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その後もオーウェンはヴェッキオの案内でいろいろ回るのだが、とにかく負けが無い。大きく勝つ事は少なくなったが、その代わり絶対に負けはしない。そのあまりの運の強さに、他の客もオーウェンについてきて同じ所に賭け始めた所で、ヴェッキオが止めた。


「お、オーウェン様!今日はこのくらいにしておきましょうかッ?」

「あぁ、そうですね。これ以上、ヴェッキオ殿のお仕事の邪魔をするわけにもいきませんし。これは付き合っていただいたお代です、受け取ってください」

そう言うとオーウェンは、イエローチップを1枚ヴェッキオに手渡した。ヴェッキオは唖然としながら受け取り、オーウェンに訊ねる。


「い…いいんですか?」

「えぇ、ヴェッキオさんがいなければこうやって楽しむ事も出来ませんでしたし。色々とお世話になった御礼です」

オーウェンに清々しいまでの漢気(おとこぎ)を見せられたヴェッキオは、自分の器の狭さを自覚したのか、少しバツが悪そうにしながら言った。


「オーウェン様…有り難う御座います。あ、この後もカジノで遊んでいかれるなら、あちらにあるスロットはどうでしょうか?ベット数を選んでレバーを引くだけなので小難しいことはありません。チップの金額を専用カードに入力すればそのまま遊べますよ」

「わかりました、やってみましょう」

「ええ、貴方の御幸運をお祈りしますよ」

そう言ってヴェッキオは、オーウェン達の下を離れた。数分後、盛大な光や音と共にジャックポット(大当たり)の文字がスロットコーナーに浮き上がり、人集りが出来ているのを見てヴェッキオは呟いた。


「いやはや…とんでもない豪運の持ち主ですね」

ーーーーーー


翌日、オーウェン達一行はヴェッキオを連れ立って、最高グレードのカジノを訪れていた。そこは例の富豪が経営するカジノで、ヴェッキオの勧めでオーウェンはルーレットのテーブルへと向かう。


〜〜〜一般的に知られているように、ルーレットとは数字の刻まれた回転する円盤に球を回し入れ、その球がどこに落ちるかを予想するゲームである。数字は0〜36までありチップを置くエリアによって配当率が変化するのだが、その最高配当率は数字1つに賭けた場合であり、ベットしたチップの(じつ)に36倍の配当が貰える事となる。〜〜〜


多くの富豪達がイエロー(10万コルナ相当)以上のチップを何十枚も積み上げて勝負する中、オーウェンは昨日勝ち取ったブラウンチップ(50万コルナ相当)2枚を、テーブルの赤か黒かを賭けるベットエリアにちょこんと置いた。富豪達の中から失笑が漏れる中、オーウェンは表情を全く変えない。


それから約10分後、ルーレットのテーブルの周りには人集りが出来ていた。ここでもオーウェンは、持ち前の運の良さを発揮し続けるのだが、その賭け方が勝ち分をそのまま全ベットするという怖いもの知らずの手法なのである。当初2枚だったブラウンチップは4枚、8枚と順調に増え続け、今では1024枚まで増えていた、その額なんと…5億1200万コルナである。ブラウンチップがオレンジチップ(250万コルナ相当)に交換され、オーウェンの前に200枚近く並ぶと、オーディエンスからは感嘆のため息があがった。


「あの若者、強いですねぇ」

「見なさい、周りの方達の動きが止まってますわ」

「…次に当たったら、彼と一緒の所に賭けてみるのもいいかもしれませんね」

などと話す中、額に汗をかいたディーラーがボールを転がし始める。ディーラーのベットの合図に合わせてオーウェンが全チップを置いたエリアは、まさかの「0」エリアへの1点掛けだった。流石に無謀とも思えるこの1手に、オーディエンスは落胆の声をあげ、ディーラーは緊張の糸が解けたような表情をした。ティンカー達も顔を覆ったが、オーウェンを除いてヴェッキオただ1人だけが真剣な表情で球の行く末を見守っていた。


そして、運命の瞬間が訪れる。

転がされた球は、脇目もふらず一直線に0へと落下した。一瞬の静けさの後に爆発するような歓声が響き渡る。一瞬にして180億コルナ以上稼いだオーウェンに皆が拍手を送り、ディーラーは俯きながらため息を吐いた。ヴェッキオがすかさず「フィニッシュで」と伝えると、ディーラーは「…お疲れ様でした」と深々と頭を下げた。オーウェンは項垂れるディーラーに御礼のチップを握らせると、足速にヴェッキオを追って小声で質問する。


「途中でやめたのは何故ですか?」

「彼だけを凹ませるわけにはいきませんからね、他のディーラー達にも均等に等しく凹んでもらいます。明日は別のカジノで、その次はまた別のカジノで。彼が直接貴方に会いに来るまで、何度でも繰り返すのです」

「なるほど」

そうしてオーウェンは次のテーブルでも勝ちを重ね、この日だけで500億近く稼いだのだが、退店の際に今後出入り禁止であると伝えられた。


その後、訪れた他のカジノでも出禁になることを繰り返し、数日後にはオーウェンはこの富豪が経営する全てのカジノで出禁になってしまった。ヴェッキオが頭を抱えて言う。


「まさか、彼が出て来る前に全てのカジノで出禁になるとは…予想できませんでした」

「どうすんのさ、オーウェン?このままだと情報が得られずに、3000億のチップだけ掴まされてこの国を出なきゃならないんだけど」

とティンカーがジト目で見つめると、オーウェンは額に汗をかきつつ言った。


「カジノ側の負けが込めば、その富豪が出てくると思って必死だったからな。…まさか、俺が先に出禁になるとは思いもしなかった」

「競馬場で彼を燻り出そうにも、VIP席にいる彼は一般席には目もくれないでしょうし…せめて馬主に知り合いが居れば…」

とヴェッキオが言うと、ゴーシュが何か思い付いたように手を挙げた。


「何かいい案でも浮かんだか、ゴーシュ?」

「馬主じゃないけど、僕の父さんをスカウトしてくれた人を頼ってみるってのはどうかな?当時の話を聞かせてもらえるように、その人の連絡先も父さんから貰っているしね」

「なるほど、その線にかけるしかないな」


わずかに望みの線が出てきて、オーウェンの顔に笑顔が戻る。そんなオーウェンの様子を見て、ヴェッキオは「やはり、とんでもない豪運の持ち主ですね」と微笑んだ。

ーーーーーー


オーウェン達は早速、そのスカウトマンのいる建物へと向かった。スカウトマンは通常グレードの居住区にいたのだが、ゴーシュの身体付きを見るなり全力でスカウトしてきた。


「君みたいな逸材が私の所を訪ねてくれるなんて、今日はなんてツイてるんだ!やっぱり競走馬に憧れて来てくれたのかい?」

「…1年前に貴方にスカウトしてもらったケンタウロスを覚えていますか?…僕の父なんですが…」

「あ…あぁ。彼のことなら忘れもしないよ。…本当に可哀想な事をしてしまった。きっと…私のこと、恨んでいるだろうね」

「いえ、そんな事はありません。父は解雇は仕方なかったと言ってましたので。…それより当時の状況を詳しく教えてもらえませんか?」

ゴーシュの質問にスカウトマンはゆっくりと当時のことを話し始めた。


〜〜〜スカウトマンは、その目の確かさからこの国の君主であるジョーコ公爵に雇われていた。ゴーシュの父は脚が速く、多少の戦闘も出来る腕前もあったためジョーコ公爵は非常に喜んでいた。小さな試合で勝ちを積み重ねたゴーシュの父に気を良くしたジョーコ公爵は、ある大会へ彼を出場させたのだがそこで例の事件が起こった。当初、ジョーコ公爵はゴーシュの父を許してあげようと考えていたが、彼がぬかるんでいたと言い訳した事に腹を立て、そのまま解雇を告げた。そして、スカウトマンに対してもその事件以降、ジョーコ公爵は頼ってくれなくなったという事だった。〜〜〜


「あれから、当時の映像を何度も見返したよ。でも…ぬかるみは無かった。彼は嘘を()いたんだ」

「その映像を見せて欲しいんですが…」

「あぁ、構わないよ」

そう言うとスカウトマンは、大切そうに映像の閉じ込められた水晶を取り出す。ゴーシュが魔力を込めると白い壁に当時の映像が流れ出した。勇ましく戦いながら勝利を収める父のダイジェスト映像と解説の声が入る。


『出稼ぎに出ている息子の負担を軽くしたいと、彼は試合前に語っていたんですがねぇ。本当に残念と言わざるを得ません…えー、それでは問題のシーンを見てみましょう』

解説の言葉と共に、ゴーシュの父が何もない所で(つまず)く様子が流れ、その後、他の選手からの攻撃を防ぎきれずに転倒する様子が映し出される。その映像を見ていたティンカーが呟く。


「やっぱりだ…ゴーシュのパパさんは、確かにぬかるみを感じていたんだよ」

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