簒奪者
話のキレがいいので今日はここまで投稿します
同時刻、オーウェン達の方でも地鳴りが響いていた。エルヴィスとデニスを担いでオーウェン達は急いで玉座の間を出ようとするが、壁が崩れて避難通路を塞いでしまった。ゴーシュが焦りを露わにして言う。
「壁が壊れてこっちは使えないよ、オーウェン!!」
「…何故だ?数千年も過ごせるように頑強に作ったのでは無いのか、エルヴィス?」
「ええ、その通りです。たった3千年程度でここまで老朽化するなんてあり得ません」
エルヴィスの言葉を聞いてオーウェンはこれまで得てきた知識と経験を総動員して状況を把握する。
(考えろ…崩壊はリッチが自害して始まった。まさか、リッチが最後の罠を…いや、そんな事はあり得ない。息子のエルヴィスを手にかけたと嘆いていた彼が、そんな事をするとは思えん。…しかし、俺達が全力で戦っても壊れなかった建物が急に崩れるなんて、まるで…)
オーウェンが「そうか!」と声を上げるとゴーシュが崩れ落ちてきた岩を避けながら言った。
「何かわかったの、オーウェン?」
「…魔創迷宮だ。この遺跡はいつからかわからんが、魔族によって迷宮に造り変えられている。崩れ始めたのはリッチが攻略されたと見なされたからだ!」
「そんな…もしかして25階層の扉って!」
「あぁ、きっとこの迷宮の扉だったんだろう。連続した階層だったから26階層より先が迷宮化しているとは思いもしなかった。俺達は俺の迷宮へと一時的に避難出来る、時間はかかるだろうが地上を目指す事もできるだろう。それよりも、ここが崩れるとナサニエル達や上の階層の住民達が危ない」
「どういう事?」
「75階層分の地下が崩れれば上の階が丸ごとその大穴に落ちてしまう…そうなると上にいる者達は、誰も助からない」
「そ、そんな!ど…どうしよう!」
「狼狽えるな、まだどうにか出来るかもしれん」
そう言うと、オーウェンは自分のステータス画面から迷宮管理の項目を確認する。ゴーシュとエルヴィスがオーウェンの後ろから覗き込んで言った。
「な、何をしているの?」
「以前からずっと考えていた…神創迷宮が崩壊せず、魔創迷宮だけが崩壊するのは何故か…とな。そして1つの仮説を思い付いた、管理者さえいれば迷宮は崩壊せずに済むのではないかと…」
「つまり…どういう事?」
「神創迷宮は攻略した者が管理者となるが、魔創迷宮は魔族によって予め管理者が設定されている。よって、両者の違いは攻略後に管理者が不在になるかならないかという事だ」
「なるほど…という事は、この魔創迷宮の管理者を『迷宮の創造主』の称号を持つオーウェンに置き換えれば!」
「あぁ、この崩壊も止められるはずだ!」
と言いながらオーウェンが「管理者変更」の文字をタップする。すると、先ほどまで崩れていた壁や天井が時間を巻き戻すように元の位置へと戻っていった。
「…どうやら、仮説は正しかったようだな」
と一息つくオーウェンにゴーシュ達が喜んで抱きついた。
「やったよ、オーウェン!これって凄い発見だよ!」
「いやはや、あのような逼迫した状況でこれほどの事を思い付くとは… 流石です、我が主」
などとエルヴィス達がオーウェンを褒め称える。すると、オーウェンのステータス画面で「称号」の欄に「!」マークが表示された。オーウェンがタップすると、そこには「簒奪者」と書かれていた。酷い称号だなと思いつつ、オーウェンは詳細欄を確認する。
「簒奪者…王またはそれに準ずる地位の者を死に追いやり、その者の全てを奪い、かつその血縁の者を薬物や洗脳魔法等を使わずに心酔させた者にのみ送られる称号。倒した相手のステータスや装備品、スキルなどを自身に加算する効果がある」
オーウェンがその内容に不穏な空気を感じていると、続けてアイテム欄とスキル欄にも「!」マークが表示された。アイテムの中にはおびただしい数のスケルトンウォリアーやスケルトンジェネラル、リッチの軍勢が表示されスキル欄には「王の進軍」という表示が出現していた。
(つまり…俺が王を死に追いやって、魔創迷宮を乗っ取り、その息子のエルヴィスに心酔されたせいで、75階層分に詰まっていたおびただしい数のアンデッド共が俺の軍勢になったと…そういうことなのか)
アンデッドの軍勢を指揮する自分の姿を想像し、オーウェンは少し身震いしていた。
ーーーーーー
オーウェン達が避難通路を通ってナサニエル達の所へ戻ると、皆が拍手でオーウェン達を出迎えた。ナサニエルが拳を突き出して言う。
「上手くいったみたいだな、オーウェン!」
「あぁ、なんとかな。…そっちの被害は?」
「軽傷者74名、中等および重傷者は22名だけど命に別状なし!死者も出ていないぜ…まぁ、シャル様達が必死になって治療してくれたおかげなんだけどな」
そう言ってナサニエルが視線を向けた先には、疲れきって座り込むシャルロッテ達とティンカーの姿があった。オーウェンが労いに駆けつける。
「シャル様、ベル様、ドロシー様、ベアトリス…本当によく皆を守ってくれた、礼を言う」
とオーウェンが言うと、シャルロッテ達は少しだけ微笑んで見せた。オーウェンがティンカーへと向き直って声をかける。
「ティンカー、とても苦労をかけてしまったな」
「へへ…キミがボクに苦労をかけない事の方が不自然というものだよ。それに、そっちはそっちで大変だったんでしょ?」
「まぁな」
「色々と聞きたい気持ちもあるんだけど…今はとにかく休ませ…て」
そう言うと、ティンカーはスヤスヤと寝息を立てていた。ゴーシュがティンカーを背に乗せて上の階へと向かっていく。多くの兵士達が喜びながら撤収の作業に入る中、オーウェンはいつまでもシャルロッテ達の側でその寝顔を見守っていた。
ーーーーーー
数時間後、ザントでは至る所で宴会が行われていた。ティンカーやシャルロッテ達はオーウェンの迷宮で休んでいたが、ナサニエル達は引っ張りだこ状態で、兵士達に胴上げをされては食事をご馳走されるという終わらない歓迎会の洗礼を受けていた。一方、オーウェンとゴーシュ、エルヴィスはサブルに呼び出されて応接室に居た。部屋の外から聞こえる兵士達の笑い声にサブルが頬を弛めながら言った。
「今日は何処もお祝いのようだな…それもこれも、全てお前達のおかげだ。本当に、よくやってくれた」
「有り難うございます」
「さて、早速だが…下で何があったのか教えてくれるな?」
「はい」
そう言うと、オーウェンは下の階層で起こったことを話し始めた。古代エルフの王がリッチになっていた事、26階層以降が魔族によって魔創迷宮へと造り変えられていた事、迷宮の崩壊を防ぐために管理者をオーウェンに書き換えた事…。サブルは驚きつつも冷静に話を聞いていた。オーウェンは、エルヴィスに関連する事や、自身に簒奪者という称号が付いた事は伏せたまま、話を終える。
「…ということでした、以上です」
「なるほどな…他には無いか?」
「…はい、お話出来るのはこれだけです」
オーウェンが言い切ると、サブルはオーウェン達に話せない事情がある事を組んだのか、あっさりと引き下がった。
「そうか…わかった。これ以上はもはや聞くまい。ワシにも考古学者の意地がある、この先は自分で調べてみせるわ」
「お気遣い頂き、有り難うございます」
「さぁ今日はもう良い、お前達も宴に混ざって来るといい」
「はい、失礼致します」
そう言うと、オーウェン達は応接室を後にした。オーウェン達が宴会場へ行くと、多くの兵士達が一層騒ぎ立てる。
「遅れて主役の登場だぁーッ!」
「身体付きがしっかりしているな!とても10歳には見えんぞ、もっと大きくなるんじゃないか?」
「兜を取って見せてくれよ、結構整ってそうだしな!」
などと、兵士達が騒ぎ立てるとオーウェンが挨拶をしようとおもむろに兜を外した。すると、それまでうるさかった一同が水を打ったように静かになる。
「挨拶が遅れました、オーウェン・モンタギューと言います。これまで長く戦いを続けてきた皆さんに、心より敬意を表し、これからもお互いに手を取り合っていける事を願っています。長い間お疲れ様でした」
オーウェンが挨拶をした後、少しの間を置いて兵士達が異口同音に叫んだ。
『ちょ…超絶イケメンキタァアアアーーーー!!!』