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ローラとの再会

しばらく進むと先導していた人魚が言った。

「ここで乗り物を降りてもらいます。オーウェン様達はこの道をそのまま進んでいってください。私は先回りしてネレウス様に報告してきますので」


オーウェンは通路の先をジッと見つめながら言った。

「アトラスにもヒトが通れる道があるんですね」

「この通路は、ネレウス様がオーウェン様のために特別に作らせたんですよ。あんなにヒト嫌いだったはずのネレウス様が…。あ、すみません。余計な事を喋ってしまいました。それでは、また後で」

そう言うと人魚は静かに水の中へと消えていった。


(ネレウス様はヒト嫌いだったのか…。だとしたら、今回の招待はやはり何らかの意図があるということか)

オーウェンは先程感じた不安感がやや大きくなるのを感じつつ通路を進んでいった。

ーーーーーー


オーウェン達が道なりに進んでいくと、先程よりも広く大きなドーム状の空間に出た。外壁の四方からは海水が滝のように流れ込み、大きな潮溜まりのようになっている。その中央には浮島のように台座があり、丸太で作られた橋が架けられていた。オーウェン達が橋の前で立ち止まっていると、何処からかネレウスの声が響いた。


「台座の方へと進むが良い」

その指示に従いオーウェン達が台座へと進むと、正面の滝の上からネレウスとローラが姿を見せた。音響魔法を使い、オーウェンがネレウスへ話しかける。


「ネレウス様、お久しぶりでございます」

「よく来たな、オーウェン。まさか、これから婚約をするかもしれない相手の所に、他の婚約者を連れてくるとは思わなかったが…」

とネレウスが言いかけたところでローラが滝の上から飛び込んでオーウェンへと全速力で向かってくる。


「オーウェン♡」

と言って飛びかかってくるローラを華麗にかわしてオーウェンは言った。


「ローラ、久しぶりだな」

「もぅ、なんで避けるのー?久しぶりだからって照れなくていいのに…♡」

「革製品は海水に弱いからな…傷んでしまってはいけないと思って」

「何の心配してんのよ!?」

とローラがツッコんでいるとネレウスが溜息をつきながら言った。


「…ローラ、我との約束を忘れたか?淑女らしく振る舞うように何度も言ったはずだが?」

「だってぇ、久々に愛しいヒトと会えたんだもの。我慢する方がおかしいわよ、パパもそう思うでしょ?」

「まったく、お前というヤツは…」

とネレウスが頭を抱えていると、その背後から若い男の人魚が出て来て言った。


「ローラらしくて良いじゃないか、オヤジ。俺もそう言う気持ちは大事にしたほうが良いと思うぜ?だが…俺の可愛い妹を、数多くいる女の1人として扱われるのは…兄貴として見過ごせねぇんだよなぁ」

そう言うと、その若い人魚はオーウェンの方をギッと睨みつける。ローラが慌てた様子で呼びかけた。


「お、お兄ちゃん…私はシャルちゃん達がオーウェンのお嫁さんになると知ってて好きになったんだよ?それに、あの時はお兄ちゃんも応援してくれるって言ったじゃない?」

「あぁ。王族と血縁関係になれるのならお前にとっても、この国にとってもプラスになると思えたからな。だが今は、もっとプラスになれる事を考えたのさ。俺がそこのお姫様達を貰えば、そいつはもう王族でもなんでもない。そうすりゃ、そのナンパな野郎はお前が独占出来るって話だろ。お姫様達もどうだい?俺はそこにいる優男よりも血筋はしっかりしているし、腕にも自信があるぜ?」


すると、シャルロッテ達が顔を真っ赤にして怒って言った。

「オーウェン様はナンパなんかじゃありませんわ!私達皆の想いを受けとめられるほど、器量がある方なんです!」

「そうですぅ、血筋とか関係なく私達はオーウェン様が好きなんですぅ!」とイザベル。

「…モノみたいに貰うなんて言わないでください、…不愉快です」

とドロシーも不快感を露わにすると、若い人魚は苦笑いしながら言った。


「おっと、すまねぇな。そういうつもりで言ったわけじゃねぇんだ。俺が言いたかったのは、そこのナンパ野郎にそれほどの価値があるのかってことさ。人魚の男には、そういう時に打って付けの試練というものがあるんだが…ナンパ野郎、お前も試してみるか?」

そう言うと若い人魚はニヤリと嫌味ったらしく笑って見せるが、オーウェンは冷静に返事した。


「俺の名はオーウェンだ。“屍人還り(セイレーン)”から助けた際に、意図せず裸になったローラを抱きとめる事になってしまった。人魚は裸で抱き合った男と添い遂げるしきたりがあり、それを破られればその男に関わる全てを奪い取らなければならないと聞いたが、それは本当か?」

「あぁ、そうだと言ったら…お前はどうする?」

「俺は俺に関わった全てを手放すつもりは毛頭ない、その打って付けの試練とやらを受けることで全てが収まるなら受けて立とう」

「フン、いい度胸じゃねぇか」

そう言うと、若い人魚は名乗りをあげた。


「俺の名はノア・アトラス・フォン・ヴェスミア。ノアお義兄(にい)さんって呼んでいいぜ…まぁ、この試練に生き残ることが出来ればの話だがな」

そう言うとノアはローラにシャルロッテ達を連れて台座から退くように指示した。シャルロッテ達が十分に離れたのを確認して再びノアが話し始める。


「屍人還りを倒した程度で満足するようなヤツを義兄弟(きょうだい)と認めるつもりはないぜ、海の本当の恐怖というものを教えてやる」

そう言うとノアは指をパチンと鳴らした。何処かからギギギと歯車が回る音がすると、俄かに水面が波立って10mほどの長い影が海中を通り過ぎる。ノアが得意げに説明し始めた。


「そいつは大毒ウツボ!俺が飼っているんだが、ここ数日は餌を与えていなくてな…凄く腹を空かせているのさ。知ってるか?ウツボは皮膚呼吸が出来るから陸地にも這い上がって来れるんだぜ。さぁ、どうする…素直に降参すると言えばその台座を上にあげてやってもいいが?」

ノアが説明している合間にも大毒ウツボはグルグルと台座の周囲を泳ぎ始めた。ノアはオーウェンの恐怖心を煽るように畳み掛ける。


「さぁ、意地を張ってねぇでさっさと降参しろ。言っておくが、ウツボは剃刀のように切れ味のある歯がたくさんある。噛まれると皮膚がズタズタに…って、ぉいおいおい!早くしねぇと間に合わなくなるぞ?『ローラさんだけを幸せにする器量しか僕にはありません、勘弁してください』とか言えよ!死にてぇのか、お前!?」

大毒ウツボが台座に登り始めると、急にノアが焦りだした。だが、オーウェンは全く動じない。次の瞬間、ウツボがヌルヌルとオーウェンめがけて進んできたが、オーウェンが方天画戟を一振りするとウツボの頭部が千切れ飛び、ビクビクと動く身体だけが残った。一瞬の出来事に皆が唖然としている中、オーウェンがノアに向かって言う。


「…身の危険を感じたとは言え、ペットを殺してすまなかったな。…試練はこれで終わりか?」

「あ…そうです…はい」

「…粘液が鎧の中に入ってしまった。気持ち悪いものだ…」

そう言うとオーウェンが人魚達の前で初めて兜を取る。この世の至宝とも言える美少年が、その黒くしなやかな髪をかき上げるのを見て、見守っていた人魚達の中には失神し海中へとぶくぶくと沈んでいく者もいた。ノアは流石に失神こそしなかったが、腰が抜けたのかヘタヘタと座り込んだかと思うと額の前で両手をぎゅっと握りしめて祈るような格好で叫んだ。


「ぉぉ…おお…お兄ちゃんって呼んでください!」

評価ありがとうございますー。低評価をされる場合は、是非、コメ欄にどういう点が気になったのかを書き込んで頂ければ有難いですー。すでに数十話先まで話を書き溜めてあるため、急激な路線変更等は出来ませんが、後々の参考にしたいと思いますー。よろしくお願いしますー。

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