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ティンカーの計画

オーウェンが音響魔法でノイズをかける中、ティンカーが話を始める。


「まず、亡くなったディシェさんには、殉国(じゅんこく)の王になってもらおうかな。悪政を強いていたと言っても、これまで現ゴビノー王国を支えてきた王族の1人なんだし、実際、戦争を止める事が出来ていたのも彼のお陰なんだから、そっちの方が受け入れられやすいでしょ?筋書きはこうだよ…ディシェさんは、国を守るために凶悪な武器を手に入れたけど、扱いを間違えて暴走させてしまった。彼はオーウェンに杖を託し、過ちを正すために自らの命を賭した結果、残念ながら亡くなっちゃったんだ。どう?起こった事にそんなに矛盾しないし、こっちの方が感じがいいでしょ?」

「えぇ…ですが、あの時同じ場所に兵士や民衆も多数いたのですよ?」

「彼らには、自分の記憶しか真実を言い張る根拠がないわけじゃん。こっちには王の杖っていう証拠もあるし、なによりディシェさんとやり取りした当事者なんだから、知らないヒトからすれば真実の是非よりも説得力のある方を信じたくなるもんだよ。それにディシェさんが本当に死んでいるかもわからない状況で、今のゴビノーの兵士や民衆にはディシェさんを(おとし)めることは、リスクはあってもメリットは無いのさ。だから、例え真実を叫ぶ声があっても、誰も()()()()()()()()()()()()ってわけだよ」

「な…なるほど」

「後はオーウェンが『しばらくの間、ゴビノーを立て直す先導役をディシェさんから仰せつかった』とか適当に言えばいいよ。実際にはオベハさん達がどうにかするわけだけどね」

「…なんか急に投げやりですね」

「まぁ、ここは大して重要な所じゃ無いからね。さて、大事なのはここからなんだけど」

そう言うとティンカーは一息ついて言った。


「国内のゴタゴタを片付けると同時に、互いに領土を保障し合う条約を結ぶように周辺国へと圧力をかけるんだ。条約の締結に反対する場合は1ヶ月以内に協議の場を設けるか宣戦布告をすること、それ以降も締結に応じない場合は、宣戦布告とみなす旨を書いてね」

「ば、馬鹿を言えッ!?そんな事をすれば周辺国が大挙してこの地を取りに来るに決まっているだろう!」

レオネが机から身を乗り出して怒鳴ったが、ティンカーは顔色を変えずに続けた。


「そうだね、そしてそれはさっきオベハさんが言った半年後にも同じ状況になるんだよ。半年も期間があれば、いかに現ゴビノー王国が軍備を整えようと周辺国には細かい所まで調べられるでしょ?だからこそ、現ゴビノー王国の戦力が測れない今のうちに、有利な交渉を進めておくということさ」

ティンカーの話を聞いていたオーウェンが眉をピクッと動かしていった。


「なるほど、『空城(くうじょう)の計』か」

「その通りだよ、オーウェン。『空城(くうじょう)の計』は、所謂(いわゆる)ハッタリだよ。元々は大勢の敵に囲まれた状況で、わざと城門を開いて相手の猜疑心を煽るというやり方なんだけどね」

「国を『城』に見立て、武力交渉を『門』に見立てた…という所か」

と納得するオーウェンの側で、プルプルと怒りに身を震わせていたレオネがバンッと机を叩いて言った。


「ふざけるなぁッ!!ハッタリで国が守れるかッ!相手に看破られれば、一瞬で全滅では無いかッ!」

「まぁ、看破られればの話だけど…」

「『空城(くうじょう)の計』などと大それた名前を付けよって!そのくだらん策のせいで、我々の国が滅んだら貴様、どう責任取るつもりだッ!?」

「あのさぁ…お言葉だけど、そのくだらん策を使わなきゃいけないほどに、ゴビノーの国力を落としたのは自分達だって知ってる?」

「!!」

図星をつかれて歯軋りをするレオネに、ティンカーは続けた。


「隣国と戦争したくないからって安易な政略結婚を選んで、私情を挟んだ先王が命じた通りに不適切なヒトを王にして、その悪政に耐えられなくなって国を割ったのは貴方達でしょ?」

「き、貴様…ッ!」

「言っておくけど、ボク達は首を突っ込んであげているだけなんだ!気に入らないなら、いつでもここを去れるんだからね!」

キッと睨み返すティンカーにレオネが今にも飛びかかろうとした瞬間、オーウェンとゴーシュが間に割って入る。


「ティンカー、その辺にしておいてやれ」

「そうだよ。いつものことだけど、言い過ぎだよ」

とゴーシュが言うと、ティンカーは顔を赤くして「…だってさぁ」と言って静かになった。オーウェンがレオネに向き直って言う。


「仲間が失礼な物言いをして済まなかった。彼なりにこの国を救う方法を考えた結果だ、気を悪くしないでほしい。だが…俺もティンカーの策に賛成する。仮に俺が隣国の将であれば、この半年間はゴビノーやティアおよびティアマンへの供給路を断つ事に専念するだろう。直接刃を交えない戦い方はいくらでもある、半年後の状況は現状より悪くなることはあっても、良くなることはまず無いと言っていいだろう」

「…だからといって、ただのハッタリで乗り切れるわけが…」

とレオネが言うと、オーウェンはティンカーの方を振り向いて言った。


「まだ、続きがあるんだろう?教えてくれ、ティンカー。…今度は冷静にな」

「…わかったよ。さっき話をした『空城(くうじょう)の計』は、ただハッタリをかますだけじゃない。その本質は猜疑心の連鎖を生み出し、相手に本来の力を発揮させない所にあるのさ。計画の続きを話すね。隣国へこちらから早馬を走らせて返事が返ってくるまでに遅くても20日といったところだけど、期限を1ヶ月に伸ばしたのは、こちらに手紙を差し出すか軍を差し向けるのか、ある程度判断するためさ。明確に宣戦布告をしてこなくても20日以内になんらかの返事を送って来なかった国は、小規模から中規模の軍隊をこちらに差し向ける可能性がある…」

「なるほど、こちらの少ない兵力を集中させるなら可能性の高いところに…と言うことか」

「そういうことだよ。ティア、現ゴビノー、ティアマンの3つの内、最も侵略されにくい位置にいるのはティアマン共和国だね。ティアマン共和国に到達するには、ティア軍国と現ゴビノー王国を通らなきゃいけないし、海からの進軍は1ヶ月という短い期間ではまず無理だからね。そうなると、ティアマン共和国の兵達も、ティア軍国と現ゴビノー王国の国境沿いに集中させられる」

そう言うと、ティンカーはレオネの机に置かれていた周辺国の地図を指差して言った。


「周辺に隣接する国はピシェール王国、ベカス王国、パルードゥ王国、小規模だけどフント獣王国とハーゼ獣人国も合わせれば全部で5つ。フントとハーゼを味方につければ、残りの3国に集中できる」

「…3国相手でも十分キツいと思うが?」

「同時にやり合えばね。だから、期限をギリギリにして連携を取らせないようにしているんだ。今は国が割れて戦力が小規模になってるけど、国土の規模から言えば元々の現ゴビノー王国と釣り合うのはピシェールくらいでしょ。ベカスもパルードゥも、ゴビノーが全盛期並みに力を取り戻していると考えれば無用に手を出そうとは考えないはずだよ」

すると、レオネがふんっと鼻で笑って言った。


「所詮は戦いを知らぬ者の浅知恵だな!宣戦布告をしてきた場合はどうする!?そうでなくても、3国とも軍を進めて来た場合はどうするというのだ!?」

「そこは、オーウェンとボク達がどうにかするから大丈夫だよ」

「ハッ!?エルフとドワーフとケンタウロスの子供、そして猫耳族の奴隷だけでどうにか出来ると言うのか?笑わせるなッ!」

「ここから先はボク達の能力やスキルに関わってくる事だから話さないけど。まぁ、信じられないと言うならそれまでかな。ボク達はここを去るだけだから」

少し沈黙の時間が流れた後、ずっと黙っていたオベハが口を開いた。


「…時間をかければ私達がジリ貧になってしまうことはわかりました。ただ、これだけ大それた事を本当にやれるのか…正直、不安しかありません。確かにオーウェンさんは強いかもしれません、それでも大勢を前に1人で出来ることは限られていると思うのです」

「そういうことだ、たかがエルフの子供に…」

と言いかけたレオネに、ティンカーが言った。


「じゃあ、レオネさんがオーウェンと戦ってみたらいいんじゃない?」

「戦ってどうなるというのだ!?」

「それは…まぁ、戦えばわかるよ」

そう言うと、ティンカーは自信満々にニコッと笑ってみせた。

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