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オーウェンの体質

オーウェンは、首を傾げながら聞き返した。


「眠れる森の王女?…なんだ、それは?」

「ある地方の童話でね。要約すると、王女様が悪い魔女に呪いをかけられて、何十年も昏睡させられるんだけど、最終的に王子様が呪いを解いてくれて、王女様は再び目を覚ます事が出来るんだ」

「なるほど、たしかに今の状況と似てないでもないな。それで…王子様はどうやって呪いを解いたんだ?」

「キスだよ」

「…ん?」

「昏睡した王女様の口に、ぶちゅーってキスしたんだ」

「…変態じゃないか」

「まぁ確かに、昏睡している王女に何故キスしようと思ったのかは意味がわからないけど。でも、それで呪いが解けたって伝わってるんだよね。童話には、他にもキスで呪いが解ける話は多くってね。ここからは仮説だけど、王子様達はオーウェンと同じように呪いを自分の内側で浄化する力を持っていたんじゃないかな?」

「!…そして、王女の中に入っていたレイスを自分の中に取り込み浄化した、と言うことか?」

「まぁ、あくまでもおとぎ話だから根拠もほとんどないようなもんだけど。でも、レイスは取り憑いたヒトの死期が近くなると抜け出して、他のターゲットを探すとも言われているからね。可能性はゼロじゃないと思うな」

話を聞いていたオーウェンは、覚悟を決めたように言った。


「つまり、俺にドゥッセル様にキスをしろと…」

「強要してるわけじゃないよ?あくまで可能性として話しただけで…」

とティンカーが話していると、オーウェンはおもむろにドゥッセルの側に立ち呼吸を整え始めた。


「お、オーウェン!?嫌なら無理する必要はないと思うけど?」

「…だがもしその話が本当なら、ドゥッセル様が助かりヤツらの尻尾が掴めるかもしれない。ならば…その可能性に賭ける他あるまい」


そう言うとオーウェンは、髪をかき揚げてゆっくりとドゥッセルの唇へ自身の唇を近づけていく。固唾を呑んでティンカー達が見守る中、オーウェンの唇がドゥッセルの唇に届くまで1cm程になった時、急にドゥッセルの身体がビクンッとハネて口や鼻から勢いよくレイスが飛び出してきた。勢いよく吸い込んだオーウェンはしばらく苦しそうにしていたが、以前出会(でくわ)したレイスで耐性がついたのだろうか、10秒ほどで呼吸を整えて言った。


「…ゲホッ。…どうだ、ティンカー?上手くいったのか?」

「ちょっと待ってて、鑑定と分析で観てみるから。…うん、どうやら成功しているみたいだよ!ほぼ浄化することが出来たみたい!顔色も少し元に戻っているし」


そう言ってティンカーが、ドゥッセルの首元で脈を取る。オーウェンがドゥッセルの顔色を確かめると、確かに先ほどに比べればかなり血色が良くなって呼吸も落ち着いているようだった。


ヴィルヘルムが不安そうな顔でオーウェンに尋ねる。

「オーウェン…お前は何ともないのか?」

「えぇ、私は例の“健康体”という体質でどうやら問題ないようですが…」

と話していると、オーウェンの視界の隅に「!」マークが現れる。ステータスを確認すると、スキルの欄に新しく「魂喰らい(ソウルイーター)」というスキルが表示されていた。


「なんだ、これは…」

「どうかしたの?」

と尋ねるティンカーに、オーウェンはステータスを見せる。


「なになに…『魂喰らい(ソウルイーター)…思念体を引きつけ体内に取り込むことで魔素に変換し、自身の魔力を強化出来るようになる』だって…これは、ボクも知らないスキルだなぁ」

とティンカーが言うと、側で見ていたエルヴィスが感心したように言った。


「なるほど。それで、(あるじ)様の魔力量と囲んでいる魔素が急激に増えたわけですね」

「見えるのか?」

「ええ、私自身も大部分が魔素の塊のようなものですから魔素の動きが見えるのです。今の(あるじ)様は普通のエルフに比べて何十倍も濃い魔素が身体を包んでいるんですよ」

「そうなのか…自分ではあまりわからないものだな」

などとオーウェン達が話していると、ドゥッセルが呻き声をあげた。


「う…うぅう…」

「ドゥッセル、聞こえるか?」

「…ヴィ…ヴィルヘルム様…。私は…何故…」

「今は喋らず、休むことに専念しろ」

「は…はい…」

ドゥッセルはそう言うと、再び気を失ったように眠る。ヴィルヘルムが安心したように息を吐いて言った。


「本当に、お前達の知識と能力には本当に驚かされる…だが、良くやってくれた」

「運が良かっただけです、ティンカーも良く教えてくれた」

「いや、割と冗談に近いレベルで言ったんだよ。まさか本当にキスしようとするなんて思ってなかったからさ」

「…え?」

「いやぁ他に出来る事がないのなら、もうおまじないみたいな事に頼るしかないんじゃないかってね。…まぁ、結果的に救えたようで良かったじゃない!」

「…ぁ、あぁ…そうだな。とにかく救う事が出来て良かった」

とオーウェンは複雑そうな表情をしながらも、ドゥッセルの回復を喜ぶ。


一方で、その様子を見守っていたヴィルヘルムやエルヴィスは

(コイツ、冗談で病人とキスさせようとしていたのか…)

と、ティンカーに冷ややかな視線をおくっていた。


しばらくして、オーウェンが思いついたように話す。


「もしかして…ブレイブ様の昏睡状態もレイスによるものでしょうか?」

「…確かに、同じ一派による仕業と考えれば可能性は高いな。ドゥッセルが目を覚ましたら確認しておこう」

「よろしくお願いします」

「これからどうするつもりだ?」

「今日は、ティンカーとゴーシュはプレリに送り、私とオベハ殿は、エルヴィスから魔神に関して調べた結果を聞く予定です」

「そうか、なら部屋を用意させておこう」

ヴィルヘルムはそう言うと、一足先に王城へと帰っていった。

ーーー


その後、オーウェンは迷宮(ダンジョン)スキルでティンカーとゴーシュをプレリへと送りだす。オーウェン達が作ったプレリの王都は2年前と違い、以前よりも更にヒトが増えており活気に溢れていた。ティンカーとゴーシュが嬉しそうに駆けていくのを見送ると、オーウェンは迷宮(ダンジョン)の中へと戻り、エルヴィスとオベハに合流した。オベハはいつの間にかエルヴィスと自己紹介を済ませていたようで、オーウェンが戻ったときには既に話に花を咲かせていた。オーウェンが嬉しそうに話に加わる。


「いつの間にか仲良くなったようだな、エルヴィス」

「オベハ殿から旅のお話を聞かせてもらっていた所ですよ、それにしてもオベハ殿の能力には驚きました。未来に起こりうる選択肢を夢の中で何度も吟味出来たり、どこに行けば目的に近づけるかを予測出来るなんて…私にも『予見』のように優れたスキルがあれば、もっと主殿のお役に立てたでしょうに」

「そんな事はないぞ、エルヴィス。迷宮(ダンジョン)スキルや簒奪者という称号は、今回の旅でどれも必要不可欠なものだった。そして、そのどれもがお前が俺にくれた力だ…お前は十分に俺の力になってくれている」

「あぁ…勿体なきお言葉ですよ、我が主」

「それだけではない。お前が王城の書庫で調査をしながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からこそ、俺は安心して旅を続ける事が出来たのだ。これからも頼りにしているぞ、エルヴィス」

と言って、オーウェンは微笑む。


その言葉に感極まったエルヴィスは、ティンカーから借りていた漫画の影響を受けたのか、「我が生涯に一片の悔い無し!」と叫び片手を天高く突き上げていたが、元ネタを知らないオーウェンは、ただただ微笑み続けるだけだった。

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