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レオネの焦り

皆の驚きの声で目を覚ましたオベハが事の経緯を説明すると、レオネは頭を抱えながら言った。


「…あの馬鹿め、どうせ死ぬなら役に立って死ねばいいものを」

「まぁ、陛下らしいと言えば陛下らしいのですが…」

「…それで、王都の今の状況は?」

「大規模な爆発でしたので、()()()()()()を見つけるのには苦労するでしょう。なので、しばらく混乱は続くと思いますが…ピシェール王国がディシェ陛下の死を知るまで、そう長くはかからないでしょう。おそらく猶予は、2〜3週間といったところかと…」

「そんな短い期間でゴビノーと和解し、ピシェールとの戦支度をするなど…出来るわけがない」

レオネが黙り込むと、オベハが少し考えて言った。


「ならば…いっそのこと、こちらから周辺国に対してディシェ陛下の訃報を知らせる、というのはどうでしょう?陛下が死んでしまった事は、遅かれ早かれ周辺国へと伝わります。そうなれば、ピシェールだけでなく周辺国は情報が入り次第、ゴビノーやティア、そしてティアマンへの進軍を検討し始めるでしょう。しかし、我々が連名で陛下の死を周辺国に先んじて知らせれば…」

「他国から見れば3国が陛下の死のもとに団結しているようにみえる…ということか」

「ええ。それに、陛下の死を知らされた上でゴビノー王国を攻める事は、君主を失った弱みにつけ込む行為として非難されます。周辺国はお互いに牽制して、すぐに宣戦布告することを自重せざるを得ないでしょう。稼げる時間は半年ほど…、もちろん他国にとっても軍備を整える時間になりますが、戦いを仕掛けるつもりの国と仕掛けられるとわかっている国では精度が違います。半年の間にゴビノーに残っている兵士達を納得させて、周辺国との国境沿いになるべく戦力をかき集めるのです」

「お前の筋書きは理解した。…だが、ゴビノーの兵士達を納得させるなど無理ではないか?ディシェの死によって、ピシェールが攻めてくる事を想像出来る者など、あやつらの中にはおらんだろう。そもそも、あの馬鹿(ディシェ)が死んだことすら納得するかどうか…。…身につけていた遺品でもあれば説得できるかもしれんがな」

すると、2人の会話を黙って聞いていたオーウェンが口を開いた。


「あの男の遺品があれば都合がいいのか?」

「金に汚い男だったからな…金目の物は絶対にヒトに譲らないというのは誰でも知っている。だからこそ、アイツの私物を他人が持っていれば、ヤツが死んだ証拠になり得る」

「なら、これはどうだ?」

そう言うと、オーウェンは爆発の間際に取り上げた杖を収納バッグの中から取り出して見せた。レオネが驚いた様子で言った。


「…貴様、これを何処で?」

「あの男がこれで部下を小突いていたから取り上げた。そのあと魔物騒ぎのゴタゴタで、返しそびれて…」

と言いかけたオーウェンは、視界の端に「!」マークが点滅しているのを見つける。意識下でタップし新しいウィンドウが開くと、そこには「簒奪者(さんだつしゃ)」の項目が明滅していた。何気なくタップすると小項目の欄に“ゴビノー王家”と新しく表示される。すると、オーウェンの持つ杖の先にはめられた宝石が鮮やかに光り始めた。今度はオベハも驚いて声を荒げる。


「お、オーウェンさん!?オーウェンさんはゴビノー王家と関わりを持っているのですか?」

「いや、そんな事は無いと思いますが…」

「で、ですが、その宝石の光は…?」

「…まぁ、なんというか…これは…」

と、オーウェンが説明しあぐねているとレオネが急に皆に下がるように言い、オーウェンに剣を向けた。


「…なんのつもりだ?」

「フードを取ってみせろ!」

レオネの険しい顔に混乱しつつも、オーウェンがフードを取ると皆がその美しさに釘付けになり棒立ちになった。レオネが呟く。


「…貴様、ヴァンパイアか!?」

「…何を言っている?俺はエルフだ」

「シラをきっても無駄だ!こうやって皆が魅了されているのが何よりの証拠…ディシェの血を吸い王家の血を自分のものとした、そうだろうッ!?」

「全然違うが…」

「まぁ、そう言わざるを得ないだろうな。自分がヴァンパイアである事を認める馬鹿は、いないだろうからな」

あまりの話の通じなさにオーウェンが黙り込んでいると、ティンカーが助け舟を出す。


「あのさー、レオネさん。オーウェンは紛れもなくエルフだよ、周囲のエルフと比べ物にならないくらい顔もスタイルも整っているってだけで、他の人も単純に綺麗すぎて見惚れているだけだから」

「…では、何故この男が王家の杖を光らせることが出来たと言うのだ?」

「単にそういうスキルがあるって話だよ。でも…他人のスキルを詮索することが、どれだけ失礼なことか言わなくてもわかるよね?」

「むぅ…だが、そんなスキルは他で聞いたことないぞ」

「そりゃ当然だよ。オーウェンくらい強いならいざ知らず、普通のヒトがこんな能力持ってるって知られたら、悪用してやろうと思うヒトも出てくるでしょ?」

「…確かにな」

「実際にはかなりレアなスキルだから、オーウェン以外に持っているヒトはまずいないだろうけどね。いずれにせよ、彼は正真正銘のエルフだよ。高レベルの『鑑定』スキルを持つボクが言うんだから、間違いない」

ティンカーがそう言うと、レオネは剣を下ろして席へと戻った。レオネとオベハが色々と話している間、オーウェンは小声でティンカーに話しかける。


「助かった、ティンカー」

「いいんだよ、ボクも説明し忘れてた部分もあるしね。どうやらボク達(転生者)と元からこの世界に居るヒト達のステータス画面には、違うところがいくつかあるみたいでね。彼らには“称号”という概念が存在しないから、称号の話が通じないんだ。まぁ、『簒奪者(さんだつしゃ)』っていう称号を得ることで使えるようになった力なんだし、嘘は言っていないよ」

そう言うとティンカーは悪戯っぽく笑って見せた。すると、オベハがレオネと何やらヒソヒソ話をして、オーウェンの方へ戻ってくる。ラパンが人払いをしてその場にはオーウェン達、レオネとその配下数名が残った。オベハが少し間を置いてオーウェンに言った。


「…オーウェンさん、特殊なスキルを持つ貴方にお願いしたいことがあります。…ゴビノー王国の王を名乗ってくれませんか?」

「…どういうことですか?」

「ディシェ陛下の死をゴビノー王国の者達に理解させるには、その王家の杖だけで事足りると思います。しかし、その後の混乱の中で派閥争いや…場合によっては周辺国に離反する者も出てくるでしょう。そういうことが起こる前に、新しい王の下で私達が一致団結する必要があるのです」

「オベハ殿、申し訳ないがそれは無理な話です。第一、俺はエルフであの男とは似ても似つかないですし」

「無理矢理感があるのは否定しません。ですから、ディシェ陛下の喪に服している半年間だけでもお願い出来ないでしょうか?周辺国とのゴタゴタが済めば、国民には私達から説明させていただきますので…」

「そう言われても…。俺達はある目的のために旅に出た途中なのです。時間も限られていて、ここで半年も時間を潰すわけには…」

「…そうですか」

と言ってオベハが肩を落とすと、ティンカーが少し考えて言った。


「オーウェン、その話、受けても良いと思うよ?」

「…何か考えでもあるのか?」

「まぁね。その代わり筋書きはオベハさん達の考えたものじゃなくて、ボクの考えたものに必ず従ってもらう…1つでも従わなかった場合はボク達はすぐにこの国を去るよ。さぁ…どうする?」

と自信ありげにティンカーが詰めよった。オベハは少し考えて言った。


「…まずは、考えを聞かせてくれませんか?」

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