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呪具

ロイが話を続ける。


〜〜〜古代(ハイ)エルフの城下の井戸を確認するも、既に水が枯れている事を知ったロイの祖先は最後の望みを懸けて宮廷へと向かった。宮廷の庭には不思議と池が残っており、その水がとても澄んでいた事から湧き水の存在を確信したロイの祖先は探索を続ける。やがて空の宝物庫の先に地下へと続く通路を見つけ進んでいくと、地下には既に中程まで水に浸った部屋と中央の台座に大きな魔血石で造られた呪具があった。呪具からはこんこんと澄んだ水が湧き出ており、その部屋よりさらに地下の空間は既に水の下に沈んでいた。呪具に近付こうとしたその時、大きな地鳴りが聞こえ咄嗟に崩れると感じたロイの祖先は急いでその場を立ち去った。そして彼らが王都を離れて集落へと戻る途中、大きな音とともに古代(ハイ)エルフの国は崩壊して大量の地下水の中へと沈んでいったのだった。〜〜〜


「それからは予想がつくと思うけど、その周囲に集落が出来てその後も徐々に湖が広がるもんだから生活拠点を水上に移して現在のような形になってきたというワケさ。集落が大きくなってきて街全体を浮かべる呪具を造らせたのが約千年前、その後も水はずっと増え続け今やオーズィラの大地のほとんどが水の底に沈んでしまっているんだ。呪具を回収しようにも三千年も前に沈んだ遺跡は探すには深すぎてね。私達は手を出せないままなんだ。どうにかして呪具を制御できれば良いんだけどね」

「そう言った事情だったのですか…エルヴィス、何か心当たりはないか?」

とオーウェンが尋ねると、エルヴィスは少し間を置いて言った。


「私の記憶では、当時オーズィラ(意味:湖)という地方はございません。しかし、井戸などを深く掘る掘削(くっさく)技術を持っていた大国なら、私の知る限りでクロートという国がポーチヴァ地方にありました。おそらく、オーズィラは元のポーチヴァ地方であると思います」

「なるほどな、湖が出来る前には別の地名だったというわけか」

「はい。…そして憶測(おくそく)ですが、その呪具は水を浄化したり湧き出させているのではなく“設定された水質と量を転写している”のだと思います」

「…どういう事だ?」

「ポーチヴァ地方は硬い岩盤が多い事で有名でした。いくら彼らが優れた掘削(くっさく)技術を持っていたとは言え、そう幾つも井戸を掘る事が出来たとは思えません。ロイ様は先程の話で『国中の井戸が枯れていた』と仰っていましたが、正確には各井戸への供給が止まったのだと思います」

「つまり、他の井戸へ送り込まれていた水は宮廷の地下で汲み上げた水ということか」

「はい。しかし、普通に水を送ったのでは量はもちろん衛生面でも問題があります。それを一元化で管理するには…」

「…設定した水質の水を任意の量に増やして循環させていたということか」

「流石です、我が主」


その話を聞いていたナサニエルがキョトンとした顔でオーウェンに質問した。

「決まった水質の水を増やすということと、水を浄化して湧き出させる事になんか違いがあるのか?」

「手順の数だ。呪具は基本的に1つの魔血石に1つの術式を組み込む事で作られるらしい。2つ以上を組み込むと呪具が正しく発動せず、術者にも命の危険が伴うという話でな。前者は設定された情報をペーストするという1つの手順で済むが、後者は“水を浄化する”ことと“水量を調節する”という2つの手順が必要になるというわけだ」

「おー、なるほど」とナサニエルが納得すると、エルヴィスはニコリと笑い説明を続ける。


「そして呪具は常に発動し続けるという性質を持つので、こういう場合は発動条件を調整するのが定番です。クロートが滅亡した今も呪具が発動し続けているということから考えると、条件は『呪具が水に浸っている』というような単純なものかもしれませんね」

「なるほど。水は常に必要なものだからと条件を緩くしたのが裏目に出た…ということか」

「そのようですね」

エルヴィスが話を終えると、ロイが感心しながらも少し落胆した様子で呟いた。


「非常にわかりやすいお話でしたが…どうやら、水を止めるのは不可能という事だよね」

「そうですね、呪具を破壊出来ない現状ではそう言わざるを得ません」

「…ハァ」

と露骨に落ち込むロイに、ティンカーが声をかける。


「ロイ様。水を止める事は難しいかもしれませんが、水をこれ以上増やさない方法なら策があります」

「ほ、本当かい、ティンカー君!?それは、一体どんな方法なんだ!?」

「水道を作るんですよ」

「水道?…なんだい、それは?」

「簡単に言えば、家に居ながらにして水汲みが出来るようになる仕組みです」

「それなら、今だって出来ているじゃないか。私達は水の上に住んでいるんだから」

「えぇ、ですが他の国ではそうは行きません。私が言いたいのはオーズィラから他の国に安心・安全な水を供給してはどうかと言うことです」

「た、たしかにそれが出来れば素晴らしいが…水の通り道を他国までひくとなると莫大(ばくだい)な費用が必要になるだろう?」

「そうですね、そこはオーウェンの力が役に立つはずです」

と言って、ティンカーがオーウェンの方を見てニッコリと笑う。急に話を振られてオーウェンはキョトンとした。


「ティンカー…いくら俺でも隣国までの水道を作るのには苦労するぞ?」

「力仕事って意味じゃ無いよ。オーウェンにはあの素晴らしいスキルがあるでしょ?」

「俺の持つスキル…。…迷宮(ダンジョン)造りのスキルか?」

「そうだよ、それを使ってアールヴズ連合国中に水道を普及させるんだ」

そう言うと、ティンカーはグッと親指を立てて見せた。

ーーーーーー


城内の水汲み場と向かう途中、オーウェンはティンカーに話しかける。


「…ティンカー、()()()()水道を作る事を考えていた?」

「ヴィルヘルム様の所でアールヴズ連合国の地図を見せてもらった時からオーズィラの巨大な泉は気にはなってたけど、具体的に考え始めたのはプレリで農業を教えてからかな。農業用水の確保は、プレリの農業を支える上で急務だからね。水道管での調達も検討していたけど、オーウェンの能力があれば設置場所なども考えず金銭的な問題も片付くなぁなんて考えていたんだよ」

「使いこなせるほど、俺はこのスキルを十分に理解していないが…」

「まぁ、ボクもゲームで知っているスキルとオーウェンの持つスキルが完全に一致しているという自信はないよ。ただ、転移門(ゲート)の仕組みから考えれば、ボクの考えている通りになってくれるんじゃ無いかなって思うんだよね」

「…迷宮(ダンジョン)造りのスキルと転移門(ゲート)の仕組みに何か関係があるのか?」

「んー、詳しく説明して違っていたら恥ずかしいし…まぁとにかく確かめてみよ」

などと話をしているうちに、オーウェン達は水汲み場へと到着した。


ティンカーが目をキラキラと輝かせながら言う。

「早速試してみよう!オーウェン、まずは迷宮(ダンジョン)を作ってみて!」

「あぁ」


オーウェンが空間に手を伸ばすと「迷宮(ダンジョン)を生成しますか?yes/no」という画面が目の前に出てくる。「yes」を押すと光と共に剥き出しの迷宮(ダンジョン)の入り口が出現する。オーウェン達が中へ入ると壁も床も白一色の無機質な部屋が出来ていた。


「…なんだい、この部屋は?ずっと城に住んでるけど、こんな部屋は初めて入るよ…」などと言いながらロイがキョロキョロと辺りを見渡していると、ティンカーが説明を始めた。


「ロイ様、これは城にある部屋ではなくてオーウェンが創り出した迷宮(ダンジョン)なんですよ」

「!?そ、そんな事が出来るのかい?迷宮(ダンジョン)は神と強力な魔族くらいしか作れないと思っていたんだけど」

「まぁ、オーウェンが魔族並みに強力という意味では間違ってませんけどね。それよりロイ様、ここから一番近い陸地までどのくらいですか?」

「確か西へ50kmくらいじゃないかな」

とロイが言うと、ティンカーがオーウェンに向き直って言った。


「オーウェン、実世界との距離比率を10000倍に設定して西向き6m辺りに出口を作って」

「あぁ。………よし、やってみたぞ」

「じゃぁ、向こうの出口から出てみようか」

とティンカーが言うと、オーウェン達は新しく設置した出口へと向かった。オーウェン達が迷宮(ダンジョン)を出ると、そこは先程までいた王都ヴァダではなくオーズィラに残された陸地部分となっていた。


「もう陸地に付いてる!」

「見ろよ、あんな所に城の塔が見えるぞ!」

「一体どうなってんだ!?」

と騒ぎ立てるナサニエル達と共に、ロイも「こ、これは一体…?」と言いながら固まっていた。ティンカーは嬉しそうな様子でオーウェンに言った。


「やったよ、オーウェン!第一段階は成功だ!」

「なるほどな、迷宮(ダンジョン)で現実世界の物理的な距離が縮められると言うことか。転移門(ゲート)も同様の仕組みなのか?」

「仕組みはね。でも、転移門(ゲート)は魔法具で不安定な異空間に無理やり出口の座標だけ固定して、そこへ向かって物やヒトを突き飛ばしているだけなんだ。だから中で暴れたり、荷物を手放しちゃいけないんだよ。元のルートを外れると一生迷子になっちゃう可能性だってあるんだ」

「…その点、迷宮(ダンジョン) ならば転移門(ゲート)より安全に物や人が安全に運べるようになる…、転移門(ゲート)ではわざわざ容器に詰めなければならない水も、迷宮(ダンジョン)ならそのまま流していけると言う事だな」

「理論上はね。さぁ、もう一度迷宮(ダンジョン)の中へ戻って今度は水を引いてみようよ!」


そう言うと、ティンカーはオーウェンの手を引っ張って迷宮(ダンジョン)の出口へと向かった。

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