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痛み分け

ファンファーレが鳴り響いた後、急に兵達が斬り合いを始めたのを見て、ピシェールの将軍ガンナムは困惑していた。最初は端の方で始まった混乱が徐々に広がりを見せ、数分後には軍全体で斬り合いが始まっていた。入り乱れて斬り合う兵達にガンナムが落ち着くように呼びかけるが、兵達にその言葉は届いて居なかった。


「なんだ、コイツ急に現れやがったぞ!」

「殺せッ、ゴビノーのヤツらを殺せーッ!」

「…って、よく見たらお前もゴビノーの兵じゃねぇか!死ねッ!」

などと叫びながら兵達が斬り合いを続けていると、しばらくして徐々に砂煙が晴れてくる。いつの間にかファンファーレも()み、ガンナムが当たりを見渡してみると、先ほどまで18万もいた軍は半数以下に減っており、ピシェールの兵も4万に満たない程まで減っていた。狂気の表情で斬り合っていた兵士達も、徐々に正気に戻る。そして、()()()()()()()()()()()()()()()理解すると、剣を落とし膝を震わせて座り込む。もはや、そこには戦える兵士など残っていなかった。


「い…一体何が起こったというのだ?」

と呟くガンナムの方へ、レオネが9万の大軍を引き連れて出てくる。


「ピシェールのガンナム将軍だったな。西の砦で痛い目に遭わされたことから、どうやら何も学んでいなかったようだ」

「…という事は、これはやはりお前達の策…」

「数の差で圧倒出来るなどと思うからこうなるのだ。さぁ、どうする?…これから生き残った兵士達をかき集めてもう一度挑んで見るか?」

とレオネが意地の悪そうな顔で言うと、ガンナムは表情を変えずに言った。


「…一騎討ちを所望する」

「ほぅ、その代わり兵達を見逃せと言うか?」

「それもあるが…どうせこのまま帰っても、敗戦の責を免れない。俺の首を何とか繋げるためには、もはや一騎討ち以外は無い」

「なるほどな、いいだろう。このレオネが責任を持って…」

「出来るならオーウェンという人物と戦いたいのだが」

「…オーウェンは西の砦に居る。俺で我慢しr」

と言いかけたレオネの背後から声がした。


「俺を呼んだか?」

オーウェンがゴーシュに乗って前へと歩み出てくると、レオネは驚いた様子でオーウェンに訊ねた。


「オーウェン、お前いつの間にここへ…西の砦の方はどうした?」

「勝手にひいていったぞ。大方、こっちの大敗が確定して兵を引き戻したんだろう」

「…片付いたのはついさっきだ。こんな短時間でどうやってここにたどり着いた?」

「それは企業秘密というヤツだ。それよりも…」

そう言うとオーウェンはガンナムの前に立って言った。


「俺がオーウェンだ」

「ピシェールの、ガンナムという。…なるほど、噂通りの綺麗な顔立ちをしているな。貴殿を侮った部下が失礼な事を言ったようだ、許せ」

「気にしていない。それより…せっかく申し出てくれた一騎討ち、受け入れてやりたい所なのだが…客将(かくしょう)である俺が受けても意味を成さない。理解してくれるか?」

「…なるほど。ガンナムはゴビノーの将と戦って負けたとならなければいけないわけか」

「そう言う事だ。安心しろ、レオネ殿もそれなりに強い。俺が保証する」

「そうか。…もし俺が勝ったら、その時は一騎討ちを考えてくれるか?」

「まぁ、考えておいてやろう」

「良かった」

そう言うとガンナムはレオネに向き直って言った。


「というわけで、レオネ将軍。改めて一騎討ちを所望する」

「何かすっごく不本意なんだが…まぁいい。このレオネが、貴様に引導を渡してくれるわ!」


ガンナムと数回剣を交えた後、レオネは地面に剣を突き刺して四つん這いになった。レオネを取り巻く空間が揺らぎ、その異様な圧にガンナムが身構える。次の瞬間、ガンナムの持っていた剣と共に胸や腹がズタズタに引き裂かれた。


「ぐ…グフっ!?つ、強い…」

と言って崩れ落ちたガンナムに、オーウェンが近づいてきて言った。


「レオネ殿の一撃目は、武器で受け流せるようなものではない…無論、この俺でもな。避けなかった時点で貴様の負けだ」

「なる…ほど…。流石は…ゴビノーの…。…頼む…とどめを」

と苦しむガンナムの首を、レオネが刎ね飛ばして言った。


「ピシェールのガンナム将軍、このレオネが討ち取った!」

『オォオオオオオオオオーーーッ!!』

ゴビノー兵の勝鬨(かちどき)の声が上がると、見守っていたピシェールの兵達は一目散に逃げ出した。こうして、ゴビノーは滅亡の危機を見事回避する事に成功したのである。


その後、憔悴しきったガズワン王、ベカスとパルードゥの王を交えて領土相互保障条約への調印が行われる。ゴビノーからはレオネ、ゴルトン、オベハの3人が連名でサインをする。サインが終わった所で、ゴルトンが話し出す。


「さて、それでは今回の戦後賠償の件だが…」

「その話は、このボクが仕切らせてもらうよ」

そう言うとティンカーが出てきた。ゴルトンは眉をしかめて言う。


「これはゴビノーの問題だ。余所者は首を突っ込むな」

「戦いに勝った途端、強気だねぇ。でもね、ここに署名したレオネさんとオベハさんにも話を通しているんだよ。『この戦いにボク達を巻き込む以上、最後までボクの言うことを聞くように』ってね。ほら、契約書だって書いてもらっているんだ」

そう言うと、ティンカーは契約書をヒラヒラと振って見せた。チッと舌打ちするゴルトンを一瞥して、ティンカーは話を続ける。


「まずはピシェールに対しては3000億コルナ、ベカスとパルードゥに対してはそれぞれ2000億コルナの賠償金を命じる!」

「!!…そ、そんな大金、払えるわけない!」

「そこは、ボクが貸し付けてあげる、年間5%という非常に優しい金利でね。それに、この契約には嬉しい特典もいくつか付いてくるよ。1つ目はガンダルフ商会が国内の経済活動を支援してくれる、これで年間に徴収できる税が安定するはずだから、コツコツにはなるけど無理のない範囲で返済が出来るようになるんだ。2つ目は、万が一キミ達の国家が他国から攻められて滅んでしまった場合、この契約書はそのまま他国に引き継がれるものになる。つまりキミ達の国を攻めるという事は、それだけの借金を背負う事になるわけ。何処の国もそんな金額を背負いたいとは思わないはずだよ」

「…し、しかし金額g」

「キミ達に残された選択肢は2つ。()()のボクの提案に乗って、今後の国家の安全まで保障されるか、それともこれまでのように、戦後賠償を払って戦勝国に属国扱いされながら見窄らしい生活を送っていくか。正直…ボクはどっちでもいいんだけどね」

「…わ、わかった。貴殿の提案を受け入れよう」

「じゃあこの契約書にサインしてね。内容を確認してしっかり名前を書く事をお勧めするよ、これはキミ達の国を支えていく大事な契約書になるんだから」

ティンカーに言われてガズワン達は食い入るように契約書を覗き込み、サインをした。

ーーーーーー


ガズワン達が立ち去ると、ゴルトンが満足そうに手を叩いて出てきた。


「流石は商人だな、まさか7000億も我々のために引き出してくれるとは」

「軍事力を数十年分削るためには、妥当な金額だと思うけどね。それと…はい、これがキミ達の取り分」

そう言うとティンカーは小切手をゴルトンに手渡す。ゴルトンはポカンとした顔で言った。


「15億…なんだ、これは?」

「言ったでしょ、今回の戦勝金のキミ達の取り分だよ」

「ふ…ふざけるな!7000億のうち、たった15億だと!?」

「当然でしょ?キミ達の兵は1人も傷付いて居ないし、そもそもお膳立てだって全部ボクらがしてあげたんだから。せいぜい場所を借りたって言うのと、兵士達にちょっとしたボーナスを出せる金額を上乗せしてあげたんだ。これでも優遇してあげた方だよ」

「き、貴様…ッ!?」と言って詰め寄ろうとするゴルトンの前にオーウェンとゴーシュが歩み出ると、ゴルトンは顔を歪めながら後退りして言った。


「…!そ…そうだ!オーウェン殿は、ディシェ陛下の代わりだ!オーウェン殿の取り分はゴビノーのものじゃないのか!?」

「あいにくだが、レオネがガンナムを討ち取った時点で俺の役目は既に終わっている」

「くっ…」

と悔しがるゴルトンの肩を叩き、レオネが言った。


「もういいだろう、ゴルトン殿。ほとんど何もせずに国を守れて、15億コルナももらえたんだ。痛み分けという事だ、これ以上の高望みをするな」

「…クソッ!」

そう言うとゴルトンは憤慨して、砦の方へと戻っていった。ティンカーがふぅっとため息を吐くと、オーウェンが尋ねる。


「…ティンカー、俺に付き従った500人には?」

「もちろん、そっちには別に5億コルナ渡す予定さ。後はティア軍国には30億コルナ、ティアマン共和国には50億コルナを分配するよ」

「助かる」

ティンカーの言葉を聞いてレオネは小躍りしていたが、オベハは困惑して言った。


「ど、どうしてティアマン共和国は、そんなに頂けるのですか?」

「それはね、ティアマン共和国はこれから優秀な政治家を1人失う事になるからだよ」

そう言うとティンカーはオベハに向き直って言った。


「オベハさんには国を捨てて、ボク達に付いてきて欲しいんだ」

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