トゥルーエンドを目指すには?
さて。トゥルーエンドを目指したい訳なんだけども、そこにはいくつかの問題がある。
まず、一番目。ロザリア学園に入学しないというルートを取れば、そもそもの話が成立せずに、わたしの身は安泰のトゥルーエンドになる! と言いたいが、それは絶対に無理がある。だって、ここは悪役令嬢のステラが主人公の小説の世界だぞ? 残念な事にステラの家は下級貴族のわたしと違い、桁違いの家柄の貴族。探されて、無理に学園に入学されるだけならマシで、それこそ、家族の皆に何があるかわからない。
優しい両親。そして、優しい兄。そんな人たちに愛されていただろうに、アンジェはどうして、あんな馬鹿な真似をしたんだろう。小説の展開なんだから仕方ないんだろうけど。それに、そこにセンチメンタルになってる場合じゃなくて、今のアンジェはわたしだよ!!
優しい家族を巻き込む訳にはいかない。
「アンジェ。どうしたんだ? 食欲がないのか?」
「……っ、あ。い、え。お兄様。大丈夫です。少し、考え事をしてただけで…」
わたしに声をかけてくれたのは、2歳年上の兄である「リシェ・セレスタイト」だ。亜麻色のくせ毛と深みのある青い瞳が美しい男性でもある。そして、「転生悪役令嬢は、ハッピーエンドを掴む為に奔走します!」では、主人公であるステラの為に、妹であるアンジェの罪を掴んで、暴いた正義感の強い人だ。
──やっべ。そこから、詰んでる? うっそでしょ、神様。どこまでも、わたしにハードモードかよふざけんな。
え、これ、もしかしてなくても、ステラがリシェに近づきでもしたら、わたしの破滅ルートは間近になるんじゃない? なるじゃん。
──家を出る? さらに無理が生じる。既に光魔法を使用出来るわたしが家出しようもんなら、ステラに会う前にバッドエンドになる可能性大だわ。知らないおっさんとかに囲われたり、見せ物小屋にでも売られたらシャレにならない。
ぶんぶん。とわたしは、首を横に振って、緊張からか、味のしない食事を飲み込んだ。
「……どうやったら、ステラに会わずに済むんだろう……」
自室に帰ったわたしは、ばふっ。とベッドに身体を預けた。そもそも、ステラに会う事がアンジェであるわたしの破滅まっしぐらの切っ掛けになるはずだから、早い話、彼女に会わなければ万事、解決ではある。しかし、ロザリア学園に入学しないとなると……。
その時、わたしの脳裏に、不意な記憶が蘇った。
そういえば、あの小説の中で、魔法を使える子供が通う「聖エルフェンド学院」という学園があったのでは? ロザリア学園は、貴族が中心のお金持ち学校。聖エルフェンド学院は、名前に反して、意外にも商家だとか、いわゆる「成り上がり」のお金持ちの子供が多い学校だったはず。
──そこに通えば、いいんじゃない? 確か、聖エルフェンド学院は、全寮制でしかものしかも……。女子校だったはず! 聖エルフェンド学院は、ロザリア学園の比較対象として出てきただけの学校だから、攻略対象に関係する人なんているはずもないだろうし。ここに入学して、卒業までに何が何でも生き延びる為の知識を身につけて、万が一にでも、ステラが来たって、返り討ちに出来る位には鍛えておく。
出来る事なら、聖エルフェンド学院の存在を忘れておいてもらって、ステラには、空振りしてもらいつつも、勝手にハッピーエンドを送ってもらいたい。むしろ、そうしてもらいたい。わたしだって、好き好んで、性悪なヒロインポジションに転生したかったわけじゃないからね?
ステラが何もしないなら、こっちは好きに二度目の人生を謳歌させてもらいたいし。
それが一番、お互いにとって都合のいいエンドになると思うから。