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シガロ

〜〜〜シガロはナギと同じ奴隷商の奴隷だったが、ある時、兄弟のような仲だった者が過労死した事をきっかけに、奴隷商を襲う計画をする。樽の中に男を隠し、部屋に酒を運ぶと見せかけ、4人で乗り掛かって奴隷商の男を殺すと契約書の書き換えを行い、全ての奴隷を解き放った。その後、行き場を失った奴隷達が再び他の奴隷商達に捕まらないように自ら奴隷商となることで奴隷達の居場所を作り、さらに領主の名前で契約する事で他の奴隷商達を牽制しつつ、かつ自身に火の粉がかからないようにするなど、有能とも言える一面も持ち合わせていた。〜〜〜


「そういえば、どうしてナギの契約書を持っていないフリをしたの?」

ティンカーが訊ねると、シガロはニヤけながら言った。


「あの奴隷商のかつての仲間が、今も潜伏しているっつー話でな。てっきりアンタ達が、俺を探し出す餌として使われているのかと思ったのさ」

「急に対応し始めたのは?」

「ウチの舎弟共が客と認めた…と言うのもあるが、1番の理由はそこのデカブツが奴隷の嬢ちゃんを、とても大切にしているってわかったからだよ」

「どうやってわかったの?」

「呪印が見えるような靴を履かせて、服も整えてる。肌艶も良く汚れも無いし…同じ石鹸の香りもするしな」

「良くそこまでわかったね」

「俺も奴隷だったからな…奴隷である事は、必ずしも不幸じゃない。いい主人に恵まれれば自分で0から生きるより遥かに楽な事もあるのさ…まぁ、俺は二度と奴隷になるのはごめんだがな」

そう言うとシガロは、フゥーっと煙を吐いて見せた。オーウェンは契約書にサインを済ませて、シガロに訊ねる。


「シガロはどうやって呪印を解いたのだ?」

「契約の時と同じように、俺の血とあの奴隷商の血を修正液に混ぜて上塗りしたのさ。普通は目隠しされて見えないんだが、俺には特殊なスキルがあってな…」

そう言うとシガロは、得意げに鼻を啜って見せた。ティンカーが、鑑定でシガロのステータスを再確認して口を開く。


「なるほど、『盗視(とうし)』ってヤツか」

「そうそう、特殊スキルの『盗視(とうし)』で…って、何で知ってんだ?」

「ボクもそういう特殊スキルの持ち主ってことさ。それで、シガロは契約の解き方を知っていたという事なんだね」

「…あぁ、まぁ担的に言えばそういうことだ」

ティンカーとシガロの会話を聞いていたオーウェンが、ナギに訊ねる。


「ナギ、俺とお前の血液さえあれば契約書が解除できるようだg」

「わ、私は…オーウェンの奴隷になって、一緒に居たい」

「…奴隷じゃなくても一緒に居られると思うが?」

「一緒に居られる理由が欲しいの…だから、奴隷のままがいい」

「…そうか。一緒に居る事に理由は要らないと思うが、お前がそう望むのならこのままにしておこう」


オーウェンがそう言うと、ナギは嬉しそうに笑ってみせた。その様子を見ていたシガロが、フフと微笑んで言った。

「…羨ましいな、そう言えるようなご主人様に出会えるなんてよ」

「なら、シガロもオーウェンに仕えてみる気はないかな?」

ティンカーが訊ねると、シガロは少し動きを止めて言った。


「言っただろ、二度と奴隷になるのはごめんだってな」

「そうじゃないよ、簡単に言えば従業員みたいなものさ。自慢じゃないけどボク達は割と手広く商売をしているし、資金だってそれなりにある。シガロはまともな商売に就きたいって言ってたし、今がそのチャンスだと思うけどね?」

「とても魅力的で有難い話だが…断らせてもらう」

「そっか。一応、理由だけ聞いておこうかな」

「俺が奴隷商を辞めれば、領主の爺さんが奴隷達に直接命令しないといけない事態が出てくるだろう。…俺のような緩衝材がいなきゃ、以前の二の舞になっちまうだろうからな」

そう言いながらシガロは、窓の外を歩く奴隷達を見つめた。シガロの表情を見て、オーウェンはしょうがないといった様子で話しかける。


「なるほど、奴隷を経験した事があるシガロにしか出来ないことだろうな。まぁ、()()()()()からの誘いは忘れてくれ。お前の好きなようにすれば良i…」

「…ちょっと待ってくれ、今なんつった?」

「ん…お前の好きにすれば良いと…」

「その前だよ!」

「奴隷を経験したお前にしか出来ない事が…」

「そうじゃなくて、その後だよ!…ティンカーとか言って無かったか?」

「あぁ、ティンカーからの誘いは忘れてくれと…」

オーウェンがそこまで話すと、シガロは初めて葉巻を灰皿に置き、ティンカーの方に向き直って言った。


「ガンダルフ商会のティンカー()でございましょーか!?」

「そうだけど」

「どうして言ってくれなかったんです!?てっきり金持ちの道楽に付き合わされてる使用人の1人かと思ってました、ティンカー様は俺の憧れの商人なんですよ!」

「ハハ…そうなんだ、嬉しいね」

「ドワーフだとは聞いてましたが、もっと髭をたくわえた威厳のある姿を想像してました。こんなに可愛らしいお姿をされているとは…感動です」

「あぁ…そう」

「しかし…ティンカー様が仕える主人とは一体?」

シガロの質問に、ティンカーが軽くオーウェンの経歴を伝える。話が終わる頃には、シガロはオーウェン達に敬語を使うようになっていた。


「自分の国を守るために世界中を旅している高貴な方とはつゆ知らず、不躾な物言いをして申し訳ありませんでした」

「構わん、気にしていないからな」

「是非、この私にも何か手伝える事があればおっしゃってください。この地を離れる事は出来ませんが、奴隷達を介して情報は集めることは出来ますのでお伝え出来るかと」

「そうか、なら頼むとしよう」

オーウェンはシガロに、ナギの件に加えて3つの事に関して調査するように言った。


「チート持ちの赤ちゃん…フズィオン教の教祖…、そして魔族についてですか。どれもあまり聴きなれない物ばかりですね」

「あぁ、地道に調査しているのだが中々上手くいかなくてな。些細なことでも良い、何かわかれば教えてくれ。無論、見合った褒賞も出させてもらう」

「わかりました、このシガロが必ずやお役に立ってみせるとお約束いたします」

「あぁ、期待している」

そう言うと、オーウェン達はフロドゥール人材派遣会社を後にした。

ーーーーーー


オーウェン達は引き続き、ナギの故郷を探す。契約書に捕獲地の名称は記されていたが、何処にあったのかなどはわからないため、もう一度ギルドに戻り受付嬢から猫耳族の冒険者について情報が入っているか確認する。すると、内陸の方にある街に、猫耳族だけで構成されたパーティーが在る事がわかった。


「その猫耳族のパーティーの者達は少し変わった風貌をしているらしい。何か情報を得られればいいが…ナギ、どうかしたか?」

オーウェンが足元を見つめるナギを気にして声をかけると、ナギは少し赤くなりながら言った。


「…んーん、何でもない」

「ならいいが…先程からずっと足元を見ているから」

「それは、呪印にオーウェンの名前が刻まれているから…見てると安心するのよ」


〜〜〜呪印には模様と共に様々な情報を載せる事が出来る。その奴隷のプロフィールや所有者の名といったものから、仕事の内容や働いている店の地図まで載せられるのだが、今回ナギは表立った情報を載せない代わりに模様に拘った。ティンカーに頼んでデザインを考えてもらい、最終的には世界樹を背景にしたオーウェンの横顔とそれを囲むように「NAGI Owen’s slave.(オーウェンの奴隷、ナギ)」と文字が刻まれたデザインになった。どこかの硬貨にもありそうなデザインだが、ナギはとても気に入ったらしく暇があればずっと見つめていた。〜〜〜


「ん、そうか。…まぁ、とにかく彼らのいる街へと向かう事にしよう」


オーウェンは何処か気恥ずかしいような気持ちを感じつつ、猫耳族のパーティーが滞在しているという街へ向かった。

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