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聖アールヴズ連合国の在り方

シャルロッテ達の下へオーウェン達が戻ると、皆は遊び疲れてベッドで横になっていた。ケイトがオーウェン達が帰ってきた事に気付き、声をかけて来る。


「お帰りー、オーウェン。遅かったね、…なんかあった?」

「あぁ、少し旅を急ぐ必要がある。皆を集めてくれないか?」

「わかったわ」

そう言うと、ケイトは皆に声をかけてまわる。調理場で料理をしていたアニーやエラも、手を止めて集まってきた。


「オーウェン、皆集まってるわ」

「あぁ、それじゃあ話をするぞ」

そう言って、オーウェンはこれまでの経緯を話し始める。闘技会で現れた巨大熊が人為的に造られたモノであった事、今回プレリでも同様に人為的に発生させられた魔物が確認された事、ブルイン王国で人族の間者が暗躍していた事など…これまでオーウェンが入手してきた内容を聞いてケイト達は酷く動揺していた。オーウェンは把握しているほとんどの事について話したが、ブルートやその息子ドゥッセルのことに関してはドロシーに気を遣って多く話さなかった。オーウェンが話し終わるとナサニエルが不思議そうに言った。


「大体の事はわかったよ…でも、どうして今になって話したんだ?」

「これまでは疑念に留まっていたものが、確信に変わったからだ。<翠の鳳(プレリの騎士団)>が忽然と消えた事だけじゃない。サラマンダーの件もそうだ、あの種類のトカゲは聖アールヴズ連合国では確認されていない。あれは連合国以外から持ち込まれた可能性が高い」

「マジかよ…」

「それだけじゃ無い。オーズィラの件もそうだ、バハムートはこれまで数十年に1体報告されるくらいだったとロイ様は言っていた。しかし今回、俺達が関わったものだけでも8体は確認できている。何らかの異変が起きていると考えて間違い無いだろう」


オーウェンの説明を聞いて皆が無言になる中、グレンが挙手する。

「なんだ、グレン?」

「仮にそれが本当なら、今すぐヴィルヘルム様に報告するために戻った方がいいんじゃないか?」

「その事だが…恐らく陛下は俺達を送り出す前に、既にこの事態を察していたのだと思う。当初はドロシー様やシャル様達に政治の基礎を学ばせるために留学を許可したと思っていたが、各国で提示された課題は優秀な学生レベルではどれも解決が困難なものばかりだった。本来ならヴィルヘルム様が直接動いた方が速いのだろうが、それは同時にヴァルド王国が各国に対する内政干渉を行ったという事実と関係国におけるパワーバランスを明確にしてしまうわけだ」

「…他国を助ける事が問題になるのか?」

グレンの質問に、ティンカーがふぅと一息ついて言った。


「いいかい?国交というものは単純に助け合いで成り立っているわけじゃないんだ。お互いに牽制し監視する中で、協力できる所は協力し合うというドライな関係性が求められるんだよ。そして互いに対等な関係を望むなら協力に見合った報酬を用意しなきゃならない、それが例え連合国のような関係を結んでいる国家間においてもね。それじゃあ質問だけど、ボク達がこれまで国々に行ってきた支援に対する報酬はどのくらいのものだと思う?」

「特に…考えた事がなかったな」

「ざっとした計算だけど、現時点でプレリの農業生産物の輸出額は900億コルナ程度、ただ今後10年以内には10兆コルナ程度は見込める。ネージュは現時点で140億程度と見込んでるけど、生産量と販路さえ確保すればこちらも5年ほどで5兆程度の規模に拡大できる。オーズィラにおいては、本来なら水路や水質の維持管理にかかる30億以上の負債をこちらが負担している状況で80億ほどの売り上げを目指していて、連合国内だけでも普及させれば10兆コルナ程度、これが多種族の国にまで及ぶとなれば85兆コルナ程度まで見込めるというわけさ。つまり、ボク達はこれまでに100兆コルナ規模の事業を展開してきたというわけなんだよ」

「ひゃ…100兆!?」

「さすがにヴィルヘルム様もここまでは予想していなかっただろうけどね。とにかく、ボク達はそのくらいの規模の事を成し遂げてきている。…仮にこれを国家間で行った場合、他の国が独力でこれに見合う報酬を払う事なんて到底出来ないよ。普通なら属国にされてお終いという所さ」

ティンカーが言うと、オーウェンも頷いて言った。


「だが、ヴィルヘルム様はそれを望んでいない。そこで関わったのが留学生と言う事なら、国家間のような大きな問題になる事は無いと考えたのだろう。そして、そうした経済的な支援に加えて人族による諜報活動の事情を知っている俺に、他の国で起きている異変がブルイン王国で確認された事と関連があるかどうか判断させようとしているのだと思う」

「…なんか、話の規模がデカ過ぎて戸惑っちまうな。それにさ、さっきの話から言えば100兆規模の支援をして問題を解決しても、ヴァルド王国が支援したという明確な証が無いんだから他の国が潤うだけでヴァルド王国に直接のメリット無いじゃん。これじゃあ、対等というよりむしろヴァルドが不利になってないか?」

とグレンが言うと、シャルロッテとイザベルがスッと立ち上がって言った。


『そこは心配ありませんわ、だってヴァルド王国の王太子(おうたいし)は私達と結婚するオーウェン様ですもの』

とシャルロッテ達の言葉に一同の動きが止まる。オーウェンが(ひたい)にじわりと汗をかきながら言った。


「シャル様、ベル様。その話は結婚式までは内密にと…」

「ごめんなさい。でも、オーウェン様もティンカーさん達には伝えていますし、これだけ長く一緒にいる皆さんには知ってもらう必要があると思いますわ」

「仲間はずれはぁ、いけないと思いますぅ」

とシャルロッテ達に言われオーウェンが動揺していると、ドロシーも「…確かにそうですね」と呟くと皆の方へ向き直って言った。


「私も皆さんにお伝え出来てなかったのですが…オーウェンは私の婚約者でもあるんです」

とドロシーが言うと、ナサニエル達は衝撃のあまり口をあんぐりと開けて固まってしまった。オーウェンが滝のような汗をかきながら言う。


「ど、ドロシー様!?何もドロシー様との婚約の話まで持ち出さなくても…」

「えぇ、話の流れとしては不要だったかもしれませんが…正直、これまでも皆さんを騙し続けてるような気がしてて。今話さなきゃと思ったんです」

「わ、わからなくもありませんが…」

とオーウェンが言葉を詰まらせていると、ティンカーが溜息を()きながらフォローした。


「まぁ、つまりはそれぞれの国から得られる利益の一部は、今後オーウェンを通してヴァルド王家に入ることになるってことだよ。明確な証になる契約書はボクの方で管理しているからね」

と言うと、ティンカーは契約書の束を振って皆に見せた。ナサニエルがオーウェンに聞く。


「まさか…ヴィルヘルム様ってここまで見通しているのか?」

「ヴィルヘルム様に限らず、フルール様やジーブル様、ロイ様もある程度は予測していると思うぞ。流石にこれほどの規模とは思っていないだろうが」

「なんてこった…王様や女王様って相当賢いんだな」

「あぁ。そして、これから訪れるヴュステ国主サブル・ソレーユ・フォン・ヴュステ様はヴィルヘルム様も一目置く程だ。聖アールヴズ連合国が置かれている状況を知った今のお前達なら、新しい視点でヴュステを見る事ができるだろう」

と、オーウェンがいい感じにまとめに入ろうとしていると、コリンが「…ちょっと待ってくださいよ」と凄んできた。


「つまり、アレですか。強くてカッコよくて、頭も性格もいいお金持ちのオーウェン君は、3人のお姫様ハーレムと王様ルートが確定して、更にもっと大金持ちになる予定…そういう事ですかッ!?」

「…なんか表現がやらしい感じがするが」

「3人のお姫様をハーレムにしておいて…やらしいのはどっちですか、こんチクショー!」

と嫉妬全開で突っかかってくるコリンを、フレッドがなだめる。


「まぁまぁ、気持ちは分からんでも無いが落ち着けよ、コリン。それに、これはそんなに悪い状況じゃ無いんだぜ」

「オーウェン君に嫉妬する日々が続く状況が、どう悪く無いって言うんですかッ!?」

「俺達はオーウェン率いる鳳雛隊だ、そのオーウェンが国王になるってことは…」

「はッ!?ひょっとして…ボクらもなんだかんだでモテモテになるッ…!?」

と言うと、コリンは先程までとは違って落ち着いた声色で言った。


「先程は取り乱してしまい失礼いたしました。今後ともよろしくお願いしますよ、オーウェン君…いや、オーウェン()


そのあまりに速い手のひら返しに、その場にいた皆は大きくため息を吐きながら苦笑していた。

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