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オーウェンの帰還

船を乗り継ぎ半年ほどかけて、オーウェン達はアールヴズへと戻る。迷宮(ダンジョン)スキルを使ってオーウェンが実家へと戻ると、庭先で弓の練習をしていた父アウグストは、とても驚いていた様子で駆け寄ってきた。


「オーウェンか!?」

「ただいま戻りました、父上」

「ハハハ、また大きくなったようだな。本当にお前は、私たちの知らない所でどんどんと大きくなっていく…。さぁ、他の客人達も中に入ってくれ、お前達の旅の話を聞かせて欲しいんだ」

そういうとアウグストは、オーウェンの肩を抱くようにして家の中へと急いだ。


母エレノアもオーウェンの姿を観た途端、大喜びで駆け寄って来て抱きしめる。

「母上…苦しいです。友人達の目もありますので…」

「お母さんだってずっと心配で胸が苦しかったんだから、おあいこですっ!それにお友達のご家族さんだって、愛する息子が帰ってきたらきっとこうするはずよ」


エレノアの言葉に、ティンカー達も帰郷した時の事を思い出したのか赤くなっていた。結局、腕を組むだけでエレノアに妥協してもらい、オーウェン達はアウグストと食卓を囲みながら旅の話をする。ティアマン共和国で冒険者となりオベハと出会った事、オベハの()()()()をした事、ティンカーやゴーシュの実家を訪ねた事など全体的にオブラートに包んで話したが、流石にスノド村で死にかけた話は伏せておいた。話を聞いていたアウグストが、満足そうに頷きながら言う。


「色々な経験をしてきたようだな。オーウェンの事だから、もっととんでもない事をしてきたかと心配していたが…意外と子供らしい落ち着いた旅だったようで安心したぞ」

「…ハハ…心配し過ぎですよ、父上…」

と言いながらも遠い目をするオーウェン。オベハも空気を読んだのか、「いやぁ〜、オーウェンさんにはお手伝いしてもらって、本当に助かってますねぇ」と述べるだけに留めていた。


一通り話し終えて、今度はオーウェンがアウグストに訊ねる。

「こちらは特に変わりはありませんでしたか?」

「そうだな…。まぁ、去年から少し雨の量が減っていて作物の値段がやや高騰しているくらいか。王都の方は、お前がオーズィラから引いた“水道”というもので変わりないようだが」

「そうでしたか。なら、王都に向かうついでに延長しておきますよ。旅のおかげで、距離も延ばせるようになったので」

「本当か!?助かるぞ、オーウェン」

そう言うと、アウグストは少し間を置いて付け加えるように言った。


「えーと、あとは…。オーウェン、お前に妹が出来た」

「父上、付け足したように言うようなことでは無いと思いますが」

「ハハハ、どう話を切り出したら良いものか悩んでな…まぁ、予定はまだ先なのだが」

「驚きましたが、素直に嬉しいです。おめでとうございます、母上、父上」

とオーウェンが言うと、エレノアは嬉しそうに頷いてみせた。

ーーーーーー


翌日、オーウェンは王都に向けて出発する。アウグストとエレノアは、初めてオーウェンの迷宮(ダンジョン)スキルを目の当たりにして驚いていたが、これからはすぐに会いに来れると聞いてとても嬉しそうにしていた。


オーウェン達が王都へ入り、門番にヴィルヘルムへの面会を取り継ぐよう伝えると、程なくして入城の許可が降りた。応接室に向かう廊下から、庭にそびえ立つ大きな世界樹と多くのエルフが祈りを捧げている様子が見えると、ティンカーは得意げに言った。


「どうやら、世界樹信仰もしっかり定着したようだね。あれから御守りもしっかり毎年納品しているんだよ、作っているのはボクの工房にいるヴィトル達だけどね」

「そうだったのか、ありがとな」

「お互い様だよ。世界樹っていう希少木材も手に入るし、難しい木材を加工することでヴィトル達の修業にもなるから一石二鳥だしね。ヴィトルの彫刻の腕が上がってたのも、何気にこれのおかげだったんだろうね」

などと会話をしているうちに、オーウェン達は応接室へと着く。使用人が扉を開けると、そこにはヴィルヘルムが待っていた。


「久しぶりだな、オーウェン。いつ戻ったのだ?」

「お久しぶりです、ヴィルヘルム様。ヴァルドには昨日戻り、父や母に顔を見せてきました」

「そうだったか…シャルロッテ達には?」

「まだです。学院の方へは、明日にでも訪ねようと思っています」

「そうしてやれ、あのコ達も喜ぶだろうからな。…さて、早速だが旅の成果を聞かせてもらおうか」


ヴィルヘルムがそう言うと、オーウェンはこれまでの旅で分かったことを話し始めた。

ーーー


「なるほど…フズィオン教が生物を魔物に変化させる果実の製造だけでなく、帝国と呼ばれる者達とも関わっている可能性が高いと言うのだな」

「確証には至っていませんが、恐らくは…」

「それにしても、1年と少しの期間でよくここまで調べられたものだ。やはり、お前が旅に出る事を認めてよかった」

「仲間の協力なしには、どれも成し遂げられなかったものです」

「そうか、良い仲間を持ったな。そうそう、仲間といえば…」

などと話をしていると、廊下をズドドドドと走ってくる音が聞こえエルヴィスが飛び込んできた。


「お帰りなさいませ、我が主!」

「エルヴィスか!ただいま戻ったぞ」

「おぉ!以前に増して魔力が濃くなっています!たった1年足らずでどうすればこれほどまで…」

「じ、実はな…」

とオーウェンがスノド村で死にかけた話をすると、ヴィルヘルムもエルヴィスも真っ青な顔をして詰め寄った。


「なんて危ない事を…浄化魔法(ピュリフィケーション)しか効かないような魔物(バリアント)に立ち向かうとは、正気ですか!?」

「お前にはシャルロッテ達もいると言うのに…本当に無茶をするヤツだ!」

「ま、まぁそのおかげで新しい発見もありましたし…」

とオーウェンが言うと、ヴィルヘルムとエルヴィスがハモって言った。


『そう言う問題じゃないッ!』

ーーーーーーー


ヴィルヘルムとエルヴィスにこってり説教されて、オーウェンが辟易(へきえき)していると、執事の者が慌てた様子で部屋へと入って来て、ヴィルヘルムに何かを耳打ちした。


「…そうか、いよいよか。わかった、今行く」

そう言うとヴィルヘルムは、深刻そうな顔付きでしばらく沈黙していた。


「ヴィルヘルム様、何かありましたか?」

「うむ…ブルート殿の息子、ドゥッセルがここ数日危篤な状況が続いていてな…残念だが、もう持たないようだ。…彼の最期をお前も見ていくか?」

「そうですね…」


オーウェン達はヴィルヘルムに連れられて王城から少し離れた医務院へと移動する。ベッドに横たわったドゥッセルの肌は乾燥した土のような色になっており、誰が見ても先が長くない事がわかった。ヴィルヘルムが残念そうに呟く。


「これまで解呪師達もかなり頑張ってくれたのだが、呪いの正体を掴む事は出来なかった…。ブルート殿にも連絡したが、おそらく彼が到着するまではもたないだろう」

「残念ですね…」

などとオーウェン達が話していると、ティンカーが横から覗き込んで言った。


「ねぇ…これって、レイスに入られた状態なんじゃないの?」

「そうなのか?」

「鑑定してみたんだけど、オーウェンがレイスに入られた時のように、このヒトの体の中にも別の魔力が感じられるよ。何か別の魔法も混在しているから、症状が激しいみたいだけど」

「そうか…だが、ドゥッセル殿は俺のような“健康体”では無いからな。どうしようもないだろう…」

「んー…根拠はほとんどないけど、1つだけ試してみる手があるよ?」

「なんだ?」

と聞くオーウェンに、ティンカーはニヤリと微笑んで言った。


「オーウェン、『眠れる森の王女』って話知ってる?」

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