティンカーから聞いたんですか?」
「え?…え、えぇ…まぁ…」
「ヴィトル殿はとても腕が良いようで、ティンカーもとても信頼していたようです。結局、完成する前に旅に出たので、どう言う出来栄えかは見られなかったんですけどね。一度は見てみたかったんですが…残念です」
「そ…そうですか」
と言うと、シャルロッテはそれ以上のことを話そうとはしなかった。
その後飛空艇へと戻り、オーウェン達は皆で夕食を取る。皆が楽しそうに談笑するなか、ドロシーは1人だけ浮かない顔をしていた。食事を終えたオーウェンの下にドロシーが1人駆け寄ってくる。
「お、オーウェン…今、お時間良いですか?」
「ドロシー様、どうかされましたか?」
「シャルちゃん達から、オーウェンはバレーボールが得意と聞きました」
「得意かどうかはわかりませんが、ある程度の心得はありますよ」
とオーウェンが言うと、ドロシーはオーウェンの手をギュッと握ってきて言った。
「お、お願いがあります。あの…わ、私のコーチになってもらえませんか?」
ーーーーーー
オーウェンが迷宮スキルでバレーコートを作り出し、体操着に着替えたドロシーがコートに入ってくる。
「コーチ!…よ、よろしくお願いします!」
「気負わずにいきましょう。まずは、今日の練習の成果を見せてください」
そう言ってオーウェンはバレーボールをちょうどトスしやすい高さへと上げる。ドロシーがトスを上手く返すと、オーウェンは感心したように言った。
「上手いじゃないですか、大したものです」
「えぇ、トスは頑張って練習したので…でも…」
「でも…何です?」
「レシーブが…。手が胸の前で組めなくて…」
と言ってドロシーは、一生懸命に手を前で組もうとするのだが、巨大な胸に阻まれなかなか手を組むことができない。その後も、オーウェンは色々な方法で手を組ませようとするのだが、どれも無理な体勢になってしまいボールを受けるどころでは無かった。しばらく練習を続けていたドロシーにも、疲れが見え始める。
「だ、ダメです!全然出来ません…!」
「諦めずに頑張りましょう…と言いたい所ですが、やはり今のままでは難しいと言わざるをえません」
オーウェンがはっきりと言うと、ドロシーは落胆した様子で言った。
「…やっぱり、私にはレシーブは無理なんでしょうか」
「ふむ…。ドロシー様が、なりふり構わないと言うのなら1つだけ解決策がありますが…少し恥ずかしい想いをさせてしまうかもしれません」
「構いません!私の至らなさで、皆に迷惑をかけたくなんてありませんから!それで…どうすれば良いんですか?」
と尋ねるドロシーの腕をオーウェンが掴んで、両側から胸を挟み込む。巨大な胸がさらに盛り上がり、体操着の上からでも谷間がわかるようになると、ドロシーは顔を真っ赤にしながら慌てて言った。
「こ、コーチ!?何を…」
「バレーボールのルールは単純で、身体の何処かにボールを当てて、相手のコートに返せば良いんです。ですから腕でボールを返すのではなく、胸でボールを返すのです。そうすれば無理に手を組む必要はありませんし、むしろ腕より表面積が大きいのでボールコントロールはしやすくなると思います。ドロシー様の豊かな胸は決して弱点などではないのですよ」
「こ、コーチ…わかりました、私やってみます!」
「その調子です。さぁ、私たちの特訓はまだまだこれからですよ!」
オーウェンとドロシーの猛特訓はその夜以降も続く。そして、大会前日。中庭には、あらゆる方向から撃たれたサーブを、胸で正確にレシーブする頼もしいドロシーの姿があった。
ーーーーーー
いよいよ新入生歓迎球技大会の当日、男子と女子はそれぞれの会場へと分かれて向かう。
「頑張ってくださいね、オーウェン様!」
「はい、俺もシャル様達のご健闘をお祈りしています」
とオーウェンがシャルロッテ達に声をかける。ドロシーも自身に満ちた表情で言った。
「コーチに教えてもらったこの技で、必ず勝ち抜いてみせますから!」
「この2週間、よく頑張りました。ドロシー様なら必ず出来ると、俺は信じていますから」
「は…はいっ♡」
などとオーウェン達が言葉を交わしていると、トーマスがジト目をしながら言った。
「結局、お前は2週間ボールを避け続けていただけだけどな…」
「トーマス達がしっかり当てさえすれば問題ないだろう。それに万が一の秘策は考えてある」
「秘策?どんなだよ?」
「いずれ時が来ればわかるさ」
そう言うと、オーウェン達は屋内競技場へと向かった。
結論から言うと、シャルロッテ達は決勝戦で敗退した。敗因は明白で、豊満な胸に嫉妬した女子達に、ドロシーが初戦から狙われ続けたことである。決勝戦になる頃にはドロシーの胸はパンパンに腫れて、もはや試合の続行は不可能だった。代わりに控えだったベアトリスが駆り出されたのだが、胸が大きいという同じような理由で狙われ続けてしまう。ドロシーのような特殊な訓練を受けていなかったベアトリスはレシーブを受けることができず、シャルロッテ達はほぼストレートで負けていた。
ドロシーが涙を拭いながら、皆に謝る。
「ごめん…なさい。わ…私がもっと…しっかりしてれば…グスっ」
「ドロシーちゃんのせいじゃないわよ。…私達もフォローが足りなかったし、すごく良いレシーブするから頼りすぎちゃってたのよ。むしろ、ドロシーちゃんのおかげで決勝戦まで行けたって言ってもいいくらいなんだから、胸を張りなさいよ」
「有り難う…ございます…。でも、これ以上…胸を張るのは…ムリです」
とドロシーが涙ながらにアイリーンに冗談を言うと、釣られてシャルロッテ達もクスクスと笑っていた。
しばらくして、シャルロッテが皆に呼びかける。
「さぁ、私達の決勝は終わりましたが、オーウェン様達の決勝戦はこれからですわ。皆で応援に行きましょう」
『おーっ!』
掛け声と共に、シャルロッテ達は男子の決勝戦会場である室内競技場へと向かった。