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ナサニエルの奮闘

クロエの挨拶が終わると執事のセスが進行役として、プログラム名とルールの説明を始めた。


〜〜〜

1. 十個の小隊に分かれてポイントを競い合う。

2. 大会プログラムは第一に流鏑馬(やぶさめ)。第二に小隊同士のトーナメント戦。

3. 流鏑馬(やぶさめ)は各小隊長である騎兵が行う。上位成績2チームがシード枠を獲得する。

4. トーナメント戦は模擬戦形式。身体全体に防御魔法を張り、頭、胴などの急所にはさらに重ね掛けする。

5. 防御魔法の破壊部位でポイントが変化する。頭なら100、胸なら70(心臓なら100)、それ以外の上下肢は20となる。

6. 一人一人の持ちポイントは50とし、それを超えると戦闘不能とする。

7. 優勝チームおよびそれぞれのチームで最も得点数の多かった者には、初等学院の食堂利用権を1年間、加えて王妃殿下の裁量で褒美が与えられる。

〜〜〜


すると、一同がワナワナと震え始める。オーウェンは事情がわからず、隣にいるナサニエルに話しかけた。

「なんだか急にザワついているが、どうしたn…ナサニエル?」


無言だったナサニエルが、ゆっくりとこちらを向いた。

これまでに見た事の無い、切羽詰まった表情をするナサニエル。オーウェンは驚き、顔を覗き込んだ。

「大丈夫か、ナサニエル!?何か不味いもんでもたべt…」


『ォォォオオオオオオーーーッ!!!』


急に皆が喜び始めたため、オーウェンがキョトンとしていると、ナサニエルが言った。

「オーウェン!お前、褒美の中身聞いてなかったのかよ?」

「聞いた、食堂利用権と王妃殿下からの褒美だろ?だが、褒美は欲しいもんが貰える訳じゃないd…」

「皆が喜んでいるのは、そこじゃねぇ!」

「ん、じゃあなんだ?」

「…美味いんだよ…。学院の食堂は王家や公爵家の御子息・御息女のために用意されたサンクチュアリィ(聖域)!提供される料理は、元々王家や公爵家で働いていた料理人達によって作り出されているんだ!そうッ、めちゃくちゃ美味いって評判なんだよッ!」

「なんだ、お腹空いてるのか?」

「バカ、オーウェンのバカッ!この1年間、俺達が食べてきたものを言ってみろ!」

「川魚、リス、熊、鹿…あと、昆虫とか何かの幼虫とか」

「あと、じゃねぇよ!むしろ、虫とか幼虫の方が主食に近かっただろ!」

「それは、しょうがないだろ。最初は皆狩りも出来なかったし、360名分育ち盛りなヤツらの食事を、1年間用意することは出来ないし。それに俺は最初に言ったぞ、1年間サバイバルだと」

「…ぁあ、言ってたな。最初は誰も信じてなかった。考えてみろよ、6歳までヌクヌクと生きてきた俺達にいきなり食べ物を探せるわけねぇだろ?皆、冗談か脅しだと思ってたんだよ。…結局、どちらでもなかったがな」

「でも、出来たじゃないか」

「あぁ…死ぬ気で食えるもん探したからな」

「豊かな森だからな、食べられない日は無かった」

「俺は<栄養摂取>じゃなくて、<食事>がしたいんだよッ!」

「…そんなに嫌だったのか?」

「当たり前だろッ!誰が好き好んで虫食べるんだよッ!!」

「!!」


怒鳴られて落ち込んだ様子のオーウェンを見て、ナサニエルが少し落ち着きを取り戻して話す。

「ま、まぁ、とにかくだ。学食の料理はめちゃくちゃ美味いんだよ、それこそ王家や公爵家で毎日美味いもん食ってるヤツらが唸るほどにな!しかも王家はもちろん、公爵家の上級生ですぐ満席になっちゃうんだぜ!つまり本来なら俺達が入る事は、絶対に無理な場所なんだ!」

「だから、こんなに士気が上がったのか…すごいな」

「事の重大さに気付いたようだな。つまり…」

「…つまり、なんだ?」

「つまり…もう模擬戦じゃ済まねぇ。これから行われるのは、血で血を洗う戦争だッ」


「…何を大袈裟な」とオーウェンが周囲を見渡すと、皆がすごい表情でこちらを見つめていた。


オーウェンは驚きのあまり身体をビクつかせる。

「!!」

「ヤツだ…ヤツさえ仕留めれば…フフフ」

「虫ばっか食わせやがって…アイツに学食の料理はもったいない…」

「色仕掛けだって、なんだってしてみせるわ…」

だの、不穏な呟きがあちこちから聞こえる。


ナサニエルのあのフラグが何故か、今になって鮮明に思い出された。


(「…何も無ければいいんだがな」)

ここにきて初めて不安に駆られるオーウェンだった。


ーーーーーーー

セスのルール説明が終わると、オーウェン達騎兵は流鏑馬(やぶさめ)のために会場の端へと移動し、他は模擬戦の待機地点へ移動する。セスが流鏑馬(やぶさめ)の説明をしている間に的となる鎧が設置され、色分けされた10本の矢が入った矢筒を担いで、オーウェン達は走り出す順に並んだ。

ナサニエルは7番目、オーウェンは10番目である。ラッパの合図が鳴ると、1番目が走り出す。普段は的を7つほど射ることが出来る者だが1番目で緊張していたのか、5つに留まった。しかし、会場は大いに盛り上がりを見せた。何しろ、馬上から弓を射るという高度な事を、就学前の子供がやってのけたからである。


その後も、2番目、3番目と徐々に続く。6番目までの最高記録は7つだったが、7番目のナサニエルはなんと9つの鎧を射抜いた。会場が一気に盛り上がる。

「どうやら、シード枠は俺とオーウェンのようだな!」と、8番目が的を8つ射抜くのを横目にナサニエルがゆったりと戻ってきた。


しかし、ここで9番目の騎手であるケイトが快挙を見せた。なんと的を全て射抜いたのである。これまでにも彼女は何度か高得点を出したことがあったが、5枚以下になることも多く平均すると7つくらいの成績に留まっていた。しかし、今日はかなりコントロールが安定していたようだ。ギリギリで射抜いたものもあったが、全ての的を射抜いた事には変わりない。


スタンドの一角で喜び彼女にてを振っている人達がいる。彼女の親族だろうか、ケイトもまた手を振り返していた。


そして、次はオーウェンの番である。ナサニエルが後ろで「外せぇ、外してくれぇ…」などと祈っていたが、もはやオーウェンには届いていなかった。集中が研ぎ澄まされ、観客の声や周囲の音が何もかも消えていき、最後には自分の息の音だけが残った。


「…ハァ!!」

勢いよくオーウェンの馬が走り出す。これまでに見た事の無い馬の速さ、そして矢を(つが)えて離すまでの一連の動作の素早さに、皆が呆然としていた。

結果、当然のようにオーウェンは全ての的を射抜いた、それも全て兜のど真ん中を…。


会場が大歓声に包まれる中、ナサニエルが「クッソぉぉお、やっぱそうなんのかよぉぉお!」と叫んでいた。

これからもオーウェン達をよろしくお願いします。

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