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神託の巫女

〜〜〜神託の巫女は、文字通り神託を受け取る巫女達のことである。ただし彼女達は、ティンカーがゼウスに神託を受ける時のように祭壇を用意する必要がない。彼女達は生まれた瞬間から神術を自然に使う事が出来るため神託を常に受信し続ける、謂わばアンテナのような役割をしている。故に多くの国々にとって国教を定めることは、国の方針に関わる判断を誤らないようにするために必須のことであった。中でもパシフィス皇国は伝統宗教の代表格であるアルモニア教の神託の巫女を有しているおかげで、この数百年は大きな争いを起こす事なく平和な統治が続けられてきた。〜〜〜


「その『神託の巫女』という者の能力があれば、このように離れた土地にいる全く会った事もないヒトの動向を探る事もできるのか?」

ヴィルヘルムが訊ねると、ティンカーは首を横に振って訂正した。


「彼女達は探っているんじゃなく、()()()()()んです。まぁ簡単に言えば、この世界で“起こっている”あるいは“起こりうる”様々なことが、神々の目を通してランダムに彼女達に伝えられているということです」

「なんと!…そのような能力を持つ者がいるのか」

「ええ。他にも神託の巫女には色々な能力があるようですが、多くは秘匿されているのでボクがわかるのはこれくらいですけどね」

「ふむ…」

すると考えこんだヴィルヘルムに代わり、オーウェンがティンカーに尋ねた。


「…そのパシフィス皇国とやらは、強国なのか?」

「そうだね。国土が広くて軍隊の規模が大きく同盟国も多いってのもあるけど、何より彼らは英雄養成学院で将来英雄になり得る人材をたくさん有しているからね。冒険者の中でも所謂(いわゆる)ランカーと呼ばれる人達は、そこの学院出身者が多いのさ。それに、その学院は素質のある者には身分や人種にとらわれることなく無償で教育をうけさせてくれるから、卒業生達の思い入れも深いんだよね」

「つまり対応を誤れば、大規模な軍隊と大勢の勇者級の力を持った者達を敵に回さなければならんということか」

「まぁ…そういうことになるだろうね」

オーウェンがその言葉を聞いて無言になる。


「…敵対はもちろん無視する事もできない。…やはり従うしか他無いのか」

とヴィルヘルムが落胆する側で、オーウェンが手紙を読み直して言った。


「…ティンカー、パシフィス皇国の王位継承権を持つ者は何人ほど居るか知っているか?」

「ざっと数えても30人くらいはいるけど、主だった人は8人くらいでその内の3人は現王の子供だったかな。確か1番歳上の子は、歳もボク達と一緒で、序列は3番目くらいだったと思うけど…」

「なるほどな」

オーウェンはそう言うとヴィルヘルムに向き直って言った。


「ヴィルヘルム様、シャル様とベル様に加えて私と私の選出した者達の同行を許してもらえませんか?」

「何故だ?」

「彼らはシャル様達を国に招いていますが、それ以外の者が付いてくる事には言及していません。そして、『ゆくゆくは両国に根差す血脈を…』と書いてありますが、具体的に王家同士と言及しておらず、また期限についても言及がありません」

「確かにそうだが…それでどうすると言うのだ?」

「序列の低い者に手を貸し、王位に就かせます」

「!!…敵対でも無視でもなく彼らの内情に“介入”しようというのか」

ヴィルヘルムがオーウェンの意図を汲み取り、額に汗を滲ませる。オーウェンは続けた。


「はい。王位継承権を持つ者にとって、自分以外の者が王に選ばれることは容易に納得出来るものではありませんし、それを支える派閥同士の対立は出てくるものです。そして多くの人間が集まれば、正統な理由をねじ曲げてでも王位を勝ち取ろうとする者が出てきます…それが例え王の命令や神託の巫女が下したものであろうとです」

「上手く行けばこちらの要求を通しやすくなるということか…だが、もし失敗した時はどうする?」

とヴィルヘルムが言うと、ティンカーが代わりに答えた。


「その時は対立派閥に属しているという理由で、王位に就いた側は周囲からシャル様達との結婚を反対されるだろうし、味方した派閥に対しても政争の種になると言って血縁関係を結ばないように出来ると…そういう事だよね、オーウェン?」

「あぁ、そういうことだ。…どうでしょうか、ヴィルヘルム様?」

オーウェンが尋ねると、ヴィルヘルムは深くため息を吐いて言った。


「危うさもあるが、他に比べれば一番可能性が考えられる選択肢ではあるか…。いいだろう、お前の思う通りにやってみるが良い。だが一つだけ約束しろ…シャルロッテとイザベルに涙を流させるような事があってはならん」

「勿論です、決して辛い思いはさせないと御約束致します」

オーウェンの自信に満ちた返事にヴィルヘルムは安心したように頷いた。するとティンカーが尋ねる。


「そっちで話がまとまったのは良いんだけど、この話をどうやって2人に話すつもり?結婚も出来ない上にそんな企みだらけの話、普通に嫌がると思うんだけど」

『…あ』


その後もオーウェンとヴィルヘルムが頭を抱える時間はしばらく続くのだった。

ーーーーーー


数時間後、オーウェンは学院へと移動しシャルロッテ達やナサニエル達を呼び出して言った。


「実は知り合いの人間の国から、シャル様とベル様宛に観光を兼ねた留学の誘いが来ている。ヴィルヘルム様も良いんじゃないかと仰られているのだが、やはり他国に行くとなると護衛が必要になる。そこで、鳳雛隊がシャル様達の護衛として付き従う事を提案したのだが、どうだろうか?」

オーウェンの言葉にローラが手を挙げて言った。


「私やドロシーの事は…どうするつもり?」

「俺の方からヴィルヘルム様に進言し、共に留学出来るように手配する旨を手紙を書いて頂くつもりだ。ドロシー様にも、後日俺から伝えておく」


オーウェンの言葉にローラがホッとしたように微笑んだ。すると今度はナサニエルが手を挙げて言う。


「ケイト達は大丈夫なのか?フレッドとコリンも騎士見習いとは言え入隊しているし、スケジュールとかさ…」

「それは確認をとってもらっているところだ。ちなみに、今回の護衛を問題なく務める事が出来れば鳳雛隊の面々を正式なシャル様とベル様直属の騎士隊へと昇格させてもらえる話も出ている」

「マジかよ!?俺達がそのまま王女様お付きの騎士になれるのか!?」

「あぁ、そう言う事だ。ベアトリスには『顧問(こもん)』として今後もシャル様達に付き従ってもらう」

とオーウェンが言うと、ベアトリスは少し怪訝な顔をしつつ「…わかったわ」とだけ答えた。


しかし、シャルロッテとイザベルはあまり乗り気では無い表情で聞く。

「オーウェン様…あの、その留学の話は必ず受けなきゃいけないんでしょうか?また、旅に出るとなると…その…大事なイベントが遅れちゃうんじゃ無いかと…」

と言いながら、シャルロッテとイザベルは顔を見合わせていた。オーウェンは、2人の耳元で呟く。


「ヴィルヘルム様からは、『婚前旅行だと思って行ってこい』と言われています。私も人族流の結婚式というものを観て、結婚式の参考にしても良いのでは無いかと思いまして…」

とオーウェンが言うと、2人は急に笑顔になって言った。


「確かに、良いですね!一生に一度きり(の結婚式)ですから、他の国の(結婚式の)事も勉強しておくのは良い事ですし!」

「ええ、そうですね」

「今のお話、ローラさん達にもお話ししても良いですか?」

「はい、構いません」

オーウェンがそう言うと、シャルロッテ達はローラにもオーウェンの話を聞かせる。シャルロッテ達が盛り上がっている中、ベアトリスがオーウェンの袖をクイクイっと引っ張り、「…ちょっと来て」と別の場所に呼び出した。


「…さっきの話、どこまでが本当なの?」

「!!…何の話だ?」

「とぼけないで。これまでの歴史上、アールヴズが人族の国と交流を持ったことは無いわ。それをいきなりシャル様達を留学に招待するなんて、普通に考えればおかしな話よ」

ベアトリスに指摘され、オーウェンはため息を吐きながらも本当の経緯を話す。聞き終わったベアトリスは深刻な顔をしながら言った。


「つまり、政略結婚を目的とした人質としてシャル様達を差し出せと…そう言う事ね」

「あぁ。無論、俺もヴィルヘルム様もそんな事を許すつもりは無いが、このまま突っぱねるとアールヴズ自体が危うくなる。だから、こちらも策略によって向こうの動きを封じ込めるつもりなのだ…この事は、シャル様達には黙っていてくれないか?」

「言えるわけないじゃない、シャル様達を傷付けるわけにはいかないわ…」

「すまん、恩に着るぞ。…だが、何故俺が嘘の話をしているとわかった?そんなに不自然だったか?」

「…普段は“ビー”って呼ぶくせに、貴方が“ベアトリス”って呼んだからよ。…また何か抱えているんだろうなってね」

「たったそれだけの事で勘づいたのか…。凄いな、ビーちゃんは」

「こういう真面目な話の時こそ、ベアトリスって呼びなさいよ!」


そうツッコみながらも、ベアトリスは嬉しそうに顔を赤らめていた。


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