天魔石
バハムート達を駆除した翌日、オーウェンは取水ポイントの近くに試用で作った迷宮を移して、常に湖から迷宮の水路に水を引き入れる事が出来るようにする。迷宮の中ではティンカーとエルヴィスが呪具を設置し、ナサニエル達は椅子やベッドなどを運び込んで居住空間を充実させていた。
「前々から夢だったんだよねぇ、他の国に別荘を持つって!しかも周囲の景色を壁紙っぽく出来るから開放感凄いよね」
「そうだ、大きなプールも作ってもらおうよ!湖で泳いでる気分になれるし!」
「それすっごくいい!」
などとケイト達が盛り上がっている中、シャルロッテとイザベルとドロシーは花瓶などを飾りながら話をしていた。
「国を出る時は不安もありましたが、やっぱりオーウェン様は凄いですわ」
「思い切って付いてきて良かったですぅ」
「私もお二人と同じ想いです。最初は…伯父上に裏切られて、とにかく遠くへ逃げたいと思ってオーウェンに付いてきたけど…今はこうして皆さんと一緒に居られる事が出来て本当に幸せです」
とドロシーが言うと、シャルロッテとイザベルはニッコリと微笑んでドロシーの手を握って言った。
「オーウェン様が安らげるように、私達も頑張っていきましょう」
「えぇ、そうですね!」
そんな仲睦まじくする3人を見てオーウェンが頬を弛ませていると、ティンカーとゴーシュとエルヴィスが側にやってきた。
「呪具の設置終わったよ、オーウェン。…あっちの3人はキミに夢中だね」
「…公にはしていないが、彼女達は婚約者なんだ。他の皆には、まだ内緒で頼む」
「そうなんだ!?でも、奥手のオーウェンがよく3人にも求婚出来たね!」
「成り行きの要素も多いにあったが…今となってはとても幸運だったと思っている」
「だね、3人ともとっても綺麗だし、献身的な雰囲気だし。そういえば、贈り物は何を贈ったの?」
「シャル様とベル様にはイヤリングを、ドロシー様には…珍しい魔石を贈った」
オーウェンがそう言うと、ティンカーはシャルロッテ達が付けているイヤリングをジッと見て言った。
「あ…あれってボクが作ったヤツじゃないかな?前にも話したルクススの知り合いのコにサンプルとして作ってあげたんだけど…何でオーウェンが持っているの?」
「その知り合いが店の主人に世話代として渡したようでな、大切に保管されていたのを買い取らせてもらった」
「そういうことか。…っていうか、ドロシー様にもちゃんとしたものをあげた方がいいよ。そうだ、3人を別の部屋に呼んでくれない?」
ティンカーに言われて、オーウェン達は新しく作った部屋へシャルロッテ達を呼び出す。
「用事ってなんでしょう、オーウェン様?」
「実はシャル様達へ贈らせて頂いたそのイヤリングは、ティンカーが昔作ったものらしいのです」
「えぇ〜、そうなんですかぁ?珍しい事もあるもんですねぇ」
などとシャルロッテ達が話していると、ティンカーが咳払いをして話し始めた。
「それは単なるイヤリングじゃないんだ。中に入っているのは「神玉」と呼ばれる宝石を加工した時に出てきたかけらでね。身に付けるヒトの想いの強さに応じて様々な奇跡を起こすことができると言われているんだけど、産出地がとある国に限られていて非常に稀少なモノだから、市場に出回ることがまず無いんだ」
「…どうしてそんな貴重なモノをサンプルに詰め込んだんだ?」
「とある国ってのは宗教国家でね。ボクはそこから神玉の加工を依頼されたんだけど、加工で出たかけらも全て回収するくらい彼らは神玉を表に出さないようにしてるんだよ。そこの教祖がまた傲慢な気持ち悪いヤツでねー、ムカついたから神玉を二回りほど小さくしてやったんだ、フフフ」
「フフフってお前…小さくしたらバレるだろう?」
「だから細かくしてイヤリングに詰めたんだよ、使える部分は全部使ったって言ってね。後から信者達がボクの工房を特殊な装置を使って隅々まで探したんだけど、その時には3つのうち2つのイヤリングはすでにルクススへと渡っていたというわけさ。そして、ここにその3つ目がある」
そう言うとティンカーは収納バッグから星の形をしたイヤリングを取り出して言った。
「ボクが作ったのは、太陽と月と星の3種類のイヤリングだよ。一塊で持っていると特殊な装置に引っかかるから、例え教団にバレても太陽と月のペアだけと思われて、手元に残した星のイヤリングに入っている分はバレないだろうなって考えて3つに分けたんだ」
「しっかりしてると言うか、小賢しいというか…」
「神玉はその量に応じて強さを発揮するらしくてね、ここにあるかけらを合わせればあの教祖に渡したものよりも重くなるのさ」
「つまり、3つのイヤリングが揃えばその教祖以上の奇跡を起こせると言うことか?」
「簡単に言えば、そういうこと。高値で売り付けてあげても良いけど、オーウェンの婚約祝いも兼ねて今回は譲ってあげるよ」
ティンカーは悪戯っぽく言うと、オーウェンに星のイヤリングを手渡す。オーウェンが星のイヤリングをドロシーへ渡すとドロシーは困惑しながら言った。
「で、でも、私…魔石も貰ってて…」
「加工されていない魔石よりもこっちの方がプレゼントらしいでしょ?」とティンカーが受け取るように促す。
「そうですね…では、魔石の方はオーウェンにお返しします。元々、伯父上の謀略を阻止するために頂いたものですし」
と言うと、ドロシーはオーウェンへ魔石を返してシャルロッテ達の下へと戻っていった。ドロシーはシャルロッテ達とお揃いのイヤリングになった事をとても喜んでいる様子だった。
オーウェンはドロシーから戻ってきた魔石を握ってしばらく考えていたが、そのままティンカーへ星のイヤリングの礼として手渡そうとする。すると、受け取ったティンカーはカッと目を見開いて言った。
「こ、これは貰えないよ!っていうか、こんなもの何処で手に入れたのさ?」
「キマイラを倒した時だが…これが何かわかるのか?」
「コレ…天魔石だよ、鑑定スキルで確認したから間違いない。魔血石のさらに上、最高品質の黒龍玉と並ぶほどの価値があるものなんだ」
「黒龍玉というモノをそもそも知らないが…その様子だとかなり価値のあるものという事か」
と、まだピンと来ていない様子のオーウェンにティンカーは天魔石のついて話し始めた。
〜〜〜天魔石が魔石や魔血石と決定的に違う特徴は、魔石に込められた魔力と所有者の魔力を常に内部で練り上げる性質を持つという事である。練り上げて蓄積された魔力は、魔石単体や術者の魔力のみに比べて威力が段違いに跳ね上がるため神器や魔剣を持つ相手とも互角に戦えるほどとされている。天魔石はどういう条件で生成されるのか未だわかっておらず、市場に出回ることはまず無い。ティンカー自身、祖父から伝説の武具に使用された石としてその存在を聞かされただけで実物を見たのは初めてであった。〜〜〜
ティンカーの説明を聞き終えたオーウェンは天魔石をまじまじと見つめながら言った。
「魔剣とも互角に戦えるほど…か。ティンカー、コレを方天画戟に組み込む事は出来るか?」
「祖父ちゃんの話の流れ的に出来なくはないと思うけど、どのくらい時間かかるかわからないよ?まずは天魔石の解析から始めなきゃだし、術式の構築も最初から考えなきゃいけないし」
「是非頼む。星のイヤリングの代金も含めて、コレでどうにかなるか?」
そう言うとオーウェンはバハムートから取り出した大きな魔血石を取り出した。
「…いいの?」
「不足なら他の魔石も渡すが」
「いや、そうじゃなくて。出来るか分からない状況でこれほどの魔血石を貰うのが心苦しいんだけど」
「先行投資というヤツだ、出来ようが出来なかろうがそれは自由にしてもらって構わない。だが、俺はお前なら出来ると信じている」
「本当、以前に比べてヒトをヤル気にさせるのが上手くなったよね…わかったよ。ティンカーブランドの名にかけて、必ず成し遂げてみせるさ」
「恩に着るぞ、ティンカー」
オーウェンはそう言うと、ティンカーに天魔石と魔血石を手渡した。ティンカーは緊張した様子でそれを受け取る。手のひらの上で怪しく光る天魔石を見つめながらティンカーは言った。
「…本当、殿の側は退屈しないな」