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奴隷という身分

それから少女は身の上について話し始めた。


〜〜〜少女は元々、人族の国々に近い獣人族達の集落で生まれた。ある時、近くの森で遊んでいた少女はうとうとと昼寝をしてしまった。どのくらいの時間が経っただろうか、何かが燃える臭いで少女が目を覚ますと夕焼けの空には黒い煙が立ち登っていた。村の方から煙が上がっていることに気づいた少女が急いで村へ戻ると、建物や村の者達の焼け焦げた遺体を見つけた。嘔吐しながらも自分の家へと向かう少女、そこで見つけたのは翌月に出産を控えていた母と彼女を守ろうとした父の突き殺された姿だった。悲しみに暮れる少女の声を聞きつけた人族の兵士に捕まり、彼女は奴隷にされた。幼かったからか(なぐさ)みモノにはされなかったが、代わりに暗殺の訓練などをさせられて刺客として各地を転々とする日々を送った。ある時、酒に酔って襲いかかってきた幹部を殺して、少女は行く先もわからないまま船に忍び込んだ。食べ物が載せられたコンテナの中で盗み食いをしてなんとか命を繋いでいたが、ブルイン王国で積荷を下ろす際に見つかってしまい、殺されそうになった。その時、助けてくれたのがブルートである。〜〜〜


少女は肩を震わせながら言った。

「ブルート様は言ってくれたわ…『死にものぐるいだったんだろう、許してやれ』って」


(…それはブルートが自身に言って欲しかった言葉なのかもしれないな)

などと思いつつ、オーウェンは静かに聞き続けた。


「その後はブルート様の下で諜報の仕事をしたわ…後は、貴方の知っている通りよ」

「…そうか」

「責めないの?」

「何を?」

「私の生き方よ」

「恵まれた生き方しかしたことない者ならそうするだろうが、俺は飢えることの苦しさを知っている」

「…貴族生まれの貴方が?」

「…詳しくは言えないがな。あれは己の意思で抗えるものではない。友の亡骸(なきがら)の上に湧いた大量のウジですらご馳走に見えるものだ」

「…不思議な人。まるで歴戦の勇士みたいな物言いをするのね」

「…さて、とりあえず飯にしよう。温かいうちに食べたいからな」

「…えぇ」

ーーーーーー


食事を済ませたオーウェンが女に話しかける。


「そう言えば、前に名前も年齢も知らないと言っていたが…あれは嘘か?」

「…半分嘘で、半分ホントよ。私が覚えているのは4歳頃まで…それ以降は歳を数えるのを辞めたわ。名前も上手く思い出せないの…周囲からは番号で呼ばれていたし、ブルート様の所でもチェムノータという組織名でしか呼ばれなかったから。もしかしたら思い出したくないのかもね…ヒト扱いされていた頃の希望の満ち溢れていた頃の自分を思い出してしまうから」

「…なら、新しく名乗ればいい。このままでは話しづらいからな」

「…名付けてくれない?船に乗るときに言ってくれたじゃない、『彼女は俺のモノだ』って」

「そう言わなきゃ断られるかもと考えたからだ」

「それでもいいわ…どうせ私を呼ぶのは、もう貴方くらいだから」


そう言うと少女はどうでも良さそうに頬を突いて窓の外を見ていた。オーウェンも窓から海の様子を見つめる。海は風が吹いていないせいか、波が全くなかった。しばらく見つめたあと、オーウェンがポツリと呟く。


「ナギというのはどうだ?」

「…変わった発音ね、エルフの言葉なの?」


(俺が転生するきっかけとなった国の言葉とは言えないな…、適当な事を言っておくか)

「…古代(ハイ)エルフの言葉だ」

「ふーん…どういう意味?」

「風が吹かず、波が穏やかな様を言う。これから、お前の人生がそうであって欲しいと思った」

「…。…良いわ、じゃあそれで」

「えらくあっさり決まったな」

「単純に気に入っただけよ…ありがとう」

そう言うと、ナギは気恥ずかしかったのか顔を下に向けた。しばらくして、オーウェンが尋ねる。


「それで…ナギは何故ブルート様の所を追い出されたんだ?」

「ヴァルドの高官に奴隷だとバレたの。チェムノータは元々エルフの諜報部隊だったけど、私は身体能力を買われて入ることが出来たわ。…でも、1ヶ月前にヴァルドから来た高官が突然チェムノータの解散を命じたの。他のヒト達はそのまま村へ帰されたけど私はそもそもエルフでもなく奴隷だったから、『解放』という名目で放り出されたのよ」

「…そうか。さっきの船員もそうだが、どうやってナギを奴隷だと見分けていた?」

オーウェンが尋ねると、ナギはスッと両足の(こう)を見せて言った。


「ここに呪印が刻まれているでしょ?これが奴隷の証よ。この呪印が見えるように、奴隷は靴を履くのを禁じられているわ。そして所有者が逃げるなと命令すれば呪印が発動して走れなくなるの」

「なるほどな、足元を見る連中らしいやり方だ。それで、どうすれば呪印を外せる?」

「呪印と対になる契約書があるわ。それが無くならない限り、決して奴隷をやめることは出来ないわ」

「破ればいいだけじゃないのか?」

「ただの紙じゃないのよ。火をつけても燃えないし、馬で引っ張っても破けないくらい頑丈らしいわ」

「そうなのか…まぁ、外し方は後々考えることにしよう」

そう言うと、オーウェンはナギを連れてティンカーの下へ向かった。


ーーーーーー

ティンカー達の船室をノックすると、しばらくしてゴーシュがドアを開けた。


「オーウェン、どうしたの?」

「ナギを紹介しようと思ってな、ティンカーは?」

「船を探検してくるって言ってたよ、造船にも興味が湧いたみたい。探すついでに僕達も探検しようか、ちょうど退屈になってきた所だったんだ」

「そうだな」

オーウェン達はティンカーを探すついでに船の構造を確かめる。6階建ての船は下の1〜3階をぶち抜いた構造の貨物室、4階は客室で5階にはバーや食事処と船員達の詰所が入っていた。甲板に出ると帆を張った大きなマストが4つも立っており、ティンカーがペタペタと見回っているのが見える。


「ティンカー、ここに居たか」

「なんだ、皆も探検かな?この船、帆船なのに結構速いから何でだろうって思ってたら大きな魔石で生み出した風魔法を帆に当てて進んでるらしいんだ。でも、ボクならもっと上手く作れる気がすr…」

「ティンカー、奴隷の呪印を外す方法を知っているか?」

「…そっちのコの事?」

「あぁ、やはりナギが奴隷と知ってたんだな」

「ハハ、交渉は足元を見る所から始まるからね。んー…書き換える方法なら知っているかな」

「どう言う事だ?」

「契約書はとても頑丈だから破れないんだけど、そうなると安易に売り買いできなくなるでしょ?だから奴隷の名前は残したまま、所有者だけを変更して売買が成立するって感じだよ」

「なるほどな、どうやって変更する?」

「奴隷商は契約する直前に、インクに自分の血を混ぜてサインするんだ。書き換える時も一緒で、修正液にソイツの血を混ぜて、上からなぞれば名前を消せるって仕組みだよ」

「その方法で奴隷の名前を消すことはできないのか?」

「どうだろ…知り合いに聞いた話だし、ボク自身は売ったことも買ったことも無いからわからないんだよ。奴隷を解放する奴隷商なんて、まずいないだろうし」

「確かにな」

「契約書があるなら試してみたら?」

と言うティンカーに、オーウェンはナギの状況を話した。


「なるほどね…ナギが捕まった国がわかれば、大体何処の奴隷商が所有者だったかわかるんだけど」

ティンカーがナギの顔を見つめると、ナギはオーウェンの背中に隠れながら言った。


「わからないわ…だいぶ前のことだから」

「そっか。いずれにせよ、今はオーウェンの奴隷として振る舞っておきなよ。主人の近くにいる限り、身の安全は確保できるんだからさ」

「…わかった」

そう言うとナギはオーウェンの背中にぎゅうっと抱きつく。甲板で作業をしていた船員が「お熱いねぇ♡」などとからかっていったが、ナギは気にしていない様子だった。

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