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オーウェン達の奮闘

ケイトとオーウェンの小隊はシード枠となり、他の小隊の試合が先に始まった。

オーウェンのシード枠に皆は意気消沈…と思われたが、そんな事は全然なかった。むしろ、初戦敗退のリスクが減ったことで活躍出来る場が増えると考え、どの隊も俄然やる気になったようである。


ナサニエル達の小隊が、第一試合に臨む。受け持つ小隊に向かって、ナサニエルが小声で指示を出した。

「いいか、訓練の時のように5人1組で索敵を行う。敵兵に接触した班は交戦せずに、木霊(こだま)を使って連絡を取れ。各班の連携は俺が図る、いいな?」


〜〜〜木霊(こだま)は木々に宿る精霊である。一部のエルフは彼らから情報を教えてもらったり、また彼らを通じて広い範囲で仲間と連絡を取ることが出来るため、通信兵として活躍する。〜〜〜


ナサニエルの小隊には幸運な事に7人もこの特性を持ったエルフがいたため、他のチームより索敵範囲を一気に広げる事が出来た。


早速、南側を索敵していたチームから敵を見つけたと報告が入り、ナサニエル達は遠巻きに取り囲むように陣を張って様子を伺う。相手には通信兵が少ないのだろうか、等間隔で列になりチーム全体が互いにコミュニケーションを取れる範囲で索敵を行なっている。よく見ると、先頭と後方で木霊に指示を出しているものが一人ずつ確認できる。どうやら、前後の連絡のみに木霊を使用し、それ以外は口頭で確認しているようだ。


長蛇(ちょうだ)の陣だな…各班前後より同時に攻撃を。まずは通信兵を落とせ」

ナサニエルの指示を受けて前後を挟んでいた班から矢が放たれると、敵の通信兵は一瞬にしてHit pointが上限値を超え、戦線離脱した。残された兵士達にも矢を射掛けようとするナサニエル達だったが、その間に敵は盾と剣を構えて、弓を射掛けた部隊に向かって全力で走ってきた。どうやら当初から、敵に接触し肉弾戦に持ち込む予定だったようだ。急に距離を詰められ、ナサニエル達のチームにも10人ほど離脱者が出る。


その後は距離を取っては矢を射掛け、詰められては剣で切られと繰り返していたが、最終的にはナサニエルの小隊が4人だけ残った状態で試合終了となった。両チームとも頭や胸などの高ポイント部位を狙った攻撃が少なかったため、結果は4人生き残ったナサニエル達が勝利となる。当人達からすれば泥仕合(どろじあい)だったが、観客達の見方は違った。それぞれのチームが必死の形相で敵を追い込む姿は、まさに戦士達の戦いそのものだった。


その後も順調に試合が進む。オーウェンはケイトのチームをあっさり破り、準決勝の敗退チームとの試合も難なく破った。そして、決勝戦にはオーウェンとナサニエルの小隊が進んだ。決勝戦は14時からで休憩を挟むため、それぞれの小隊はフィールドを後にする。


スタンドの方では、公爵家の者達が満足そうな様子で試合を見ていた。

「いやぁ、朝から驚かされっぱなしですな。王都の新兵くらい動けているんじゃなかろうか」

「さすがに、そこまでは…しかし馬上から弓を射るなど、草原地帯の者だけの技と思っていましたわ」

「…いずれにしても、彼らは初等学院では抜きんでた存在になるでしょうな」

などと、着飾った者達は思い思いに話していた。

ーーーーーー


一方、シャルロッテ達は試合にあまり興味がないようだった。


「…退屈ですわ」

「シャル姉さまったらぁ…。あの子達の動きはとても凄かったですよぉ?私達と同い年でこんなに動けるなんてぇ…」

「えぇ…確かに、凄かったですわ。でも、せっかくこんなに綺麗な森があるのに、戦いだなんて勿体なくありません事?私なら、静かな森で木漏れ日を感じながら、ゆっくりとお茶を…」

と言いかけたシャルロッテの目に、フィールドの遠隔映像の一部が映る。


(…あ、あの花ですわ!)

映像に一瞬映った花を、シャルロッテは見逃さなかった。


「ベル…お花が…」

「シャル姉さまぁ、お手洗いに行きたいのぉ?」

クロエがチラッとシャルロッテの方を見た。

「そ、そうなのよ。朝から行けなくて大変だったし。お母様、(わたくし)お花を摘みに行って参りますわ。さ、ベルも行きますわよッ」

「えぇー、私もですかぁ?」

シャルロッテ達が階下へ向かおうとすると、クロエが(いぶか)しげな表情で言った。


「シャル、そっちはお手洗いではありませんよ」

「せ、選手達の労いもしてあげたいと思いますので、別の所を使わせて頂くだけですわ」

「そうですか…決勝戦が始まるまでには、必ず戻ってらっしゃい」

「わかりましたわ、お母様」

そう言うと、シャルロッテとイザベルは二人で駆けていった。


シャルロッテがベルの手を引きながら、こそこそとフィールドに入っていく。

「シャル姉さまぁ、こっちはお手洗いではありませんよぉ?」

「ベル…(わたくし)先程、遠隔映像でフィールドに生える例のお花を見つけたのよ!心配ないわ、試合が始まる前に戻ればいいのだし」

「シ…シャル姉さまぁ、お母様に嘘をついたのですかぁ?」

「あら、()()()()()()()()と言ったんだもの。嘘は言っておりませんわ」

「後で、怒られちゃいますぅ」

などと話しながら、2人はどんどん森の奥へと入っていった。


ーーーーー休憩時間が終わって…


ナサニエルとオーウェンの小隊が、観客達の前で互いに挨拶を交わす。

「やっぱり決勝の相手はお前だったな、オーウェン。だが、今回ばかりは負けられないぜ」

「フフ、今回も俺が勝ってみせよう」

などと2人が言い合って火花を散らしていると、観客も「いいぞ」だの「頑張れ」だの声をかけてくれる。


そんな時だった。

けたたましい警告音が会場全体に鳴り響く。観客達は「なんだ?」「演出か?」などと辺りをキョロキョロと見渡す。


「警告。ただいま、魔物による結界魔法への攻撃を確認。選手は指定の場所へ退避せよ。繰り返す…」


アナウンスを聞いていたナサニエルが、チッと舌打ちをする。

「オーウェンが言ってたヤツか、試合は中止だな」

「安全第一だからな、ほら待機室に移動するぞ」

オーウェンが呼びかけると、選手達はゾロゾロと待機室へ向かっていった。


オーウェンがふと観客席を見上げると、アウグストとクロエが慌てた表情で会場を走りまわっている。ナサニエルに皆の先導を頼み、オーウェンは馬上から観客席にひょいと飛び移り、アウグストの所へ急いだ。


「父上!どうかされましたか?」

「オーウェン!…シャルロッテ王女殿下とイザベル王女殿下を見かけなかったか?」

「私は見ておりませんが…」

「お花を摘みに行くと言ったまま、戻られていない!会場をくまなく探しているが、見つからないのだ!」

「あの子達、まさかフィールドに入ったんじゃ…」

クロエの言葉を聞き、オーウェンがすぐに、音響魔法で呼びかけた。


「通信兵!木霊に森の中に誰がいないか、すぐに確認させよ!」

十数秒後に「捕捉。2名のエルフの報告あり」と連絡が入る。位置を特定するよう指示し、オーウェンはアウグストに報告する。

「父上!二人はフィールドの中に入ったようです!現在位置を特定させています、早急に兵を向かわせてください!」

「本当か!ならば、今すぐ兵を…」

と言いかけた際に、観客席から大きな悲鳴が上がった。

なんとフィールドのある森の傍から、納屋ほどの大きさの熊が出てきたのだ。


観客席側は防壁魔法を張っているため、簡単には破られない。しかし攻撃され続ければ、いずれ壊れてしまいかねない。アウグストが声をかけるよりも早く兵達は戦闘態勢を取り、これに応戦する。

「報告ほどではないが、でかいな…」

アウグストが額の汗を拭っていると、警告音が再び会場に鳴り響いた。


「フィールドの結界魔法に破損を確認。フィールド内への魔物の侵入を確認」

「な、なんだとッ!?他にもいるのか!?」

「魔物が複数居るようですね、兵はあれで全てですか?」

「あぁ、王都より要請があったため、こちらには最低限の兵士しか残していないのだ…」

クロエが真っ青になって倒れかけ、アウグストが慌てて支えた。


一息ついた後に、オーウェンが言う。

「…父上、我々が王女殿下の救出に向かいます」

「何を!?…いくらお前達でも、魔物には敵わんぞ。それに…万が一、報告にあった大きさであれば…」

「交戦は避けます!魔物が既に侵入しているのです!最早、一刻の猶予もありません!」

「…そうだな。わかった、オーウェンよ。王女殿下達を救出し、速やかに戻れ」

「ハッ!」


オーウェンは音響魔法で騎兵へ呼びかける。

「騎兵隊は速やかに隊列を編成し、俺の到着を待て。ナサニエル、俺の馬と方天画戟(ほうてんがげき)を用意させろ」


オーウェンが観客席の間を縫うようにして皆の方へ戻ると、ナサニエル達はすでに馬上で待っていた。

観客席から馬に飛び乗り方天画戟(ほうてんがげき)を担ぐオーウェン。

ナサニエルが馬を近づけてきて聞く。


「オーウェン、何があったんだ!?」

「王女殿下2人がフィールド内で迷われている。魔物の侵入を確認したが、父上の兵は客席近くに出現した魔物の対処で、救出に行くことはできない。俺達で王女殿下を救出するぞ」

「俺たちだけか?無謀過ぎるだろ!」

「交戦はしない、王女殿下を救出したら速やかに撤退する。今は時間が惜しい、行くぞ!」

そう言うと、オーウェンが馬を走らせナサニエル達がそれに続いた。


馬を走らせながら、ナサニエルがオーウェンに話しかける。

「位置は…西の入場ゲートから南へ150mほどの所だ。木霊が風の音で道を知らせてくれるらしい!」

ピィーという口笛の様な音が鳴り出すと、オーウェン達はその方向へひたすら馬を走らせていった。

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