表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/419

轟く武勇

その日の夕方、西の砦に向けてオーウェン率いる500人が出立した。途中で合流したゴーシュと共にオーウェンが明朝頃に西の砦に入ると、砦の守備兵長は唖然とした表情で出迎えた。


「…たった、これだけですか?」

「あぁ」

「相手は1万を越えて続々と集結しているんですよ!?一体何を考えているんですか!?」

「不足ないと考えているが…」

「我々と併せても1000人程度ですよ!?不足しかないじゃないですか!!」

「真っ向からぶつかればな。だが、そうはならない」

「ど、どういうことですか?」

「戦場に出るのは俺とゴーシュ、そして連れてきた500人だけだ。お前達にはこれを鳴らしてもらう」

そう言うとオーウェンは守備兵長にドラとラッパを手渡す。


「な、なんですか?これは」

「盛大なファンファーレを頼む」

「こんな状況で呑気にラッパなんて吹けませんy」

「とても重要な事だ、出来るだけ大きく頼む。…いいな?」

「わ…わかりました」

渋々頷く守備兵長の肩を叩き、オーウェンとゴーシュが砦の門へと向かって行く。その背中を見て守備兵長は「おい、本当に大丈夫なのか…?」と選抜された兵士達に声をかけたが、皆一様に無言でオーウェンの後をついて行くだけだった。


ーーーーーー


ピシェールの兵士達は砦の300mほど近くまで来ていた。ここ数日の間者からの報告では砦に居るゴビノーの兵士が1000人にも満たない事を確認できているためだろうか、弓の射程にいるにも関わらず地べたに座って酒盛りをしている者さえ居た。


「ヤツらも可哀想だよな。もう数日後には10倍以上の兵に攻められる事になるってーのに、1000人ぽっちでここを守らなきゃならないなんてな。ハハハ」

「まぁ運が悪かったってことさ。弱いヤツは蹂躙される、それがこの世の(ことわり)だからな」

などとピシェールの兵達が駄弁っていると、突如ゴビノーの砦から盛大なファンファーレが鳴り響いた。砦の門が開き、ケンタウロスの背に乗った大男と500人の兵士達が出てくると一瞬間を置いて皆が大笑いし始めた。


「なんだよ、砦を捨てて特攻にでも来るのかと思ったら…あんだけの数で出てきたぞ!ワハハハハ」

「命乞いに来たか…いや、笑いを取りに来たんだな!ガハハ」

「おい、誰か酒を出してやれ!殺す前に良い酒くらい飲ませてやらねぇとな?ハハハ」

などと兵士達が騒ぐ中、500名の兵士を数m後方に待機させ、いつの間にか近くまで来ていたオーウェンが呼びかけた。


「ピシェールの兵士達と見受ける。何用でここまで来た?」

「『何用でここまで来た?』だってよ…ブァッハッハ、腹痛ぇ!」

大笑いする兵士達を他所にオーウェンは続けた。


「指揮官は何処だ?」

「指揮官?んー、俺かなぁ?いや、コイツかなぁ?正解は…ここには居ませーん!ワハハ」

「指揮官と話がしたい」

「ったく、ノリが悪いな。命乞いに必死かよ?」

などと話していると、奥の方から煌びやかな鎧に身を包んだ男が騎馬に乗ってやってくる。


「指揮官か?」

「まぁ、そんな所さ。お前は?」

「ゴビノーの客将(かくしょう)、オーウェンという。お前達は何故、ここに陣を敷いている?」

「何処に陣を敷こうが俺達の勝手だろう?」

「…ピシェールからはゴビノーの条約提示に対する返事がまだ来ていないようだが、何か聞いているか?」

「物分かりが悪いな。俺達がここに陣を敷いているだけで想像つくだろ?馬鹿なのか、お前?」

そう言うとその指揮官は剣を抜いてオーウェンのフードをめくりあげて言った。


「うぉお、すげぇ美形じゃねぇか?金持ちの女共に奴隷として売り飛ばしてやろうか?命だけは助かるぞ、命だけはな!はーっはっは」

「きちんとした返事が欲しい。ピシェールはゴビノーに戦争を仕掛けるため、ここに陣を敷いている。間違い無いか?」

「あぁ…なんなら今からでもおっ始めて良いんだぜ!」

「…今の言葉、ピシェールを代表する者の言葉と受け取って問題ないか?」

「何度聞けばわかるんだよ、良いって言ってんだろ?ったく、整ってんのは顔だけk」

と言いながらピシェールの指揮官が剣の腹でオーウェンの頬をポンポンと叩こうとした瞬間、ゴーシュが双剣を素早く抜いて、首を()ね飛ばした。


「…ウチの大将に軽々しく触れるな」

普段は穏やかなゴーシュが怒りの表情を見せる。そのあまりの手際の良さに何が起こったのかも分からず兵達が棒立ちしていると、オーウェンが方天画戟を取り出して言った。


「ピシェールからの宣戦布告、このオーウェンが聞き届けた!剣を向ける者は魔物と同じ…貴様ら、皆殺しにしてくれるわッ!」


方天画戟の間合いに居た兵士達が一瞬で消し飛び、更にその刃先から斬撃が飛ぶと100人近くの兵士達が一瞬にして絶命した。オーウェンの繰り出す斬撃で、戦場は見る見るうちにおびただしい血で染まっていく。余裕を浮かべていた兵士達が顔を真っ青にしながら逃げ出す中、オーウェンと500人の兵士達が猛追を始めた。


「う…嘘だろ?あんなバケモンが居るなんて聞いていねぇぞ!」

などと言いながら散り散りに逃げ出すピシェールの兵士達。数の差で勝てると油断していたピシェールに対し、決死の覚悟で戦場に乗り込んだゴビノーの兵士達はあまりに強かった。結局、20000人近くまで集まっていたピシェール兵達はオーウェン達率いる500人の兵士相手に3000人近い死傷者を出し、大きく後退した。オーウェン側にも数名の負傷者がでたものの、全員が生還した事から西砦の兵達の士気は一気に高まった。そしてオーウェンの名と共にこの戦いの様子が周辺国に伝わると、ベカス王国とパルードゥ王国からは即座に条約の批准を検討している旨を知らせる一報が入る事となる。

ーーーーーー


一方、ピシェールの王ガズワンの所へも敗戦の一報が届いていた。


「たった500人に3000もやられおって…しかも全て逃げ帰ってくるとは何事だ、バカ者共めッ!!」

「ファンファーレが鳴った後に急襲を受け、指揮官がやられた事で統率が取れなくなったとか。あの指揮官もそれなりに強かったはずなのですが」

「…その、オーウェンとやら…何者だ?」

「亡くなったディシェ王からゴビノーを託されたエルフと聞いていますが…素性ははっきりしません」

「厄介なヤツに首を突っ込まれたものよ…だが、やられてばかりで終わるつもりは無い。ベカスとパルードゥの王達に共闘を促す書状を送れ」

「…ガズワン王よ、彼らは条約の批准を検討する旨を既にゴビノーへと送っておりますが?」

「どうせ時間稼ぎをしておるだけだ。こちらが共闘という餌を垂らせば、すぐに食い付いてくるに違いない。それに、今なら束の間の勝利に酔いしれているゴビノーの阿呆共を出し抜ける…なにせ、こちらは10万の兵士達を既に他の砦近くへと進めているのだからな」


〜〜〜ピシェールの物見達の報告によれば、いくつかある砦のうち手薄になっていた一つがゴビノーの西の砦であった。しかし西の砦は谷間(たにあい)に位置しており、主戦場となる平地が砦に近付けば近づくほどくびれるように狭くなっている。それ故に、大勢で攻めるには適しておらずガズワンは2万の兵を差し向けるだけに留めた。2万の兵に釣られて西の砦にゴビノー側の兵を集めさせる狙いもあったのだが、今回はその思惑は外れた。しかし、本命である北側からオーウェンのような猛者を引き離せたというのなら儲け物である。既に10万の兵は北側に集結しており、ベカスやパルードゥとも合流しやすい状況にある。西の砦にオーウェンさえ留めておけば、北側では優位に事を進められる…ベカスやパルードゥもこれに加われば数日以内に早々に決着がつくだろうとガズワンは考えたのである。〜〜〜


しかし、ゴビノーにはオーウェン以外にも大戦を描ける者達がまだいるということを、ガズワンは知る由もなかった。そしてその事が原因でピシェール、ベカス、パルードゥという連合軍の歴史的な敗北に繋がるとは、誰も想像出来なかったのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ