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本気の3割

ルーイヒが、オーウェンの方天画戟を目にして呟く。


「おいおい…エルフが、そんなデカい得物を扱うとは聞いてねぇぞ?」

「本気で来いと言われたからな…マズかったか?」

「フン…遠慮してんじゃねぇよ。良いに決まってんだろ?」

そう言うと、ルーイヒも自身の収納バッグから巨大なバトルハンマーを取り出す。ミスリルで出来たバトルハンマーには歴戦の傷が残っており、ルーイヒがこれまでたくさんの強敵を退けてきた事を示していた。


オーウェンがバトルハンマーを見て、ルーイヒに話しかける。

「いい武器だな、良く使い込まれている」

「ハハ、お前の物も中々だな。この試合が終わったら持たせてくれよ」

「いいだろう、ただし持てたら…の話だがな」

「ハハハ、相変わらずエルフって種族は一言多いな。まぁ嫌いじゃないぜ、勝ち気な性格のやつは物怖じしねぇから…なッ!」

そう言うとルーイヒは、勢いよくバトルハンマーをオーウェン目掛けて振り下ろした。オーウェンが方天画戟でこれを軽くいなすと、ルーイヒは嬉しそうにスキルを使ってさらに打撃の速度を上げていく。


「スジがいいな、オーウェン!学院で学ぶよりも、俺と一緒に旅に出たほうが勉強になると思うぜ!?」

「断る。王女殿下達の護衛という任務の最中だからな」

「少しは悩むフリでもすりゃあいいのに、可愛げがない…なッ!」

「それは悪かった、上手く嘘をつけないタチでな!」

とオーウェン達が撃ち合う度に轟音と衝撃波が飛び交う。


急にルーイヒがオーウェンから少し距離を取って言った。

「オーウェン…まだ本気出してねぇだろ?」

「…バレたか」

「あぁ、バレバレだ。傷つけないようにと手加減しているのがな」

「さっきも言ったが、殺さないようにするのは難しいのだ」

「あぁ、そうだろうな。お前とこうやって撃ち合って分かったぜ、さっきのは冗談じゃ無いってことがな。ちなみに今の撃ち合いは何割といった所なんだ?」

「1割にも満たない。前にちょっと力んだ時は、危うく仲間まで巻き込みそうになったからな」

「これで1割に満たないって言うのか…。なら、3割くらいの力を見せてくれ。俺の全力でギリギリ止められると思う数値だ」

「全く…どうなっても知らんぞ…」


そう言うとオーウェンは、空高く跳躍した。オーウェンが素早く方天画戟を振り下ろすと空間が歪み、つん裂く風切り音と共に斬撃が放たれる。レオネに放ったものよりも少しだけ強めの斬撃は、ルーイヒにとっては十分死を覚悟出来るほどのものであった。ルーイヒが瞬時に防御魔法を三重に張りバトルハンマーで衝撃を抑えようとするが、オーウェンの斬撃は防御魔法を容易く引き裂いた。ルーイヒのバトルハンマーに斬撃があたると、火花を散らしてミスリルが裂け始める。ルーイヒはその後も手元に防御魔法を5回も重ねがけし、遂に斬撃をかき消す事が出来た時には、バトルハンマーの頭部があと数cmで切断されそうになっていた。


額にダラダラと汗をかいたルーイヒが肩で息をしながら言った。

「…危なかったぜ、本気で死ぬかと思った」

「なるほど、流石は名のある冒険者だ。俺の力の一端を垣間見て、自身との差がどのくらいか把握するとはな」

「それって誉めてるのか?聞く人によっちゃ、バカにされていると思われてもおかしくないぜ」

「もちろん誉めたつもりだが」

「だよな、悪気があるようには見えねぇしな。…あ〜ぁ、井の中の蛙って言葉がそっくり自分に跳ね返ってきちまった。後輩達の前で不甲斐ない姿を見せちまったぜ」

「気にするな、今の打ち合いを見てお前を見下す者は、相当にセンスが無いヤツだろうからな」

とオーウェンが言うと、ルーイヒは少し驚いた顔をしながら言った。


「不思議なヤツだな、お前…気に入ったぜ、オーウェン。お前がこの学院を卒業したら、真っ先にスカウトに来てやる」

「任務が片付いていれば、多少は考慮してもいいだろう」

「お、いい返事だぜ。しっかり学んで強くなれよ、オーウェン!文句無しの合格だぜ」

とルーイヒが言うと、試験官がオーウェン達全員の3年Sクラスへの編入を告げた。


かくしてオーウェン達は、1人も漏れる事なくSクラスへの編入を果たした。試験を終えたオーウェン達にダフネが挨拶をする。


「まずは編入試験の合格おめでとう。貴方達の戦い方を見て、これまでのエルフに対する認識を改めなければいけないわね。貴方達が多くの生徒と関わり、さらに研ぎ澄まされていくのを楽しみにしているわ。まずはクラスの仲間達と慣れることね」

『はい!』

とオーウェン達が元気よく返事すると、ダフネは満足そうに校舎の方へと戻っていった。ちなみにその後、ルーイヒは方天画戟を持たせてもらったのだが、膝くらいの高さまでやっと持ち上げて言った。


「オーウェン…どんな鍛え方したらこんなもん振り回せるんだよ?」


その日、学院内はオーウェン達の話で持ちきりだった。突如現れた美男美女が見せた数々の才能の片鱗は、英雄を目指す多くの生徒達を夢中にさせるには十分だったようで、次の昼休みにはエルフファンクラブの設立が宣言され、放課後には100名近い生徒達が会員となっていた。

ーーー


翌日、オーウェン達が登校すると、Sクラスの前にはシャルロッテ達目当ての多くの男子生徒や、ナサニエル達にファンレターを渡そうとする女子達でいっぱいだった。シャルロッテの側には白金の鎧を纏ったオーウェンの姿があるため男子達は近づけなかったが、ナサニエルやグレン達は大勢の女生徒に囲まれて何やら色々贈り物をもらっていた。


キャアキャアと騒ぐ生徒達をかき分けてオーウェン達が教室に入ると、広い教室に10人ほどの生徒達が疎らに座っている。窓際に座る生徒2人はまるで関心がないように外を見ており、1人は机に突っ伏しており、残りは表情で明らかに興味津々か毛嫌いしているかがわかった。そのうち女子生徒3人が駆け寄ってきていった。


「うわぁ、やっぱエルフの子達って可愛いぃ♡」

「今日から同じクラスだね、よろしく!」

「編入試験拝見しました、皆さん優秀ですね」

と声をかけられ、ナサニエルが満面の笑みで「あぁ、どうも。ありがとう」と返そうとする。すると、一番前で机に足を乗っけていた男が急に大声で言った。


「勘違いすんなよなッ、皆がお前たちの事を歓迎しているわけじゃねぇんだッ!」

その言葉にシャルロッテ達がビクッと身体を震わせると、オーウェンは庇うように前に出て言う。


「お前も勘違いしているようだが、机は足置きじゃないぞ」

「あぁッ!?なんだ、てめぇは!?」

「オーウェンだ、よろしくな」

「誰が自己紹介しろっつったよッ!!」

「…お前が聞いたんじゃないか」

と言っていると、後ろにいた女子が机をバンっと叩いて立ち上がる。


「…アンタ達さっきからうるさいのよっ!オーウェンと言ったかしら、アンタの連れ目当てで集まったガヤが目障りなの、さっさと教室に戻るように言って来なさ…」

すると、タイミング良くダフネと担当教官が教室に来て、生徒達は慌てたようにゾロゾロと帰っていく。そのまま黙り込んだ女子にオーウェンが言った。


「ガヤは自主的に教室に戻っていったぞ、良かったな」

「う…うるさいっ!」

「すんなり問題が解決したというのに、何を怒っているんだ…?」

とオーウェンが呟いていると、ダフネが入ってきて言った。


「英雄たる者、不要な争いを避けるように冷静な行動を取るべきと教えているはずよ、トーマス」

「チッ…すんませんでした、ダフネ学院長」

「貴方もよ、アイリーン。生徒達が廊下に集まったのは彼らのせいじゃないでしょ?」

「で、でもこの人達が来たせいで…」

「オーウェン達はルドルフ陛下に招待されて、この国に来ているの。それを知ってもなお、自身の正当性を主張するなら聞いてあげるわよ?」

「い、いえ…すみませんでした。ダフネ学院長」

「そう、素直でよろしい。さぁ、それでは早速自己紹介といきましょう。ただし内容は名前と目標だけ、出身や身分はこの学院では何も意味を成しませんからね」

そう言うと、ダフネは担当教官に任せて部屋を出て行った。担当教官が前に出て呼びかける。


「ハハ、なんか朝からギクシャクしちゃったみたいだね。じゃあまずは自己紹介から行こうか、僕の名前はジュード。Sクラスの担当教官で君達を未来の英雄にする事が目標です、なんちゃってね」

と言うとジュードは、コツンと自分の頭を小突いて昔のアイドルのように戯けて見せた。

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