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“魔物狩り”の異名

“魔物狩り”と聞いて兵士達が道を()ける。オーウェン達が進んでいくと兵士達はヒソヒソと小声で話していた。


「…あんな子供達が“魔物狩り”なのか?」

「先頭の子とケンタウロス以外は体格もまだ大きく無いぞ…」

「…本当に大丈夫なのか?」

などと騒つく中、オーウェンがデニスに聞く。


大楯(おおたて)を借りたいのですが」

「構わないが、…3人掛かりで持ち上げるようなかなりの重量だぞ?」

「問題ありません、3つほど借ります」

と言うとオーウェンは1つをひょいとゴーシュに手渡し、自分は両手に1つずつ大楯を持って歩き出した。本来であれば地面に突き立てて3人掛かりで使う大楯をオーウェンは片手でスッと持ち上げる。そんなオーウェンの姿に、兵士達はさらに騒ついた。ゴーシュがオーウェンの隣に並びながら言った。


「流石だね、この重量を軽々と2つも持ち上げるなんて」

「方天画戟の成長に合わせたレベルアップのおかげだな、このくらいでは少しも重いとは感じない。というか、方天画戟を持った俺を乗せて走れるゴーシュでも重いと感じることがあるのか?」

「脚腰は強いんだけど、こっちの腕はそこまででも無いからね。まぁ、このくらいなら問題無いけど」

そう言うとゴーシュは両手で大楯をひょいひょいと持ち上げて見せる。デニスは訳がわからないと言った表情でオーウェンに尋ねる。


「い…一体どんな訓練をしたら、そうも容易(たやす)く持てるようになるんだ?」

「ヴァルド王国にある神樹の力と言った所です、ここが片付いたら是非ヴァルドを訪ねてみてください」


〜〜〜勿論、オーウェンにとっての神は“世界樹”ではなく、ゼウスである。しかし、レベルアップなどの恩恵は、そもそも神を認識しなければ使えない。アールヴズ連合国全体に優秀な人材を増やすためにも、こうしてオーウェン達は各国で世界樹について触れ回るようにしているのである。〜〜〜


「ヴァルドにはそんな素晴らしいものがあるのか…わかった、是非行ってみるとしよう」

と言いながらデニスは通路の方へ行き、魔物達を抑えている兵士達に急いで退くように指示した。通路の奥にいた兵士達が逃げ戻ってくると、その後ろから列を組んだスケルトンウォリアーがザッザッと迫ってくる。最後の兵士が通路を出た事を確認し、オーウェンとゴーシュが3枚の大楯で通路を防いで言った。


「ヤツらを25階層まで押し返す!!フレッド、グレン、ナサニエル、遅れずに付いて来い!」

『オゥッ!』

「さぁ、行くぞッ!!」

という掛け声と共に、オーウェン達が大楯を壁にしてズンズンと通路を進んでいき、まるでブルドーザーのようにスケルトン達を25階層へと押しやっていく。ナサニエル達は隙間から抜け出そうとする者を槍で迎撃しながらオーウェン達の後に続き、アニー、エラ、コリンが防護魔法でこれをサポートすると、先程まで魔物で溢れかえっていた通路はオーウェン達のおかげであっさりと確保された。オーウェン達が25階層に着くとアニー達が急いで防壁魔法を展開する。スペースが出来た事を確認し、ケイトがデニスに合図を送ると25階層まで<黄の(おおとり)>の兵士達が駆けつけて来た。兵士達がケイト達に混じって応戦する中、デニスがオーウェンの下へ駆け寄ってくる。


「ひとまず25階層にはたどり着いたな!だが、これからどうする?」

「扉を閉めない事には数を減らすことは出来ません、俺とゴーシュが突っ切って扉を閉めて来ます」

「…危険すぎないか?」

「先程の通路と違って広さがあるのでコイツが使えます、造作もありませんよ」

そう言うと、オーウェンは収納魔法付きバッグから方天画戟を取り出した。


「それは…武器なのか?」

「えぇ、ここからが本領発揮という所です」

そう言うと、オーウェンはゴーシュに飛び乗ってスケルトンウォリアーの群れに向かっていった。オーウェンが一振りするたびに、たくさんのスケルトンウォリアーが吹き飛んで動かなくなる。途中魔法を放とうとするスケルトンも居たが、ケイト達の正確な矢で頭部を吹き飛ばされて魔物達の手数は徐々に減っていった。


「1年以上も膠着状態だったのが、あっという間だぞ」

「“魔物狩り”というのは本当だったんだな」

などと応戦しながらも驚きを隠せないと言った様子で兵士達が話していると、ナサニエルが指示を出した。


「残りを始末するぞ、槍を持っている者は2列になって通路を防いでくれ。オーウェン達と俺達で挟み撃ちにして一気に片をつけるんだ!」

『オォーーッ!!』


多くの兵士達が勝利を確信してナサニエルの指示に従い、通路に残ったスケルトンウォリアーを一掃していく。負傷兵達の治療を終えたエルヴィス達も合流し、ナサニエル達が扉が見える辺りまでようやく到達すると、オーウェンとゴーシュは扉を押さえながら片手で応戦しているようだった。兵士達が一気呵成(いっきかせい)に乗り込み残ったスケルトンウォリアーを始末するなか、ナサニエルがオーウェン達の方へ走り寄る。


「オーウェン、どうしたんだ?」

「どうやら、鎖を外したヤツはご丁寧に鍵まで壊していったようでな。この手を離せばさっきの状態に元通りと言った所だ」

「マジかよ、…溶接でもするか?」

とナサニエルが言いかけたが、扉の向こうからドスンドスンと何かを打ち付ける音が聞こえてくる。


「な、なんだ、この音!?」

「閉じる寸前にやたら体のデカいスケルトンが見えた…ソイツが扉を壊そうとしているのかもしれない」


オーウェンの言葉を聞いて兵士達が絶望に満ちた表情を浮かべた。何故なら、この扉が壊されてしまえば彼らは再び防衛の日々を強いられることになるのである。束の間の希望を刈り取られて意気消沈(いきしょうちん)した兵達を見渡し、オーウェンが言った。


「やむを得ん…ここから先は俺とゴーシュで進む。ナサニエル、お前達はここで引き続き防衛線を維持しろ」

「…わかった」

ナサニエルが周囲の兵達に声をかけ土嚢で防壁を作り始める中、デニスがオーウェンに話しかけて来た。


「本当に…やる気か?」

「ええ。もう、これ以外の選択肢が思い浮かびません」

「…ならば、俺も行こう。当事者が傍観するというのは無責任というものだ」

「命を落とす可能性もありますよ?私も含めて全員ですが」

「尚更だな、招いた客将(かくしょう)達だけを死地にやったとなれば末代までの恥だ」

「…いいでしょう」


するとエルヴィスも駆け寄ってくる。

「私もお供しましょう、我が主。この施設の建築には私も(たずさ)わっていますので、ある程度の道案内が出来るはずです」

「心強いが…良いのか?この先にはお前の知り合いが魔物化している可能性があるぞ。…お前の主君も魔物になっているかもしれない」

「今の私の主はオーウェン様ですよ。それに古代(ハイ)エルフが魔物化すれば強力な魔法攻撃を使うかもしれません、私くらいの魔術師でなければ防ぎきれないでしょう」

「そうか…よし、わかった。フォローを頼んだぞ、エルヴィス」

「勿論です、我が主」

などとオーウェン達が話をしていると、ナサニエルがオーウェンに呼びかけた。


「オーウェン、準備出来たぜ!」

「良くやった。俺達はエルヴィスの案内で最深部を目指す、最短で進んで戻ってくるつもりだがその間に魔物がこちらに攻めて来る可能性もある。パーティ登録のお陰で経験値は皆十分に溜まっているはずだ。戦闘が苦しくなってきたら躊躇せずにレベルアップして対応しろ」

「わかってるって…でも、なんで最深部に向かう必要があるんだ?」

「恐らくだが、これだけの数の戦士達が魔物化するのは、その先に()()()()()()()()()からだ。つまり、それを倒すことが出来れば…」

「魔物達が襲いかかってくる理由がなくなると言うことか?」

「上手くいけば…だがな」

「わかった、こっちは任せてくれよ。オーウェン…気を付けてな」

「あぁ、お前達もな」

ナサニエルはグッと親指を突き出すと、土嚢で築いた壁の方へと戻っていった。オーウェンが全兵士に呼びかける。


「俺とゴーシュ、エルヴィスとデニス騎士団長は内部からヤツらを瓦解(がかい)させる!お前達はここに残り、ここより上の階層に1匹たりとも魔物を通すな!今日で全てを終わらせる、皆準備はいいかッ!?」

『オォーーッ!!』

「門を開けるぞ、死力を尽くせ!」


そう言ってオーウェンとゴーシュが扉から手を離すと、多くのスケルトンウォリアーが飛び込んでくる。オーウェン達がそれを蹴散らしながら26階層へと入っていくと、ナサニエルが兵士達に大声で呼びかけた。


「オーウェン達が戻ってくるまでの辛抱だ、ここを死守するぞ!」

『オォーーッ!!』

兵士達の猛々しい声と共に、いよいよザント史上初の殲滅戦が始まった。

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