第一回闘技会 開催!
いよいよ、本番当日。公爵家の人々は既にそれぞれに用意された競技場の特別席で目新しいサンドイッチやハンバーガーといった様々な料理をビュッフェ形式で楽しんでいた。
「聞く分には野蛮な食べ方と思っていましたが、堅苦しくなく存外楽しいもんですなぁ」
「闘技場もこれまでに見たことがない形をしてるわね。上から見下ろすのは心地よいですわ、オホホホホ」
「王妃殿下と王女殿下は最上階におられたぞ、ワシはもう挨拶を済ませてきたがな」
「それは、誠か!?こうしては居れん、我々も急ぎ挨拶に向かわねばッ!」
などと、相変わらず貴族らしい会話が繰り広げられている。
一方、クロエやシャルロッテ、イザベルは競技場の最上階で朝から訪ねてくる公爵家や侯爵家の人々に笑顔で対応を続けていた。
「お母様…私笑顔の作りすぎで、頬が痛いですわ」
「シャルロッテ、私達はお父様の名代としてここにいるのですよ?しっかりと役目を果たすのです」
「お母様ぁ…お手洗いに行きたいですぅ」
「イザベルったら…さっさと行ってらっしゃい」
「あ、ベルだけズルいですわ!お母様、私もお花を摘みに…」
「貴方はここに残って役目を果たすのです、いいわね?」
「むぅ…」
そうして1時間半ほど、シャルロッテは挨拶にくる公爵家や侯爵家の人々に愛嬌をしっかり振りまき続けた。
所変わってーーー
オーウェン達は控えのスペースで最終の打ち合わせを行なっていた。
「見て、見て!鎧も剣もピカピカぁッ!アタシ、これ汚したく無いー」
「あっぶねぇ、武器こっちに向けんな!まだ防御魔法張ってねぇんだからよ!」
「オーウェンが挨拶して、俺たちは…えっと…どこに行くんだっけ?」
「王妃殿下のお言葉があってその後流鏑馬が始まるから、そのタイミングでウチらはそれぞれフィールドの入場口へ移動するって、さっき言ったばっかじゃん」
「あー、悪りィ、悪りィ。なんか、緊張し過ぎて上の空だったわ」
などと話していると、オーウェンが皆に注目するよう言った。
「いよいよ本番だな。今日俺たちは、この1年間の集大成を見せる。手を抜くヤツは俺が許さん。無論、俺も全力を持ってお前達に臨もう!」
『いや、それはマジ勘弁…』と一同がツッコむが、オーウェンはサラリと聞き流した。
「前にも言ったが、攻撃を当てた部位でチームに入るポイントは変化する。手足をセコセコと狙うより頭を一発で打ち抜く方が高得点になる。俺は頭しか狙わん、安心しろ!」
『…ッ、安心できるかッ!!』とまたツッコミが飛ぶ。
そんなやりとりをしている間に、とうとう時間が来た。
入城ゲートに馬を並べ、新しい防具に身を包んだ一同は合図を静かに待つ。
オーウェンが馬上で抜剣し、掲げて見せたと同時にファンファーレが鳴り響いた。
「進軍、開始ーーッ!」
オーウェンが怒号と共に剣を前方へ振り下ろし、同時に10騎の騎馬が走り出す。
『ォォォオオオオオオーーーーッ!!!』
会場が震えんばかりの雄叫びと共に、若き騎士達が行軍を開始した。
ーーーーーーー
オーウェン達が入場する少し前のこと…
公爵家の人々は、あの優秀で陛下にも覚えめでたいアウグスト・モンタギューの倅が神童と持て囃されることが気に食わなかった。無理難題をふっかけてやろうと、実りのない社交界への参加を匂わせた。当然断るだろうと思って陛下の前で提案したが、実直なアウグストが了承しただけでなく陛下達まで話にノってきたのは大誤算だった。お陰でこんな地方まで足を延ばさねばならなくなったが、珍妙だがそれなりに美味い食事や酒を飲めたし、王妃殿下達にも挨拶できたので目的はほぼ終えており、後は…まぁ適当にアウグストの倅のお遊戯会を観て、頃合いを見て帰ろうなどと考えていた。
また侯爵家以下の貴族達にも、打算的な思惑があった。アウグストが今回の案を集会で伝えて来た時、わざわざ祝賀会レベルの行事に1年間も時間をかけるのはどうかと思った。しかし、モンタギュー家が1年間も子供達の世話をしてくれ、さらに上級貴族の方々と顔を繋げる機会を用意してくれると来た、これは一石二鳥だと思った。例えこの大会が失敗に終わろうとも非はモンタギュー家にあるのであって、自分達が責められる道理はない。弓が的に当たらず泣いて帰ってくるだろう我が子には「良く頑張ったな」なんて適当に労って喜ばせておけばいい。とにかく、主役の私達が顔つなぎを頑張らなきゃなどと考えていたのである。
しかし、彼らのそんな腑抜けた考えは、ファンファーレの音と共に現れたオーウェン達により一蹴される。地鳴りかと思うような雄叫びが会場に響き渡ると、恐怖に顔が引きつり隣の席同士で手を握り合う者もいた。さらに10騎の騎馬兵が駆け、間髪入れずに二個中隊規模の軍勢が一糸乱れぬ行軍で入場してきたときには、彼らの多くが他国の軍隊に奇襲を受けたと勘違いし逃げようと席を立った。中には、手洗いの個室に隠れる間抜けもいた…。モンタギュー家の使用人達から落ち着くように言葉をかけられ、ようやくその軍勢が今大会の主役達であると気付き、動きが止まる。静けさの後、若き騎士達を褒め称える拍手がちらほらと聞こえ始め、徐々に大きくなりやがて歓喜の声と共に会場全体を包んだ。
投影魔法により街の広場の巨大ディスプレイにもリアルタイムでこの映像が流された。人々の商いの手が止まり、食べ物を口に運ぶ手が止まり、口に入れた食べ物の咀嚼が止まった。そして暫く人の動きが止まった後に大歓声が広場から上がった。
「見たかッ、あの動きッ!?」
「俺はてっきり国が攻められてるのかと思ったぞ!」
「俺もだ、見たことない甲冑だからな、焦ったわー!」
などと、騒ぎあう大人達の側で子供達が隊列の真似事などしてみせる。
街の広場はこれまでにも増して盛り上がりを見せた。
ーーーーーーー
隊列が観客席に向かって並び終えると、大きな拍手や歓声がオーウェン達を包んだ。
しばらくして会場も落ち着きを取り戻し皆が席に着き始めたのを確認して、オーウェンが前に出る。
音響魔法で会場全体にオーウェンの声が響く。
「此度は我らの闘技会のため、遠路遥々お越し頂いたこと厚く御礼申し上げます。我が名はオーウェン。アウグスト・モンタギューの嫡男にして、この隊の指揮を預かる者です。本日ここに集って頂いた皆様に、鍛錬の成果をお見せする事を今ここにお誓い申し上げます!」
『ォォォオオオオオオーーーッ!!!』
抜剣した一同が高らかに剣を掲げると、再び大きな拍手が会場に鳴り響いた。
オーウェンが隊列に戻ると、クロエ王妃と二人の王女が開会の宣言のため姿を現す。
「オーウェン・モンタギュー、並びに若き騎士達よ。息を呑むほど素晴らしい行軍でした。貴方達の勇姿を、陛下の名代としてこのクロエが見届ける事を約束し、開会を許可します!」
こうして、第一回 闘技会の開会がここに宣言された。
ブクマ有難う御座います、話的にはかなり先まで書いていますが定期的な投稿ができるように火曜日に1回の投稿をしています。人数がどんどん増えてくれるとやる気が出て投稿頻度も多くなるかも(下心)。よろしくお願いします^_^