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遺されたもの

翌日、宴会を遅くまでしていたにも関わらず、オーウェンとゴーシュ、エルヴィスは朝早くからザント内を見回っていた。すると、商店街の方からティンカーが歩いてきてオーウェンに声をかける。


「やぁ、皆!」

「ティンカー…休むのはもう良いのか?」

「十分休んだよ、それに色々聞きたいこともあるし」

「そうか、なら場所を変えよう」

そう言うと、オーウェンは昨日の迷宮(ダンジョン)で起こった事についてティンカーに話しながら、26階層の入り口へと向かった。

ーーーーーー


オーウェン達は26階層以降を見て回る。そこには騎士達や貴族達の屋敷があり、彼らが(のこ)したと思われる武器や調度品、様々な宝石類などがそのまま残っていた。ティンカーが1つずつ鑑定しながら呟く。


「…凄いなぁ、この部屋にある物だけでも数億コルナ…歴史的価値も加味したら十数億コルナくらいの価値があるよ」

「そうなのか?」

「地下施設で温度や湿度が変化しないからね、保存状態がとってもいいのさ。ちなみに所有者名は全てオーウェンになってるよ。きっと、彼らが亡くなった時に全て王に献上することにしたんだろうね。どうする?ウチの父ちゃんなら、それなりの地位の人達に()()()()()()()で売り付ける事も出来るだろうけど?」

ティンカーがニコッと笑ってみせるが、オーウェンは首を横に振って言った。


「悪いが売るつもりはない、俺の物では無いからな」

「え?でも、所有者はオーウェンだよ?」

「『簒奪者(さんだつしゃ)』という称号で書き換えられただけだ、俺は本当に簒奪者(さんだつしゃ)になるつもりはない」

「ほーんと、変なトコで真面目なんだから。勿体無いよ?そういう損する性格…。まぁ、そういうトコがあるから付いていけるんだけどねー」

と言いながら、ティンカーが何か思い付いたように人差し指をピンと立てた。


「あ、それならさ!丸ごと博物館にするってのはどうかな?屋敷も調度品も宝石も迷宮(ダンジョン)に固定化してしまえば、盗まれたり傷つけられる心配も無いし。皆に古代(ハイ)エルフの遺跡を楽しんでもらえるじゃん!」

「全く、お前ってヤツは…何でもかんでも儲け話に変えようとするんだな」

「当然だよ、ボクは根っからの商人だからね」

そう言うと、ティンカーはウィンクをしてみせる。エルヴィスがその様子を見てフフフと笑うと、オーウェンは申し訳なさそうに言った。


「すまないな、ティンカーも悪気があるわけじゃ無い」

「えぇ、十分承知していますよ、我が主。それにティンカー殿の博物館の提案は、私も素晴らしいと思いますよ?いくら価値がある宝石でも人目に触れなければ、そこら辺に転がっている石ころと変わりありませんから」

「まぁ、エルヴィスがそう言ってくれるなら考えてみるか…。最終的な判断はサブル様にも話を通してからだがな」

などと話しながら、オーウェン達は最深部へと向かって行った。結局26階層から90階層までをティンカーが査定した結果、大凡(おおよそ)ではあるが屋敷なども併せて少なくとも30兆コルナの価値はあると判断された。王族達が住んでいた91階層へと続く大きな門を前にティンカーが話す。


「凄いなぁ、王族の住んでた階層にたどり着く前の時点で既に中規模国の国家予算を上回る額だよ」

「…売らんぞ」

「もぅ、オーウェンの気持ちはわかってるんだってば…売れたらってだけだよ」

などと言いながら、ティンカーはあからさまに残念そうな顔をしていた。

ーーーーーー


91階層から99階層も更に豪華な宝飾品などが見つかったが、圧巻だったのはやはり玉座の間のある100階層だった。玉座の間へは広く長い廊下があり、通路の両脇には多くの鎧が並べられていた。オーウェン達が通ると鎧達が敬礼の動作を取る。鎧の動きに反応しオーウェンが抜剣しようとすると、ティンカーが止める。


「大丈夫そうだよ、彼らはボク達を敵と見なしていないみたいだから」

「…こいつらは一体?」

「リビングアーマーって言ってね。魔物じゃないよ、人工のゴーレムに近い存在…簡単に言えばロボットみたいなもんだよ。決められたルールに従って、決められた通りの行動を取る置き物だと言ったらわかりやすくなるかな。恐らく、この部屋に入ってきたヒトが客か侵入者かで対応が変わって来るんだろうね」

「…正規のルートで降りてきていたら、これだけの数のリビングアーマーと戦う事になってたかもしれないってことか」と呟きながら身震いするゴーシュ。しかし、ティンカーはキラキラと目を輝かせて言った。


「1体作るのに1500万コルナくらいかかるリビングアーマーがこんなにいっぱい!しかも古代(ハイ)エルフが作っただけあって、動作もスムーズだし性能も段違いだよ!ただ、ここに置いておくのはちょっとマズいから収納バッグに入れた方がいいだろうねぇ」

「何がマズいんだ?」

「パッと確認した感じだと、この子達に組み込まれたプログラムの基本は“部屋に入ってきた者が許可された存在であれば通し、そうでなければ戦う”っていう簡単なものなんだよ。でも、それだと博物館にした時に入ってきたお客さんに危害を加えてしまう可能性もあるじゃない?」

「…なるほどな。それじゃあ、全て破壊しておくか」

「何言ってんのさ!?ダメだよ、勿体ない!収納バッグに全部回収してよ、ボクがプログラムの内容を書き換えてあげるから!」

ティンカーの必死の形相に思わずオーウェンもたじろぎながら「あ、あぁ…わかった」と返事するしかなかった。回収してみるとリビングアーマーは約1万体で、どれも自動修復機能が付与された高性能のものだった。ティンカーが大喜びして飛び跳ねながら言う。


「自動修復機能の術式なんて初めて見たよ!」

「難しいものなのか?」

「難しいというか面倒臭いんだよ。物体を構成している()()1()()1()()()ラベルを貼る。そして、壊れた時に隣り合うラベルを自動で探し出して決まった位置で再結合するようにプログラムするのさ。そうすればどんなふうに壊れても元通りになれるんだけど根気と時間がいる作業だからね、古代(ハイ)エルフくらい寿命が無いと1体作るのに数世代もかかっちゃうってわけ」

「なるほど、貴重だな」

「そんな貴重なものを誰かさんはさっき簡単に壊そうとしたんだけどね」

「…その方が手っ取り早いと思って。それに…自動修復機能で壊れないなら結果は同じだったんじゃ…」

「そうやって、すーぐ屁理屈言うんだから」

「…すまんかった」

「素直でよろしい!フフフ」

満足そうにするティンカーに、ゴーシュが釘をさす。


「ティンカーもその辺にしてあげなよ、オーウェンが可哀想でしょ?」

「ゴーシュはオーウェンの肩ばっかり持つんだから…はーい、反省してまーす」

などと、ふざけ合うオーウェン達。エルヴィスは嬉しそうにその様子を見守っていた。

ーーーーーー


玉座の間に入り、オーウェン達は転がった古代(ハイ)エルフの遺骨を集めたり、埃をはらったりして片付けをしていた。オーウェンがふとエルヴィスの方を見ると、エルヴィスは玉座に触れながら水晶を握りしめて立ち尽くしていた。オーウェンがエルヴィスに声をかける。


「中身を見たのか?」

「いえ、まだ…。父は最期、私を責めませんでしたが…それは本心じゃなかった気がして…。1人で見る決心がつかないのです。宜しければ、一緒に見てもらえませんか?」

「…あぁ、いいだろう」

「有り難う御座います、我が主」

そう言うとエルヴィスは水晶に魔力を込めた。


水晶から光が壁に投影されると、そこには若き日のエルヴィスと王の映像がたくさん残されていた。赤ちゃんのエルヴィスに指を掴まれて嬉しそうにする王の姿、エルヴィスが1人勉学に励む様子とそれを覗き見る王の姿、魔術師試験に合格したエルヴィスとその母が喜ぶ姿を遠くから見守る王の姿、そしてエルヴィスを筆頭魔術師として任命する時の誇らしげな王の姿…そのどれもが慈愛に満ちた表情だった。エルヴィスが涙を滲ませるなか、最後の映像が流れる。王が水晶に向かって話し始めた。


「昨日…妃が亡くなり、我は1人で死を迎えようとしている…。他の貴族達は既に死に絶え、この広い地下室には…我しか生きていない。自分で命を絶とうと何度も考えたが、心残りが1つある…エルヴィス、お前の事だ。…こんな結果になるのなら…行かせなければ良かった」

王の言葉を聞き、エルヴィスが涙を流し無言で項垂(うなだ)れる。


(…王は、結果を出せなかった私に酷く落胆したのだろう…)

とエルヴィスは思っていた。王の言葉が続く。


「…お前が我のために調査団を率いて旅立った時、頼もしくも嬉しくもあった。だが、お前が死んだという報告を受けて…私は気が狂いそうになった…。危険な旅で息子を死に追いやってまで我の命には繋ぐ価値があったのかと、自分を…何度も、何度も…責めた。お前に何一つ父らしい事をしてやれなかった我を…許して欲しい」

王が涙を流している姿を見て、エルヴィスは号泣していた。


(…父は、自分の命よりも私の最期の事を気にかけて…ああ言ってくれていたのか…)

嗚咽の止まらないエルヴィスの肩を、オーウェンが静かに支える。そんな中、王の最期の言葉が響いた。


「出来るなら…最期の時を共に過ごしたかった。お前の頑張りを…もっと…褒めてやればよかった。お前にもっと…愛していると伝えればよかった。だが…お前はもういない。我に残された時も…もう残りわずかだ。だから…いつか再びお前の魂と巡り会えた時は…必ず伝えよう…。我は…父は…お前に会えて…幸せだ…った、愛しい…息子…エル…ヴィス…」


そう言うと王は静かに息を引き取り、その手から水晶が溢れ落ちて映像は途切れてしまった。

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