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不思議な縁

翌日、ティンカーとゴーシュはガンダルフ達の頼まれ事で、朝から商会の方へと出向いていた。オーウェンは、オベハとナギを連れて近くの市場を回る。市場には小物から武具の手入れに使う道具まで、様々な商品が並べられており、商人達の活気のある声が鳴り響いていた。適当に軽食を買い、街をぐるりと歩き回っていると少し離れた所に古びた小さな小屋がポツンと立っている。何気なく近づいて覗いてみると、どうやら武具を売っているようなのだが、看板が出ていない。オーウェンは無性に気になり、戸をノックして中へと入った。


「どなたか居られるか?」

オーウェンが呼びかけるが、返事はない。仕方なく、オーウェンはそのまま商品を見て回る。どれもシンプルなデザインだが、何層にも鈍く光るその刃先は何とも形容し難い魅力を含んでいた。ナギもいくつか気になるものがあるようで、1つ1つ手に取って刃筋を確かめたりしている。


「…誰じゃ?」

不意に後ろから声が響き、ナギは慌てて手にしていたナイフを置いた。奥から出てきたドワーフの老人が不機嫌そうに続ける。


「そこで何をしておる?」

「良い品ばかりだったので見惚れていた。店に入る際に、一応声をかけたのだが…」

「知らん。聞こえんかったわ」

「そうだったか、これは失礼な事をした」

オーウェンがそう言うと、ドワーフの老人は意外そうな顔をして言った。


「ワシはアンドヴァール、お前さんの名は?」

「オーウェンだ」

「お前さんは、どうやら大陸のエルフ共とは違うようじゃな…」

そう言うとアンドヴァールは、並べられた短刀を1つ取り上げて(たず)ねる。


「オーウェン、このナイフを見てどう思った?」

「シンプルなデザインだが、刃に当たる光りが何層にも見えて美しいと思った。何か特殊な金属なのだろうか?」

(もと)となる鉄鉱石が普通の物とは少し違う。それから特殊な精錬方法で鉄を取り出せば、このように幾重にも押し寄せる波のような形の紋様が出るのじゃ。硬く、錆びにくく、切れ味がいい…魔法に頼らずとも、腕と物さえ揃えばこれほどの物が出来るというわけじゃ」

「そんな金属があるのか…だが、これだけいい物が揃っているのに、看板を出されないのは何故だ?」

「ワシの作品は…正直高い。息子は価格をもう少し下げろなどと言うが、ワシは儲けたくて値段を付けているわけではない。店の見た目に惑わされず、付けられた値札が妥当だと思える者にしか売るつもりがないんじゃ。だから看板も敢えて出さん」

「なるほど、信念あっての事か」

「そういうことじゃ、お前さんはずいぶん物分かりがいいのぅ。まるで、ウチの孫のようじゃ」

そう言うとアンドヴァールは、嬉しそうに笑ってみせた。オーウェンが(たず)ねる。


「お孫さんも職人なのか?」

「あぁ、大層名が知れておるぞ。お前達も知っておるかもしれんが…」

とアンドヴァールが言いかけた時に、不意に店のドアが開く音がした。オーウェン達が振り返るとティンカーが突っ立っている。アンドヴァールが大事そうに持っていたナイフを放り投げて、ティンカーへと猛ダッシュすると抱きついて頬にキスをした。


「噂をすれば何とやらじゃ!ワシの自慢の孫が帰ってきたんじゃ!いつじゃ?いつ帰ってきたんじゃ?」

「祖父ちゃんやめてよ、お客さんの前で…って、オーウェン達じゃん。どしたの、ここで?」

「店の雰囲気が気になってな、ふらっと立ち寄ったのさ。アンドヴァールさんはティンカーの祖父だったのか」

「うん、そうだよ!ボクの師匠でもあるんだ」

とティンカーが言うとアンドヴァールはティンカーの顔を撫で回しながら言った。


「なんじゃ?ティンカーはオーウェンと知り合いだったのか?」

「うん、これまで一緒に色んな所を回ってきているんだよ。はい、これ父ちゃんから今月の生活費とお土産」

「要らんわ、あんな分からず屋が稼いだ金なんぞ!」

「分からず屋はお互い様でしょ?父ちゃんもボクも、祖父ちゃんがちゃんとご飯食べれているか心配なんだから、ちゃんと受け取ってよね」

「むぅ…」

ティンカーに半ば強引にお金を手渡されて、アンドヴァールは言い返せずに渋々それを受け取った。その様子を満足そうにティンカーはしばらく見つめていたが、不意に思い出したように言った。


「あ、そうだ。祖父ちゃんに聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「なんじゃ?ティンカーの言う事なら、祖父ちゃんは、なんでも聞いてやるぞ?」

「これなんだけどさ…」

そう言ってティンカーは、親指大の深みのある青い魔石を取り出す。アンドヴァールが目をガッと開いてティンカーに詰め寄った。


「こ、これを何処で手に入れたんじゃ!?」

「そこのオーウェンから依頼を受けたのさ、この天魔石を『方天画戟(ほうてんがげき)』に組み込んで欲しいってね」

「ホーテン…何じゃ、そりゃ?」

「オーウェンが使ってる武器の名前だよ。オーウェン、祖父ちゃんに武器を見せたげてくれる?」

「あぁ、構わん」

オーウェンはそう言うと収納バッグの中から方天画戟を取り出す。あまりの大きさにアンドヴァールが目を点にして言った。


「ティンカー…まさか、これをお前が?」

「うん、柄の方には世界樹の枝を使ってるよ。刃の部分は幾つかの合金で作ってるんだけど、今日父ちゃんにミスリルの確保をお願いしておいたから、届き次第付け替える予定なんだ」

「…お前さん達、神器でも造る気か?」

「違うよ。オーウェンってば馬鹿力で武器をよく壊すから、出来るだけ頑丈に作ってあげなきゃいけないんだ」


ティンカーがそう言うとアンドヴァールは、これを壊すほど振れるのかといった目でオーウェンを見つめた。


「…これでも力加減はしている」

オーウェンがそう言うと、アンドヴァールは不敵に笑い始めた。


「フフフ…フハハハ!既に化け物じみたこの武器を、その天魔石でさらに強くすると言うんじゃな!?面白いッ、鍛治師にとってこんなに面白そうな事は無いぞ!よし、祖父ちゃんも力を貸してやろう!」

「本当!?ありがとう、家にあった文献をもう一度読み漁ってみたけど、なかなか参考にできる記述が無くってさ」

「そりゃそうじゃ、天魔石の加工技術は一部の職人の間で口伝されてきたものだからな。一流の技術は一流の職人にのみ引き継がれる。いよいよ、祖父ちゃんからティンカーへも引き継ぐ時が来たようじゃ。だが、今のままでは加工に必要な道具が色々と足りん。今からリストにあげるものを揃えることが出来れば、その時は『方天画戟』に天魔石を組み込んでやろう」

そう言うとアンドヴァールは何やらメモ用紙にアレコレと書き込むと、ティンカーに手渡して言った。


「そこに書かれている物を今暗記するのじゃ、暗記し終わったらメモ用紙は燃やすこと…良いな?」

「うん。…オッケー、覚えたよ」

そう言うと、ティンカーは受け取ったメモ用紙を暖炉の中へと放り投げた。アンドヴァールが嬉しそうに微笑みながら言う。


「相変わらず物覚えの良い子じゃ。それらの道具を集めたら、もう一度ここに来るんじゃ。その時、ワシの全てをお前に伝えてやろう」


店を出て、オーウェンがティンカーに訊ねる。


「ティンカー、あんなに早くメモ用紙を燃やして大丈夫か?ど忘れしてしまうこともあるんじゃないか?」

「あぁ、大丈夫だよ。ステータス画面にはスクリーンショットの機能もあるから、撮影もしてあるし」

「…それはそれで、卑怯じゃないか?」

「当然暗記はしているよ。でも、オーウェンが言ったように、ド忘れする可能性もあるしね、万が一の保険だよ。それにこっちの方が効率がいいじゃん」

そう言うと、ティンカーは悪びれる様子もなくニコッと笑って見せた。

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