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皇都 オネット

例のゴタゴタから1週間、ようやくオーウェンも段々と自身の置かれた状況に慣れて来た。最初は広いベッドの上でシャルロッテ達と距離を取ろうと努力していたが、朝起きると必ずシャルロッテ達に囲まれているため、オーウェンはそういうものと割り切るようにした。今ではオーウェンが床に入ると、その腕に4人が横たわってくるというのが当然になっている。ベアトリスの言った通りシャルロッテ達の寝不足も解決し、皆本来の明るさと美しさをすっかり取り戻していた。


頬に手が触れる感覚でオーウェンが目を開けると、シャルロッテが上目遣いでオーウェンの顔を覗き込んでいる。

「おはよう御座います、オーウェン様」

「あぁ…おはよう御座います、シャル様。よく眠れましたか?」

「はい、今日もオーウェン様のおかげでぐっすり眠れました」


そう言うとシャルロッテは満面の笑みを見せる。少し寝ぼけていたのか、オーウェンがシャルロッテの髪を無意識に撫でると、シャルロッテは嬉しそうにオーウェンの胸に頬擦りしてみせた。その後もイザベルやドロシー、ローラがおはようと挨拶をして起きだすと、オーウェンは1人ずつ丁寧に髪をといてあげたりしていた。すると操縦室のエルヴィスから連絡を知らせるランプが点灯し、オーウェンは鍵についた“通話ボタン”を押して話し始める。


「おはよう、エルヴィス。何かあったか?」

「おはよう御座います、我が主。後3時間程でパシフィス皇国に到着しますので、一度お声掛けをと思いまして。朝食はダイニングルームに用意してありますので、適宜取られてください」

「あぁ、ありがとう。それと…エルヴィス?」

「何でしょうか、我が主?」

「この前も伝えたが、パシフィス皇国では俺のことも可能な限り名前で呼んでくれ。シャル様達付きの護衛がお前の主人では、変な勘繰りをされるかもしれんからな」

「これは失礼を致しました、オーウェン様…こんな感じでよろしいでしょうか?」

「あぁ、バッチリだ」

そう言ってオーウェンは通話を終了する。


シャルロッテ達が自室に戻り着替えている間に、オーウェンがバスローブのままダイニングルームへと降りていくと、ナサニエルやコリン達がエルヴィスの(こしら)えたサンドイッチを頬張っているところだった。


「おぉ、オーウェン!おはよ!」

「おはよう。朝から元気だな」

「エルヴィスさんの作ってくれたサンドイッチが美味しくてさ!それにいよいよパシフィス皇国に着くんだ、人族の国は初めてだからワクワクしちまうぜ!」

「フフ…楽しみにするのは構わないが、あまり張り切り過ぎないことだ。浮き足立っている時こそ、足を掬われやすいからな」

「おぅ、気をつける!へへ」

などと言いながら、ナサニエル達は楽しそうに談笑を続けていた。


朝食を取った後、トレーニングルームでお決まりのメニューをこなして汗を流したオーウェンがシャワーを浴びて出てくると、ケイト達がデッキで何やら騒いでいる。オーウェンが濡れた髪をタオルで拭きながら、近づくとケイト達は驚いて顔を赤らめつつ言った。


「あ、お…おはよ!オーウェン!」

「おはよう、ケイト。皆で何を騒いでいたんだ?」

「さっきとっても大きな塔があったのよ、もう通り過ぎちゃって見えなくなったんだけど…」

「歴史的な建築物かもしれんな…機会があれば皆で見物にでも行くか?」

「うん、そうしよっ!」


ケイトやオードリーが嬉しそうにしていると、エルヴィスがデッキまで降りてきて言う。

「オーウェン様、後30分程で着きます。早くお着替えにならないと皆様に置いていかれますよ?」

「あぁ、そうだな」

オーウェンはそう言うとステータス画面の指定装備に登録していた白金の鎧に一瞬で着替えてみせた。


皆が驚いて集まる中、エルヴィスが尋ねた。

「お、オーウェン様!今のは一体どうやって?」

「ステータス画面の指定装備と書かれた項目から、以前登録した装備に一瞬で着替えられる事をティンカー達に教えてもらった。だが気を付けろ、装備が未設定のままの場合や設定した装備が手元に無い場合、着替えるボタンを押すとその部分は真っ裸に…」

と言いかけた途端、側で試していたナサニエルが一瞬で生まれたままの姿になる。オーウェンは眉をピクリとも動かさず、ナサニエルを指差して冷静に言った。


「そう…こういう風になるんだ」

ーーーーーーー


〜〜〜パシフィス皇国の皇都「オネット」には幾つかのエリアがある。多くの貴族達が住む特別エリア、豪商達が中心となった経済エリア、多くの市民が暮らす普通エリアと貧困層が住む保護エリアと分かれており、特別エリアと他エリアは分厚く高い壁で仕切られている。そしてこの壁の一部に併設されたのが英雄養成学院であり、ここには多くの貴族と資格があると認められた市民達が入学出来るのである。ヴァルドの王都に比べると、オネットは倍近い広さで行き交う人達も非常に多く街は活気に溢れていた。〜〜〜


近づく街の様子を見て、オーウェンの隣に並んだナサニエルが呟く。


「うぉー、建物も大きいしヒトも多そうだなぁ…」

「オネットはこの地域の都市の中で最大級だとティンカーから聞いている。普通エリアに住んでいる市民達も、他の国に比べれば裕福な部類に入るそうだ」

「ふーん…。俺達は何処を拠点にして活動するんだ?」

「特別エリアには強力な結界魔法がかけられているらしく、迷宮スキルが使えるかわからないそうだ。だが、それ以外のエリアには結界がかかっていないから、迷宮スキルを発動させたこの船でそのまま侵入できる。普通エリアに適当な借家を借りて、その上空に船を着けてエレベーターを設置すれば、今まで通りこの船で過ごせるだろう」

「そっか、いちいち物を持って移動しなくて済むから楽だな」

「そういうことだ」

そういうと、オーウェンは皆に呼びかけた。


「俺は一度船を降りて、ヴィルヘルム様から預かった親書の受け渡しと皇都に滞在する手続きをしてくる。適当な借家を見つけたら船を着けられるようにするから、お前たちはこのまま船に乗って待機していてくれ」

『はーい』

とナサニエル達が返事すると、オーウェンは(おもむろ)にデッキの手すりに登った。


驚いたナサニエルが声を上げる。

「お、オーウェン!?この高さから飛ぶつもりか!?」

「風魔法を上手く使えば、着地の衝撃は抑えられるからな。飛空艇の高度が下がるのを待つ必要はあるまい」

そう言うとオーウェンは躊躇なく飛び降りていった。


ナサニエル達は「…アイツには恐怖心ってもんがねぇのか?」などと言いながら落ちて行くオーウェンの様子を見守っていた。


地上に降り立つと、オーウェンは門番達の下へと向かう。門番達は、オーウェンが金字で模様を彫った白金の鎧を身につけていたため、兜で顔は確認できないが高貴な身分だろうと察して、(うやうや)しい態度で近づいてきて尋ねた。


「そ、そこの御人…オネットには何用で来られたのでしょうか?」

「こちらの国から、我々を招待する手紙を受けて参上した。我が国の王から預かった親書もある、速やかに取り次ぎを願いたい」

「特使のお方でございましたか!了解しました、速やかに取り次ぎますので今しばらくお待ちください。…ところで『我々』と申されましたが、他のお方達は?」

「…王女殿下達は安全なところで待機させているが、問題あるか?」

「いえいえ御座いません、今すぐに取り次いで参ります!」


そう言うと門番は詰所の方へ走っていった。

ーーーーーーー


一方、皇都にある城の中では、オーウェン達が到着した知らせを受けて騒然としていた。


「巫女様のお手紙が届いたのは、半年ほど前だったはずだぞ!?」

「我々の手の者が2年あまりの時間をかけたのに、その者達はこの短期間でどうやってここまでたどり着いたというんだ!?」

「しかも、英雄養成学院へ入学を希望する旨も記されている…どうやって英雄養成学院の存在を知ったんだ!?」

などと集まっていた者達が騒いでいると、パシフィス皇国の76代目である皇帝ルドルフ・ケーゼル・フォン・フリーデンは、杖で床をカツカツと叩いて言った。


「鎮まれ、皆の者。どうやってその者達がここへ来たかはさておき、彼らの行動は我ら巫女の意のままとなった。その者達を通してやれ、望むのなら英雄養成学院への編入試験も特別に許可してやろう。…これでまた、この国の平穏を保てるということだ」


ルドルフの言葉に、臣下達は再びヒソヒソと話し始める。

「た、たしかに陛下の言う通りでございますね…」

「気難しいエルフのことですから説得にもっと時間がかかると思っておりましたが、存外彼らも手懐けやすいかもしれませんなぁ、ハッハッハ」

などとルドルフに賛同してふざけている者もいた。


彼らはまだ知らない…、エルフの中でも随一の切れ者であるオーウェンが、既に彼らの意図に気付いた上で乗り込んできた事を。

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